米国大手7社のHRテクノロジー導入例
米国の大手企業7社に対するSolution Stackオンラインインタビューから、各社の採用テクノロジーの活用実態が明らかとなった。ATS(応募者追跡システム)やCRM(採用候補者管理システム)といった基幹ツールを中心に、ソーシング(候補者の発掘)やスクリーニング、アセスメントなど、採用ステージごとに特化した専用ツールを戦略的に使い分ける傾向が確認された。
また、2019年の調査と比較すると、各ツールは多機能化しており、現在はAI搭載のツールの普及が進んでいる。
以下に、Box、Spectrum、Caterpillar、EchoStar、Land O’Lakes、KPMG、CVS Healthが使用しているHRテクノロジーと、導入方針や特徴的な活用方法についてまとめた。
【図表】米国大手企業7社が活用しているHRテクノロジー一覧

■ Box(IT)
「AIファースト」の企業文化を背景に、AI搭載ツールを含む7種類を積極的に活用している。ただし、AIが拾いきれない候補者の存在を認識しており、応募書類は必ず人が確認し、最終判断も人が行うことを必須にしている。社内でのAI利用には明確なガイドラインを設け、倫理的な利用やデータ漏洩の防止を徹底している。
- Findemの多面的な活用
社内のATSに蓄積された過去の候補者情報から、AIが該当する人材を「再発掘」し、候補者層ごとにメールを送信する。また、候補者マッチングにも活用し、必要なスキルや要件を入力すると、AIが該当する候補者を自動で抽出し、適合度を数値化する。 - Trustcruit
選考プロセスごとのNPSを測定し、候補者ニーズへの適合度を可視化する。 - BrightHireとMetaviewの導入検討
文字起こしや要約機能を活用し、面接が事前の設計どおりに進められているかを検証できる。
■ Spectrum(通信)
12種類の製品を組み合わせた「フルスタック型」の運用体制を敷いている。AIツール導入時には、社内のAI Council (AI審査委員会)による事前承認が必須である。利用中のアセスメントツールなどは四半期ごとに検証され、属性バイアスの有無を確認し、公正性を担保するプロセスを確立している。
- HiredScore
AIスクリーニングツール。スキルや経験に基づき、適合度をA~Dで判定する。リクルーターの評価とAI評価を比較した結果、9割以上の高い一致率が確認されている。 - HireVue 「Validated Assessments」
フロントライン(現業職)向けアセスメントとして、採用後のパフォーマンス予測に活用している。 - Talentegy
求人媒体ごとのROI(投資対効果)をトラッキングし、応募者の詳細な流入経路を把握できる。 - Radancy
キャリアサイトの運用(CMS)に導入し、州ごとの給与透明化法にも対応する。
■ Caterpillar(重機メーカー)
マトリクス型の複雑な組織構造から、新規ツールの導入には極めて慎重である。Workdayを主軸に据え、国内外の求人求職サイトなども活用しながら採用活動を行っている。スキルベース採用の運用を進めており、行動特性やスキルを重視したアセスメントツールを利用している。AIツールの利用に関する社内方針が定まっていないため、採用プロセスにおけるAI利用は行っていない。
- Workday
ATS、応募書類の確認、候補者のスキル情報の表示、選考管理など、主要な採用業務のプラットフォームとして機能させ、社内運用の一貫性を確保している。 - Beamery
社内候補者の発掘や、過去に接点があった候補者の再発掘に活用し、主要な人材供給ツールとなっている。AIが職種やスキルに基づいて候補者をレコメンドする機能があるが、採用プロセスには組み込んでいない。
■ EchoStar(通信)
Spectrumと同様に12種類のツールを利用しているが、スクリーニング時のAI活用は検討段階である。新規ツール導入前に、まず既存ベンダーの機能で解決策を探り、AIの必要性を慎重に見極める方針をとっている。
- Humanly
対話型AIチャットボット。キャリアサイトに導入し、応募者対応を自動化。AIエージェントによる面接機能もあるため、今後はコアバリューの測定や資格確認など、初期選考での活用を検討している。 - Crosschq 「360 Reference Checks(360度評価)」
候補者の行動特性やソフトスキルを評価。さらに、入社後のQoH(採用の質)スコアとPA(パフォーマンス評価)スコアを、入社前のアセスメントテストのスコアと照合する調査も実施している。 - Match2の導入検討
AIが履歴書などに基づき、候補者に対して最適な求人をレコメンド。企業側は応募前の「潜在候補者」をCRMに取り込むことができる。
■ Land O’Lakes(食品)
Phenomを主軸に、調査対象7社中最も少ない5種類のツールで運用している。採用でのAI活用は検討段階である。候補者エンゲージメントを重点課題とし、自動化と手動対応を組み合わせたハイブリッドなコミュニケーションで候補者との関係構築を強化している。
- Phenomの多面的な活用
CRM機能で過去の応募者に再アプローチ、キャリアサイト運営(CMS)、候補者へのメールやSMSの送信、イベント・面接のスケジュール設定、進捗状況やコミュニケーション履歴の管理など、ソーシングからプレボーディング(内定後~入社日)まで多岐にわたり活用する。 - LinkedIn Talent Insights
特定の職種やスキルを持つ人材の分布や、他社の採用動向を把握できる。
■ KPMG(会計コンサル)
人事基幹システムにOracle Cloudを導入し、採用ステージに応じて4~10種類を柔軟に使い分けている。コンプライアンスを重視する企業文化から、AIツールの導入前には法務部門による慎重な評価を実施。ベンダー側の影響分析に加え、自社独自のバイアス監査も行うなど徹底している。
- Paradox
ATS(Avature)と連携。リクルーターによるスクリーニングを通過した候補者に対し、AIチャットボットが面接の日程案内を自動送信する。 - LinkedIn Hiring Assistantの試験導入
AIエージェント。同社では毎月1万人以上の転職潜在層にアプローチしており、採用難度の高いポジションなどで候補者の発掘が可能となる。 - SniperAI の導入検討
大量の応募者から、人が見落としがちな候補者を上位に表示させる機能や、既存のCRM(Avature)と連携できる点も評価している。
■ CVS Health(ヘルスケア)
Workdayを主軸に、日常的に利用するツールを5種類程度に集約し、リクルーターがシンプルに業務遂行できる環境を整備している。人材確保が困難な専門職と、応募者が多い時給制の職種とでツールや手法を使い分けている。AI導入に際しては、厳格なレビュープロセスを設けている。
- Workday
ATSとして利用し、自社のキャリアサイトと連携して応募者を一元管理。リクルーターは基本的にWorkday内で作業を完結させ、必要に応じてほかのツールで補完する。 - Phenom
キャリアサイトのチャットボットとして導入し、候補者の求人検索のサポートや、FAQへの24時間自動応答が可能。現在HireVueで録画面接を行っているが、テックスタックスリム化のため、同様の機能を持つPhenom への一本化を検討している。 - Modern Hire(現HireVue)「Virtual Job Tryout(職務シミュレーションテスト)」
大量採用を行う職種で利用し、スキル評価に加え、将来的な定着やモチベーションを可視化する。 - INTOO
不採用者を含む全候補者に対し、適性診断、履歴書作成、面接準備といったキャリアの支援ツールを提供する。
まとめ:ツールの機能統合・AI搭載が進み、テックスタックは縮小傾向に
2019年調査では、最大40個前後であった導入製品数が、今回の調査では平均10個前後まで削減されており、テックスタックのスリム化が顕著である。多くの企業が使いこなせていないツールを削減し、ベンダー選定のコンペなどを通じて定期的にツールの見直しを行って、自社に最適な構成へとアップデートしている実態がある。
ツール導入の決定要因としては、基盤ツールとの連携性や、単一ツールが持つ多機能性といった、コスト面や利便性が特に重視されている傾向がうかがえる。
このことから、単一機能のツールを多数組み合わせるのではなく、他のツールと連携可能なWorkdayや、Phenomのような多機能型のプラットフォームに機能を集約するトレンドが見て取れる。
AI活用に関しては、候補者発掘や初期選考での自動化が特に進んでおり、FindemやSniperAI、HiredScore、Phenomの「Fit Score」といった、求職者のスキルと職務要件の適合度をスコアで可視化するAIスコアリングツールへの注目度が高まっている。
一方で、合否に直結するアセスメントや面接でのAI活用は、依然として限定的である。多くの企業が候補者によるAIの不正利用チェック、データ収集・分析、応募者対応といった補助的な活用にとどめており、最終的な採用決定はすべて人が行うことを必須としている。
今回の調査では、企業文化によるAI活用の積極性に違いは見られたものの、「技術進化に人が追いつかない」という課題は米国大手企業でも共通であった。AI導入には、判断プロセスの透明性と運用する側のスキルの習得が不可欠である。
採用におけるAIの活用は、業務効率化と公正性の確保という2つの側面から、今後さらに進むと考えられるが、AIが「採用を主導する」のではなく、あくまで「人の判断をサポートするツール」として、進化していくだろう。
TEXT=泊真樹子
メールマガジン登録
各種お問い合わせ