HR Technology 2019-2020【Tech Stack Interview】家電メーカーC社(グローバルTAディレクター)

冷蔵庫や洗濯機などを製造する大手家電メーカーC社は、中国企業による買収後、採用のためのインフラを一から構築している。グローバル化や吸収・合併する企業での採用などで15年のキャリアを持つグローバルTATalent Acquisition)ディレクターに、同社のテックスタック(複数のテクノロジーを組み合わせて活用する)について語っていただいた。

インタビュアー=クリス・ホイト 翻訳=鴨志田 ひかり TEXT=村田 弘美

採用情報サイト内の閲覧動向を自動録画

Q テックスタックについて、ATS(応募者追跡システム)やCRM(採用候補者管理システム)は何を利用していますか?
ATSには、Workdayの採用モジュール「Workday Recruiting」[1]を利用しています。CRMにはPhenom People[2]を導入し、C社の採用情報サイトを制作しています。サイトへの訪問経路や、ページ滞在時間、検索キーワード、離脱率、利用するデバイスの種類といったデータを測定しています。チャットボット機能の設置や、候補者へのショートメッセージの送信も可能となりました。面接の自動スケジューリングはできませんが、候補者の興味分野や希望勤務地、直近の職種、経験年数といった情報をもとにおすすめの求人情報を提供し、次のステップに進めています。情報はすべてPhenom PeopleのCRMに保存され、ATSとCRMの間で双方向のデータのやりとりができます。Workdayは候補者向けインターフェースに問題があるため、そのフロントエンドにPhenom Peopleを置くことで、候補者体験の向上を図っています。

Q Workday Recruitingの利用満足度を教えてください。
私が入社する以前からC社はWorkdayのHCM(人事管理)システムを利用していたため、同社の採用モジュールをカスタマイズ導入することになりました。当初は、機能を搭載しすぎてしまい、満足度が低かったのですが、余分な機能を取り除いてからは、満足度が高まりました。Workdayには、ユーザー同士がWorkdayの製品活用法を共有したり、改善してほしい点などを書き込む「Workday Community」というサービスがあり、その要望をもとに改良した製品を即リリースするという点が評価されています。ただ、複数のワークフローを同時進行することができず、グローバル企業が地域、分野、新卒採用、時給職などに応じてカスタマイズできないという課題があります。

Q Phenom Peopleの満足度を教えてください。
Phenom Peopleは私が求めるすべての機能を提供しています。社内公募を促進する製品では、社内のさまざまな職種について検索、応募できます。興味分野や希望勤務地、スキルなどを示す自分のプロフィールを登録すると、おすすめのポジションが表示される機能もあります。従業員によるリファラルを促進する製品もあります。非常に満足度が高く、全製品ラインを導入しています。

Q エンゲージメント・人材供給パイプライン管理には何を利用していますか?
採用情報サイトの全ページに、候補者体験マネジメントプラットフォームのTalentegy[3]の機能を追加し、キーボード入力やマウスポインターの動きといったサイト内の閲覧動向を記録しています。Talentegyは、通常よりも入力に時間がかかっている、多数のサイト訪問者が同じ個所で離脱している、といったパターンを特定し、約1分の動画でエラーがどこでどう起きたのかを知らせてくれます。地域や利用するデバイスの種類別の採用情報の閲覧傾向も把握しています。応募者に感謝メッセージや不採用の理由などを送信する際に、アンケートを添付することも可能で、採用プロセスの最後まで応募者とのエンゲージメントを維持できます。2019年の1月から利用していますが、インストールが非常に簡単です

Talentegyには、Glassdoor[4]やComparably[5]などの企業レビューサイトに投稿された自社や競合の評判や情報を定期的にチェックする機能もあります。レビュー件数は、注目度やアピール力の目安になるので重視しています。例えば競合についてのレビューは1,900件と膨大な数ですが、C社は200件弱と少ない。そこで、C社では面接を受けた候補者全員に、Glassdoorにレビューを書き込むことを推奨し、透明性を保っています。コメント欄に最も注意を払っており、ネガティブな内容のものは、それが真実かどうかを事実確認し、明らかに異なる場合はそれをコメントで指摘します。

「リアリスティックジョブプレビュー(RJP)」の導入も検討

Q 上記の3つのテクノロジー以外に利用している採用テクノロジー製品を教えてください。
ジョブディスクリプション(職務記述書)の文章をより効果的なものにするためにOngig[6]を導入しました。他にも、仕事内容や職場環境などについて、よい面だけでなくマイナス面も含めたありのままの情報を伝え、採用のミスマッチを減らす「リアリスティックジョブプレビュー」を可能とするために、導入を考えているツールが2点あります。1つ目は、動画やテスティモニアル(推薦文)などを活用し、ジョブディスクリプションをより生きたジョブエイド(職務ガイド)にするツールです。2つ目は、ビデオによるスクリーニングです。大量採用で候補者を比較するのに役立つと思います。ソーシングオートメーションのHiredScore[7]にも興味がありますが、ATSとのシステム連携に課題があるため、利用することができません。

Q 2019年の採用予定人数と、採用を担当するTAチームについて教えてください。
採用予定人数はグローバルで3,000人程度です。採用は独立採算型で、国により対応が異なります。TAチームが行う、RPOを利用する、他には米国では時給労働者の採用を組合が行うこともあります。TAチームでは、フルタイム社員と新卒者、エグゼクティブの採用を担当します。オペレーションチームでは、身元照会、薬物検査、オファーレターの作成、入社オリエンテーションといったそれ以外の事務業務を行います。人材供給パイプラインの構築といったソーシング業務、そして採用の難しい職種やプロジェクト関連の人材の採用はアウトソーシングしています。

Q 採用テクノロジーの予算を教えてください。
テクノロジー予算は、採用予算の8割を占めています。すべてのツールを含めると、6桁(10万~99万ドル)の上のほうくらいになるでしょう。

求めるのはチャットボットによる候補者とのリアルな会話

Q 自動化している採用プロセスはありますか?
世界全体で見ると、ジョブボードの登場により、求人へのオンライン応募が可能となり、履歴書を受け付けて、採用選考を始めるまでのプロセスが完全に自動化されています。

Q 採用プロセスの中で、早期に自動化したいものはありますか?
最近、「The full concierge(完全なコンシェルジュ)」というチャットボットに興味を持ちました。その理由は、最初に「ハロー、〇〇〇」と挨拶し、質問する内容が適切で、とても秩序ある会話ができるからです。レスポンスも非常に速く、「24時間以内にお返事します」と返事の期限を明確に教えてくれます。今後は、「ご応募ありがとうございます。厳正なる選考の結果、誠に残念ですが、今回の職務に関しては不採用とさせていただきます」というような応募者とのコミュニケーションを構築し、応募先企業から連絡がなく放置されるといった問題を解消できるようになればいいと思います。さらに、「募集している職務内容に対して、あなたの履歴書には適合しない点があります」というように、AI(人工知能)が指摘したり、「こちらの求人している職務のほうが適していると思います」と他の求人情報のリンクを送信、人材コミュニティへの参加を促したりするなど、リクルーターが実際にするような候補者とのリアルな会話をできる能力が備わってほしいです。「募集には多くの応募があり、あなたから提出していただいた履歴書情報は、次のような条件を満たしていないため、上位10人に入りませんでした」と的確で配慮のある返答をAIができるようになったらいいと思います。

[1] Workday Recruiting:HCMクラウドシステムプロバイダーのWorkdayが提供するATS。適任の候補者を社内外から探し、選定するまでの一連の業務をサポート。採用プロセス全体を可視化する。
[2]Phenom People:SaaS型のTalent Experienceマネジメントプラットフォーム。候補者、従業員、リクルーター、マネジャーの体験向上を促進する製品を4種類提供する。候補者体験向上の「Candidate Experience: CX」では、マネジメント経験の有無や経験年数などをもとにスクリーニングしたり、一次の電話面接の日時調整などを行うチャットボット機能や、セマンティック検索技術を用いたスマート検索、掲載コンテンツを管理するCMS機能を備えた採用情報ページを制作できる。
[3]Talentegy:AIを活用したタレントアナリティクスプラットフォーム。候補者体験や従業員のエンゲージメントをリアルタイムで測定し、アンケートやチャットボットでフィードバックを収集する。採用情報ページやソフトウェアシステム上でのユーザーの閲覧行動を自動録画する機能を備え、録画を再生することで問題がある箇所を特定できる。
[4] Glassdoor現従業員や元従業員が給与や福利厚生、面接の内容など企業についての口コミ情報を投稿する企業レビューサイト。
[5]Comparably:社風、給与、経営幹部、面接などについて従業員がリアルな感想や情報を投稿する企業レビューサイト。求職者は特定の企業の社風に関するスコア、ダイバーシティに関するスコア、CEOのスコア、従業員の幸福度やクオリティオブライフを部署別に調べ、求人情報を職種、部署、都市別に検索できる。匿名で職場環境やワークライフバランスや福利厚生などについて質問を投稿し、また給与相場を都市、職種、業界で検索できる。
[6]Ongig:写真、動画、チャット、パワーポイント資料、地図などの機能を備えたインタラクティブな採用情報ページを制作し、SNS経由で求人情報をシェアするSaaS型採用ブランディングシステム。掲載する画像や動画を管理するコンテンツマネジメントのツールも備える。プロのライターが採用情報の文章をより説得力のあるものにリライトしたり、ナレーションやテキスト、BGMを含めた動画制作を代行したりするオプションサービスもある。
[7]HiredScore:応募者全員を自動的にスコアリングする機能や、ATS、CRM、HCMに保存されている過去の候補者データから関連性の高い候補者を見つけ出す自動ソーシング機能で、フォーチュン500などの大企業の採用効率向上や人材モビリティの活性化を支援する。