全国就業実態パネル調査「日本の働き方を考える」2022心身不調からの復職・再就職 百瀬由璃絵

昨今、健康経営や仕事と治療の両立支援が推進されており、多様な人材マネジメントの一環として、従業員が健康的に、あるいは健康上の問題を抱えていても働ける労働環境が求められている。しかし一般的には、メンタルヘルスなどの健康上の問題で一度休職や失業を経験した人々が再び仕事に復帰することは難しいと推察される。心や身体の健康問題から休職した人々は、実際どれくらいの期間で仕事に復帰しているのだろうか。

まず、休職と関連する傷病手当金の受給期間の状況をみてみよう。全国健康保険協会「現金給付受給者状況調査報告(令和3年度)」をみると、全体における平均支給期間は5.0か月であった。傷病手当金受給者の50%が2~3か月、75%が7~8か月で受給を終えていた。男女で比較した図1をみると、男性よりも女性のほうが傷病手当金の受給期間がやや短い傾向にある。

図1 2021年度の傷病手当金の支給期間
図1 2021年度の傷病手当金の支給期間

出所:全国健康保険協会「現金給付受給者状況調査報告(令和3年度)」

では、実際に休職者はどれくらい休み、復職や再就職を果たすのだろうか。そこで、リクルートワークス研究所の「全国就業実態パネル調査(JPSED)2016~2022」を使用し、健康上の理由別に休職者の状況をみてみよう。

図2のカテゴリーのうち、「就業」「休職理由(身体/精神)」「休職理由(閑散期/その他)」は有職に関する項目である。「求職」「非求職理由(身体/精神)」「非求職理由(その他)」「非就業希望理由(身体/精神)」「非就業希望理由(その他)」「非求職・非就業希望理由(不明)」は無職に関する項目である。

回答者の75%以上が有職者であり、そのうち休職者は2%未満であった。休職者のうち、身体的または精神的理由により仕事を休んでいた人は、3分の1である。一方で、無職者をみると、健康上の理由による非求職者は0.3%で、健康上の理由による非就職希望者は約2%であった。

図2 就業状況
図2 就業状況

出所:リクルートワーク研究所「全国就業実態パネル調査(JPSED)2016~2022」

これら、健康上の理由による休職経験者は、どれくらいの期間休職していたのだろうか。2015~2021年(wave 1~7)のいずれかの年の12月に、身体的または精神的理由から休職を経験している人々の休職期間を4つのパターンに分けた。休職後に職場復帰をした「①就業→休職→復職」のパターンと、休職後に離職を経て再就職した「②就業→休職→失業→再就職」のパターン。そして、休職後に離職して、そのまま失業している「③就業→休職→失業継続」のパターンと、休職後に復職も離職もせず、休職したままである「④就業→休職継続」のパターンである。図3に各パターンの休職期間を示した。


「①就業→休職→復職」と「②就業→休職→失業→再就職」のパターンの平均休職期間は約5か月と、同じくらいであると言える。「③就業→休職→失業継続」は、「②就業→休職→失業→再就職」のパターンよりも平均休職期間は約9か月と長く、「④就業→休職継続」のパターンの平均休職期間は約19か月とさらに長い傾向を示していた。

図3 健康上の理由による休職者の休職期間
図3 健康上の理由による休職者の休職期間

出所:リクルートワーク研究所「全国就業実態パネル調査(JPSED)2016~2022」

さらに、健康上の理由による休職経験者が、どれくらいの期間で仕事に復帰しているのかをみてみよう。健康上の理由による休職経験者の復職や再就職までの期間を確認するため、「①就業→休職→復職」と「②就業→休職→失業→再就職」のパターンを、それぞれ健康上の理由で分け、計4つのパターンを示した(図4)。「①就業→休職→復職」のパターンは、休職期間が復職までにかかった期間を示し、「②就業→休職→失業→復職」のパターンは、休職期間と失業期間を合算した合計期間が再就職までにかかった期間である。

「①就業→休職→復職」のパターンをみると、身体的理由による平均休職期間は約4か月で、精神的理由による平均休職期間は約6か月であった。一方で、「②就業→休職→失業→復職」のパターンをみると、身体的理由による平均合計期間(休職期間+失業期間)は約14か月で、精神的理由による平均合計期間は約12か月であった。

すなわち、健康上の理由を問わず、「②就業→休職→失業→再就職」のパターンは、「①就業→休職→復職」のパターンよりも、休職から復職するまでに時間がかかる傾向が読み取れる。健康上の理由による違いをみると、「①就業→休職→復職」のパターンにおいては身体的理由よりも精神的理由で休職していた人々のほうが2ヶ月ほど復職は遅く、「②就業→休職→失業→再就職」のパターンにおいては精神的理由よりも身体的理由で休職していた人々のほうが2ヶ月ほど再就職は遅い傾向があった。

なお、身体的理由による平均休職期間は約5か月、平均失業期間は約9か月であったのに対して、精神的理由による平均休職期間は約6か月、平均失業期間は約6か月であった。このことから、平均休職期間は、身体的理由よりも精神的理由で休職していた人々のほうが長いことがわかる。一方で、平均失業期間は、精神的理由よりも身体的理由で休職していた人々のほうが長く、再就職への平均合計期間(休職期間+失業期間)も精神的理由よりも身体的理由で休職していた人々のほうが長い傾向にあった。

図4 健康上の理由による休職者の復職・再就職までの期間
図4 健康上の理由による休職者の復職・再就職までの期間

出所:リクルートワーク研究所「全国就業実態パネル調査(JPSED)2016~2022」

ここまでみてきたデータから、健康上の理由で休職を経験した後に復職や再就職した人々と、休職後に離職して失業中の人々や休職を継続している人々とでは、休職期間が大きく異なることがわかった。健康上の理由で休職を経験した後に復職や再就職した人々の休職期間は傷病手当金の受給期間の平均と一致する。しかし、休職後に離職して失業中の人々や休職が継続している人々の休職期間は、傷病手当金の平均受給期間よりも長い傾向にあった。休職後に離職して失業中の人々や休職が継続している人々の最長休職期間は2年を超えており、傷病手当金の最長受給期間(1年6か月)や、企業内制度の休職期間では足りない場合も生ずるだろう。

また、精神的理由による休職者のほうが休職期間は長く、身体的理由による休職者のほうが失業期間は長いことが判明した。健康上の理由別に休職期間や失業期間の長さに違いがあることを踏まえると、傷病の状況にあわせた制度や社会保障が必要であると言える。

百瀬由璃絵(客員研究員)
・本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、
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