ロボットによる自動化や多能工化により「工場女子」が活躍 短時間勤務者も含め全従業員を正社員に――株式会社飛騨ダイカスト

2025年12月02日

女性の社会進出が進む中、工場などの製造現場ではいまだ男性が多いのが一般的な実状。しかし岐阜県飛騨市にある飛騨ダイカストでは、工場で働く社員の半数近くが女性である。産育休を経てほとんどが復職するなど定着率も高く、今や欠かせない戦力となっている「工場女子」は、どのように採用、育成されているのか。活躍する仕組みづくりから今後の展望まで、代表取締役社長の渡邉正憲氏に話を聞いた。

渡邉正憲氏の写真

株式会社 飛騨ダイカスト
代表取締役社長 渡邉 正憲氏

「検査力」に優れる資質を活かしたい。企業認定を機に女性工員が増加

――貴社の製造工場では女性の工員が多数活躍していると伺いました。どのくらい働いていらっしゃいますか。

当社は2005年に創業し、この20年で工員10名から60名弱の会社になりました。近年、女性はその半数近くを占め、率にすると約4割になります。最も多かった10年ほど前には男性を上回り、5割を超えていました。2013年度に「岐阜県子育て支援エクセレント企業」に認定されたことにより、女性の応募が一気に増えたからです。県からの宣伝や新聞の地方版などに報じられたことをきっかけに、口コミで徐々に当社の存在が認知されたのが大きかったと思います。年に1人か2人くらいは、高齢や家庭の事情といったやむを得ない理由で退職されるため、現在の割合に落ち着いています。

株式会社 飛騨ダイカストの外観――女性を活用するようになった経緯を教えてください。

認定証の写真

採用を意識したのは創業初期からです。私は以前、親会社の工場で生産技術や保守管理に従事していましたが、縁あって急遽、自動車部品メーカーのお客様の下請けをすることになり、この地に工場を建てました。つまり新規参入したわけですが、ダイカスト製品は高度な鋳造技術で作られますので、当初はお世辞にもモノづくりがうまいとは言えず、不良品が多くて歩留まりが悪かった。製造工程は社員を研修に行かせるなどしてかなり勉強していましたが、検査工程が弱かったため検査員を強化しました。そうすると、検査に関しては女性のほうが優れていると感じたのですね。検査員は膨大な製品を目視で全数検査するのですが、集中力が途切れませんし、出荷するかどうかの判断も思い切りがいいんです。当時は知名度がなく、なかなか人が集まらないものの、「やはりこの部分は女性に活躍してもらったほうが望ましい」と考えていたタイミングで、県の担当者からエクセレント企業の話をいただきました。

――「認定を受けませんか」ということですね。なぜ貴社に声がかかったのでしょうか。

会社を経営するのが初めてだっただけに、受注先のお客様、またそのつながりのお客様と、多くの経営者の先輩方に指南を仰ぎました。もともと自動車関連産業は「5S」や「カイゼン」など、生産現場の管理が徹底しています。そうしたノウハウや考え方に加え、今では年間休日もお客様企業に合わせて120日、当然ながら有給休暇や産育休も法定通りにと、最初から体制を整えました。

さらに企業理念的な部分でも「会社と従業員はウィンウィンの関係でなければ成り立たない」といったことを教わり、素直に実践していきました。振り返れば10名でスタートした小さな会社ですが、身の丈以上の先進的なことに取り組んできた姿勢が、エクセレント企業認定を受ける素地として評価されたのかもしれません。申請に向けて、有給休暇の取得をさらに奨励し、産休・育休明けの積極的な正社員登用を進めましたが、認定後も現場の声を取り入れて常に改善を図っています。

製造現場でモニターを確認しながら作業する様子

パートをやめて時短正社員に。同一労働・同一賃金で格差と不公平感を解消

――働きやすい環境づくりに関し、最新の制度や仕組みを教えてください。

現在はパートでの雇用はなく、全員、正社員で採用しています。パートタイムで働く方は「時短社員」と呼んでいて、希望される時間帯や勤務時間を各々相談して決めています。時短社員がいる検査員は日勤のみで、8時から17時10分までの就業時間のうち、最も勤務時間が短い方は9時から15時までの5時間です(1時間昼休)。それ以上短い時間を希望された方がまだいませんので、今のところ「最低これだけ働いてほしい」という制限は設けていません。休みも自由にとれますし、有給休暇の取得率は現在ほぼ100%になります。基本給は今、時給換算で支払っていますが、フルタイム社員のたとえば4分の3といった額で、同一労働・同一賃金になるよう算定しています。もちろん賞与も出ますし査定も同じ評価基準です。有給休暇も1時間単位で取得できます。

――なぜ全て正社員にすることにしたのですか。

今の雇用形態にしたのは2016年ごろで、働き方改革が叫ばれ始めていたこともありますが、一番は単純に頑張っているパートさんたちに報いたかったからです。検査員はほぼ未経験からスタートし、スキルマップを作って毎年、技量を検証しています。パートの方も社員に勝るとも劣らないほど戦力化する中で、やはり賃金や待遇に格差があるのは不公平で、職場内の調和がとれないのではないかと。同じ仕事をしているのに待遇が低いとなるとモチベーションの低下や離職にもつながります。また検査員はエクセレント企業の認定時に数多く採用したこともあり、当時は比較的人員の余裕がありましたので、検査員同士で休みを融通し合うなど助け合う風土が根付きました。「お互いさま」のよい関係を維持するためにも、フラットな関係づくりが必要だと思いました。

――全員、正社員に切り替えてから何か変化を感じますか。

長く勤める方はもちろん、新しく採用した方も、最初から「社員としての責任感」を強く持って仕事に取り組まれています。製品の品質に関してはお客様の要求レベルも年々上がっていますし、下手をするとリコールにつながりかねません。そうなると当社のような小さな会社はたちまち存続の危機に陥りますので、一人ひとりの責任感が高まったのは大きなメリットです。また、今はひと頃より検査員の採用は抑えていますが、最近、欠員募集をしたところ運よく採用が叶いました。ほかに生産管理職の中途採用でも男性が決まりましたので、正社員採用の効果と言えるかもしれません。確かにパートのときと比べて人件費はかかりますが、助成金もありますし今のところメリットを感じています。

製造現場で金属部品を検査する作業風景

多能工化に向け製造職でも女性活用を意識。意見の吸い上げにコンサルタントを起用

――そのほか、定着に向けて工夫されていることを教えてください。

検査員の作業環境については、当初からお客様の会社を参考に、身長に応じて高さが調節できる検査台を自作するなど女性目線を意識しました。今はさらによい市販品を使っています。また、アルミ合金のダイカスト製品は鉄より軽く、自動車部品の中でも比較的小さいため手扱いは楽ですが、社内で運ぶときは専用の箱を作ったり、出荷場には台車をかけるところを作ったりと、現場の声を取り入れて少しずつ改善しています。特に飛騨地区は冬の寒さが厳しく、工場はコンクリートの床から冷気が上がりますので、検査台の下に低反発のマットを敷いたのは好評でした。

高さ調整可能な検査台で部品を検査する現場の様子――検査員以外の製造職などでも、女性を活用する考えはありますか。

自動化を進める製造現場のロボット設備

ダイカスト製品はアルミ合金を高温のガス炉で溶かして鋳造、加工します。熔解のほうは当社の場合、今、ガス炉を665度で管理していますので、かなり過酷な環境になり、どうしても体力のある男性のほうが向いているとされています。また熔解は2直、加工は3直の交代勤務ですから、育児や介護などで夜勤ができないとなると、シフトに入っていただくのはなかなか難しいのが現状です。

一方で、15年ほど前からロボットを導入して自動化を進めており、人による作業がだいぶ軽減されました。まだ交代勤務の形をとってはいるものの、工員一人で材料の投入から加工、検査、出荷まで行う「多能工化」の推進や、一人の従業員が複数の機械を管理する多台持ちをできるように徐々にシフトチェンジしています。短時間で働く社員が多くなってくると、時間帯によって人員に大きなばらつきがでますので、一人の従業員がさまざまな仕事ができるように多能工化を実現させることが不可欠です。また、機械についても人員の変動に合わせて体制を変えられるように所有からリースに形を変えています。ただ、それでも製造職は検査員に比べてなかなか人が集まらず、最近は外国籍の社員を増やしているというのが現在の状況です。女性社員は定着率も非常に高いため、できれば製造工程でも女性に活躍してほしいと願っています。

――具体的な手立ては講じられていますか。

全社員に個人面談を行っていて、キャリアビジョンをはじめさまざまな意見を吸い上げています。話を聞くと、やはり賃金水準は重要だと。この点、製造は交代勤務手当や鋳造手当などを用意し、給与水準を引き上げています。収入が検査員よりよくなるため、興味を示す女性社員も少数ながら出てきました。実際、今、加工の日勤帯には検査員からチェンジした女性が入っていますし、交代勤務に携わってくれている女性も一人います。

また、男女問わず採用時の相談では逆に夜勤帯だけを希望する方とか、就業時間帯を相談される方も見えますので、対応を始めました。土地柄、同居するご両親がお子さんの世話を引き受けたりして、時間に融通の利く方も少なくありません。子どもが育っていく中で来年からはフルタイムでということもよくあります。また、産休・育休の取得期間も平均2カ月と短く、出産後すぐに復職される方が多いのも土地柄ゆえの強みです。将来のキャリア形成に向け「やってみたい」という方がいればもちろん歓迎で、スキルアップ研修やダイカスト検定などの資格取得も支援する用意があります。

工作機械を操作し部品を加工する製造現場の様子

――従業員のニーズに応じたきめ細かなフォローは大変ではないでしょうか。

個人面談は当初、私と常務が担当していましたが、2024年から外部の女性コンサルタントに依頼しています。日々のマネジメント業務や現場の作業など管理職の負担が増加していることに問題意識があったからです。最近では管理職になりたくないという人も増えていると思います。また、会社に対する思いや望ましい働き方、職場で改善してほしいことなど、社長や常務に言いにくいことでも、外部のプロなら引き出すことができ、より有益なアドバイスが期待できるということも外部の力の活用に踏み切った理由です。

依頼することになった経緯は、偶然隣の高山市の研修会でさまざまな研修をやられている講師の方がいまして。そこに常務が参加していて彼女なら話しやすいかなと思ったというのがきっかけです。実施する中で経営陣と社員間の思いのギャップも明らかになり、厳しい批判の言葉も出ました。「『こうしてほしい』ということがうまく伝わっていなかった」などと、反省点も見出しています。今後もきめ細かく社員たちの声を聞き、女性活躍のみならず、全ての社員が働きやすい環境づくりに注力していきます。

聞き手:坂本貴志岩出朋子
執筆:稲田真木子

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