建設業界全体で取り組む 待遇改善に向けた構造改革――隆一産業株式会社

2026年01月29日

建設業界では人材不足が深刻化するなか、待遇改善が急務となっている。しかし、世界情勢や為替による資材高騰などを背景とした相次ぐ工事の延期・見直しと業界の重層下請け構造が重なり、現場の職人に十分な報酬が支払われているとは言いがたい。

1960年創業の内装工事会社・隆一産業株式会社の代表取締役・羽織達哉氏は、自社での待遇改善に取り組むと同時に、業界団体を通じて元請けであるゼネコンや国土交通省との対話を重ね、業界全体の構造改革を目指す。

羽織達哉氏の写真

隆一産業株式会社
代表取締役 羽織 達哉氏

個々人の希望に合わせた働き方の実現と資格取得の徹底サポート

――御社の事業内容と変遷について教えてください。

当社は先代の代表が1960年に個人事業主として創業し、当初は外装工事を中心に事業を展開していました。1970年頃から内装工事へとシフトし、大手ゼネコンとの取引を開始しました。

私が代表に就任したのは2004年ですが、2012年に内装工事を基盤としつつ建築一式工事の許可を取得し、ワンストップでの受注体制を構築しました。リフォーム関係で改修工事、タイル工事、左官工事など多様な工種の依頼があったため、対応できる体制を整えています。

近年では、2021年に大手ゼネコンの経験者を迎えてTSコンサルティングを設立し、大型病院関係の品質・安全に関する現場管理や、設計者・施主・ゼネコン間の調整業務も手掛けています。

――現在の従業員構成は?

従業員は26名で、職人(作業員)7名が活躍しています。職人のうちボード工が2名で50代の熟練工、クロス工が5名で平均年齢は37歳。全体の平均年齢は約50歳で、この業界では比較的若いほうだと思います。

さらに、専属の外注職人が約20名おり、現場ごとに最大200名程度の非専属の外注職人の協力を得ながら仕事をしています。関東圏では自社で職人を抱える企業が多いのですが、中部圏の愛知・三重・岐阜では外注職人の比率が高いのが特徴です。

現場で活躍する職人たち

――自社での待遇改善にはどのような取り組みをされていますか。

大きく2つあります。

一つ目は、従業員の希望を反映させた柔軟な出勤体制です。従業員の定着を図るために働きたい人には仕事を出し、休みをとりたい人はとれるようにするなど、個々の状況に応じた対応をしています。中長期的な視点に立ち、従業員と対話をしながらライフイベントも考慮しつつ調整しています。

もう一つは、国家資格取得の全面支援です。厚生労働省の一級技能士、国土交通省の登録基幹技能者などの各種資格取得に向けて、受験料、講習費、交通費、宿泊費を全額会社負担としています。さらに、社内で練習の場を提供し、倉庫に架台を設置して、一級技能資格を持つ熟練工がマンツーマンで指導する体制も整えています。

1級表装技能士を取得し活躍する岡本氏

また、建設キャリアアップシステム(CCUS)を導入し、レベルに応じた賃金水準を設定しています。国交省の基準ではレベル1で年収370万〜500万円、レベル4で700万〜870万円とされており、当社もこれに沿って賃金アップを推進しています。資格取得者には会社独自の資格手当も支給し、基本給や休日数の改善も進めています。手に職をつけることで、未来のキャリアが見える仕組みにしていくことが、従業員がこの仕事を続けていこうとする原動力にもなると思います。

重層下請け構造の中で三次、四次の職人の単価が守られない状況の改善が必要

――それだけ手厚い支援をしても、待遇改善には限界があるのではないでしょうか。

はい。その背景には建設業界の構造的な問題があります。

私たちの業界は「重層下請け構造」になっています。ゼネコンを一次請けとして、その下に二次、三次、四次と下請けが連なるピラミッド構造です。上から順に利益をとっていくと、現場で汗を流している職人には十分なお金が回らなくなってしまうんですね。

さらに問題なのは、私たちは「請負契約」で仕事をしていることです。とび職など、日当で働く労務職の方は国が定めた日当の単価が守られています。一方、我々「請負」の場合は「何平米施工したか」で報酬が決まります。すると建設業の場合はほとんどが民間の工事で相見積もりによる価格競争での勝負になりますから、元請けがムリをして安く受注した工事の案件が、請負契約で当社のような会社に振られると、単価が下がってしまいます。

たとえば私たちが「適正価格は100万円」だと思っても、元請け側からは80万円、70万円という金額が提示される。そうなると、職人さんに適正な支払いができません。

――コスト増に建築単価の上昇が追いついていないんですね。

全国の建設業界では工事件数、投資金額ともに上昇していますが、建築着工床面積では減少しています(※)。また案件の大型化が進み、案件の数が減少傾向にあります。中部圏では顧客先が製造業となる場合も多く、資材価格の高騰や世界的な情勢もあり、設備投資の発注を見合わせることも起きています。

私たちは2026年もこの傾向が続くだろうと、非常に厳しい見通しを持っています。そうした中で、職人さんたちが生活できなくなるからと赤字覚悟で仕事を受注してしまうケースも発生しています。そして私が最も恐れているのは、リーマンショックのときと同じことが起きることです。当時、仕事がない、あるいは満足のいく金額が稼げないなか、多くの職人さんが「これならほかでバイトしたほうがマシだ」と業界を去っていきました。

今度もまた職人さんたちが仕事を失い、別の業界に移ってしまえば、人材確保はさらに困難になります。一度価格が下がると、もとに戻すのも大変です。ここに団塊の世代の高齢職人が離れていくタイミングが重なると、もはや個社の課題にとどまらず、業界全体の事業継続が危ぶまれ、死活問題になりかねません。

ただし2027年以降は大阪のIR、東京の再開発工事、各地域での半導体関連工場など複数の大型プロジェクトが控えており、建設需要は増加すると見込まれています。だからこそ2026年を乗り越え、人材を確保しておくことが重要です。現場に出て働いてくれる人間がいなければ受注もできません。需要が増える2027年に向けて、適正価格で仕事を請けられる環境を整え、職人さんを業界にとどめておく必要があります。

組合を通じて国に訴え、業界団体同士の対話でワンチームで適正な報酬を実現していく

――そのために、業界全体での取り組みが必要なのでしょうか。

その通りです。当社のような中小企業は一社で頑張ろうとしても待遇改善には限界があります。そもそもゼネコン、一次請け、二次請け、そして多くの職人の協力があって初めて一つの建設プロジェクトが完成するわけです。

だからこそ、業界団体である建設産業専門団体連合会(建専連)を通じて、日本建設業連合会(日建連。ゼネコンの団体)と国土交通省の三者で対話を重ね、適正単価・適正工期・標準労務費の設定を協議していくことが重要です。

――何がきっかけで組合の活動に深く関わろうと思われたのでしょうか? 

全国の同業者と話すなかで、「皆が同じ悩みを抱えている」と強く感じたことが大きなきっかけでした。相見積もりによる価格競争が当たり前となるなか、安値での受注が続けば、工事に関わる多くの人が幸せになれません。むしろ、正当な対価をきちんと受け取り、その利益が職人さんへ適切に還元される仕組みが不可欠だと痛感したのです。

自社だけが努力しても問題は解決しません。建設業界、とりわけ内装業は、いわゆる「一人親方」の職人さんから企業まで多様な立場の方々が協働し、一つの現場を作り上げる産業です。その構造を踏まえると、業界全体で改善に取り組まなければ、持続的な環境は生まれないと考えるようになりました。そうした思いから、組合に参加し、業界全体の底上げを目指す方向へと舵を切りました。

今後は、組合の動向を待つだけではなく、同様の課題を抱える企業の経営者と連携し、「次世代会議」という新たな場を立ち上げていきます。

現場に近い立場にある私たちだからこそ見える課題を共有し、具体的な改善策について議論を重ねていきます。また、私たちだけでは知見が不足する分野については、専門家の知恵や支援も取り入れながら、実務に即した実現可能な解決策を構築していく取り組みを進めていきたいと考えています。

――業界全体で改善するために、最も重要なことは何でしょうか? 

私は、業界に関わる全ての人が「ワンチーム」であるという意識を持つことだと考えています。ゼネコンは管理を担う立場であり、実際に施工を手掛けるのは下請け企業の我々、さらにその現場で汗を流すのは職人の皆さんです。つまり、互いに補い合うパートナーであり、どこか一社だけがよくなればよいというものではありません。

関係する全員が適正な対価を得られる仕組みに変えていくこと、そして企業の枠を超えて連携していくことが欠かせません。こうした「業界は一つのチームである」という共有認識が必要だと考えています。

当社は理念として「利他」の精神を掲げています。人がいて、初めて自分が存在できる。自分だけがよければいいという考えでは、この業界に未来はありません。現場で働く人の待遇改善を実現していくことこそが、建設業界の持続可能な発展につながると信じています。

合同体験会の様子

(※)建築着工床面積は、2014年度以降2018年度まで130百万㎡台が続いていたが、その後減少に転じ、2024年度には全建築物で104百万㎡と減少傾向となっている。建設業デジタルハンドブック「建築需要の動向」https://www.nikkenren.com/publication/handbook/chart5-2/index.html(2026年1月8日アクセス)

聞き手:岩出朋子
執筆:飯田一史

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