保育士が柔軟に連携しながら自分の働ける時間に勤務。ママさん保育士のキャリア形成も支援――株式会社リリフル

2026年01月13日

岐阜県の大垣市で2園の保育所を運営する株式会社リリフル。同社の代表取締役の金森律子氏は、担任がフルタイムで勤務し、手書きで膨大な書類の作成作業に追われる保育業界の慣例を見直した。時間帯での勤務を可能とし、デジタルツールを活用して保育士の業務を効率化。並行して訪問保育、企業内学童、SDGsに紐づく子ども向けの教育イベントなど、複数の事業を展開している。

金森律子氏の写真

株式会社リリフル 代表取締役
金森 律子氏

育児に奮闘するなかでキャリアを模索。看護師としての経験を生かし、「企業主導型保育所」を開設

――初めに、創業以前の金森様のキャリアからお話しいただけますか。

私は元々看護師をしておりまして、個人病院での勤務を経て先進医療を提供できる大きな公立病院に移り、7年間勤めました。長女の出産を機に大垣市に引っ越して専業主婦となり、知人も親戚もいない環境でのワンオペ育児に疲弊しておりました。そのとき親子で参加するベビー向けの講習をいくつか受講し、ママ友の輪を広げました。これがきっかけでベビーサイン講師(※1)の資格を取得し、子育てをしながら10年ほど講師の活動を続けました。また、子育て世代のママに向けたボランティア団体を作り、不要になったおもちゃや絵本、洋服などを交換するバザーなどを主催していました。

子どもと金森氏が遊んでいる場面

次女が保育園に入園するタイミングでパートタイムの看護師に復帰した頃、「企業主導型保育事業」について知りました。子育ての経験や看護師としてのキャリアを生かせる事業であると考え、思い切って保育所の開設を申請。2017年12月に株式会社リリフルを設立し、翌2018年4月から保育所の運営をスタートしました。

自分自身の経験からも、多くの女性は出産後、独身時代と同じように社会に出て働くことに壁を感じているだろうと実感がありました。そこで会社を立ち上げてからは、保育所の運営と並行して、子育てで離職した女性と地元企業とのマッチングイベントの開催など、再就職を支援する活動にも取り組んでいます。

――現在のリリフルさんの事業の概要を教えてください。

岐阜県の大垣市内に「企業主導型保育所」を2園経営しています。「ドリームタッチ保育所」と「タッチテラス保育所」です。大垣市は人口15万人強の都市で、古くから交通の便がよく、揖斐川水系の豊かな地下水資源を背景に製造業をはじめとする上場企業の本社が8社あります。他府県から移住されてくるご家族も多く、住民や企業同士の連携が強い地域でもあります。

保育所は2園とも、契約企業様の従業員のお子様をお預かりする企業枠と、地域のご家族が利用できる一般枠を設けています。私を含め看護師資格を持つスタッフが常駐し、子どもたちの食事は施設内で調理員が作って提供しています。

また、コロナ禍をきっかけに訪問保育事業も手がけています。当時は保育所を臨時休業せざるを得なかったこともあり、保育が必要なご自宅に保育士が訪問しました。主に契約している企業で働く人や、個人事業を経営されている方へ保育サービスを提供しています。

最近の取り組みでは、企業内学童事業を始めました。企業の中に学童保育施設を設けることで、子どもを持つ従業員は安心して仕事を続けられ、子どもも安心して過ごすことができます。企業の子育て支援施策として、今後ますますニーズが高まると考えています。

保育所の内装

――保育所の人材の構成はどのようになっていますか。

リリフルの事業を支えてくれている人材は、保育士、看護師、子育て支援員、調理員、事務員を合わせて現在23名で、全員が女性です。リリフルという社名は、Live Life to the Full(最高に充実した人生を送る)という英語の慣用句からとっています。子育て中の女性は、ともすると自分のことは二の次、三の次になってしまいがちです。でも、本来自分の人生は自分が主役ですから、全ての従業員に「人生、最高だったと思える生き方をしてほしい」という願いを込めました。

ママさん従業員がお互い助け合いながら仕事に臨み、それぞれが思い描くキャリアを実現できる環境を整えていく

――保育所は、柔軟な勤務体制で運営されていると聞いています。

会社の立ち上げを準備していた頃から、保育士の資格は持っているけれど、保育の現場で働いた経験がなかったり、子育て中のため他業種でアルバイトをしたりなどの「潜在保育士」が多いと感じていました。それは私のような看護師も、子育て支援員の資格を持ったママさんも同様です。

そうした方々の多くが「9時から15時まで」「9時から12時まで」などの短時間であれば働きたいという希望を持っていました。そこでリリフルでは、働き手のそのような希望を叶えられる職場環境を整えていこうと考えました。

もう一つ、一人ひとりの「苦手を配慮し、得意を生かす分業」ができる保育を目指しました。保育士資格は持っているけれど、「ピアノを弾くのは苦手」「絵を描くのが苦手」といった方が意外に多いのです。こうしたことに配慮して、無理に苦手なことを担当してもらうのではなく、各自が得意とする領域を担当してもらうことを基本としています。

子どもとスタッフのやり取り

――あくまで従業員の皆さんの働きやすさを重視しているのですね。

その上で、子育て世代を中心に、20代から60代までの幅広い世代を雇用し、彼女たちが働きやすい勤務体制づくりに注力しました。子育て中のママさんは9時から15時の勤務に配置し、その前後の1時間から3時間にさまざまな年代の女性を「スポット保育士さん」として配置しています。

スタッフが絵カードを使って子どもに説明している様子

女性の多様な働き方を応援する職場環境を整えるという意味では、ダブルワークもOKです。洋菓子店で働く保育士や、ピアノ講師として働いている保育士、通常は病院勤務をしながら、スポットで保育所に入ってくれる看護師もいます。

また、リリフルで働きながら保育士の資格取得も目指せるように、会社で受験料を負担するなどの支援体制を整えています。会社を設立してからの7年間で、子育て支援員(※2)や看護師、事務員として入社した5名のスタッフが、新たに保育士資格を取得しています。

――多様な働き方ができる職場では、経営の立場からは管理が難しそうですね。

おっしゃる通り、スポット保育士が一人入れないだけでも施設が回らなくなりますから、シフト管理は非常に難しいです。ですが、幸いなことに従業員同士の「助け合い精神」が生まれ、みんながお互いにカバーし合いながら柔軟に動いてくれる人間関係が、いつの間にか形づくられています。また、従業員のライフステージも刻々と変化し、お子さんが成長して少し自由な時間ができるなど、勤務時間に融通が利くようになるスタッフも増えています。

一方、リリフルではフルタイム、大体6時間勤務、3時間勤務、1時間勤務、おおむねその4パターンがあります。0歳児と1~2歳児をグループ分けして、シフトは時間帯で小分けし、複数の担当者が子どもたちを見るスタイルに変えています。一人の担当者が長時間にわたって保育所内の状況を全て把握し、指示を出すやり方よりも、それぞれが「この時間帯に入ったらこれをやる」と明確になっていたほうがやるべきことに集中でき、プラスの側面も大きいと考えています。基本的に私たちの会社では、業務を適切に分散・分業し、過度に属人化させないことを意識しています。従業員のお子さんが急に熱を出すなどで休まざるを得ない場合もありますから、勤務チームとは別に常に待機の1チームを想定しておき、状況に応じて待機メンバーにヘルプを頼む形です。

「手書きのほうが愛情が伝わる」という思い込みを見直し、タブレットや写真の活用によって保育を「見える化」

――保育業務のデジタル化も積極的に推進されていますね。

当社がタブレットによるICT化に着手したのは約7年前で、当時はまだ大垣市内でも導入例がほとんどありませんでした。このため、保育士スタッフからは「できない、無理」といった強い反発がありました。さらに「保育日誌は手書きのほうが愛情が伝わる」といった思い込みが残っていました。

ただ、私には保育士経験はなかったものの、病院が電子カルテを導入したときのように業務効率が圧倒的に向上することは当初から確信していました。現場を分析すると、手書きの作業が最も時間を要しており、ここを変える必要があると明確に把握できたからです。

ICT化のよさは、保護者様に届ける保育日誌に写真の添付ができるところだと思いました。写真は、文字でいうと8000文字以上の情報量があると言われているため、手書きで数千文字書くよりも、テンプレートを使って文章を作成し、お子さんの笑顔の写真を添えれば、200文字であってもより明確に保護者様にその日の状況を伝えることができます。こうしたタブレットによる管理が保育士の業務を楽にしてくれるだけでなく、保育の中身を「見える化」し、保護者様にも同僚にも、より正確に共有することを可能にします。

当社では勤務シフトを時間帯で分けていますので、一貫性のある保育を実践する上でもデジタルツールは有効であり、各自が必要な引き継ぎ情報を得やすくなるメリットがあります。

スタッフ同士のやり取り

導入を進めるにあたり、まずアプリ提供者に説明をしてもらい、スタッフに実際に触ってもらう機会を設けました。反発に関しては、手書きで日誌を書く場合と、タブレットで入力する場合とでかかる時間を実際に計測して数値化し、効率化のメリットを具体的に示しました。また、「手書きのほうが愛情が伝わる」という意見に対しては、導入半年後に保護者の方々の反応を聞き取り、アプリ導入により「正確に、わかりやすく」伝えることが、保育士だけでなく、利用者さんにとっても利益になると納得してもらいました。これまでの業務に慣れている職員は変化や機械に抵抗感を示す傾向もあるため、時間を測るなどして、不安要素を一つひとつ具体的に潰していくプロセスを徹底しました。

アプリ選定や導入においては、私と同じ看護師経験を持つ機械に強い職員の存在が大きかったです。医療機関で培った「業務効率化」の視点を保育業界に持ち込むことができたからこそ、保育士の「みんなで全部の業務をする」という慣習を変える必要があると認識できました。最終的には、その職員に選定を任せ、その意見を基に決定しました。

――今後、どのような方向性で保育事業を発展させたいとお考えですか。

今は0~2歳児の保育事業を手がけていますが、企業内学童事業も強化していきたいと思っています。これからは、少子化と生産年齢人口の減少という課題が深刻化していき、ますます働く女性が増えていきます。低年齢の子どもの支援だけでなく、企業ごとの学童保育の支援ができたら働く側も子どもも会社も安心できる環境を整えられ、生産性も向上すると考えられます。

また、保育現場ではその人が得意なことを担当することで得意領域をさらに伸ばしてもらうというのが、私たちの基本方針です。英語の先生でなくても、ちょっと英語が好きで得意な人がいれば、朝のイングリッシュタイムを担当してもらっています。担当することによって自分でもさらに勉強して、どんどん成長してくれます。

保育者が新しいことに取り組むと、その姿を子どもたちも見ていますし、みんなの期待が担当者自身の成長や自信につながっていきます。保育という仕事を通じて、どの世代の女性も自分自身のできること、やりたいことを見つけてもらえればと思っています。

スタッフと子供たちのやり取り

――貴社の事業の根幹には、「女性の多様な働き方を応援したい」という一貫した志があるように感じます。

女性の従業員と共に保育事業に取り組んできた経験から、人は働くことで成長していくんだなと改めて実感しています。仕事の中で役割を任せると、役割がその女性を成長させていくといいますか、自ら新しいことにチャレンジしながら大きく成長していく姿を数多く見ています。

これまで社会復帰ができず保育現場へ一歩を踏み出せなかったペーパー保育士やブランク保育士などが弊社で挑戦して自信につながっていく姿を見るのは、本当にうれしいことです。

リリフルで保育士となり、経験を積んで力をつけた女性が、「今度は公立の保育園での仕事に挑戦してみたい」と将来の希望を話してくれることがあります。このような女性のキャリアアップに寄り添えることは、保育に携わる同志として誇らしく、経営者として感謝したい気持ちになります。一緒に働く仲間が保育士としてのビジョンを見出し、リリフルを卒業していくことは大歓迎です。少し寂しい気持ちはありますが、地域の保育を一緒に支えてくれる仲間がまた一人増えることですから、笑顔で送り出したいと思っています。

聞き手:坂本貴志
執筆:松原寛明

(※1)「ベビーサイン」は、日本ベビーサイン協会、および米国Baby Signs Inc. の登録商標。言葉を話せるようになる前の赤ちゃんと手話やジェスチャーを使ってコミュニケーションをとる育児法のことで、ベビーサイン講師は、これらの技術を所定のプログラムで学習した人に対し、一般社団法人日本ベビーサイン協会が認定している資格。
(※2)保育人材不足の解消を目的として、2015年に子ども・子育て支援新制度によって新設された保育の仕事に就くことができる資格。国で定めた研修を受講すれば子育て支援員の資格を取得することができる。

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