在庫リスクを減らす事業モデルと「誰でにもできるものづくり」で、持続可能な経営を実現――株式会社柿下木材工業所
木材を加工し家具や建具、建築物など多様な製品を生み出す木工業界。樹脂や鉄鋼などの素材と違い、自然のぬくもりを感じられるのが魅力だが、近年はベテラン職人の高齢化と引退が進み、廃業する事業者も増えている。国内需要の縮小や輸入家具の拡大といった経営環境の悪化に加え、「きつい・汚い・危険」というイメージから若年層の入職が伸びず、担い手不足が深刻だ。こうした状況の中、岐阜県高山市で木製の照明部品を製造する柿下木材工業所は、利益率を高める事業モデルへの転換や職人の技術に依存しない生産体制の構築によって持続可能な経営体制づくりに挑んでいる。3代目社長の柿下孝司氏に聞いた。

株式会社柿下木材工業所
代表取締役社長 柿下 孝司氏
70代が経営するメーカーの廃業が広がり、後継者不足も深刻化
――まず、貴社の概要について教えてください。
岐阜県高山市にて1957年に創業した木工業の会社で、私は3代目になります。当時は都市間交通の便が悪かったため、小型で付加価値の高い木製品を生産し、一箱にできるだけ多く商品を梱包し効率的に出荷していました。その中で手掛けるけていたのが照明器具の木製部品であり、その経験と積み重ねが、現在の事業へとつながっています。

2007年には、オリジナル木製照明ブランド「モアレ」を立ち上げ、展開してきました。私の代になってから売り上げはほぼ横ばいですが、利益率は着実に上昇しています。売上構成は部品製造が3分の2、残りの3分の1がオリジナル照明です。従業員は18名で、12名が加工、4名が組み立て・仕上げ、2名が梱包・出荷を担当しています。雇用形態は正社員14名、パート4名。障がいのある方の雇用にも取り組み、4名が加工部門で力を発揮してくれています。
――木工業界の同業の現状について教えてください。
当社のように木工で照明部品を製造しているメーカーは国内でもおよそ10社しかありません。しかも、2025年に入ってすでに2社が廃業しており、業界の縮小は加速しています。特に、私の父親世代、後継者のいない70代前後の事業者の廃業が増えている印象です。後継者が生まれにくい背景には、長年の取引慣行の中で価格が上がりにくく、利益が出にくい体質となっていたことや、労働条件の厳しさといった事情があります。同業メーカーの中でも夫婦2人などの家族経営も多く、経費や固定費などが膨らみにくい体制であったことから、事業をどうにか続けてこられたのだと思います。

しかし、いざ後継者に引き継ぐとなると話は別です。事業として稼げなければ担い手は集まりませんし、自分の子どもに「継いでほしい」とも言いづらいと思います。廃業した事業者の仕事が当社に移ってくることもありますが、非常に条件が厳しいものも少なくありません。
在庫リスクを発注元に引き受けてもらう、材料支給方式への転換
――貴社の利益率が上がっている背景にはどのような工夫があるのでしょうか?
オリジナル照明部品の高付加価値商品の比率を増やしていることも要因の一つです。部品製造についても、この数年で少しずつ単価の見直しを進めてきました。廃業された会社の仕事を当社が引き継ぐ場合、再見積もりの結果、これまでより2~3倍ほどの価格になることもあります。その見積もり結果を踏まえ、できるだけお客様のご希望に近づけられるよう、工程改善など可能な範囲で価格との折り合いをつける工夫を行っています。

その一方で、思うように進まない場面が。ウッドショックで材料価格が2倍に跳ね上がり、値上げ交渉を進めざるを得なくなった時期に、お客様のモデルチェンジが重なってしまいました。その結果、該当商品は廃番となり、取引額が一時的に大きく落ち込む苦しい局面がありました。
今でも、値上げ交渉は毎回ドキドキしながら進めていますが、断られた場合は無理をしないと決め、適正な利益確保を最優先に判断しています。
――値上げ交渉のポイントはどういうところでしょうか。
値上げ交渉時には、「これだけ工数がかかっています」「金利がこれだけ上がっています」といった情報を資料にまとめ、自社の状況を正確にお伝えするよう努めています。根拠となるデータを示しながら説明することで、価格改定についてご理解いただけるケースも少なくありません。小規模な企業であっても、こうした経営資料の整備は不可欠だと考えています。
一方で、理不尽な要求が続くお客様に対しては、無理に取引を継続しない判断も重要です。現在お取引のあるお客様とは、「パートナー」「協働」といった意識を共有できており、交渉も安定して進められています。
――値上げ以外に利益アップの取り組みがあれば教えてください。
弊社では、利益アップのために、2つの取り組みを進めてきました。
まず1つ目は、取り扱う木材の種類を見直したことです。元々30種類ほど扱っていましたが、ウッドショックで材料価格が2倍に跳ね上がり、資金繰りが一気に苦しくなりました。値上げも追いつかず、このままでは会社がもたないと感じたんです。そこで思い切って、売れ筋の10種類ほどに絞り込む決断をしました。必要なものに集中したことで在庫の負担が軽くなり、資金の流れも落ち着き、材料の歩留率が上がったことで、利益率の改善となりました。

もう一つの取り組みは、材料支給方式の提案です。これまでは当社が材料を仕入れていましたが、廃番になった際には仕掛品や在庫が全て無駄になるという課題がありました。さらに、扱う材種を絞ったことで、それ以外の材料はお客様にご用意いただき、当社は加工賃のみを請け負うかたちへと移行しつつあります。加工賃中心に切り替えたことで材料費の変動に左右されず、結果として利益率の向上につながりました。
作業の細分化・見える化と治具の活用で「誰でもできるものづくり」を実現
――「誰でもできるものづくり」を推進されていますが、具体的にどのような仕組みですか?
「誰でもできるものづくり」のきっかけは、先代である父(柿下孝)が46年前に一人の障がいのある方を採用したことでした。その方がより作業しやすいように工程を細かく分けていくうちに、複雑だった作業は少しずつ整理され、誰もが迷わず取り組めるかたちへと姿を変えていきました。こうして生まれた仕組みは、今では技術経験のないパートの方でも安心して作業に入れるほど、わかりやすく、やさしい工程になっています。
現場では、図面やマニュアルを読むことが負担になることもあります。そこで当社では、紙の図面ではなく“現物図面”を使う方法を取り入れました。現物そのものに寸法を書き込むことで、「ここは20mmを守る」と一目で理解できます。実際のサイズ感を見ながら確認できるため、加工のイメージもつかみやすく、迷いがありません。

さらに、治具を使うことで、部材をセットするだけで誰でも安全に加工できるようにしています。木工は刃物を扱うためケガのリスクがありますが、自動送りのローラーを取り付けるなど、危険な手作業を機械の動きに置き換え、安全性を最優先に改善してきました。部材を入れるだけで加工が完了する仕組みが整っているため、特別な技術がなくても安心して作業に取り組めます。こうした工夫の積み重ねが、誰でもできるものづくりを支えています。
受注数量を増やし、スケールメリットを活かした効率的な生産体制を目指す
――人材の採用の状況はいかがでしょうか?
主にハローワークを通じて求人していますが、最近は求人票の書き方を工夫したり、事前に会社見学をしていただいたりと、初めての方の不安を少しでも和らげられるような情報発信を心がけています。

また、岐阜県高山市は飛騨の家具と呼ばれる木工家具の産地として知られています。そのため、県外から木工を学びに来る人も少なくありません。2024年は地元の木工芸術スクールの卒業生が入社し、「木のものづくりが好きで挑戦したい」という思いを持った女性のパート希望者も採用に至りました。地域のものづくり文化が、新しい人材との出会いを生んでくれています。
そして2026年には、養護学校から1名を採用する予定です。職場実習を通じて、お互いにミスマッチがないことを確認できたことが、採用を決める大きな後押しになりました。
こうした取り組みを積み重ねてきたことで、以前よりも安定して人材と出会えるようになってきたと感じています。
――若い人材の確保については、何か取り組みはされていますか?

若い人材の確保に向けて、子どもたちがものづくりに触れられる機会づくりを大切にしています。毎年夏休みには『照明器具を作ろう』というワークショップを開き、木製照明づくりを通して楽しさを伝えています。また、養護学校や地元の小中高生の職場体験も積極的に受け入れています。こうした体験を通じて、子どもたちが「こんな仕事もあるんだ」と知り、自分の未来を思い描くきっかけになればと思うからです。そして、こうした取り組みを積み重ねていくことで、将来の製造業を支える人材が育つ土壌が少しずつ整い、やがて業界全体の活気にもつながっていくのではないかと考えています。
――今後の木工所の経営について、どのように考えていますか?
生産性の向上はこれからの私たちに欠かせない課題です。経営を安定させるためにも、適正価格への見直しや製品数の絞り込みが必要だと考えています。これまでは多品種少量生産が中心でしたが、今後は受注数量を増やし、まとめて生産するスケールメリットを取り入れていくことで、段取り替えの時間を短縮し、品質確認や作業全体が容易になります。
今後、生産体制が整えば、誰もが同じ作業を担当でき、介護や子どもの急な都合での休みにも無理なく対応できる職場になります。負担の少ない働き方が実現し、その積み重ねが働きやすさや採用・定着のよい循環につながると感じています。顧客満足と社員満足の両方を大切にしながら、これからも経営を続けていきたいと思います。

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