「健康経営」「ルート標準化」などの取り組みで、人材の採用・育成の好循環を生む――株式会社トレンディ茨城
物流業界では人手不足や人材育成・技能継承の難しさ、配送ルートの非効率化、さらには燃料費高騰や労働環境の整備の遅れ等々、現場の課題が山積している。今後、物流業界が持続的に発展するためには、働きやすい環境を整備し、若年層を積極的に採用・育成することが喫緊の課題となっている。このような現状に対し、茨城県水戸市に本社を構える株式会社トレンディ茨城は、従業員の「健康」の維持・向上への取り組みを開始、さらにさまざまなアプローチで「働き方改革」を推進し着実な成果を上げている。その取り組みを同社の常務取締役・谷萩寛子氏に聞いた。

株式会社トレンディ茨城
常務取締役 谷萩 寛子氏
時間内労働の実践、有休取得率の大幅な改善、インフルエンザ蔓延を契機に着手した「健康」への取り組み
――最初に事業の概要や従業員の体制をお聞かせください。
当社は、水戸ヤクルト販売株式会社のグループ企業として1978年に設立されました。ヤクルト商品のチルド輸送や学校給食の米飯の配送、寝具関係の配送など、一般貨物運送を主体に事業を展開しています。ほかに、損害・生命保険の代理店事業、富士山麓で採取したバナジウム天然水をウォーターサーバーとして届ける水事業も行っています。従業員数は42名でうち女性が14名です。雇用形態では正社員が35名でパート社員が7名。職種はドライバーが27名で残りがバックオフィスや営業スタッフという構成ですね。

――物流業界は長時間労働の問題が指摘されていますが、貴社にはこのようなことが、ほとんどないと聞いています。また有休の取得率も非常に高いですね。
当社の配送業務は、「時間内労働・日帰り配送」を条件に荷主様と契約しています。新たな荷主様とも同様の形態で契約を結んでいます。有休の取得率は、現在は約70%台になっていますが、2015年くらいまではわずかに2~3%、2017年には16.4%でしたので短期間で大幅に向上しました。以前は業務が属人化していたため、有休を取った人の代わりに仕事ができる体制が整備されていませんでしたが、ジョブローテーション化を導入したことでカバーしやすくなり、高い有休取得率を実現できています。

――有休取得率の向上など、働き方の見直しに着手したきっかけや経緯をお聞かせください。
10年ぐらい前、社内でインフルエンザが蔓延したことが大きなきっかけになりました。ドライバーが次々に罹患して業務が停滞する状況に陥ったのです。その際、従業員の「健康」が生命線であることを再認識しました。最初に始めたのが、インフルエンザ予防接種の助成です。さらに1日1本のヤクルト支給、禁煙活動、インストラクターによる腰痛の体操教室の開催、血圧計、体重計などの健康器具も設置しました。

県内でもいち早く「健康づくり推進宣言」を行い、2016年に「健康づくり推進事業所」の認定を取得。県内で第1号となる「健康経営優良法人2017(中小規模法人部門)」となり、2019年まで3年連続で認定を受けました。これをきっかけとして茨城県からオファーがあり、県が実施していた「働き方改革」のモデル企業として、2018年から具体的な取り組みを開始しました。こうした取り組みは、採用にも大きな効果が出ています。求職者の方は本当に健康に配慮した企業なんだなという点を評価してくれているようです。
業務マンネリ化を打破するための「社員教育」の実施、従業員全員で取り組んだ「ルート標準化」
――モデル企業として着手した「働き方改革」の具体的な内容をお聞かせください。
基本的な方針は会社側で策定し、外部のコンサルティング会社から業務効率化や社員教育に関して、アドバイスを受けながら働き方の改善に取り組みました。課題に感じたのは特に社内の教育でした。運送会社というのは基本的にA地点からB地点に物を運ぶということが仕事の基本になります。ドライバーの多くに、懇切丁寧にマニュアルに沿って指導するという文化は薄く、「見て覚えろ」の世界でした。
そこで教育体制も全員が受講するパターン、階層別や部門別、男女別などで実施するパターンと形を変え、そのときに社内で抱えている課題を中心に取り上げてカリキュラムに落とし込み、短期間で多くのコースを習得できる仕組みを作りました。当初は「なんで今更そんな教育を受けないといけないのか」という反発もありましたが、効果は絶大でした。回を重ねるごとに自分の成長を実感でき、変わることで「なんかワクワクするね」というムードに変わっていきました。数年後、社内でアンケートをとったとき、「会社での一番の思い出は教育を受けたことで、自分にとって非常にプラスになった」という回答が多かったです。

――社員教育にもつながる取り組みである「チーム制」導入の背景を教えてください。
それまで新人教育というのは縦割りの組織の体制で、上司・先輩が育成するという形で実施していました。ところが教育は人によって向き不向きがあり、一生懸命教えているつもりでも、なかなかそれが相手に伝わらないことがあります。相手によっても教え方を変えなければなりませんが、そういったスキルがない場合もあります。
ではどうしたらいいのかと思案し、まず全員にヒアリングをしました。自分が仕事をしていくなかで大切に思っていること、自分が得意とするところ、自身が感じている自分の強み、弱み等々。そこで浮かんだのが縦割りの組織をちょっと横に広げて部門横断型の「チーム制」にしようというアイデアでした。人にはそれぞれ得意な分野、これだけは負けないという分野があるはずで、それぞれの持つ強みを発揮してもらうための「チーム制」です。

具体的には、人とのコミュニケーションが上手な人のチーム、車の運転が得意な人のチーム、整備やタイヤの構造に詳しい人のチームなど、物流部門全員がどれかのチームに参加します。人材育成に関しても、コミュニケーション能力が高いメンバーで構成して、新人の育成指導は全部そのメンバーが行います。指導する側が若手に親身に指導を行うようになって、人材の定着率も格段に高まりました。
最近は新人に運行コースを習得してもらうための動画作成に取り組んでもらっています。これは運転手の頭にベルトでカメラを固定して撮影したものを編集した動画で、運転シミュレーションができるツール。社内のグループウエアで共有し、いつでも閲覧可能にしています。
――社員教育の取り組みに加え、「ルートの標準化」の取り組みがありますが、これらは互いに関連するのでしょうか。
密接な関係があります。かつて業務が属人化していた頃、ルート選びはドライバー任せで、個々人が自分で走りやすい道順で納品していました。だから、新人への教え方もバラバラで統一されていませんでした。でも何の標準もない状態では「きちんと教えてね」と言っても難しい。とても悩みました。

そこで普段各人が走っているルートの情報を出し合う会議を開き、効率的に走れるルート、事故を起こしにくい安全なルートなどの視点からルートを絞り込み、ドライバー全員が納得できるバランスのとれたルートを半年間かけて設定しました。大変な作業でしたが、やっぱり自分たちで考えてコースを作ったというところに自信も生まれたと思います。ルートの標準化に伴って業務マニュアルも作成しました。これにより業務の標準化と手順が共有され、業務効率の向上につながりました。ルート標準化や動画マニュアルの作成で、自分たちで決める、という意識が定着しましたね。ドライバー同士が議論する過程が重要で、全員がこうした新しい取り組みに前向きに取り組んでくれたことは大きな成果でした。
「デジタルドライブレコーダー」がもたらした業務効率化。円滑な人材確保と高い定着率を実現した「働き方改革」
――システム化・デジタル化も積極的に推進していると聞いています。
実は、働き方改革のモデル企業としてオファーを受けたのは業務の効率化を検討していた時期で、そのタイミングでデジタル化の取り組みを開始しました。それまで運転日報は全て手書きでした。現在は運行に関しては全てデジタル化しており、いすゞさんが提供している「MIMAMORI(見守り」」というドライブレコーダーを採用しています。リアルタイムの運行状況、日報作成、安全運転状況などの把握が容易になりました。これによって、作業時間の可視化、効率化できる時間の洗い出しなどができるようになりました。当社は「Gマーク」という安全性優良事業所の認定を受けていることもあり、時間管理は安全運行のためにも不可欠な要素になっています。


――さまざまな「働き方改革」を実践されていますが、人材定着・採用という面ではどのような成果が生まれていますか。
「働き方改革」に着手してから8年が経ちますが、この間、ドライバーの離職率が大幅に下がりました。大きな成果はベテラン社員が若手を育成するという好循環が生まれ定着していること。ジョブローテーション化の推進で、従業員同士が業務を調整し合い、いつでも休める、すなわち有休取得できるという、働きやすい社風が根付いたと思いますね。人材確保に関しては、たとえば新たな仕事の依頼があって増車しなければならなくなった場合、同時にドライバーの募集をかけるのですが、おかげさまですぐに充足するようになりました。面接の際、どうして当社を選んだのかを質問すると、残業がないことや従業員の健康を重視している点に惹かれたという声が増えています。シフトでジョブローテーション化しているので、計画的に休みがとれることも安心感を生んでいると思います。求人票でもそうしたポイントに絞って細かく書くように努めており、実際に多くの反響があると感じています。
事業の基本は人です。これからも社員一人ひとりの健康を考えながら、全員が高い満足度を得られるように、業務改善・働き方改革を推進していきたいと考えています。
メールマガジン登録
各種お問い合わせ