年間15万人採用を実現する、Workdayを中核としたHRテクノロジーの活用戦略――CVS Health

2025年11月13日

イベット・ストルツ氏は、大手航空宇宙・防衛企業であるUnited TechnologiesやRaytheon Technologies Corporation(現RTX Corporation)で、グローバル人材獲得部門のバイスプレジデントを歴任。2022年、CVS Healthに入社し、現在は、全事業部門の採用を統括している。その範囲は、時給制のスタッフから新卒、エグゼクティブ層まで多岐にわたり、年間約15万人の採用を指揮する。
同氏に、CVS Healthが実践するテクノロジー活用戦略、候補者体験向上の取り組み、そしてAIが採用にもたらす影響について伺った。

【ポイント】

  1. テックスタックのスリム化:ATSのWorkdayを中心にPhenom、LinkedIn、HireVueなど少数のツールに集約し、費用対効果と運用効率を最大化している。
  2. ターゲット別の採用戦略:採用難度の高い専門職では、LinkedInや過去の応募者データベースを活用した「アクティブソーシング」を実施。一方、応募者が多い時給制の職種では、職務シミュレーションテストで効率的に面接対象者を絞り込む。
  3. AI導入への慎重な姿勢:AIによる業務効率化に期待する一方、導入には厳格なガバナンスを適用。同時に、候補者側のAI不正利用といった新たなリスクへの警戒も強めている。

Workdayを中核にツールを厳選する

――まず、CVS HealthのHRテクノロジー活用の基本方針について教えてください。

当社は、ここ数年でテックスタック(テクノロジーの組み合わせ)をかなりスリム化しました。以前は多くのツールを導入していましたが、十分に使いこなせておらず、コストがかさむためです。

リクルーターができるだけシンプルに働ける環境づくりに取り組んでいます。そのためにツールの数を絞り、既存のツールをより深く使いこなすことを重視しています。システムの連携にも注力しており、リクルーターがATS(応募者追跡システム)であるWorkday内で主な作業を完結させ、必要なときだけほかのツールで補完する、という理想的なワークフローを目指しています。

――リクルーターは日常的にどのツールを利用していますか。

大半のリクルーターは、自社のキャリアサイトと連携して、応募者を管理できるWorkdayをメインに利用しています。Phenomも多くのリクルーターが利用していますが、必須ではありません。
そのほか、候補者の発掘にはLinkedIn、録画面接にはHireVueを日常的に利用しています。役割によって多少異なりますが、リクルーターが日常的に利用するツールは、現在およそ5種類に集約されています。

専門職と時給制の職種で異なるツールや手法を使い分け

――ソーシングは、具体的にどのように行っているのでしょうか。

人材が見つかりにくい専門職と、応募者が多い時給制の職種とで、ツールや手法を使い分けています。
たとえば、薬剤師などの専門職では、主にPhenomのCRM(採用候補者管理システム)機能とWorkdayを利用して、候補者を発掘します。特にWorkdayには、過去に最終候補まで残ったものの採用に至らなかった「銀メダリスト」の情報が蓄積されており、貴重な人材プールとなっています。
また、LinkedInで転職潜在層に直接アプローチする「アクティブソーシング」も積極的に行っています。
さらに、LinkedIn Talent InsightsTalentNeuronといった市場分析ツールも活用しています。これらのツールを使えば、たとえばハイアリングマネジャーから特定の職種をテキサス州で募集したいという要望があった際に、「その地域には対象となる人材が何人いるか」「競合他社には何人在籍しているか」といったデータを提示し、「募集地域を広げましょう」と具体的な提案ができます。リクルーターが単なる実行者ではなく「戦略的アドバイザー」として機能するために不可欠なツールです。

医療専門職や薬剤師といった専門性の高い職種の採用では、「医療版LinkedIn」ともいえるDoximityや、米国薬剤師協会(APhA)、各州の薬剤師免許委員会が持つ会員リストなども活用しています。

同じ部門内でも職種によってツールの使い方は異なります。たとえば、小売部門では、薬剤師の採用にはPhenomを使ってソーシングを行いますが、応募者が非常に多い店舗スタッフの採用では、ソーシング自体が不要です。

――初期選考時のスクリーニングはどのように行っていますか。

スクリーニングも、職種やレベルに応じてさまざまな手法やツールを使い分けています。
特に大量採用を行う一部の職種では、面接対象者を公正かつ客観的に絞り込むため、Modern Hire(現HireVue)の「Virtual Job Tryout(VJT)」という職務シミュレーションテストを導入しています。
VJTは、実際の業務と近いタスクを候補者に体験してもらい、ゲーム感覚のテストを通じて即戦力となるスキルや知識を評価するツールです。
このツールの最大の特長は、候補者一人ひとりの定着の可能性や業務へのモチベーションといった潜在的な要素を、テスト結果に基づいてレポートとして可視化できる点です。これにより、私たちは客観的なデータに基づいた採用判断が可能になります。

――ライセンスや資格が必要な専門職のスクリーニングでは、どのような点を重視しますか。

候補者が有効なライセンスを保有しているかどうかの確認を重視しています。ただし、ライセンス要件が州ごとに異なる点が大きな課題です。たとえば「入社後30日以内の取得で可」とする州もあれば、「採用時点で保有必須」という州もあります。
そのため、候補者には応募時点でライセンスの必要性を明確に伝え、取得期限も具体的に提示しています。現在、この確認プロセスを効率化するためのプロジェクトを進めているところです。

――アセスメントはどのように行っていますか。

一次選考を通過した方には、電話面接または録画面接を実施しています。録画面接にはHireVueを利用しており、提出された動画をリクルーターが確認し、評価を行っています。

現時点では、回答内容をAIが自動解析するしくみは導入していません。将来的には、テックスタックのスリム化の一環として、録画面接機能を持つPhenom への一本化も検討しています。

また、IT部門の職種では、別途コーディングアセスメントも行っています。

候補者体験の質を高める多様なアプローチ

――候補者エンゲージメントの向上には、具体的にどのように取り組んでいますか。

全事業部門の求人を掲載しているCVS Healthのキャリアサイトには、Phenomのチャットボットを導入しています。これにより候補者の求人検索をサポートしたり、よくある質問に24時間自動で応答したりすることが可能です。

VJTも候補者にとっては質の高い仕事の疑似体験になります。私自身も試したことがありますが、一つのVJTを開発するのに半年を要するのもうなずけるほど、職種内容に応じて精緻にカスタマイズされています。
たとえば、保険事業Aetnaのカスタマーサービス職では、電話対応など難しい側面もありますが、VJTでリアルな業務を体験してもらうことで、候補者自身が「この仕事は自分に合っているか」を見極めることができます。採用後のミスマッチを防ぐうえで、非常に有効なアプローチだと考えています。

——不採用になった候補者のケアにも力を入れていると伺いました。

キャリア開発プラットフォームのINTOOと提携しています。これにより、当社のキャリアサイト経由で応募された方々には、たとえ不採用になった場合でも、適性診断や、履歴書作成、面接準備といったキャリアの支援ツールを提供しています。
当社は応募者が非常に多いため、残念ながら多くの方が不採用となります。そうした方々にも価値を提供したいと考えており、実際に「アフターケアが手厚く、ありがたかった」といった感謝のメールを数多くいただいています。

AI導入の期待と、巧妙化する不正の懸念

――採用プロセスでAIを利用していますか。

現在Phenomの「Fit Score」の導入を検討しています。これは、膨大な数の応募者の履歴書と求人要件をAIが照合し、候補者をA、B、Cのようにランク付けしてくれるものです。たとえば、応募者数が8000人にも達する求人であっても、この機能を使えば、リクルーターは最も適合度が高い「Aランク」の候補者から優先的に確認できるため、業務効率の大幅な向上が期待できます。

ただし、導入は慎重に進めており、現在は社内のAIガバナンスチームが審査を行っている段階です。この審査を通過した後、まずは限定的にFit Scoreを運用して有効性を検証し、そのうえで、Workdayとの連携を進める計画です。

――採用活動において、現在どのような課題や懸念がありますか。

オンライン完結型の選考プロセスがもたらすリスクを懸念しています。具体的には、候補者による「なりすまし」です。たとえば、オンラインで採用した人物と、初日に出社してきた人物が別人だったという事例や、面接時に「米国在住」と申告した候補者が、実際には国外から業務を行っていたという経歴詐称のケースもありました。その手口は年々巧妙化しており、社内でも深刻な問題として頻繁に議論しています。

もう一つの懸念は、オンライン面接におけるAIの不正利用です。当社の録画面接(HireVue)では、候補者は一度だけ撮り直しが可能なのですが、その時間を使って、質問をスクリーンショットし、生成AIに模範解答を作成させるケースが出てきています。その結果、録画面接では非常に流暢に話していた候補者が、AIを利用できない対面の二次面接ではまったく話せない、という事態も実際に起きています。

こうした候補者によるリスクがある一方で、社内にはAIツールの導入に対する慎重な文化が根強く存在することも課題です。新しいツールを導入するには厳格なレビュープロセスを経る必要があり、明確なビジネス上の根拠とさまざまな条件をクリアすることが求められます。このレビュープロセスをより迅速化し、リクルーターが付加価値の高い戦略的な業務に集中できる環境を整えたいと考えています。

また、採用マーケットに目を向けると、州や地域によっては、薬剤師のような専門職で当社が求めるスキルを持つ人材が枯渇しているという点も大きな懸念材料です。これは、私たちの努力だけで完全にコントロールできない問題ですので、長期的な視点で人材育成や採用戦略を立てていく必要があります。

――今後数年間で、AIが採用にどのような影響を及ぼすと思われますか。

私たちは常に「AIをいかに活用すれば、採用チームのパフォーマンスを最大化できるか」という視点で考えています。
短期的には、AIが人の仕事を完全に奪うことはないとは思いますが、従業員の業務の進め方や求められるスキルは確実に変化していくでしょう。たとえば、看護師のような医療関連職であっても、業務のデジタル化は進んでおり、テクノロジーへの適応力がこれまで以上に重要な要件になると予測しています。
長期的には、社内の業務がどのような職種で構成され、その業務内容はどう変化するのか。それによって採用手法そのものや、どのような人材をどこで採用するのか、といった根本的な戦略も変わってくるはずです。私たちは常に将来の変化を見据え、採用活動への影響を予測しておく必要があります。

インタビュアー=ジェリー・クリスピン(CareerXroads)
インタビュアー&TEXT=杉田真樹

【CVS Health 企業概要】
CVS Health 企業概要

採用関連テクノロジーの概要

Workday
HCM(人事管理システム)、財務、業務管理を統合したクラウド型プラットフォームである。従業員管理からタレントマネジメントまでを一元管理し、リアルタイムでのデータ分析を可能にする。「Workday Recruiting」 を通じ、候補者との円滑なコミュニケーションを実現する。


Phenom
候補者から従業員、リクルーター、マネジャーまで人材に関わるすべての人の体験(エクスペリエンス)を向上させるための統合プラットフォームである。採用においては、ソーシング、CRM、キャリアサイトのCMS(コンテンツ管理システム)、ショートメッセージ(SMS)機能など多彩な機能を搭載している。AIが応募書類を解析し、求人との適合度をスコア化する「Fit Score」機能が特徴である。


LinkedIn
世界10億人以上のユーザーを抱える、ビジネス特化型のSNSである。2025年5月時点で掲載求人件数は1500万件超。リクルーティングプラットフォームとしても活用され、候補者の検索、連絡、管理を一元的に行える「LinkedIn Recruiter」などのソリューションを提供する。同年4月には、AIがプロフィール情報から潜在能力を推定し、候補者を推薦する機能も追加されている。


HireVue
オンライン面接(ライブ・録画)、アセスメント、チャットボットによる問い合わせ対応や面接日程調整の自動化などを統合した、デジタル面接プラットフォームである。ゲーム形式や職務シミュレーション、コーディングなど、多様な形式のアセスメントを提供している。

LinkedIn Talent Insights
LinkedInの膨大なデータを基に、人材や企業の動向を分析できるレポートツールである。特定スキルを持つ人材の分布や競合企業の採用動向の把握、人材の流動性などを可視化し、データに基づいた採用戦略の立案を支援する。


TalentNeuron
グローバルな労働市場のビッグデータをリアルタイムで分析する、タレントマーケットインテリジェンス・プラットフォームである。特定地域の人材需給、給与相場、競合の採用動向から、将来のスキルトレンドまでを可視化し、戦略的な人材計画を支援する。


Doximity
国の医師の8割以上が登録する、医療従事者限定のSNSプラットフォームである。HIPAA(医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律)に準拠した安全な環境で、専門家同士の情報交換、症例の相談、最新の医療ニュースなどを収集できる。採用ツールとしての機能では、専門分野や論文発表歴などに基づいた高度な候補者検索が可能である。

Modern Hire(現HireVue)
科学的アセスメントに強みを持つアセスメントプラットフォームであったが、2023年にHireVueに買収・統合された。「Virtual Job Tryout」は、実際の業務内容を模したタスクを求職者に体験させるシミュレーションテストである。エントリーレベルからマネジャー職まで40種類以上の職種に対応し、カスタマイズも可能である。 銀行、営業、コールセンター、医療、小売、保険、製造など特に大量採用を行う職種において、入社後のパフォーマンス予測やミスマッチ防止に有効である。


INTOO
従業員のキャリア支援や再就職支援サービスを提供する会社である。採用領域では、不採用となった候補者に対してもキャリア支援ツールを提供するなど、候補者体験の向上につながるソリューションを展開している。