データから見る高校卒就職の課題と展望「就職後」を考える

高校生の就職内定率は99.3%(2020年卒)(※1)と極めて高い水準となっている。高校生を学校から職業社会へ繋ぐ仕組みとして、この“就職内定率”という数字は大きな意味を持っていることに異論はないだろう。他方、卒業後の生活という視点では、“内定”はあくまで一時点でレールを踏み外さなかったことを示しているに過ぎない。「就職後」を把握することは“内定率”以上の重要性を持つといえよう。
公的データとしては、厚生労働省が卒後3年間の離職率を調査し公表している(※2)。しかし、卒後3年以降の動向や、どういった仕事に転じているのか、といった情報は存在していない。今回は、最新のデータ(※3)を用いて、高校生の「就職後」を考える。

正規社員で入職した36%が非正規雇用に

まず一点目、正規社員で入職した高校生は、その後どのようなキャリアを歩んでいるのだろうか。そのひとつの参考として、初職が正規社員の29歳以下の個人について、初職退職した後の現職を分析した(図表1)。

図表1:正規社員を退職して非正規雇用となる割合(29歳以下、%)(※4)
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29歳までの高校卒業者について、合わせて35.7%が初職離職後に非正規の仕事についていることがわかる。この数値は専門学校卒業者や大学卒業者より10%ポイント前後も高い。 
なお、性別でも検証したが、男性では非正規雇用となる割合が高校卒26.5%、専門学校卒22.8%、大学卒16.5%であった。女性では高校卒43.1%、専門学校卒27.9%、大学卒27.6%であった。男性・女性で数値に差はあるものの、ともに同様の傾向がある(高校卒が高く、大学卒が低い)といえよう。

この全員が初職は正規社員で入職した若者たちである。何がこの結果を生んでいるのであろうか。

「離職期間」の存在

もう一点は、離職期間についてである。仕事を辞めた後、仕事についていないブランク期間がある若手社会人について状況を確認した。
図表2に、退職したことがある個人について、「仕事についていない期間があった者」と「その長さが2年以上であった者」の割合を整理している。こちらも初職は正規社員に限定しており、29歳以下の若手社会人を対象として分析した。

図表2:仕事についていない期間とその長さの整理(※5)
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図表2からは、退職経験のある高校卒の若手社会人のうち、13.8%がブランク期間が2年以上あることを示している。これは専門学校卒では11.4%、大学卒では8.0%であり、高校卒が最も高い。また、産休などの要素を除外するために参考値(※6)として男性における2年以上のブランク率も示しているが、男性に限定しても8.1%の高校卒の若手に長期のブランクが発生している。

①図表1(35.7%が非正規に)、図表2の結果(13.8%が2年以上のブランク)
②初職正規社員の高校卒就職者のうち、20代後半において退職経験のある者は59.4%(※7)
③初職正規社員の高校卒就職者のうち、20代後半における非就業の割合が9.5%(※8)
以上を総合すると、高校卒就職者の「就職後」の状況は以下のように理解することができるだろう。

「正規社員で就職した高校卒就職者は20代後半までに、約60%が初職を退職し、そのうちの35.7%(全体の21%程度(※9))は非正規社員となる。また初職退職者のうちの13.8%(同8%程度)には2年以上仕事についていない期間が発生する。また、全体の約10%が非就業である」(図表3)

図表3:初職が正規社員である高校卒業者の現状の全体像(20代後半時点のイメージ(※10))
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まだ職業生活の入口ともいえる20代において、図表3のような状況が現出している事実を、私たちは留意しなくてはならない。またこれは、本稿の図表1、図表2からわかるように、ほかの最終学歴の若手には見られない問題でもある。
もちろん、「初職で働き続けているかどうか」や「非正規の仕事についているか否か」を問わず、個人のキャリアには様々な状況があるし、一律に「何が問題である」と断言はできない。しかし、ここで重要なのは、「正規社員への就業」を目的に進められてきた高校生の就職指導・職業社会への結節の後に、かなり早いタイミングで極めて“多様化”している、という事実である。
このキャリアの“多様性”に対して、学校、企業、社会はどういった支援をすることが可能であろうか。本研究ではこの視座を持ち、検証を進めていく。

(※1)厚生労働省,『「高校・中学新卒者のハローワーク求人に係る求人・求職・就職内定状況」取りまとめ』
(※2)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000137940.html
(※3)リクルートワークス研究所,「全国就業実態パネル調査」。本稿におけるほかの図表についても同様。
(※4)2020年調査。ウェイトはXA20を使用している。サンプルサイズは1128
(※5)2019年調査。退職経験のある者をベースとした割合。29歳以下、初職正規社員。ウェイトWA19を使用、サンプルサイズは1277
(※6)サンプルサイズが小さいため参考値(専門学校卒業者のブランク期間のある男性で100を下回る)
(※7)2020年調査。2529歳、初職正規社員における過去退職回数が1回以上の者の割合。ウェイトWA20を使用。
(※8)2020年調査。2529歳、初職正規社員における非就業者の割合。ウェイトWA20を使用。
(※9)60%×35.7%は21.4%である。2年以上仕事についていない者の計算も同様。
(※10)本稿ではサンプルサイズの問題があり、「非正規の仕事をしている人」と「2年以上のブランクが生じた人」については29歳以下を対象に集計しているが、20代後半に限定した場合この数値はさらに大きくなる可能性がある。また、「2年以上のブランクが生じた人」は現在「非就業者」、「非正規の仕事をしている人」とも一部重複する。