5社協働で採用を行う「ITラボふくい」の取り組み Uターン人材の採用に成果――株式会社ビジュアルソフト

2025年12月26日

システム開発やVRアプリ開発などを行う株式会社ビジュアルソフトは、エンジニア採用において厳しい環境にある福井県の中でも新卒採用で着実な成果を上げている。要因は配属希望の事業領域を学生が選んでエントリーする「事業部エントリー方式」と、4時間にわたる会社説明会によるキャリアビジョンの明確化、5社協働の採用活動だという。それらのねらいと具体的な取り組みについて、管理部部長の畠中昌代氏に聞いた。

畠中昌代氏の写真

株式会社ビジュアルソフト
管理部 部長 畠中 昌代氏

県内に定着する新卒人材が自社の将来を担う

――現在の事業内容や採用の状況を教えてください。

当社には4つの事業部があり、中でも大きな柱となるのが全国規模で展開する厚生労働省関連のシステム開発などの公共分野、電子カルテシステムなど医療福祉分野のシステム開発です(第1・第2システム開発事業部)。加えて福井を中心とした北陸地方の中小企業のお客様を対象にITコンサルからソリューションまでをトータルに提供する事業(ソリューションビジネス事業部)、さらにスマートフォン向けのアプリやVRなどのXRアプリの開発など新たな技術分野にもチャレンジしています(モバイル事業部)。

従業員数はグループ全体で約160名在籍しており、雇用形態はビジュアルソフトについては全員正社員です。職種としては、地元企業のお客様を対象とした事業部には、営業、コンサルタント、プログラマー、システムエンジニア、インフラエンジニア、デザイナー、ディレクターと多様な職種がありますが、それ以外の事業部はプログラマーとシステムエンジニアが中心です。新卒採用では主にシステムエンジニア、プログラマー、インフラエンジニアを募集しています。

福井県内の採用環境は人口減少や大都市圏への人口流出などで非常に厳しく、有効求人倍率も常に全国トップクラスと人手不足が続いています。「事業を拡大したいが人手が足りない……」という声は多いです。それでも当社には新卒採用で毎年安定して10数名が入社しています。

株式会社ビジュアルソフトの外観

――新卒採用で成功するために意識されているのはどのような点ですか。

会社説明会やインターンシップで入社後の仕事内容やキャリアステップを十分に説明し、学生の仕事への理解を深め、将来ビジョンを明確にしてもらうことです。入社後のアンケートでも「入社前のイメージとのギャップはない」との回答がほとんどで、このやり方が一定の成果を上げていると実感しています。新卒採用では県外のIT企業とも競合しますから、福井にいても地元でエンジニアとして技術を磨くことができ、大規模案件も担当できることや、働きやすい会社であることを伝えて、当社で長く働いてもらえる人材の確保を目指しています。

インターンシップの様子

配属先を確約する「事業部エントリー方式」で入社後のビジョンを明確化

――人材の採用や定着のためにどんな工夫をしていますか。

新卒採用では入社後の配属先となる6つのセクションの中から第1~第4希望を選んでエントリーし、入社後は希望に応じて配属される「事業部エントリー方式」を導入しています。1つのセクションに希望が集中した場合は第2希望以下になる可能性もありますが、これまでの実績ではほぼ第1希望がかなう結果になっています。当社の採用におけるコンセプトは「好きを力に、挑戦しよう!」で、自分が興味のあるセクションで働くことが本人のモチベーションを高め、定着する人材の採用につながると考えています。

社内レクチャーの様子

地元企業に貢献するセクションや全国の医療福祉事業を支えるセクションなど、当社はセクションごとに事業内容やビジネスモデルが異なり、キャリアアップの道筋や働き方もさまざまです。自分に適したセクションを選んでもらうために会社説明会は約4時間と長く、セクションごとに管理職が事業について説明し、各セクションの社員からは当社と在籍するセクションを選んだ理由、自身の仕事内容やキャリアアップの過程などを紹介してもらいます。学生が入社後の中期的なキャリアビジョンを意識できるよう、1回の説明会に当社の10名以上の社員が参加し、多様な観点から話をします。

また面接の前に採用担当者と個別のカジュアル面談を行うので、面接前の不安や志望動機などを擦り合わせた上で、各セクションにエントリーできます。一次面接では将来の上司となる事業部の管理職との面接、最後の役員面接では経営層との面接を経て内定が決まるという流れになっています。

――入社後のキャリアビジョンを学生に具体的にイメージしてもらうため、どのような伝え方をしていますか。

説明会や面接で各セクションが現在抱えている人と組織の展望や課題までオープンに話して、その展望や課題に対して新人がどのような役割やポジションを担うことで成長できるのか、そのために身につけてほしい技術や磨いてほしいヒューマンスキルは何かなども伝えています。学生にとっても各セクションで期待され、活躍する人材像が具体的にイメージしやすいのではないでしょうか。

一方で、現在は就活のタイミングや企業へのアプローチも多様化しているので、本人がどんな社会人を目指しているのかを私や新卒の採用担当者が詳しく聞き、当社が求める人材像とのマッチングでギャップが生じないように心がけています。

――インターンシップもキャリアを意識したプログラムになっているとか。

2024年から、最初に上流から下流に至るさまざまなエンジニアの業務の全体像を説明して、上流と下流では求められるスキルや仕事をするメンバーも違うことなどを伝えるようにしました。その上で本人が担当するインターンの業務はどの部分に該当するのか、インターンをした事業部でキャリアアップしていくと将来はどんなエンジニアが目指せるのかなども紹介して、入社後のキャリアビジョンにつながるよう工夫しています。

インターンシップの様子

県内のIT企業と協働で地元就職者を拡大・定着するための取り組みにも挑戦

――県内の同業の企業と連携した採用活動も行っていると伺いました。

福井で働くエンジニアを創出するため、当社を含め福井県に本社を置くIT企業5社が協力して、学生さん一人ひとりを応援する「ITラボふくい」という団体を2022年に立ち上げました。以前から県内のIT業界では、大卒年齢に相当する22歳人口が激減する2022年以降は「人材確保がさらに難しくなる」という危機感が広がっていました。そこで交流のあった5社の人事担当者が集まって話し合い、IT企業が協働で学生にアプローチする活動をスタートさせました。

もちろん採用面では競合しますが、「ITラボふくい」は新卒学生に県内のIT企業に就職してもらうことが目的なので、自社を辞退して県内の他社に入社する学生が出ても、各社とも目標が達成できたと捉えています。辞退は残念ですが、あえて引き留めることはしません。学生に自社を選んでもらえるよう教育体制や福利厚生を充実させる「自社磨き」のほうが、企業の存続には重要というのが私の考えです。

――具体的に5社協働でどのような活動をされていますか。

現在は年3回、学生に県内のIT企業に目を向けてもらうためのイベントを時期や対象に応じた内容で実施しています。たとえば2027年卒生向けには、2025年6月に学生時代インターンに参加した若手社員によるパネルディスカッション、各社の人事担当者とのフリートークなどのプログラムを用意しました。また同年12月には顔出しなし・ニックネーム参加のオンラインセミナーを開催。福井県庁チャレンジ応援ディレクターによる基調講演や各社採用担当者とのフリートーク、若手社員によるパネルディスカッションを行いました。

2026年1月の対面式イベントはもっと会社説明会に近い内容になりますが、先輩社員や人事担当者とのフリートークでは、会社別に円形に並べた椅子に座った学生たちの輪の中に社員が加わるスタイルで、お菓子を食べながら雑談も交えて話してもらうなどリラックスした雰囲気で行うようにしています。

採用した新卒学生の3分の1が「ITラボふくい」経由に

――「ITラボふくい」による効果をどう評価されていますか。

当社の場合は採用人数の約3分の1が「ITラボふくい」のイベントで接点を持ち、インターンシップに参加するなどでつながった学生ですから、非常に効果があると実感しています。また福井県の定住促進課にも活動のねらいを話し、各社の事業継続と同時に県内からの人口流出を防ぐ取り組みである点を評価してもらい、2年前からこれらのイベントは県との共催となっています。

県に対しては、まず、この活動のスタートとして「ITラボふくい」がどのようなことを行うのかを紹介しました。2回3回と足を運んでいるうちに県の担当者の方に共感していただくことができ、共催が実現できたという流れになります。県としても、地元企業でこれから働きたい、キャリアアップしていきたいという若者たちが増えていくことを望んでいます。だから県も目的は同じなんです。こうやって粘り強く活動する中で、地元の新聞やテレビのニュースにも取り上げられるなど、県内での認知も広がりました。

――今後の「ITラボふくい」での取り組みは?

福井県では、約4000人いる大学・短大進学者の6割以上が県外進学です。そのため福井県出身の学生のUターン促進を目標に、定住促進課の協力により関西地方や東海地方の大学で行われる企業説明会に「ITラボふくい」として参加しています。1社でなく5社協働で福井県のIT企業の魅力をアピールして、県内でのエンジニア創出に力を入れていることを話すと、「わざわざこの大学まで来てくれた」と関心を示す県出身の学生もいますね。そうした学生を10人でも増やせれば、うち数人にはUターンを検討してもらえるのではないかと期待しています。

聞き手:坂本貴志岩出朋子
執筆:山辺孝能

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