チームジョブにより多様で柔軟な働き方を実現 新たな保育士のなり手や潜在保育士の掘り起こしにも貢献――社会福祉法人明育

2025年12月03日

こども家庭庁の調査では、保育施設の8割以上が人材不足を実感するなど、保育士不足は社会的に深刻な課題となっている。しかし兵庫・明石市を拠点とする社会福祉法人明育(めいく)が運営する保育園は、系列のNPO法人による子育て支援事業を通じ人材確保の1ルートを確立すると共に、入職後も抜群の定着率を誇っている。その要(かなめ)となるのがワークライフバランスの働き方において兵庫県のモデルケースにもなった「チームジョブ」である。チームジョブの仕組みや成り立ちの経緯、その効果などについて理事長の高岸益子氏に話を聞いた。

高岸益子氏の写真

社会福祉法人明育 理事長
高岸 益子氏

保育士の離職者は9年でわずか4人。休みがとりやすい環境が大きな理由

――貴法人の事業内容を教えてください。

社会福祉法人明育としては、本園に位置付けるフルーツバスケット保育園のほか、来年度に開園する分を含めて定員19名以下の小規模保育園を3園運営しています。さらに子どもたちの発達に合わせた療育活動を行う児童発達支援事業所と、病気やケガで通常の保育が難しい子どもを預かる病児保育室も営んでいます。毎年、施設を1つずつ増やすようにしているため、職員数も年々増加し、正規雇用の職員は来年から50名になります。パート・アルバイトの方はその2倍ほどいらっしゃるのでだいたい100名くらいです。保育園事業が始まって9年になりますが、この間、離職したのは4人にすぎず、皆さん続けられるので、欠員に伴う募集を出すことはほとんどありません。

フルーツバスケット保育園の外観

――9年で4人しか辞めないというのはすごいですね。高い定着率の理由は何でしょうか。

一番はお休みがとりやすいことだと思います。当法人の場合、正職員は入社日の4月1日から年10日の有給休暇が消化できます。保育士には子育て世代も多いので、お子さんの入園式・入学式に出席したり、年度変わりの環境変化によりお子さんが熱を出したりと、特に4月は休みをとる必要に迫られるため、新卒も含めて一律に初日からでも休めるようにしました。また有休取得率も年間で必ず7割以上はとるよう働きかけていますので、ほとんどの職員が消化しています。有休は時間単位でも取得できますし、そのほかに特別休暇もあります。休んでも子どもたちや周囲に迷惑をかける心配がないので、皆さん気兼ねなく休まれています。

――休暇制度自体は多くの保育園でだいぶ整備が進んでいますが、取得率が高い理由は「気兼ねなく休める」というのが肝だと思います。どのような取り組みをされていますか。

フルタイム勤務の正職員とパートタイム勤務の職員を1つのチームにして、イメージとしてはクラス担任の業務を全員で分担する仕組みを構築しています。これを私たちは「チームジョブ」と呼んでいます。保育園の配置基準により、保育士の定数は子どもの年齢と人数に応じて決められていて、たとえば2024年度から3歳児は園児15人につき保育士1人、かつ最低2人以上配置しなければなりません。一方、当法人の本園では、今年は少し手がかかる子が多いせいもありますが、3歳児クラス(20名)に3人の担任を配置し、さらに主任を含めた合計4人で見ています。他の年齢も1クラスの定数より最低1人は余分に配置し、常に定数より多くなるよう意識しています。そうすると主担任が休んでも代わりにサブ担任や主任がいますし、その方々も休んだら「交代要員」が来てくれます。誰かが必ず穴を埋めてくれる設計になっていますので、当日、急に欠勤せざるを得なくなっても安心して休めるのです。

園庭でサッカーボールを使って運動する子どもたち

――交代要員とはどういった人ですか。

私は、NPO法人も運営しており、明石市からの委託事業を担っています。そのNPO法人の出勤がない方にお願いする仕組みを作っています。もともとチームジョブという働き方は、NPO法人から始まって現在もここが本丸です。というのは、NPO法人がスタートした頃はパート職員ばかりだったため、週のうち1日か数日しか、あるいは午前中しか働けない、といった方それぞれの要望に応じて雇用していました。そして、各人の勤務可能な時間帯をパズルのようにはめ込んで、どこにも空きが生じない組み合わせでチームを作りました。さらにチームの中を本人の希望や勤務日により、リーダー層やサブ層、交代要員だけの層など、いくつかのグループに分けました。メンバーの勤務日は「月水金」「午前中毎日」など一応は固定していますが、同じグループの人は同じような働き方になるので休みで交代しても大丈夫なんです。

――画期的な働き方ですね。

平成20年に兵庫県が「仕事と生活のバランスひょうご共同宣言」を出されたときに、県から取り組みの聞き取りがあり、お話ししたところ、「まさにチームジョブですね」と評価され、今の時代の子育てにふさわしい働き方だと自負しています。

子どもの幸せは親の幸せあってこそ。働きやすい環境整備に向け子育て支援員も活用

――チームジョブの発想はいつごろ生まれたのですか。

最初から自然にです。当法人は24年前、子育て中の「ママ友仲間」と一緒に、近所の児童会館を利用して幼児教室を始めたのが出発点です。幼児教室がだんだん増え、彼女たちを職員として雇用すると同時に、気軽に休めるよう今の原型となる仕組みを作り、発展させていきました。私自身も幼い子を持つ母親として、「子どもを幸せにするには、自分も幸せでなければ」という思いがあったため、子どもの発熱や行事参加などの理由はもちろん、自身の体調不良でも我慢せず、遠慮なく休める体制を考えました。美容院や映画に行くなど、ちょっとした息抜きにお休みしてもまったく構いません。その後、保育園を開園すると、子育てが落ち着いた方々が当NPO法人から保育園に働きに来てくれるようになりましたので、チームジョブも保育園仕様にして受け継いでいます。休める体制は先に申し上げたとおりですが、子育て中の保育士が忙しい朝と夕方にも支援センターの職員にお手伝いに来てもらっています。クラス担任を担うには体力的にきついけれど、時間に融通の利く年配の方々が多数活躍しています。

保育室で先生の話を聞く子どもたちの様子

――支援センターで働いていた方は保育士資格を持っているのですか。

もちろん保育園で採用する方は取得しています。もともと保育士資格をお持ちの方もいらっしゃいますが、いろいろな子育て支援に関わるうち、保育への関心が高まって保育士を目指す方も珍しくありません。当NPO法人には市が主催するイベントにおいて、出演者や来場者のお子さんの託児依頼が度々来るのですが、まずは託児スタッフとしてそうしたスポットワークを経験していただき、徐々に回数を増やし経験を重ねた上、国家試験にチャレンジしていただき資格取得後、支援センターの職員へと導いており、最終的に保育園で活躍してもらう。保育士不足が叫ばれるなか、このようなステップで保育士になる方を増やし、また潜在保育士を活用できればと取り組んでいます。保育を専門とする学校も減っていますので、今後は保育士を目指す可能性の高い、地域の普通高校の家庭科部などともつながっていこうと考えています。

――朝・夕のお手伝いや急な欠勤などでかわりに来られる方も資格をお持ちですか。

お持ちでない方には「子育て支援員」を取得していただいています。子育て支援員とは国が定めた制度で、指定の研修を修了すれば、保育士の資格がなくてもお散歩の引率や掃除などの補助業務に従事できます。担任になるのは難しいですが、担任のもと十分に役立っていますので、私たちにはとてもありがたい制度です。子育て支援員として働くことも保育士を目指す動機付けになっています。

民間企業にも遜色ない給与水準。保育士のネガティブイメージを変えたい

――ライフステージに応じて柔軟な働き方ができるチームジョブが保育士の定着につながっているとわかりました。そのほか、定着率が高い理由をどうお考えですか。

やはりお給料です。当法人は諸手当を含めて新卒の初任給が27万50000円。面接で提示するとほとんどの方が驚かれる額で、認定こども園と比べて遜色なく、おそらく地域の中小企業にも負けない水準だと思っています。諸手当の中には資格手当のほか、国の処遇改善手当(※)もあり、全部合わせると基本給に7万円ほど上乗せされます。処遇改善等の加算は国の見直しにより、令和7年度以降、施設ごとの判断で柔軟に配分されるようになりましたので、給与額もまた変える予定ですが、いずれにせよ保育士の待遇はますます良くなります。もはやお給料が安い職種とは言えませんから、そのあたりのイメージをどう覆すか、世の中への発信も視野に入れています。また業務面では、毎日の記録や保護者へのお便りといった事務作業を効率化するため、コドモンというICTシステムを導入しています。ただ今年度から始めたので、保育士の世代や作業環境によって各園での使い方に差が見られるため、まだまだ試行錯誤の段階です。

――理想の職場づくりに向けて、さまざまに取り組んでおられます。

いえ、最初から「女性のライフステージに応じた働き方を」と大上段に考えていたのではなく、自分たちが働きやすい仕組みを追求していたらこうなった、という感想です。明石市は当時、幼稚園が中心で、私と同じように「子どもが幼稚園にいる間に何かしたい」というお母さんが多かったのですね。そこで幼稚園が終わる14時までということで、幼児教室やスポット的な託児から始まり、保育園に預ける人が増えると、16時まで、17時まで働ける、と徐々に労働可能時間が伸びていきました。チームジョブはそうした仲間が集まって必然的に形になったもので、だからこそ根づいてきたと感じています。多様な働き方に柔軟に対応する、これまでに培った私たちの強みを活かして、引き続き地域のニーズに応えながら、子どもたちの健やかな成長と保護者の支援に貢献してまいります。

(※)保育士の賃金向上と待遇改善、保育士不足の解消を目的として、国や自治体から保育施設に支給される補助金。

聞き手:岩出朋子  
執筆:稲田真木子