社長自らがSNSやホームページ、メディアを活用することで採用力を上げ、待遇改善や働く環境の整備により人材を確保――株式会社吉備総合電設
建設業界の人手不足問題は深刻化の一途をたどっている。その背景には、高齢化の進行や若手人材の確保が進まない現状、労働環境の整備の遅れ、建設需要の急増によるミスマッチなど、複数の要因が絡み合っている。いかに安定的に人材を確保するかは業界全体の課題だ。そのようななか、鳥取県で電気工事等の事業を営む株式会社吉備総合電設は、知名度向上と働きやすい環境整備、組織改革によって人材確保の取り組みを進めている。同社代表取締役の山下誉議氏に、そのねらいや具体的な施策を聞いた。

株式会社吉備総合電設
代表取締役 山下 誉議氏
若い人に刺さるようホームページを刷新、インスタ開設後フォロワー数は1000名超え
――最初に事業内容や営業体制、従業員等についてお聞かせください。
当社は、電気設備工事、電気通信設備工事、管工事、消防設備工事の4つの工事に加えて、消防設備の保守点検、防災グッズ販売などの事業を展開しています。鳥取県鳥取市に本社を置き、県内ではほかに倉吉営業所、米子営業所、島根県松江市に松江営業所と、4つの拠点を構えています。私が代表になってからは「防災事業を中心に地域を支え、皆様に愛される企業」に進化することを目指し、事業活動を行っています。売り上げは10億円前後で推移していますが、今期は受注が好調で16億円を見込んでいます。設備工事については公共工事の入札案件が多く、その計画に売り上げも左右されるため、保守点検など入札以外の案件獲得に力を入れています。従業員数は全体で76名、8割が現場作業で総務系が6名、残りが役員と営業です。私が社長になった6年前当時は60名でしたから、それから16名増えました。その効果で現在の平均年齢は38歳になっています。

――建設業界の中では非常に若いと思います。どのような取り組みを行ったのですか。
社長に着任してから6年間若手の採用に力を注いできました。最初に取り組んだのが、制服デザインの一新です。地味な作業服から当社のイメージカラーの緑色のスッキリしたデザインに変更しました。次に取り組んだのが、ホームページのリニューアル。予算をかけて刷新し、仕事紹介動画を撮影してリクルートページに張り付けるなど、頻繁に更新するようにしました。さらにSNSの活用にも取り組みました。フェイスブックを名刺代わりとしながら、若い人とコネクションを築くにやはりインスタグラムだと思い、新たに開設しました。
代表個人と会社公式の吉備総合電設のアカウントを設置し、手探りで初めて今3年目です。フォロワーは1000名を超えてきたので、若い人にも刺さったところがあるのではないかと感じています。実際入社した従業員に聞いてみると、必ずホームページやSNSはチェックしています。求人募集からではなく、ホームページやインスタグラムを見て応募してきた人も少なくありません。

社長自らが動き、地道に広報を続けることで成果につながる。「防災」をキーワードに進めたブランディング戦略
――ホームページやSNSの取り組みはどのような体制で進めたのでしょうか。
私が全部一人で回していました。専任者を置く余裕はありませんし、従業員はほとんど現場に出ているので、自分でやるしかなかったのです。でも、その経験から感じたのは、小規模の会社の場合、最初は社長が関わったほうがいいということ。基本的な仕組みぐらいは理解しておくべきですし、現場の社員に任せた場合、どうしても本業優先でこうした取り組みは後回しになりがちだからです。社長であれば「人を採用しないといけない」という危機感で切羽詰まっているので、やらざるを得ない。
ですから、最初の2年ほどは私がやっていましたが、技術のキャッチアップや若者への共感という部分で専任者を採用する必要があると感じて広報を募集したところ、新卒の若手2名を初めて採用できました。2人にSNSを任せた結果、SNSを見て企業説明会に来たという人が増えてきました。今ではSNSを見たのをきっかけに入社したという人が毎年出るなど明確な効果が出ています。
――SNSのみならず、多彩な方法で発信を行っていると聞いています。

地元の企業フェアに参加したり、鳥取県が運用する企業PR用のホームページに出稿したり、広報活動を積極的に進めました。こうしたものも現在では効果を感じています。
ただ、実は広告や説明会への参加は当初から行ってはいたのですが、最初の2~3年は全く効果がなく打ちのめされたんです。説明会に参加しても学生がほとんど訪問してくれないという状況でした。そこで、当社は電気工事を主体とする会社ですが、「鳥取県で『防災』といえば吉備総合電設」というブランディングで、「防災」を前面に打ち出すことにしました。その結果、「防災」に関連した「SDGs」や「地域貢献」等のキーワードが学生に刺さることがわかってきました。電気工事というワードだとなかなか若い方の関心につながりにくいのです。
また、「吉備総合電設」という社名が堅いので、親しみやすい会社のキャラクターをオリジナルで作成しました。みんなの生活を守る「吉備忍者君」と「吉備忍びちゃん」の男女ペアでテーマソングやCMも作成しました。会社のエントランスのデジタルサイネージでは今も動画を流し続けています。こうした地道な取り組みのおかげでだいぶ知名度が上がってきていると思います。
総務の女性社員を改革リーダーに抜擢し、資格手当倍増、女性用トイレやカフェルーム新設などに取り組む
――組織の再編や働き方改革にも取り組まれています。
15~16年間現場経験をするなかで、特定の人間に業務が集中しても正しく評価しなかったために優秀な社員ほど辞めていくなど、さまざまな課題を感じていました。社長就任後は、総務系の女性スタッフを改革のリーダーに抜擢するとともに取引先の銀行の担当者にも相談して、現状分析から始めることにしました。これも最初からうまくいったわけではありません。当初は業務で忙しいからとあまり乗り気ではなかった社員を粘り強く説得し続けて実現できました。
最初に問題点を抽出するために、私自身が全従業員と面談してヒアリングを行いました。社員の期間が長く現場との距離感はまだ近かったため、残業や休日出勤のこと、女性用トイレがないなど、率直な意見がいろいろ出ました。それを受けて、週休二日制の実施や残業代の適正支払い、女性が働きやすい仕組みを作る等々の改革を掲げました。細かな書類作業などの効率化なども進めました。これまで紙で渡していた給与明細をメールで飛ばすという形にして配る手間などを省いたり、手打ちでやっていたタイムカードもを今はシステムで全部管理できるようにしています。こうした改革は今も引き続き行っています。
――そのほかには具体的にはどのような施策を行ったのですか。

就業規則や給与体系については、リーダーを中心に社会労務士も交えて見直しを行いました。時間外手当や休日出勤手当などは適正に支払うように対策し、やる気を引き出すために資格手当の充実を図りました。具体的には重要度の高い資格は手当を2倍などとし、多い人は月に4万円という例があります。また、資格取得の費用も会社負担としました。加えて環境整備にも着手しました。新たに土地を取得して大きな倉庫を新設し、元の倉庫を事務所にリフォームして、女性用トイレを整備、社員が寛いで話せるカフェルームも作りました。人の採用もそれらの改革と同時並行で進めたのですが、採用ありきの改革ではなく、社員がどうやったら働きやすくなるかを考え実施していくなかで、自然と人が集まってきたイメージです。

また、当社は「防災」がキーワードなので、太陽光パネルや蓄電池を設置し、電気自動車を購入するなど防災拠点となる取り組みも進めました。その流れの中で、鳥取県の「とっとりSDGs企業認証制度」の取得や、2050年までに使用電力の100%再生可能エネルギーへの転換を目指す「再エネ100宣言」への参加、環境と健康を守りながら快適に賢く住まうライフスタイルへの転換を目指す「とっとりエコライフ構想」の登録などを進めてきました。こうした取り組みは、求職者のみならずその家族に向けても入社の安心材料の一つになっていると思います。
――順調に改革は進んでいるようですが、今後の課題をお聞かせください。
まだまだ、改革は道半ばです。一つは報酬体系。直近では鳥取県の賃上げ補助金なども活用しながら5~6%のベースアップを行っています。また、当社はこれまで評価というものがほぼなく、昇給は一律で処遇していました。賞与も評価して算出するわけでなく、仕事の質や量にかかわらず給料数カ月分(2024年ベースは5.5カ月)を支給していました。手始めに査定による評価部分を0~10万円の幅で上下させる体系で運用を始めていますが、まだ手探りの状態で今後、従業員が納得する新しい報酬体系を築いていきたいと考えています。
事業方針も変えていく必要があります。当社の受注はほぼ公共工事で、常にチャンスはありますが、行政の予算計画次第で受注金額が決まってしまいます。そこで工事ではなくメンテナンス(保守点検)部門の強化を進めており、付随する太陽光発電や防犯カメラ、防災備蓄品等々を積極的に取り扱うことで、事業構造の改革に着手しています。組織面では若い人が増えているのはよいことですが、全体の技術レベルが追い付いていない状況があります。若い従業員が技術を身につけるために、40~50代のベテランから技術を継承する取り組みを進めています。環境整備については目処がつきましたので、次のステップとして、障害者雇用の実現等にも取り組んでいきたい。同業他社がやっていないことは差別化にもつながります。脱炭素、SDGsの取り組みを継続していきながら、県外や首都圏にもPRしていきたいと思っています。

メールマガジン登録
各種お問い合わせ