人口減少時代における地域中小企業の挑戦【前編】

2026年08月20日

地方の中小企業は今、かつてない厳しい人手不足の波にさらされている。これまでのやり方が通用しなくなる中、企業が持続的に事業を続けていくためには経営者自身の自己変革が重要になる。また、個社単独での努力が限界を迎える中、地域全体でリソースを共有し、地域と産業の持続可能性を高めていく視点と、それを支える支援機関の役割も問われている。

地域の中小企業が直面する厳しい状況をどう乗り越え、地域社会全体でどのような支援システムを構築すべきか。全国の中小企業支援を牽引する日本商工会議所・東京商工会議所(以下、日商・東商)労働委員長の小山田隆氏と、地域経済を支える中小企業の変革について議論する。

地方経済と中小企業経営の今

坂本:リクルートワークス研究所では2023年に、労働供給制約社会の到来を予測するシミュレーションを公表しました。今回のプロジェクトでは、そうした厳しい労働市場の環境下で中小企業がいかに人材を定着させ、業務を改革していくべきかをまとめたマニュアルを策定いたしました。

日商・東商におかれましても「これからの労働政策に関する懇談会」の開催や「『少数精鋭』×『地域共創』で人手不足を乗り越える」レポートの発出などを通じて、この問題に積極的に取り組まれています。小山田さんは全国各地の商工会議所や中小企業を日々支援される中で、現在の地方経済を取り巻く環境をどのようにご覧になっていますでしょうか。

小山田:リクルートワークス研究所における労働供給制約に関するシミュレーションレポートは、私どもでも大きなインパクトを持って受け止めさせていただきました。日商・東商の労働委員会で2023年に有識者や中小企業の皆様による「これからの労働政策に関する懇談会」を立ち上げたのも、あのデータを起点に今後の労働市場の見通しとそれに対する我々の主体的・能動的な取り組みのあり方について議論を深めたいと考えたのが契機になりました。

そこで共通の認識となったのは、今私たちが直面している人手不足は構造的なものであり、今後ますます大変になってくるだろうということです。国立社会保障・人口問題研究所の中位推計によれば、2100年の日本の人口は6000万人にまで減少し、高齢化比率は4割に達すると見込まれています。すると65歳未満の人口は3000万人台半ば程度となり、これは明治維新の頃の人口とほぼ同じ水準です。日本の人口は明治維新以降、約120年かけて1億2000万人台に達し、これから70年前後でほぼ半減すると想定されており、それが働き手・担い手の需給構造に与える影響は計り知れず、未曾有の労働供給制約社会が到来するということです。

坂本:日本全体を見ても非常に厳しい予測ですが、特に地方においてはその影響がより先鋭化して表れていますね。

小山田:地方においては、単に出生率が下がっているだけでなく、都市圏、特に首都圏(埼玉、千葉、東京、神奈川)への人口移動に拍車がかかっています。たとえば、地方から首都圏への20~24歳の転入超過数の推移を見ると2024年には8万3000人を超える規模に達しており、年々増加しています。若者から見て、キャリア形成の機会や処遇、働き方などの面で地域に魅力的な仕事がないと感じられてしまう、あるいは東京と地方ではカルチャーギャップがあるなど理由はさまざまですが、人材流出が止まりません。

小山田 隆氏足元では、最低賃金もかなり上がってきており、賃上げ圧力も高まっています。大企業は労働分配率から見てまだ余力がありますが、中小企業の労働分配率はすでに7~8割に達しており、地方全体が厳しい状況にある中で、多くの中小企業は人材を引き留めるための防衛的賃上げを行わざるを得ず、かなり背伸びをして頑張っているというのが実態だと思います。これをいつまで続けることができるか、将来的な不透明感も高まっています。

下りのエスカレーターを駆け上がるために、現場の経営力が試される局面に

坂本:多くの地方部では全従業員に占める中小企業の雇用の割合が9割を超えているなど、中小企業の活動が地域経済に与える影響の大きさもご指摘されています。それだけに、中小企業の体力が失われることは、医療、介護、運輸、建設といった地域社会の維持に不可欠なエッセンシャルサービスの喪失にも直結します。

小山田:以前の日本は、大きく成長する中で、人口も増え労働力の制約もあまりなかったので、需要があればそれを供給できるという、いわば上りのエスカレーターに乗っていたような感じだったと思います。しかし今はそれが逆になり、人口が減り、労働供給制約が強まる下りのエスカレーターの中にいます。この中で経済をうまく回していくためにはそうした下りのエスカレーターを駆け上がらなければならない厳しい現実があります。

そのため、経営者の経営力が今改めて問われています。限られた人員や資源の中で、事業の重点化、業務の見直し、外部支援の活用に踏み出せるかどうかによって、企業の持続可能性に差が出やすくなっていると感じます。経営者の自己変革に向けた覚悟が強く求められているのです。

坂本:私たちは、環境の変化に合わせて事業をゼロベースで見直すことや、採用ありきで考えるのではなく少ない人手でサービスを提供していくための考え方を示すマニュアルのほか、廃業や譲渡を行った経営者の経験に基づくレポートも公表しています。小山田さんはこういった提言についてどのように受け止められたでしょうか。

小山田:マニュアルとレポートを拝見して、私どもと問題意識が似ていると感じました。また、経営の出口の部分については、商工会議所という立場ですと事業譲渡のような形はわかりやすく、いろいろな支援も行っているのですが、廃業に向けて円滑に事業をたたむというところまではなかなか難しいのが実情です。ただ、こうした発想もこれからは必要なのだろうとレポートを拝見して感じます。

事業をたたむというのは一見、消極的なものに聞こえがちですが、そのリソースの継承が地域でしっかりと行われれば、それは経営リソースを地域に返して、地域でもっとうまく活用してもらうためのプロセスだと捉えることもできるからです。新しいものを生み出し、地域が活性化する新陳代謝の契機にもなるということで、こうした発想を持って地方の厳しい状況を打開していくアプローチは非常に大事なことだと思います。

持続的に成長する企業に共通する4つのポイント

リクルートワークス研究所 主任研究員 坂本貴志坂本:物価の上昇だけでなく、長年続いた低金利環境から金利も上がり始めるなど、これまでのビジネスをそのままやっていけばいいという状況も変わり始めています。実際にこうした厳しい環境にあっても、持続的に成長している中小企業にはどのような共通のパターンがあるのでしょうか。

小山田:私どもでも、しっかりとした経営をされている会社の事例を分析して事例集にまとめています。そこから見えてきた成功している企業の共通点には、大きく4つのポイントがあります。これはリクルートワークス研究所のレポートとも重なる部分ですね。

まず1点目は、経営者が強いリーダーシップを持った上で、自社がやるべきコア業務への集中を徹底的に行っているということです。自社がやるべきことは何なのかをはっきりさせて、メリハリをものすごくつけている。たとえば、広告デザイン業界の会社であれば、社員は広告デザインに直接携わる仕事をやりたいと思って入ってきているわけですよね。そうした企業の中には社内の人材がコア業務に力を注げるよう、総務や経理などの間接業務については外部の専門家やアウトソーシングをうまく活用し、外出しできる体制を作っている会社もあります。

2点目は、経営者自らが現場と徹底的に対話しているということです。自分なりの経営哲学や経営方針をしっかり社員に浸透させるために、コミュニケーションを密にとっている。会社規模にかかわらず忙しくてあまり現場に行けない社長もいらっしゃるのですが、うまくいっているところは社長が足しげく現場に通い、徹底した対話を行っています。

3点目は、デジタルを積極的に活用しているという点です。間接部門のデジタル化はもちろん、受付の電話を全自動にするといった省人化から、本業の攻めの施策でもデジタル化をどんどん進め、またさらにデジタル化により生成されるデータをうまく使って売り上げや収益の増加を図っている会社も数多くあります。

そして4点目は、自分たちの経営資源には限りがあることをよく認識した上で、各種の公的支援や外部のリソースを効果的に活用しているということです。ある会社の社長は、毎朝ネットで自治体の支援策や補助金の最新情報をチェックして、そうした公的支援を余すところなく使うとおっしゃっていました。商工会議所などの外部支援を積極的に活用して、持続的な成長や自己変革を実現されています。

インフレや賃上げ圧力が変革の気づきに

坂本:経営者の方々に危機意識を持って経営マインドを変えていただく、あるいは火をつけるというのは非常に難しいことだと感じます。しかし、現在のデフレからインフレへの転換、そして物価や賃金、金利の上昇という大きな環境変化は、これまでのやり方を見直すためのきっかけにもなり得ますね。

小山田:経営者が「これじゃダメだ」と思って、変革に向けてこうしたいとその方向がはっきりすれば、我々も経営指導員などを通じて、客観的なデータを示しながらいくらでもサポートができます。ただ、その社長の心にどう火をつけるか、危機意識を持ってもらうかが一番難しいところです。これまでは、ずっとじわじわと環境が悪化していくような状況だったので、なかなか踏ん切りが付けられないでいる企業も多かったと思います。

しかし、現在のように、構造的な人手不足の中で、かなり明確に原材料価格が上がり、賃金が上がり、金利も上がってくるというのは、多くの経営者にとって、覚悟を決めて、踏ん切りをつけざるを得ない状況にあるといえます。今までのような経営じゃ成り立たなくなるという瀬戸際に来ているということですが、これは逆に捉えれば変革のチャンスともいえるのではないでしょうか。本気で自己変革に取り組むか、そうでなければ円滑に事業をたたむか、という選択を突きつけられているわけです。こうしたモメンタムが社会全体で強くなっていけば、経営者の皆さんもそこに思いを至らせて、自己変革について真剣に考え、取り組んでいくようになるのではないかと期待しています。

【プロフィール】小山田 隆氏
日本商工会議所・東京商工会議所 労働委員長
1979年東京大学経済学部卒業、三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行。2014年副頭取、2015年より三菱UFJフィナンシャル・グループ副社長兼務、2016年頭取就任。2017年から特別顧問。金融界のトップとして培った卓越した経営視点を活かし、現在は日本商工会議所・東京商工会議所の労働委員長として、日本の労働政策のグランドデザイン策定をリード。2025年4⽉からは厚生労働大臣の諮問機関である労働政策審議会の委員も務める。

坂本 貴志

一橋大学国際公共政策大学院公共経済専攻修了後、厚生労働省入省。社会保障制度の企画立案業務などに従事した後、内閣府にて官庁エコノミストとして「月例経済報告」の作成や「経済財政白書」の執筆に取り組む。三菱総合研究所にて海外経済担当のエコノミストを務めた後、2017年10月よりリクルートワークス研究所に参画。

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