HR Technology 2019-2020【Tech Stack Interview】薬局チェーンA社(TAバイスプレジデント)

A社は、全米で9,900店以上を持つ大手ドラッグストア。従業員数は30万人弱で、2019年度の「Fortune 500」米国企業収益ランキングで上位に入る。リクルーティングの分野で約25年の経験を持つTA(Talent Acquisition)バイスプレジデントにA社のテックスタックについて話を伺った。

インタビュアー=ジェリー・クリスピン TEXT=杉田 万起

約40種類の採用テクノロジーを活用

Q CRM(採用候補者管理システム)はAvature[1]とSmashFly[2]の製品を利用しているそうですが、なぜ2種類のCRMを使っているのですか?
A社は数年前にAvatureから、キャリアサイトのホスティング、アナリティクス、求人広告プラットフォーム、CRMと複数の機能を備え、セット販売の割引を提供するSmashFlyに乗り換えました。2018年にA社と合併した医療保険大手がAvatureのCRMを利用していたので、両製品を併用しています。2020年11月頃までにどちらかに統一する予定です。ATS(応募者追跡システム)は、Kenexa BrassRing[3]を利用しています。

Q ソーシングにはどの製品を利用していますか?
広義のソーシングでは、SmashFlyを使ったランディングページの作成や、Recruitics[4]を利用したIndeed[5]やGlassdoor[6]などへのプログラマティック求人広告の配信、CareerArc[7]を利用したソーシャルリクルーティングを行っています。従来のソーシングでは、リクルーターはLinkedIn[8]、TalentNeuron[9]、Paradox[10]など多数のツールを自由に活用しています。チャットボットのParadoxは約3年前から利用しています。例えば大量採用を行う流通センターでは、求人広告の反応が悪い場合、2つの方法でParadoxを利用しています。1つ目は、AIアシスタント「Olivia」がA社の採用情報サイトの訪問者と自動チャットし、応募条件を満たす候補者との面接日時を調整。大量の人材のソーシングを行います。2つ目は、Oliviaをアウトリーチモードに設定し、A社がターゲットとする特定の人材のリストをアップロード。Oliviaがリストに載っている候補者にスカウトメッセージを送信し、面接日時を調整します。人数の少ないレアな人材を対象としたハンティング活動を行います。

Q 人材供給パイプラインマネジメントには何を利用していますか?
プログラマティック求人広告サービスのRecruiticsです。大量採用を行う際に社内の求人広告スペシャリストがこれらを利用して、特定の地域の特定のスキルを持った人材を対象とした広告配信の調整を行っています。ソーシングで一定の目標値に達した場合、より効率的に広告費用を削減できます。求人広告代理店TMP Worldwideの利用をやめ、レスポンスの高いRecruiticsに乗り換え、より素早く支出を調整し、ある四半期の広告費を25万ドル超も削減できました。SmashFlyも活用しています。

Q 選考・アセスメントには何を利用していますか?
Shakerのアセスメントサービス「Virtual Job Tryout(VJT)」[11]、Hogan[12]、HireVue[13]などです。現在、ベンダーと今後の可能性について協議しています。例えば、バイスプレジデント以下のリーダー層のアセスメントについて、コスト効率を高めつつ、高い予測的妥当性(predictive validity)を維持する方法はないか。また、大量採用する職種について、どうすればVJTやその他ツールの予測的妥当性を維持または高めつつ、アセスメントの所要時間を短縮できるか。現在の所要時間は約45分から1時間ですが、15~20分に短縮したいと考えています。

Q オンボーディングには何を利用していますか?
KenexaとPeopleSoft[14]とConnect the Dots[15]です。採用部署のマネジャーは、新規採用者の就業開始日までに多くのさまざまなタスクを処理しなければなりません。Connect the Dotsを使うことで、いつまでに何をしなければならないのかをひと目で確認できます。

Q 何種類の採用テクノロジーを利用していますか?
メインで利用しているものは18~19。合計30~40になります。合併した保険会社は元々利用している製品が少ないので、A社が利用している製品をほとんどそのまま導入する予定です。採用テクノロジーの年間予算は、100万ドル台前半になります。

テクノロジーの活用でNPSも上昇

Q 採用テクノロジーの活用はどのような効果をもたらしましたか?
採用コストの削減、採用の質の向上、採用にかかる時間の短縮。そして、プロセスとサービス品質の「推奨度」を表すNPS(ネットプロモータースコア)が、70以上アップしました。NPSの向上を私は重視しています。TA部門のコストを負担している採用部署のリーダーを究極のカスタマー、候補者を究極のステークホルダーととらえています。現時点でリーダーたちのNPSは100点満点中84点と、満足しています。NPSは経営幹部とも定期的に共有しています。

Q 2019年の採用予定人数を教えてください。
両社を合わせると、年間で約14万~15万人で、うち約8万~9万人は店舗職です。3社のRPO(採用プロセスアウトソーシング)会社に、店舗以外の職種の採用の約50%を外注しています。社内のTA部門の人員は、およそ500人です。

Q コンティンジェント従業員はどのくらいの割合を占めますか?
コンティンジェントの採用人数は1万~2万人です。雇用形態を問わず、人材を総合的に管理する「トータルリクルーティング」で全体像を把握することで、自分の裁量で最適な手段を自由に選択できます。私は500人もの人材をわずか45日間で採用し、70億ドル規模の事業を救った経験があります。

RPA導入で事務作業を自動化

Q 採用プロセスの中で自動化しているものはありますか?
A社では、内定出し後の身元照会の自動化を進めています。流通センターなど人材を大量に採用する部門では、候補者とのイニシャルエンゲージメントにもParadoxを利用して一部自動化しています。

Q 今後5年間でリクルーティングが全般的に自動化される割合はどのくらいですか?
51~75%です。A社では、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入し、リクルーターの事務作業を自動化しています。リクルーターの仕事の要は、候補者と人間関係を構築することです。事務作業の自動化には大賛成です。

[1]Avature:グローバル人材獲得および人材管理のためのSaaSプラットフォーム。地域や部門など企業のニーズに合わせて柔軟に仕様を変更できる「Avature CRM」が代表的な製品。インターンやエグゼクティブなど対象者別のランディングページやマイクロサイトを簡単に制作できるCMSや、そのリンクを採用情報とともにSNSに投稿する機能を備える。アナリティクス機能で訪問者数や登録者数などの効果も測定できる。
[2]SmashFly:AIを活用した総合採用マーケティングプラットフォーム。ATSに入力した採用情報を自動的にジョブボード、キャリアサイト、SNSなどに掲載し、応募者のトラッキングや採用ブランディングが簡単にできる。
[3]Kenexa BrassRing:製品名は「IBM Kenexa BrassRing on Cloud」。興味喚起から選考、採用、定着までを網羅した統合人材採用ソリューション。複雑な組織のニーズに応じて、部署別に人材募集ページを簡単に制作できる。募集人員や応募状況、社内公募についての問い合わせなどが一目で分かる。
[4]Recruitics:企業、ジョブボード、スタッフィング会社向けプログラマティック求人広告ソリューションおよび採用マーケティングアナリティクスを提供。プログラマティック求人広告の配信・管理ソフト。クリック課金型または応募課金型の大手ジョブボードやアグリゲーター(例:Indeed、Glassdoor、ZipRecruiter)などの中から、ターゲットとする求職者が就活で最もよく利用するウェブサイトに求人広告を配信する。
[5]Indeed:ウェブ上のあらゆる求人情報をまとめて検索できるジョブボードアグリゲーター。
[6]Glassdoor:現従業員や元従業員が給与や福利厚生、面接の内容など企業についての口コミ情報を投稿する企業のレビューサイト。
[7]CareerArc:ソーシャルリクルーティング管理システム。SNSやモバイルおよびウェブプラットフォームへの求人情報の配信を自動化する。Facebookページに求職者がキーワードや職種、地域、または地図上で求人情報を検索し、会社の理念などのメッセージ動画を視聴できるCareerページを開設できる。
[8]LinkedIn:ビジネスに特化した世界最大手のSNS。世界で 6億人超の職歴データが保存されている。
[9]TalentNeuron:人材の需給バランスについてのリアルタイムデータを提供するタレントマーケットインテリジェンスプラットフォーム。特定の職種の求人または人材が最も多い都市、求人件数が多い企業、給与相場などを検索できる。
[10]Paradox:採用に特化したチャットボット「Olivia」が求職者からの問い合わせに自動対応し、経験年数や希望の職種や資格の有無などを質問し、スクリーニングする。
Virtual Job Tryout:実際の仕事内容と類似したタスクを求職者に体験させ、ゲームのようなテストで即戦力となるスキルや知識を見極める。
[11]Virtual Job Tryout:実際の仕事内容と類似したタスクを求職者に体験させ、ゲームのようなテストで即戦力となるスキルや知識を見極める。
[12]Hogan:正式社名は「Hogan Assessments」。通常の状態での行動スタイルを測るブライトサイド、ストレス状況下での行動傾向を測るダークサイド(疑い深い、興奮しやすい、など)、意思決定スタイル、論理的思考力、動機付け要因や価値観や興味関心を診断する様々なアセスメントサービスを提供。
[13]HireVue:ビデオ面接システム。求職者はPCや携帯端末で企業からの質問に対する回答を録画し、提出する。ライブ形式の面接も可能。AIと神経科学で求職者の表情、言葉、ボディランゲージを解析し、今後のパフォーマンスを予測する。
[14]PeopleSoft:採用、労務、人事、財務、調達・サプライヤーなどの管理システムを大手企業向けに販売するソフトウェア企業。「PeopleSoft Human Capital Management」に搭載されているオンボーディング機能では、「Form I-9」(就労資格証明書)の入力、就業規則ハンドブックのダウンロード、守秘義務契約や競業避止契約などの書類への署名。給与振込先口座の入力など、入社の際に必要な手続きをステップごとに示す。従業員はすべての手続きを1つのシステムで完了できる。人事担当者は、提出の有無などの進捗を一目で確認し、手続きが終わっていない従業員にリマインダーを送信できる。
[15]Connect the Dots:リーダー人材のオンボーディング支援やコーチングによるリーダーシップ開発のソリューションを提供。ウェブベースのオンボーディング促進ツール「building connections」は、タスクを管理するチェックリスト、会議のアジェンダ、社内サイトのリンク、LMS(学習管理システム)のリンクといった新入社員に役立つ情報をまとめ、期日が迫っているタスクについてリマインダーを送る。