選択定年制導入や人事評価制度見直しで 高齢者が働きやすい環境を整備――八雲製菓株式会社
厚生労働省の調査によれば、高齢者の7割近くが65歳を超えても働きたいと願っているのに対して、実際に働いている人は2割にとどまっているという。人口が減少するなかでわが国の成長力を確保するためにも、高齢者の就業率を高めていくことは重要なテーマだ。「生涯現役社会」を実現するための取り組みが、社会全体に求められるなか、山梨県甲府市で菓子製造業を営む八雲製菓株式会社は、従業員の約半数が60歳以上、高齢者が活躍できる働きやすい環境・制度の整備を進めてきた。その取り組みを同社・財務部長の金井健氏に聞いた。

八雲製菓株式会社
財務部長 金井 健氏
定年を65歳まで引き上げ、60歳以降の選択定年制度を導入、65歳以降も1年ごとの更新で再雇用が可能に
――事業内容や従業員の構成などを、まずお聞かせください。
当社は1950年、山梨県甲府市で創業しました。創業当初からの主力製品であるウィスキーボンボンをはじめ、甘納豆やペクチンゼリーなど、菓子製造・販売一筋に事業を展開してきました。従業員は現在50名で全員正社員です。うち35~40名が菓子製造に携わっています。年齢構成は、60歳以上の女性が12名、男性が15名。その中で65歳以上の女性が5名、男性が4名、70歳以上も女性が3名在籍しています。平均年齢は55歳くらいですね。


――シニア活用に積極的に取り組み、シニアが働く環境を整備してきたと聞いています。具体的な内容についてお聞かせください。
当社は、元々勤続年数を重ねた高齢者が多く、最近まで若者もほぼ入社してこなかったため、平均年齢が上がっていました。若手主体に切り替えるというのも、そう簡単にできることではありません。そこで人材確保を目的として、できるだけ長く当社で働いてもらうための働きやすい環境を整えようと考えたわけです。私が信用金庫からこちらに転職したのが2019年。当時の喫緊の課題は赤字体質からの脱却でした。そのためのイノベーションの一環として人事制度の改革に着手しました。社長と私、そして県の補助事業を活用して社会保険労務士の先生を招き入れ、3人で働き方の見直しや人事考課を取り入れていく検討を進めました。
2020年に定年を65歳に引き上げると共に、選択定年制度を導入。これは60歳を過ぎればいつでも退職できるし、本人が希望すれば65歳までも勤められますよ、という制度です。また65歳以降は、一定条件のもと70歳まで1年ごとの更新で再雇用を行い、70歳以降も本人の健康状態や希望を優先して再雇用を行う制度としました。就業規則においても、労働時間の弾力化を図りました。65歳を過ぎると、選択制で週一回の休みが取得できますから、土日を加えて週休3日になります。また短時間勤務も可能としています。

適正な評価と等級制度による新たな給与体系を導入。高齢者の活躍を後押しし、モチベーション向上を促す
――人事考課も取り入れられました。どのような仕組みで実施していますか。
選択定年制などはスムーズに導入が決まりましたが、人事考課を制度化するのはそう簡単ではありませんでした。そもそも当社には人事考課自体がありませんでしたから、ゼロから作っていく感じでした。人事考課、すなわち評価基準に基づいて従業員の実績や能力を査定する制度ですが、まず人事評価表を作りました。大きくは2項目あり、年度初めに個人の目標を立ててもらい、その成果・達成度を点数評価する。これに加えて本人が担うべき「役割・スキル」を点数評価する項目があります。「役割・スキル」はマネジメントクラス、リーダークラス、スタッフクラスの3階層に分かれ、人材育成や仕事への姿勢、ルールの順守、チームワーク、協調性などの内容があり、年度が変わった時点で各項目について自己評価してもらい、担当部課長が二次評価、社長が最終評価を担います。そして、人事評価の点数を出して評価しています。
――評価によって賃金もかなり差が出るような形になっているのですか。
昇格、昇給、ボーナスに反映されるシステムになっています。面接の際には、「人事考課で適切に評価しますから、昇格、昇給、ボーナスに差が出ますよ」という話をさせていただいています。
人事考課導入で一生懸命汗水流して働いている人とそうではない人で差がつくようにすることで、多少でもモチベーションは変わってきていると思います。人事考課の評価表では、65歳以上の人たちの仕事は何かということも示されていてそれを自己評価するわけですから、本人は自分の置かれている立場、何をすればいいのかという役割が自覚できるようになっています。たとえば、自分の仕事は後輩の指導・育成だと理解してもらえることに、人事考課は役立っていると思います。頑張りを見える化したことも大きい。ある人の行動や取り組みが評価されて昇格したということがわかれば、頑張りたいと思う人のモチベーションも上がると思います。

――人事評価が昇格、昇給、ボーナスに反映されるということですが、月々の給与体系に関しても見直されたのでしょうか。
社労士の先生からの提案を受けて、新たな給与体系を構築しました。それまでは社長の裁量で決めていたのを全部作り直し、ピラミッド型の形を確立して現状の給与を当てはめていきました。新給与体系の一番の核心は等級制度を導入したことです。人事考課の評価を反映させる仕組みとして、従業員の技術レベルや役割の変化に応じて、一般職から部長まで6段階の等級に分けました。65歳までは人事考課によって等級が上がっていく体系ですが、定年を過ぎると等級はそのまま持ち越されます。同一労働同一賃金つまり業務内容が同じであれば給与は変わりませんから、定年を迎えたからといってみんな一律に給与を減額するという形は設けていません。ただ70歳を過ぎると、月給制ではなく日給制になりますから、本人の希望による仕事時間の短縮などで給与が減る形となります。
――65歳以上と現役世代で給与体系を変えられたということだと思いますが、そこにはどのような議論があったのでしょうか。
それも社労士の先生と社長も含めたなかで、話し合いました。等級制度導入による新給与体系は、モチベーションを上げて、技術も向上してもらい、管理職、非管理職も合わせて、上の等級を目指して頑張ってもらいたいという思いで作りました。65歳以上になったら、「そんなに張り切らなくていいよ、自分の体を大切にしてほしい」、また「後輩が入ったら、自分の持っている技術とか知識を継承してほしい」という考えから、定年の65歳で線を引きました。
パワースーツの導入により業務負荷を軽減。シニア社員には社長自らが面談し、働き方の自己選択を促す
――シニアの方々は、実際の作業では体力的に厳しいことも増えてくると思います。働く現場の改革についてお聞かせください。
一つは職場のIT化です。2021年にIT導入補助金を活用してタブレット端末を導入しました。それまで紙ベースの指令書で1日の仕事内容を確認していましたが、タブレットの中にその日のタスクが全て格納されていますから、作業の進捗具合がタイムリーに把握できます。またタブレットの情報を見ることができる大型のモニターも工場に設置しました。作業がどの程度進んでいるか、いつ頃に終わるかなど、一目で確認できることで作業のモチベーション向上、業務効率化に非常に役立っています。

装着することで腰などの負担を軽減する「パワースーツ」は高齢者を含め重労働作業者に着用してもらっています。甘納豆を作る現場では、約30㎏の砂糖の袋を担いで鍋に投入するという作業があります。その際に腰痛の予防や膝の痛みの軽減に役立っているので、十分に費用対効果が出ていると思います。また製造現場は、夏場は非常に暑くなります。熱中症予防や体力負荷の軽減など、より快適な職場環境とするため大型エアコンを導入し、工場内の段差もできるだけ減らしました。
再雇用の上限は78歳ですので健康状態のヒアリングの意味も含めて、年3回の社長面談の機会も設けました。本人の健康面や取り巻く状況等を社長がヒアリングし、希望に応じて時短勤務に変更するなど、本人が選択できる形にしています。

こうした改革は、私が信用金庫の経営支援部出身ですから、金融機関の伝手で外部からコンサルタントの方を起用してさまざま行っていきました。それまでは外部からの社員がゼロで長年変化のない状況が続いていましたが、私も含めて中途入社者のこれまでのノウハウを活かすべく入社後に感じた課題や改革の必要性について社長と協議しました。その結果、人事考課制度の導入、面談の実施、新たな会議体の設置など、さまざまな変化が社内にもたらされました。
――現在の採用状況を教えてください。高齢者の方の採用も継続しているのですか。
以前は県の産業雇用安定センターを通じて高齢者の方を採用していましたが、現在は高齢者の方に加えて若手も確保したく採用活動を進めています。実際、ここ2~3年で若い人も多く入社してきました。それは当社にとって非常に喜ばしいことではありますが、一方で技術伝承という課題も生まれています。今、シニアの方が仕事を伝授しようということで一生懸命取り組んでもらっています。現場での直接的な指導に加えて、先にお話ししたタブレット端末を活用しています。具体的には、箱詰め作業やライン作業の手順といった作業内容・技術をタブレット端末で録画して、仕事が終わったらそれを視聴して確認できるような形ですね。若手社員の習熟度向上に役立っていますが、現状はまだ一部の部署に限られているため、今後は全部署に取り入れていきたいと考えています。コストはかかっても、着実に技術伝承ができるような有効なシステムを作っていきたいと思っています。
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