全国就業実態パネル調査「日本の働き方を考える」2022金銭目的での副業は本業にマイナスの影響を与えるか 門美月

副業を促進する動きが活発になっている。新型コロナウイルスなどの影響による本業での収入減少を理由に従業員の副業を認める企業が増えている他、従業員の自己研鑽やキャリア形成、副業が本業にもたらす相乗効果を期待して副業を推進する企業も少なくない。
それでは、副業をもつことは本業への取り組み方に一体どのような影響を与えるのだろうか。このコラムでは正社員の副業者に限定して、副業が仕事の取り組み方に与える影響をみていこう。

そもそも、人々はどのような理由で副業をしているのだろうか。リクルートワークス研究所が実施した「全国就業実態パネル調査2022」のデータを用いた単年の集計結果をみると、「生計維持のため」が48.1%、「貯蓄・自由に使えるお金のため」が38.1%であった(図1)。そもそも正社員で副業をしている者の多くは、金銭的動機で副業をしている。

図1 副業を始めた理由(正規雇用者)
図1 副業を始めた理由(正規雇用者)

出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査(JPSED)2022」
注:ウエイトバックを用いて集計している。複数回答可。

また、同年の追加調査のデータを集計した結果をみると、副業をするメリットについても収入増を挙げる人が最も多い(図2)。ただし、約半数の人は、「自分の知識や能力をいかせた」や「知識や経験・スキルが獲得できた」といった本業と副業の相互作用をうかがわせるメリットも実感している。

図2 副業を実施して感じたメリット(正規雇用者)
図2 副業を実施して感じたメリット(正規雇用者)

出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査(JPSED)2022」の追加調査結果。
注:ウエイトバックを用いて集計している。複数回答可。

それでは、このような金銭的動機による副業は本業の妨げになってしまうのだろうか。正規雇用者全体を対象に金銭的動機により副業をもつことが仕事への取り組み方に与える影響をみてみた(図3)。数値は3.1%と正の値ではあるが有意ではないため、統計的には、就業姿勢にポジティブな効果があるとはまでは言えない。それと同時に、金銭的動機による副業であっても必ずしもマイナスの影響があるわけではない。

図3 金銭的動機の副業が仕事への熱心な取り組みに与える影響(正規雇用者)
図3 金銭的動機の副業が仕事への熱心な取り組みに与える影響(正規雇用者)

出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査(JPSED)」
注:固定効果推定の結果である。

次に、より細かい年収区分別の結果をみてみよう。すべての年収区分において、副業をもつことが必ずしも本業にマイナスの影響を与えないことが確認できる(年収200万円未満の層では負の値であったが統計的には有意でなかった)。特に、年収800万円から1000万円未満の層においては、仕事の熱心さが向上する確率は17.7%、年収1000万円以上の層においても33.0%という結果であり、これらの区分においては統計的に有意だった(※1)。ほぼすべての年収区分において、金銭的動機による副業であっても本業の妨げにならないことが示唆された他、800万円以上の高年収層では、副業をもつことがむしろ仕事の熱心さを向上させることがわかった。

図4 金銭的動機の副業が仕事への熱心な取り組みに与える影響(正規雇用者、年収区分別)
図4 金銭的動機の副業が仕事への熱心な取り組みに与える影響(正規雇用者、年収区分別)

出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査(JPSED)」
注:固定効果推定の結果である。*は10%有意水準を表す。

なぜ高年収層の正規雇用者グループにおいては、スキル目的の副業ではなく、純粋な金銭的動機による副業であっても仕事への熱心さを向上させる結果を得たのだろうか。

一つの可能性として、図2でみたように、副業をもつことで得られるメリットは様々であり、金銭目的で始めた副業でも、金銭以外に得られたメリットによる本業への相乗効果がもたらされていることが考えられる。本業と副業の相互作用に関する分析をさらに進めることでその要因を明らかにすることができるだろう。

また、川上(2021)では、高年収層において副業率が上がることを指摘し、その理由として副業を行いやすい職業の存在を挙げている。高年収層の金銭的動機による副業は、生活の最低限の消費を達成する“ニーズ(needs)”ではなく、向上型欲求である“ウォンツ(wants)”による可能性も示唆できる(※2)。

いずれにしても、労働者の仕事へのモチベーション、熱心な取り組みというのは収入と深く結びついており、金銭的動機による副業であっても必ずしも本業の妨げとはならない。だとすれば、企業は、自社の利益最大化のための方策の一つとして、副業解禁を議論することもできるだろう。副業が広がりをみせつつあるからこそ、社内だけでなく社外にも視点を広げて、労働者の自発的な働き方を引き出す工夫を模索してはどうだろうか。

※1 川上(2021)では、本業の年収が高い層では副業保有傾向が大きく異なることが指摘されている)
※2 川上(2021)では、本業が高収入にもかかわらず副業を行う正規雇用者は、生活のために副業をするのではないと指摘される。一般に賃金率が良い職業であり、副業をもちうるほどに本業の労働時間が比較的短いと考えられる。故に本業に対する満足度も高く、副業を行っても仕事への熱心さが失われないと推測される。

門美月(一橋大学国際・公共政策大学院博士前期課程 JPSEDインターンシップ生)
・本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、
所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。