米国大手企業の採用責任者が実践する生成AI活用術

2025年11月20日

2025年調査では、採用責任者がHRテクノロジーに搭載されたAI機能とは別に、日常業務と採用業務において、ChatGPTやGeminiといった汎用の生成AIツールをどのように活用しているのかも聞いている。
調査には、コンサルティング、通信、製造、IT、ヘルスケアなど多様な業種の企業にご協力いただいた。

生成AIの活用

日米比較:コンテンツの作成から「戦略的なデータ分析」へと進む米国企業

2025年7月にHERPが企業の採用関係者181人を対象に実施した「企業の採用活動における生成AI活用の実態2025」(※)によると、日本では、生成AIを活用している業務は上位から順に、「求人票の作成・ブラッシュアップ(80.1%)」、「スカウト文面の作成(77.3%)」、「候補者やエージェントとのやりとりの文面作成(48.9%)」、「面接・面談結果の要約・整理(48.9%)」などであった。
利用ツールは「ChatGPT(78.7%)」、「Gemini(75.2%)」が多数を占める。ほかには、「Claude」「Perplexity AI」「Copilot」などの生成AIや、「Notion AI」「Zapier」などの業務効率化ツールの名前が挙がった。

これに対し、米国の調査対象企業では、次項で示すように「市場調査」や「社内のハイパフォーマー分析」といった、採用戦略の策定を支援する高度なタスクへの応用が進んでいる点が注目される。
さらに、高性能な汎用AI(エンタープライズ版)が存在するにもかかわらず、自社独自のツールの開発に踏み出す企業も複数あった。その主な動機は、「セキュリティ」と「アウトプットの品質管理」の2点である。
汎用ツールでは、データが社外のクラウドサーバーに送信される。企業によっては、データを一切社外に出さずに処理を完結させたいという厳格なセキュリティ要件を満たすには、自社開発が最適解となる。
独自ツールでは、自社のルールやブランドガイドラインを徹底的に学習させることが可能である。これにより生成AIへの指示(プロンプト)の習熟度にかかわらず、誰でも瞬時に「レビュー済み」レベルの質の高い成果物を得られるというメリットがある。

日常業務における活用法

日常業務(ルーティンワーク)の効率化における生成AIの主な活用領域とツールは、以下のとおりである。

タスク ツール名
ドキュメント作成:メール・スライドの草案作成 Microsoft Copilot、ChatGPT、Box Notes
会議の要約:議事録・会議メモの作成 Microsoft Copilot、Box Notes
人事評価:評価コメントの作成支援 Gemini、ChatGPT
レポートの要約 Perplexity

具体例

以下は、日常業務における生成AI活用の具体例である。EchoStarとKPMGはいずれも、汎用AIツールを活用しながら作業時間の短縮やアウトプットの品質向上を図っている。

EchoStar:全社でGeminiを導入

EchoStarでは、Google Workspace と連携するGeminiを全社で導入している。同社の採用責任者は、生成AIの得意分野に応じた次のような使い分けをしている。

  1. メールの要約
    Gmail上で、長いメールのやり取りをワンクリックで要約させる。
  2. スライドの作成
    Googleスプレッドシートのデータを基に、プレゼン資料のたたき台を自動生成させる。
  3. 評価コメントの作成
    アイデア出しはGemini、最終的な文章の推敲はChatGPTと、生成AIの特性に応じて使い分ける。

KPMG:生成AIの活用を奨励

KPMGでも、生成AIの活用を奨励されており、採用チームでは以下のような用途で活用している。

  1. 文章のトーンの統一
    会社のブランドイメージなどに合わせた文体でメールを作成させる。
  2. 会議の効率化
    Microsoft Teams会議の文字起こしデータをMicrosoft Copilotで要約し、要点と次のアクションステップを抽出させる。
  3. 学習・リサーチ
    難解な法律の改正内容の解説などを要約させ、専門トピックのインプット時間を短縮している。

KPMGでは、採用選考自体へのAI活用には慎重な一方、こうした手間のかかる日常業務を生成AIで自動化しており、同社の採用責任者は「仕事のやり方が劇的に変わった」としている。
また生成AI活用が最も効果的だった業務として、下記の4つを挙げている。

  • 会議の準備と議事録の要約
  • 事業計画書の作成
  • 詳細な業務マニュアルの作成
  • プロジェクトのタスクと進捗の管理

採用業務での主な活用法

採用業務における生成AIの活用も、以下のように多岐にわたる。ツールは、Microsoft Copilot、Box AI、Box Notesのほかに、独自開発ツールなどが活用されていた。

タスク
コンテンツ作成 ジョブディスクリプション、スカウトメール、キャンペーンのテンプレート
市場調査 戦略立案のためのデータ収集
データ分析 社内のハイパフォーマーの共通項分析
テキストマイニング 候補者やハイアリングマネジャーのフィードバック内容の分析
予測分析 採用トレンドや人材ギャップの予測

具体例

以下は、採用業務における生成AI活用の具体例である。Boxをはじめとする企業では、コンテンツ作成や採用に関わる資料作成、分析業務の自動化など、活用の範囲が広がっている。

Box:生成AIを多面的に活用

Boxの採用責任者は、生成AIを広範に活用している。

  1. 初回ミーティングのコンテンツ化
    採用を開始する際のキックオフコール(打ち合わせ)の内容を生成AIに読み込ませ、瞬時に以下のコンテンツを生成させる。
    • 打ち合わせ内容の要約
    • 採用で重視すべき要件
    • ジョブディスクリプションの草案
    • 候補者の能力を見極める面接質問集
    • 候補者データベース検索用の検索文字列(ブーリアン検索式)
    • ポジションの魅力を盛り込んだスカウトメールやキャンペーンメールの文案
  2. 市場調査と報告書作成の高速化

    従来は数日かかっていた市場データ(特定の職種の多様性統計)の調査、分析、集計作業を、生成AIとの対話によってわずか1時間で完了させている。「表形式」や「エグゼクティブサマリー」といった最終アウトプットの形式もAIに指示するだけである。

  3. 社内のハイパフォーマー分析
    Boxの採用責任者は、自身の人事評価(過去5年分)を生成AIに分析させ、「強みのトップ5」を正確に抽出させる実験に成功した。
    この経験から、ハイパフォーマーの職務経歴書や評価データを生成AIに分析させ、データに基づいた「活躍人材の共通項」を定義できるのではないかという。

その他の企業の活用例:コンテンツ生成の自動化

Box以外の企業でも、生成AIを活用したコンテンツ作成の効率化が進んでいる。ヘルスケア企業では、Microsoft Copilotを使い、候補者を惹きつける魅力的な文章の作成に役立てている。
またKPMGでは、ブランドガイドラインに基づき、ジョブディスクリプション作成のための専用ツールを構築している。従来3人体制でレビューしていたプロセスを省略し、誰でも瞬時にガイドラインに沿った高品質な文面を作成できるようになる。

生成AI導入のメリットと直面する課題

回答企業は、生成AI活用のメリットとして以下を挙げている。

  • タスクの自動化による時間の創出
  • 意思決定の迅速化
  • 大量のデータから実用的なインサイトの抽出
  • 候補者体験の向上(迅速かつ最適化されたコミュニケーション)

一方で、生成AIの導入が進む企業でも、運用面ではいくつかの課題が浮かび上がっている。それは社内における「生成AI活用スキルのギャップ」と「定着化」である。Boxの採用責任者が「最適な結果を得るには、効果的なプロンプトスキルと知識が必要」と指摘するように、生成AIを使いこなせる社員とそうでない社員の格差が問題となっている。

この課題に対し、各社は「教育」と「文化醸成」で対応している。KPMGでは、チーム全体での活用法の共有会や、情報交換を奨励している。EchoStarでは、関心の高い社員による「パワーユーザープログラム」を推進し、成功事例の共有を通じて社内全体での利用拡大を図っている。

生成AIの活用成果を左右する鍵は、単にツールを導入することではない。全社的なリテラシーを向上させ、その活用をいかに組織文化として定着させるかである。

TEXT=杉田真樹

(※1)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000103.000030340.html