HR Technology 2019-2020【Tech Stack Interview】石油化学製品メーカーB社(グローバルTAリーダー)

B社は、自動車や医療機器などに使用される特殊プラスティックや甘味料などの食品素材といった機能性素材を製造するグローバル化学品メーカー。創業100年超で、従業員数は約7,500人。リクルーティングの分野で約20年の経験を持つグローバルTA(Talent Acquisition)リーダーに、同社のテックスタックについて伺った。

インタビュアー=ジェリー・クリスピン TEXT=杉田 万起

ショートメッセージをプッシュ配信

Q テックスタックについて、ATS(応募者追跡システム)とCRM(採用候補者管理システム)はどの製品を利用していますか?
ATSは、iCIMS[1]を4年前にカスタイマイズ導入し、近々契約を更新します。非常に満足しています。現在イテレーション(一連の開発工程を短期間で繰り返すこと)と一部の機能のアップグレードを行っているところです。CRMは、SkyRecruit[2]を1年前から利用しています。これは、B社が利用するRPO(採用プロセスアウトソーシング)会社Cieloの独自のCRM で、とてもよい製品です。満足度は10点満点中7点です。

Q ソーシング・採用マーケティングにはどの製品を利用していますか?
1年前から、チャットボットのiCIMS TextRecruit[3]などを利用してショートメッセージ形式のマーケティングの取り組みを拡大しています。Cieloもテキスティングアプリケーションを持っています。その他、El Toroというアドテック(広告技術)会社のサービスを利用して、特定校の学生やカンファレンス参加者に対し、IPアドレスをもとにしたターゲティング広告のプッシュ配信も重点的に行っています。

Q エンゲージング・人材供給パイプラインマネジメントには何を利用していますか?
SkyRecruitやLinkedIn[4]などを使って興味づけを目的としたメール配信キャンペーンを行い、人材パイプラインを構築しています。私たちの取り組みは至って普通です。

Q 選考・アセスメントに利用しているツールは何かありますか?
Cieloのモバイル応募プロセスを通じて、候補者に質問に答えてもらい、アセスメントを行っています。そして候補者が自ら面接日時を調整します。現時点では、新卒を含むエントリーレベルのポジションのみを対象に、選考の自動化を進めています。エントリーレベルのポジションは多数あるため、できるだけテックスタックを活用し、人間の介在を減らそうと試みています。一部の複数の拠点で行っていますが、これを全拠点に拡大できれば、年間で数百万ドルのコストを削減できるでしょう。

Q オンボーディングにはどの製品を利用していますか?
iCIMS Preboard[5]を近日中に稼働させる予定です。身元照会プラットフォームや薬物検査といったサードパーティのシステムをiCIMSと接続させ、「Form I-9」(就労資格証明書)をはじめとする入社時に必要な申請手続きをすべてペーパーレス化し、進捗を管理しています。

採用の約8割をRPOに外注

Q テックスタックには何種類の製品が含まれていますか?
10以下です。私たちは常にシンプルさを重視しています。数十種類もの製品を導入しながら活用しきれていない企業が多いですが、製品がどれだけ優れていても、使われなければ意味がありません。B社のHRテクノロジーの年間予算は、10万ドル台半ばです。

Q 年間の採用数は何人ですか?
昨年の採用数は856人でした。採用全体の75%をCieloに任せています。Cieloのシェアードサービスセンターのコーディネーターが日時調整やオファーレターの作成といった事務作業をすべて代行してくれます。ソーシングでもシェアードサービスを利用しています。B社の内部では、約20人の従業員が採用業務に携わっています。TA部門に含まれる職種は、リクルーター以外に、ソーサー、フルライフサイクルリクルーター、新卒採用担当リクルーター、エグゼクティブリクルーター、スケジューラーなどです。米国では新卒採用プログラム担当のリクルーターが1人と専任リクルーターが3人います。欧州ではリクルーターが4人、アジアでも4人います。

エントリーレベルの選考を自動化

Q 採用プロセスの中で自動化したものはありますか?
エントリーレベルのTier IIサポート職の母集団形成、スクリーニング、そしてスケジューリングをCieloに外注し、自動化しています。他社のシステム購入も検討しましたが、CieloのシステムがB社のニーズをすべて満たしてくれることが分かりました。

Q 自動化はどのような効果をもたらしましたか?
エントリーレベルのポジションは、もちろん一定の質が求められますが、「Good」と「Great」の間にそれほど大きな差は生じません。自動化によりこのポジションに対する人間の介在をなくすことで、人材の質の差が大きな違いをもたらすその他のポジションの採用業務に注力できるようになりました。

Q 近い将来自動化してほしいと思うプロセスは何ですか?
チャットボットによる候補者向けコンシェルジュサービスです。チャットボットに望むことは、福利厚生や勤務地といった会社のウェブサイトを見れば情報を得られるような内容の問い合わせに対応するだけでなく、例えば「タレントマネジメントディレクターの職に応募したが、審査状況はどうなっているか?」といった問い合わせに対し、ATSから適切な情報を出力し、「お問い合わせありがとうございます。現在採用部署のマネジャーによる審査中です。数営業日以内にご連絡いたします」と答えられるようになってほしいです。

Q 決して自動化されることはないと思うものはどれですか?
問診的な面接プロセスを自動化することは難しいでしょう。内定クロージングも人間が行う必要があります。ロボットと条件交渉してもいいという人はまだいないと思います。

Q 5年以内にどのくらいの割合で自動化されると思いますか?
最大25%だと思います。クリティカルマス(商品やサービスの普及率が一気に跳ね上がる分岐点)の25%に達すれば、その後は自動化が一気に進むでしょう。

[1]iCIMS:SaaS型のエンタープライズ向けATS「iCIMS Recruit」などを提供する。複数のジョブボードへの同時求人広告掲載、ソーシャルリクルーティング、リファラル採用のサポート、レポーティング&アナリティクス機能を備える。
[2]SkyRecruit:応募者のアセスメント、面接日時の調整といった工程を自動化するCRM。自動ソーシング、セグメント別の採用マーケティングおよび候補者ナーチャリング、面接日時のセルフスケジューリング、ビデオ面接、従業員によるリファラル採用、採用イベントの管理といった機能を備える。
[3]iCIMS TextRecruit:Googleの自然言語処理および機械学習技術を導入した候補者エンゲージメントプラットフォーム。チャットボットがSMSやライブチャット形式で、求職者と自動的に会話。新着求人を送信し、求人への興味やマネジメント経験年数などについて質問。応募条件を満たす候補者に面接日時を調整するリンクを送信できる。近日中にWhatsAppとWeChatにも対応予定。2018年に買収したTextRecruitの技術・製品をもとに開発された。
[4]LinkedInビジネスに特化した世界最大手のSNS。世界で 6億人超の職歴データが保存されている。
[5]iCIMS Preboard入社時に必要なタスクを管理する新規採用者やマネジャー向けのタスク管理プラットフォーム。「Form I-9」(就労資格証明書)、給与振込依頼書、源泉徴収票、競業避止契約書、機密保持契約書、標準PCの申請書、社内駐車場の利用証、薬物検査の同意書といった様々な書類の入力、署名、提出をペーパーレスで行える。新規採用者にタスクをワンクリックで依頼し、進捗を確認できる。新規採用者向けのポータルサイトに歓迎メッセージや動画などを追加し、カスタマイズできる。