希少価値が高まってきた自社技術を武器に、公的機関や副業人材等、さまざまな外部との連携により、事業の拡大・成長を図る――株式会社釜石電機製作所

2026年02月26日

中小企業にとって、新しい事業や技術に取り組む際、資金や人材などそのハードルは決して低くない。今回、岩手県釜石市でモーター・ポンプなどのメンテナンスを中心に事業を展開する株式会社釜石電機製作所は、「副業人材」の活用を積極的に進める中で、自社の事業の強みを再発見し、事業の拡大・成長につなげている。

株式会社釜石電機製作所 代表取締役 佐藤一彦氏

株式会社釜石電機製作所
代表取締役 佐藤 一彦氏

長年培ってきた高度な技術力で社会・生活の基盤を支える

――最初に事業内容をお聞かせください。

私どもは1949年に当時の旧富士製鉄(現在の日本製鉄(株))釜石製鉄所と、日鉄鉱業釜石鉱業所(現在の釜石鉱山(株))の協力会社として創業以来、製造業・発電・上下水道等に欠かせない産業用のモーターやポンプ等の回転機器の整備・修理・メンテナンス業務に自社一気通貫体制で取り組んでいます。基本的なオーバーホールはもとより、焼損したモーターコイルの巻き替え・製作や、後述する「溶射技術」を活かしたシャフトやスリーブ等の摩耗部品の再生、空気清浄を目的とした光触媒技術開発等、新たな技術開発・事業開発にも取り組んでいます。社員は現在31名で全員正社員です。

株式会社釜石電機製作所 外観

――人材の確保についてお伺いします。どのような状況でしょうか。

従業員はベテランが多くなってきました。長く採用ゼロの年もあったのですが、技術を継承し世代交代を進めていく必要を感じ、一昨年から比較的若手の中途の方を中心に年間2~3名の採用を目指して取り組んでいます。高齢化が進展する中、若い世代を採用し、オン・ザ・ジョブトレーニングでしっかり教育して技術を継承していきたいと考えています。お陰様で足元では目標の採用人数を達成できていますので、この形を維持して、円滑に世代交代を進めていきたいと思っています。

株式会社釜石電機製作所 従業員

――中小企業の人材確保の厳しさが指摘されていますが、人材の確保・定着が堅調なその背景を教えてください。

まだ堅調と言えるレベルではありませんが、その中で、弊社に入社いただけて、定着もできている理由としては、弊社には確固たる技術があるということだと思います。つまりは、私どもが長年にわたって培ってきた、他社にはない技術力が大きな魅力になっているのではと考えています。昔は1つの町に2~3社、我々のような業者がいたのですが、高度経済成長を経て、モーターが廉価になり、壊れにくくなることで、整備や修理需要が減り、結果として同業者が全国的に少なくなってきている印象です。そうした状況にあっても、鉄の町・釜石という土地で育ってきた企業だからこそ、モーターの種類や年式問わず、さまざまな故障症状に対応できるのだと思います。最近では、ホームページなどで、私たちの事業内容や実績を見てくださった方から、「このモーターは修理できないか」「ほかでは断られてしまった」といった問い合わせを全国各地からいただき始めています。長らくこの事業をやってきて「我々のような事業は近隣エリアにしか商圏は広げられない」と勝手に思い込んでいた節がありましたが、創業から長い時間を経て、弊社が培ってきた技術力の希少価値が高まっているのではと感じることが増えてきました。そういった「遠方からモーターを送ってでも直したい」ニーズが全国各地にあるとともに、それに応えられる技術力が自社にあることは、従業員の誇りにもつながっているのではないかと思っています。

モーター 
修理品の故障状態は一つひとつ異なるため、実際に手を動かして経験を重ねるしか技術力を磨く術はありません。逆に言うと、当初は技術を持ち合わせていなくても構いません。意欲さえあれば学歴・経験不問です。そういうところにも入社しやすさがあるのかもしれません。モーターというのは、工場、発電所、上下水道など、産業、そして社会・生活関連の施設等の一番の心臓部です。万が一作動しなくなれば、世の中の機能の一部が失われてしまいます。そのように社会・生活を支える基盤を担っている点にやりがいを感じて入社していただいているのではないでしょうか。自社の課題の裏返しかもしれませんが、ベテラン技術者が多いので、ほかにはない技術・スキル・ノウハウが学びやすい環境とも言えると思います。ぜひ、気軽に応募いただけると嬉しいです。

ベテラン技術者

公的組織など外部との連携による新たな技術への挑戦。「溶射技術」を応用した光触媒技術の開発

――中小企業庁の「はばたく中小企業・小規模事業者300社」(※1)や経済産業省の「地域未来牽引企業」(※2)にも選ばれています。その背景や経緯を教えてください。

モーター整備・修理を主とした既存事業に加え、新たな技術開発に長年取り組んできたことが要因なのではと思っています。その一つとして、冒頭でお話しした「溶射」という技術で、岩手県工業技術センター様と共同して光触媒を開発し特許を取得しています。「溶射」というのは、摩耗したシャフトを再生する工程などで使われる技術で、金属に被膜を形成するコーティング方法の一つです。光触媒は、光が当たることで化学反応を起こして有害物質を分解・除菌・消臭する技術ですが、溶射技術を応用することで、光触媒である酸化チタンをコーティングする独自の溶射技術を開発しました。

以来、岩手県工業技術センター様はじめ、産業技術総合研究所様等、さまざまな研究機関の皆様の支援をいただきながら開発を進めてきました。2000年に着手して以降、まだ本格事業化に至ったとは言い難いですが、さまざまな実証を経て、特許取得をはじめ、畜舎や酒蔵の麹室等で、確実に成果を積み重ねてきたことが、色々な制度において選定企業として選んでいただけたのではと思っています。

溶射

ユーザー・販路開拓に向け「副業人材」を登用。「副業人材」が有する豊富な知見・チャネルをフルに活用

――副業人材に関してもお聞きしたいと思います。副業人材を獲得されたということですが、現在も継続されていますか。

今でも取り組んでいます。業務委託というかたちで活躍いただいていまして、その方の職歴・経験を活かして、新規のお客様の案件獲得につながる施策を実行していただいています。

副業人材の方が持つチャネルを介して、私どもの技術が活きるだろうと思われる会社を紹介してもらうなど、ユーザー・販路開拓を委託しています。コロナ禍で厳しい経営環境にあった際に、新規開拓を目的としてホームページを改定したのですが、その結果、遠方からの問い合わせの増加に至ったのも事例の一つです。

私ども中小企業は人的リソースが限られていますから、今後も、現在の「副業人材」の方々との関係性を深めていく中で、人材不足を補い、攻めの事業を拡大・成長させていきたいと思っています。


聞き手:坂本貴志岩出朋子
執筆:小泉隆生

(※1) 経済産業省 中小企業庁が主導する表彰制度で、中小企業・小規模事業者のうち、特に優れた取り組みを行っている企業を選定し、その功績を広く社会に周知することを目的としている。
(※2) 経済産業省が地域の雇用を支え、地域経済をリードする企業を選定し、支援することを目的として設立した制度。選定された企業数は、全国で約4700社。

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