データから見る高校卒就職の課題と展望 “しごとへの思い”と高校卒就職

リクルートワークス研究所が研究を進める“高校卒就職システム”については、様々な問題や特徴がある。これまでの分析でも取り上げられてきたように、高校卒就職者は企業における教育研修機会が少なく、事業所採用が主となるため「同期」が少なく、相談相手に恵まれる可能性も低い 1)。就職先についても、業種・職種で製造業や生産工程従事者がおよそ40%と著しく偏在していることも知られている。

ひとついえることは、大学卒者の労働・キャリア課題とは全く異なる“構造”が、高校卒者の課題には存在するということである。これまであまり注目されて来なかった、高校卒者の課題を数字で整理することから、検討を始めていきたい。

数字の違いについて、知見がある人は「初任給の差」を思い浮かべるだろう。確かに初任給、そして年収については最終学歴による差が大きいことが知られている(図表1)。

図表1:学歴別初任給の推移2) (単位は千円)
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また、初任給のほかにも、「7・5・3」と呼ばれていた早期離職率の違い(高校卒が高く・大学卒が低い)、そして就職先の規模についての違いもある(この詳細について、このコラムに詳しい)。
しかし、今回は少し違った視点を2つ提供したい。

キャリアの状況

「キャリアは企業が考える時代から、一人ひとりが考える時代へ」、といわれ始めてから長い歳月が経過した。近年でも働き方改革の中で、学び直しや、キャリア・オーナーシップ、キャリア自律の重要性など、様々な捉え方でキャリアの状況が問われている。
図表2は、特に若手世代(25~39歳)における状況を整理したものである。なお、比較の観点から、初職が正規社員の者に限定して集計している。

図表2:最終学歴別キャリアの状況(あてはまると回答した割合(%))3)
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これから職業生活が長く続く若手世代において、仕事への満足、職場の人間関係、成長実感、自身のキャリアへの満足、生き生きと働く、仕事への熱心さといった「働く」を取り巻く多角的な指標が持つ意味の重要性は大きい。その全ての項目について、高校卒者が低い数値となっていることがわかるだろう。比較的、入職時の年齢層が近い専門学校等卒と比較しても全て低い結果となっており、高校卒者のキャリアが難しい状況にあることが浮き彫りとなっている。
 なお、図表2の結果は、“専門学校等卒との比較”においても、“大学・大学院卒との比較”においても一部の項目を除いて統計学的に有意4)に「高校卒の方が低い」結果となっている。

産業構造が激しく変わり、その影響が就業社会に及ぼうとする中、就職した会社で一生を終えることが難しい時代が到来しつつある。そのような中で、自身の仕事やキャリアへの納得感や満足感の重要性は高まっている。この「最終学歴によって仕事の納得感などが異なる」という結果は、どういった理由によってもたらされるのであろうか。

また、高校卒者については、「正規社員として就職した後、離職して非正規の仕事につく割合」が高い点も指摘されており5)、キャリアの安定性についても課題があることにも留意が必要である。

自分の労働状況への理解

さらに異なるポイントで、自身の労働状況や条件への理解が低いと言う問題点も見えている(図表3)。
労働契約、健康保険、年金、失業保険といった働く上でも生活する上でも欠かせない条件であり、いざという時のセーフティネットになる事項である。その自分の状況について「わからない」と答えた割合が、高校卒で非常に高い傾向となっていることがわかる。
持続的でより良い職業生活を送る上で、労働やキャリアに関する基礎的な知識は必須のものである。図表3の結果は、そうした必須の知識に最終学歴による差が出ている現状を浮き彫りにしている。高校卒者は「わからない」と回答した割合が高い水準にあり、学校教育、もしくは就業後のキャリア形成の段階で何かしらの支援が必要としていることが明確になっている。

図表3:労働状況・条件への理解(各項目が「わからない」と答えた割合、%)6)
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高校生の就職の現場についてはもちろん、就職活動の仕方やスケジュール、職場見学・インターンシップのあり方など様々なことが大学生のそれと違っている。この連載では、まずは現在地を確認していく。
そして、侃々諤々の議論が交わされる“大学生の就職”と異なり、あまり取り上げられてこなかった“高校生の就職”について課題を確認していきたい。

(※1)リクルートワークス研究所『新卒3年以内離職率の高卒-大卒格差に潜む、本当の社会課題
(※2)厚生労働省, 平成30年賃金構造基本統計調査結果(初任給)の概況:学歴別にみた初任給
(※3)リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2020」を用いて筆者分析、サンプルサイズは7136。専門学校等は専修各種学校、短期大学・高等工業専門学校卒である。ウェイトバックXA20を使用して集計している。
(※4)専門学校等卒との比較では、仕事を通じて「成長している」という実感を持っていた、仕事に熱心に取り組んでいた以外の項目について5%水準で有意に高校卒が低い。大学・大学院卒との比較では全て1%水準で有意に高校卒が低い。
(※5)リクルートワークス研究所『高校卒者のキャリア。問題の核心、「離職後」を考える
(※6)39歳以下対象。雇用契約期間のみ現職有期雇用者に限定して集計。