中小企業の人手不足への対応策を概観する

2025年08月22日

構造的な人手不足が続く中で、中小企業の人員確保は困難を極めている。中小企業が人手不足に対応するために行っている具体的な取り組みにはどのようなものがあるか。引き続き中小企業庁や日本商工会議所・東京商工会議所、リクルートなどが行っている調査などからその全体像を探っていこう。

人手不足への対応策の構造

中小企業白書(2018年度)において、三菱UFJリサーチ&コンサルティングは「人手不足対応に向けた生産性向上の取組に関する調査」において、人材不足に対して、中小企業がどのような取り組みを行っているかを調査している(図表1)。対応策としては「賃上げ等の労働条件改善による採用強化」(48.1%)が最も多くあげられている。次いで「多様な人材の活用」(46.8%)、「従業員の多能工化・兼任化」(41.5%)、「業務プロセスの改善や工夫」(36.3%)が続いている。

東京商工会議所でも、人手不足への対応策について調査を行っている。先の調査とは聞き方がやや異なるが、最も多かったのが「採用活動の強化(非正規含む)」で78.4%となっている。そのほかでは「事業のスリム化、無駄の排除、外注の活用」(41.3%)、「女性・シニア・外国人材など多様な人材の活躍推進」(35.9%)といった取り組みが上位を占めている。

また、リクルートの「中小・中堅企業の事業課題・人材課題に関する調査」でも人手不足の対応策を聴取している。同調査では「中途採用の強化」が56.8%で最も高くなっている。このほか「賃金の引き上げ」(31.2%)、「新卒採用の強化」(30.5%)などが主要な取り組みとして示されており、「外部業者への委託もしくは外部人材の活用」「労働条件の見直し」といった項目や、「従業員の配置転換」「定年の延長や再雇用の実施」など人事施策に関する項目を選択した企業も多かった。

図表1 中小企業の人手不足への対応(中小企業白書調査)

中小企業の人手不足への対応(中小企業白書調査)出所:三菱UFJリサーチ&コンサルティング「人手不足対応に向けた生産性向上の取組に関する調査」(2017年)

図表2 中小企業の人手不足への対応(商工会議所調査)

中小企業の人手不足への対応(商工会議所調査)出所:日本商工会議所・東京商工会議所「人手不足の状況および多様な人材の活躍等に関する調査」(2024年)

図表3 中小企業の人手不足への対応(リクルート調査)

中小企業の人手不足への対応(リクルート調査)出所:リクルート「中小・中堅企業の事業課題・人材課題に関する調査」(2024年)

人手不足対策は、採用強化と定着促進、生産性向上の組み合わせ

これらの調査から、中小企業の人手不足への対応策として、改めてどのようなメニューがあるかを整理しよう。中小企業の人手不足対応策は大きく以下の3つに集約される。

第一は「採用強化」である。新卒・中途・非正規を含む採用活動の拡充は、即効性のある対応策として多くの企業が取り組んでいる。リクルートの調査では「中途採用の強化」が最も高く、即戦力人材の確保に重点が置かれていることがわかる。また、東京商工会議所の調査でも「採用活動の強化」が圧倒的に高く、採用チャネルの多様化や企業PRの強化が急務となっている。採用活動は単なる求人広告にとどまらず、SNSや動画などを活用した情報発信、地域の教育機関との連携、合同企業説明会の開催など、戦略的な広報活動とも結びついている。

第二は「定着促進」である。これには労働条件の改善や各種人事施策の改革が含まれるとみられる。賃金水準の引き上げ、長時間労働の是正、休日数の増加、福利厚生の充実などを通じて、従業員の満足度を高め、離職率を低下させる施策が進められている。中小企業白書で行われた調査では「離職防止・定着の取組強化」が上位にあげられており、採用と定着をセットで考える必要性が浮き彫りになっている。特に中小企業では、限られた人材にいかに長く活躍してもらうかが経営の安定に直結するため、職場環境の改善やキャリア支援、メンタルヘルス対策なども重要なテーマとなっている。

第三は「生産性向上」である。従業員の育成に関する施策と業務効率化に関する施策で構成される。業務プロセスの見直し、IT導入、設備投資による省力化、従業員の多能工化・兼任化、リスキリングなどを通じて、少ない人手でも高い付加価値を生み出す体制づくりが求められている。中小企業白書で行われた調査では「業務プロセスの改善や工夫」「従業員の多能工化・兼任化」が高く、単なる人材確保ではなく、業務の質的転換による対応が進んでいることがわかる。リクルートの調査でも「リスキリングによる人材育成」があげられており、デジタルスキルやマネジメント能力の向上を通じた組織力強化が重視されている。

加えて、これら3つの施策を補完する施策として、「外部人材の活用」や「業務のアウトソーシング」なども重要な役割を果たしている。副業・兼業人材やスポットワーカーの活用は、柔軟な働き方を提供すると同時に、企業にとっては必要なときに必要なスキルを確保できる手段となる。また、定年退職者の再雇用は、技能継承と人材確保の両立を図る上で有効であり、特に地方の製造業などでは積極的に導入されている。

今後の中小企業における人材戦略は、これらの施策を単独で実施するのではなく、企業の規模や業種、地域特性に応じて柔軟に組み合わせることが求められる。採用・定着・育成・効率化などの各施策を連動させ、持続可能な人材確保の仕組みを構築することが人手不足解消につながると考えられる。

図表4 人手不足対策のための施策

人手不足対策のための施策

坂本 貴志

一橋大学国際公共政策大学院公共経済専攻修了後、厚生労働省入省。社会保障制度の企画立案業務などに従事した後、内閣府にて官庁エコノミストとして「月例経済報告」の作成や「経済財政白書」の執筆に取り組む。三菱総合研究所にて海外経済担当のエコノミストを務めた後、2017年10月よりリクルートワークス研究所に参画。

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