ラストワンマイルに特化した近距離配送と慎重な顧客選択がドライバーの働きやすさと定着率向上のカギ――有限会社日本軽貨物庄内

2025年12月23日

長時間労働の規制によりドライバー不足が加速する運送業界。人が集まらない理由は長時間労働のほか荷物の積み下ろしなど運転以外の重労働、賃金の低さなどさまざまあるが、構造的要因として元請けと下請けで成り立つ業態とその関係性も無視できない。数年前から「従業員の働きやすさ」を最優先に、大手との取引解消も辞さないという姿勢で経営にあたる日本軽貨物庄内の後藤正人社長に、取引先の見直しにより、事業内容や従業員の働き方がどう変わったのか聞いた。

後藤正人氏の写真

有限会社日本軽貨物庄内
代表取締役社長 後藤 正人氏

大型取引を断り売り上げが減ることより従業員を失うことのほうがはるかに大きい損失

――貴社の事業内容を教えてください。

当社は小型車両による近距離配送を専門とする運送会社で、現在2トントラックを30台保有しています。営業エリアは地元の山形県庄内地方を中心に、周辺の新庄や遠くてもせいぜい秋田県の由利本荘市くらいまでで、基本的に長距離輸送は請け負っておりません。ほとんどがラストワンマイル、つまり商品や荷物が最終的に消費者の手元に届くまでの区間の配送を担っています。長距離輸送に適した4トン以上の大型車両は1台もなく、それでも長距離の依頼は来るのですが、「やらない」と決めています。

有限会社日本軽貨物庄内の外観

――事業方針が明確ですが、以前からそのような考え方で運営していらっしゃったのですか。

正直申し上げて、ドライバー不足が今ほど深刻でなかった頃は、仕事を選べない状況でした。当社も大手路線会社(集配業者)の下請けが多かったのですが、大手になるとやはり決められたルールで動かねばなりません。がんじがらめの規則に縛られ、当社のドライバーの強みや得意を発揮する余地がゼロとなると、社員も「何もここじゃなくても」と思ってしまいます。また日によって取り扱う荷物の量が大きく違うのも、大手路線会社にはままあることです。当社は通常、小口配送ルートを担当するのですが、取引先(大手路線会社)の長距離ドライバーがキャパオーバーで音を上げると、その分も下請けの私たちに回ってくることが少なからずありました。こちらも忙しいのに有無を言わさず仕事が追加されるため、社長の私が指摘したり、「当社から別便を出します」などと提案したりするのですが、対応が難しい場合が多く、別便も費用を持てないと断られることが多々ありました。今後も対応が変わらないとなると、継続は難しいと判断せざるを得ないのです。

――契約時に細部の条件は詰めておかないのですか。

これまで運送業界は、契約書があってないようなもので、小口配送には「とりあえずこの日にトラックを何台用意してくれ」と伝えれば済むという慣習だったんです。拘束時間や配達エリアなど事前に細かく決めることもなく、配達件数の上限もないため、言葉は悪いですが取引先からすれば「残業させ放題」でした。

ただ、私自身も振り返れば、当時は考え方をアップデートできず、「なんとか頑張ってくれ」と社員を説得するのが社長の仕事だと考えていました。取引先の要望は絶対だから、モチベーションを上げる言葉をかけようと必死でした。社員も「お客さんから言われたからもうやるしかないんだろうな」とわかっているんですね。ただ結局はギリギリまで我慢するだけに、我慢の限界を超えると退職しか選択肢はありません。何人も退職者を見送り、これからの当社にとって取引関係を維持するより、社員を逃すことのほうが何倍も大きな損害だとようやく気づいたのです。

従業員が雑談している様子

ドライバーの都合を優先して業務をアサイン 年長者には体調に見合った働き方で処遇を柔軟に組み立てる

――具体的に取引先や社員の働き方がどう変化したか教えてください。

当社の負担が大きい仕事には元請けの取引先や荷主に対応を求め、改善が見られない場合は次からお断りするようにしたところ、「一日張り付き状態」になる契約がたいぶ減りました。取引がまだ継続している大手路線会社にも「ここまでならできます」という線引きを伝え、厳格に守っていただいています。それでもやはり自社のルールが譲れないという取引先については、先日も1社との契約を終了しました。

大手の契約がなくなったとき、そのままにしてしまえば当然売り上げが減ってしまいます。このため、代わりに短時間短距離のスポット依頼の仕事を増やし、今はドライバーの都合を優先して予定をパズルのように組み合わせています。運行スケジュールを立てる事務方は大変ですが、「朝早く出勤するのは構わないが早く帰りたい」「午後から働きたい」「土日の出勤はできるが平日に休みたい」といった、ドライバーのいろいろな働き方の要望に応えやすくなりました。それに伴い離職率も下がっています。退職者はゼロではありませんが、近年の退職者はご家庭の事情などによるもので、私としても仕方ないと納得できる理由です。あるいは自分には合わないという理由で短期間でお辞めになる場合もありますが、これもやはり致し方がない理由だと思います。

――従業員は現在どれくらいいらっしゃいますか。

正社員が24名で、パート社員が1名です。平均年齢は定着率が上がったせいか、40代前半から今は50歳になりました。最高齢は73歳のパート社員で、70歳の定年延長を終えた後も活躍されています。

職場で打合せしている様子

――73歳のパート社員の方は、現役時代と同じように働けるのですか。

いえ、さすがに体がきついようで、配送から戻るのが遅れたり、お昼休憩を長くとられたりして、休み休み仕事をされています。今ではその方は実働時間と休憩時間が同じくらいあります。休憩が目立つようになった当初は、私も経営者としてこのまま見過ごしていいか葛藤しました。ただ、体調を自己管理されているわけですし、また本人の申し出により休憩する間は休み時間にカウントするため賃金が発生しません。働き方を調整する場合は賃金を働きに見合ったものにさえすれば別に構わないと言いますか、働きたいという意欲があり、問題なく配送ができる限り、体力が衰えた方にも働きやすい環境や制度を整えるのが当たり前と考えるようになりました。年齢の問題だけでなくほかの社員もしかりで、当社には年間130日休む社員もいれば、「公休は要らないからもっと稼ぎたい」と訴える社員もいます。本人が望む働き方やライフステージに応じて柔軟に対応するよう意識しています。

取引先を選ぶポイントは企業風土 契約にない荷下ろしや積荷など無理な注文をなくす

――社員の働きやすさを優先するために取引先との契約を辞退することもある、と。そこで気になるのは売り上げの状況ですが、その点はいかがですか。

先頃も1社お断りしたと言いましたが、実際に仕事がなくなるのは申し出から数カ月後。ちょうど閑散期に入るため、当社としても痛手ですが、社員を守るためにはこのタイミングしかないと決断しました。全国からどのくらいの物量が届くか、当日蓋を開けてみないとわからない契約はもう基本的に受けません。また新規の取引先も慎重に開拓しています。いきなり大きな仕事を受注することはせず、小さな依頼から試し、実際に現場に行ったドライバーにもヒアリングしたうえで継続を判断しています。

若干の空白期間は生じるものの、新年度が始まるまでには新しい仕事を獲得し、軌道に乗せる自信があります。なぜなら当社が得意とする2トントラックの近距離配送は、大型車による長距離配送と比べて競合相手が少ないんです。また、ドライバー不足が深刻化するなか、ただでさえ少ない競合他社の数がますます減っています。こうしたなかで、庄内地方で2トントラックの配送といえば当社、という存在になりつつあります。また最近では大手路線会社が貴重品など「配達に配慮が必要な荷物」を敬遠したり、普通の荷物でも地域の拠点までしか届けない傾向が強まり、荷主がそうした荷物やラストワンマイルの配送を、直接、当社に依頼するケースも増えています。「薄利」だと「多売」が求められますが、社員同士も融通し合って予定を組み合わせ、うまく埋めてくれますので、必要なドライバーの数も十分に調達できます。

何よりなのは、少しおこがましい言い方になりますが取引先を「選べる立場」だということ。単価よりも当社のドライバーに対し、どのような対応をとってくれるかという点を重視して選んでいます。

日本軽貨物庄内のトラックの写真

――取引先を見きわめるポイントは何ですか。

企業風土です。どんな関係性でも相手を尊重し、決まった以上の仕事は要求しない、無理をさせない、といった対応ができるのは、やはり取引先の企業風土に根ざしていると実感しています。ですから新規の取引先だとちょっと不安なので、いきなり大きな仕事を受注はしないですね。本当は要望に応える力があったとしても、全てには対応せず、小口の取引から始めています。それで、「あ、この会社は心配ないな」と実感でき、実際に現場に行ったドライバーにヒアリングも行って、よくしてもらっているという話になれば、次の話にお応えするようにしています。

職場で打合せしている様子

いわゆる「運送業の2024年問題(※)」がメディアでも広まったこともあって、荷主のお客様も荷受けのお客様もかなり配慮してくれるようになったと感じています。これまでは契約にない荷下ろしや積荷の作業もなし崩し的にやっていたのですが要求されることもなくなり、「搬入口からさらに奥まで運んで」「所定の棚に収めて」といった無茶な注文もなくなってきました。そこはすごく追い風だなとありがたく思っています。

また、宅配サービスについては、注文から配達までの日数は、これからの時代、翌日などが当たり前でなくてもよいと考えています。現在はまだ行っていませんが、全ての商品が玄関先に届く必要はないのではないでしょうか。

たとえば、コンビニや商店などの引き取り所や、無人のロッカーセンターのような場所を設けて、とりに行ける人はそこへ受け取りに行ったほうがよいと考えています。私の周りでヒアリングをすると、「家にいないし、自分でとりに行っても構わない」という意見が意外と多いのです。これから地域の人手はどんどん減っていくのですから、適正なサービスが地域に根付いてほしいと期待しています。

このように注文から配達までの日数だったり荷物を受け取る場所だったり、改善してほしいことはまだまだありますが、当社としてもラストワンマイルを担う近距離運送業者としての矜持を大事に、顧客に対して適切な品質のサービスを提供するなかで、今後も従業員が安心して働ける環境づくりに取り組んでいきます。

(※)トラックドライバーの時間外労働が年間960時間までに制限されることなどにより生じる問題。ドライバーの負担軽減を図ることも課題になっている。

聞き手:坂本貴志岩出朋子
執筆:稲田真木子

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