中継輸送が変えた働き方と職場風土  若手人材の採用に成功した地方企業の改革――野々市運輸機工株式会社

2026年01月14日

令和6年度年度のトラックドライバーの有効求人倍率は2.37倍(※)と、全産業平均の2倍以上となっている。EC(電子商取引)の拡大や残業規制が影響しているが、大きく重い「長尺物」の輸送においては特殊な事情もある。積載効率の悪さから大手が敬遠し、中小に依頼が集中しているのだ。そんな中、金沢を拠点に水道管や鋼材、木材、機械などの輸送を手がける野々市運輸機工株式会社では、中継輸送のビジネスモデルを取り入れることで働き方改革と経営改善の両立を実現、若年層の採用にも成功している。代表取締役社長の吉田章氏に聞いた。

吉田章氏の写真

野々市運輸機工株式会社
代表取締役社長 吉田 章氏

中小企業8社でスクラムを組み、全国ネットワークを構築

――御社ではドライバーの負担を減らすために中継輸送を取り入れています。

当社は1966年に石川県の旧野々市町で創業、現在は金沢市に本社があります。主に水道管や電線、鋼材、木材、機械など、手では持てないような重量物をお客様からお預かりして倉庫で保管したり、トラックで輸送したりという事業を展開しています。社員数は62名で、その多くがドライバーになります。

近年、大手運送会社が重量物や長尺物をあまり運ばなくなってきたという流れがあります。理由は単純で、積載効率が落ちるからです。ブロックパズルのように、運びやすい四角い段ボールだけを積んだほうが、トラックは隙間なくきれいに埋まります。運送会社としては、その状態が一番儲かるわけです。一方で、長い棒状のものや曲がった形状のものが多いと、どうしても隙間が空きます。そこに人手不足が重なり、大手はそうした荷物を敬遠するようになりました。輸送効率が悪くなるものは断ろう、あるいは高い運賃を請求しようとなっていますので、そこは中小・中堅の運送会社が引き受けているという構図です。

私たちのビジネスは石川県のお客様の荷物を大阪や愛知といった県外へ届け、現地で別の荷物を積んで戻ってくる、といった中長距離の配送および北陸三県の地場配送が中心です。事業を続けるなかで、10年ほど前から「働き方改革」や「2024年問題」という言葉を耳にするようになりました。そういったところに対応していかなければいけないということで、解決策の一つとして中継輸送を取り入れることにしました。

野々市運輸機工の外観――具体的には、どのような輸送の仕方なのでしょうか。

中継輸送にはいくつかの形がありますが、当社では大きく2つの方法をとっています。
一つは自社倉庫を中継する輸送です。たとえば、以前は「大阪へ行ったトラックが水道管を積んで帰ってきて、そのまま北陸のどこかの工事現場へ直送する」という流れでした。これを現在は、大阪から持ってきた水道管を一度当社の倉庫で保管し、工事の進みに合わせて現場に配送するという形に変えています。

もう一つは、他社と連携する中継輸送です。大阪の同業他社と連携し、こちらから品物を大阪まで持っていって引き渡し、その後の配送は向こうに任せる。逆に、大阪から運ばれてきた荷物を当社で預かり、北陸一円に配送する、というかたちです。

――他社とのパートナーシップに基づいた仕組みがあるのですね。

北陸―大阪間では当社が持っていって引き取ってくる、という役割を担っていますし、大阪―関東間については、別の協力会社が連携する、といった具合です。一社ですべてを完結させるのではなく、助け合いながら全国ネットワークを作っています。

当社が参画しているのは「メタル便」と呼ばれる連携の仕組みです。メタル便は2000年に千葉県浦安市で始まりました。当社は2016年1月に加入し、北陸エリアを担当しています。現在は8社が加入しており、基本的にはその8社で全国をカバーしています。

ドライバーの様子

かつては取っ組み合いの喧嘩も。中継輸送が働き方を改善し、組織風土も変えた

――こうした連携はどのような背景からできあがったのでしょうか。

全てはリーマンショック後の、会社が一番苦しかった時期から始まりました。当時は業績が落ち込んだだけでなく、社内の雰囲気も最悪でした。休憩室では会社の悪口が飛び交い、社員同士の派閥争いのようなこともあり、「このままでは会社がダメになる」という危機感が常に私の頭を離れませんでした。あるとき、新しく採用した人が入社して2週間ほどたった頃に、突然「辞めたい」と言うんですね。理由を聞くと、「休憩室でみんなが会社の悪口を言っている。一丸となって働きたいが、この会社では難しい」と。この言葉は、かなりショックでした。

そんなとき、大阪のある運送会社から一本の電話がかかってきました。「長尺物や重量物を運ぶネットワークを一緒にやらないか」という誘いだったのですが、正直に言うと、最初は「怪しいな」と思いました。いきなり大阪から電話がかかってきて、コテコテの関西弁でぐいぐい来られたものですから、騙されるんじゃないかと警戒したのを覚えています。しかし、現状を打破したい一心で、他社と連携して「メタル便」という取り組みに参加することを決めました。

実際に始めてみるとこの中継輸送の導入は、社内の働き方を根本から変えることになりました。それまでの長距離輸送は、ドライバーが一人で積み込みから納品までを行う自己完結型のフルマラソンのような仕事でしたが、中継輸送は違います。大阪まで運ぶ人、倉庫で仕分ける人、そしてお客様へ届ける人と、バトンをつなぐ駅伝のようなチームプレーが不可欠になったのです。

積荷の様子

――他社とはどのように関係性を築いているのでしょうか。

メタル便を維持・発展させるためには、他社との関係性の構築は不可欠です。私たちが何より大切にしているのは「無駄に会い、無駄に飲む」という時間です。

メタル便にかかわらず、運送業界の提携話は実はよく持ち上がるのですが、多くは「自社さえよければ」というエゴが出てしまい、途中で空中分解してしまいます。だからこそ、私たちは古いと思われるかもしれませんが、飲みニケーションという形で膝を突き合わせて語り合う泥くさいコミュニケーションを徹底しています。

そこには上下関係はありませんし、独立した企業同士が有機的につながり、対等に尊重し合う関係です。ビジネスライクな契約ではなく、利害を超えた泥くさい信頼関係が、長年続くネットワークの強固な基盤となっているのだと思います。

――ドライバーの働きやすさについては、どのような変化がありましたか。

中継輸送の効果が働き方に与えた影響は非常に大きかったです。かつては東京まで下道で12時間かけるのが常識でしたが、中継地点までの輸送ということで労働時間をかなり抑えることができています。

また、中継輸送以外にもさまざまな工夫を重ねています。たとえば、お客様に粘り強く交渉し、高速道路利用を標準化することで移動時間を大幅に短縮しました。さらに、給与を「走った分だけ稼げる」歩合制から、安定した固定給へ完全移行し、無理に走る動機が生じないようにしました。社員を守るため、古い業界の常識を一つずつ変えていったわけです。

結果として社内の雰囲気が変わり、ビジネスモデルを変えられたことで、休日日数の増加や残業時間の短縮につながりました。長距離ドライバーの場合、年間休日は110日、残業時間は月30時間前後です。以前は残業が100時間を超えることもあり、休日は80日もなかったと思います。それがいまや地場配送のドライバーや事務職の場合ですと、年間休日が121日になっています。

離職が頻発していた時期で最も多かったのは、労働環境に関する不満です。「休みが少ない」「働く時間が長すぎる」「作業がきつい」といった声が面談でも次々に出てきました。実際、そういう状況だったと思います。加えて、人間関係の問題も大きかった。前述したように派閥のようなものがあり、取っ組み合いの喧嘩みたいなこともありました。こういった状況は働き方を見直すなかで大きく改善していったと実感しています。

――ほかにも職場環境を改善するための取り組みとして、どのようなことを行われていますか

どうやって関係性をよくしていくかを考えるなかで始めた取り組みの一つが、「ありがとうカード」です。「◯◯さんへ、荷物の積み込みを手伝ってくれてありがとう」といったメッセージを書き、回収して黒板に張り出す、というものです。最初は名刺サイズの紙に記入していましたが、現在はスマホでも送れるようになっています。

ありがとうカードのスクリーンショット

最初はほとんど書いてもらえませんでした。なので、私が一人でたくさん書いて張り出す、ということを繰り返していましたね。それでも少しずつ書いてくれる人が増え、月あたり数百枚が張り出されるようになっていきました。

「こんなの意味があるんですか」という声もありましたが、「ありがとう」の一言で関係が変わる場面は確かにあります。仲が悪かった二人組の片方に「カードを書いてみたら」と勧めたところ、それまで口もきいていなかったのですが、2週間ほどで会話をするようになったこともありました。

特別なインセンティブがあるわけではありませんが、感謝すること、感謝されることで関係性が変わり、仕事がしやすくなる。書く人も書かない人もいますが、今では当時の状況が想像できないほど、従業員同士の関係が良好です。

SNSへのショート動画投稿をフックに、10名以上の採用に成功

――若手人材の採用にも成果が出ています。

私たちの業界の関係者に聞くと、若い人がドライバーの仕事に興味を持ってくれないという話をよく耳にしますが、実はトラックに乗りたいという若い人は今でも一定数はいると感じています。ただ、当事者はどの会社に行けばいいのかわからないというのが課題の一つだと思います。そこで、当社を知ってもらう手段として、3年前からSNSでショート動画の投稿を始めました。企画から撮影、編集、アップロードまで全部内製化していて、今は週3回投稿しています。

SNS投稿のスクリーンショット

投稿を始めて半年ほどで30代前半の方から応募があり、理由を聞くと「動画を見ました」と。そこで手応えを感じて投稿を続けた結果、2~3年で20代~30代前半の社員を10名以上採用できました。

――動画の内容は、どのようなものが中心ですか。

一つは「運送業界で働いたことがないけれど興味はある」という20代~30代前半の方の背中を押すような動画です。具体的にはトラックの操作の仕方や道具の使い方といったハウツー系の内容を発信しています。もう一つは、会社の雰囲気を伝える動画で、若手社員がゲームをする様子などを発信しています。

当初は私と広報責任者の2人で始めましたが、今は私はほぼノータッチで、新卒で入社した女性社員が中心となって企画・撮影・編集を行っています。この人も動画がきっかけで入社した社員です。こうした若い人たちが入ってきていなければ、今頃現場は破綻していたかもしれません。それぐらいみんな貴重な人材となっていますね。

――こうした取り組み以外にもさまざまな取り組みをされてきていますね。

2018年には思い切って全社員にスマートフォンを配り、連絡手段をビジネスチャット「Chatwork」に統一しました。かつての事務所は、ひっきりなしに電話が鳴り響き、言った言わないのトラブルが絶えませんでした。最初は60代のベテラン社員に使いこなせるのかと不安でしたが、杞憂でしたね。2日もすれば慣れて、今では便利だと使いこなしています。受発注システムと連携させ、届いたFAXも自動でチャットに流れるようにしたことで、電話の量は劇的に減りました。情報が正確に伝わると、無駄な揉め事が消え、人間関係の質まで よくなるんです。デジタル化は単なる効率化ではなく、社員の心の余裕を作るためにも不可欠な投資でした。

ただ、この受発注システムを便利と感じて使ってくれるお客様もいるのですが、複数の運送会社とやりとりしているお客様などは、うちに発注するときだけやり方を変えるというのが逆に煩わしくなるわけです。なので、従来通り電話とFAXでやりとりしているお客様もおり、完全には移行できていません。社内のやりとりに関しては、電話の本数がだいぶ減って効率的になっているので、あとはお客様とのやりとりでこの仕組みをどこまで広げられるかというのが課題です。

こうした点も含め、今後も引き続き、できるところから改善していきたいと考えています。

(※)厚生労働省「統計からみるトラック運転者の仕事」
https://driver-roudou-jikan.mhlw.go.jp/truck/work

聞き手:坂本貴志岩出朋子
執筆:大越啓

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