全国就業実態パネル調査「日本の働き方を考える」2022男性の育休取得 ―なんちゃって育休になっていないか― 大谷碧

2021年6月に育児・介護休業法が改正され、202210月1日から産後パパ育休が開始された。「産後パパ育休」とは「育休」とは別に取得することができ、子どもが生まれてから8週間以内に4週間を2回まで分割して取得することができるようになっている。政府は男性の育児休業取得率を2025年に30%にすることを目標にかかげ、男性の育休取得促進をすすめているが、現状ではどのようになっているだろうか。

そこでまず、産後パパ育休開始前の2021年までの男性の育休取得の状況をみてみよう。厚生労働省の「雇用均等基本調査」をみると、2021年の男性の育休取得率は14.0%となっており、女性の85.1%と大きく差があることがわかる(図1、今後の最新値は「定点観測 日本の働き方」の育児休業取得率<男女別>を参照)。

図1 育児休業取得率(男女別)図1 育児休業取得率(男女別)

出所:厚生労働省「雇用均等基本調査」

続いて、育児休業の取得日数をみてみよう。育児休業の取得については、取得率だけではなく、取得日数も重要である。たとえば、男性が育児休業を取得したとしても、数日間や、たった1~2週間の場合、出産直後で動けない女性をサポートするにも十分な期間とは言えないことに加え、そのような短い期間では簡単な育児や配偶者のサポートに終わるだろう。そのような経験のみの場合、その後男性が育児に主体的に関わることができるのか疑問が残る。また、男性が育児休業を短期間しか取得しない場合、ほぼ出産直後から女性が育児の大部分を担うことになり、それがその後もずっと固定化してしまう懸念もある。こうしたことから、男性の育休については、取得率だけではなく、取得期間もみていく必要があるだろう。

そこで、先ほどと同様に、厚生労働省の「雇用均等基本調査」から、令和3年度の男性の育児休業取得日数を確認すると、5日未満の取得者が25.0%5日~2週間未満は26.5%と、育児休業取得者のうち約半数が2週間未満という短い期間の取得となっている。しかし一方で、たとえば、1か月~3か月未満の取得者の割合をみると24.5%と、平成30年度(11.9%)や平成27年度(12.1%)と比較すると、増加傾向にあることから、取得期間について変化の兆しがあるとも言えるかもしれない(表1)。

表1 取得期間別育児休業後復職者割合(男性)表1 取得期間別育児休業後復職者割合(男性)

出所:厚生労働省「雇用均等基本調査」

ここまで、育児休業の取得率と取得日数をみてきたが、男性のなかには育児休業を取得しない、もしくはできない場合、かわりに年次有給休暇を取得する者もいるだろう。そこで、リクルートワークス研究所の「全国就業実態パネル調査(JPSED2022」を使用し、そのような男性がどの程度いるかみてみよう。

202112月時点で1歳の子どもがいる正規雇用の男性で、育児休業制度を利用しなかったが、子どもが生まれて8週間以内に年次有給休暇を取得した男性は、32.1%であった。またこのとき、有給休暇を連続で何日取得しているかをみると、5日~10日未満が31.8%と一定数いるものの、3日未満が28.1%、3日~5日未満が25.6%と、約半数が5日未満の取得となっている(図2)。有給休暇の場合は、育児休業のような長期間の取得は想定されていないが、先にみた育児休業以上に、5日未満というような短期間の取得者が多数を占める状況である。

図2 産後8週間以内に有給休暇を取得した男性の連続取得日数図2 産後8週間以内に有給休暇を取得した男性の連続取得日数

注:集計対象はJPSED20221歳の子どもをもち、育児休業を取得していない正規雇用の男性、Xa22を用いたウエイト集計を行っている。ただしn数が92と少ないので、解釈には注意が必要。

これまでみてきたデータは、産後パパ育休の開始前の状況であるが、今後、産後パパ育休により、このような状況に変化は起こるのだろうか。そもそも、男性の育児休業取得率がまだかなり低いため、取得率そのものを上昇させることはもちろん大切であるが、仮に男性の育休取得率が上昇しても、5日や2週間未満といった短期間の取得者が増加しているだけの場合、出産後の家事・育児の大部分を女性が担うことになり、女性が復職した後も、育児の経験が少ない男性にかわり、結局女性が引き続き家事・育児の大部分を担うことが懸念される。男性の育休取得率に着目するだけではなく、取得期間にも着目し、短期間のなんちゃって育休になっていないか、配偶者をサポートし、育児にしっかり携わるに十分な期間を取得する、あるいはできるようになる男性が増えていくか、注視していく必要があると言えよう。

大谷碧(研究員・アナリスト)
・本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、
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