緩やかなつながりのなかでの主体的な生き方

コレクティブハウジング社 宮前 眞理子 氏・狩野 三枝 氏・宮本 諭 氏

2026年01月22日

コレクティブハウジングは、個々のプライベートな空間を持ちながら、共用スペースを利用して共同生活を営む新しい住まい方である※1。それぞれが独立した専用の住居とみんなで使ういくつかの共用スペースを持ち、生活の一部を共同化する。自分や家族の生活は自立しつつも、血縁にこだわらない人間関係のもとで形成されるつながりについて、特定非営利活動法人コレクティブハウジング社の宮前眞理子氏、狩野三枝氏、宮本諭氏にお話を伺いました。

※1)以下、「コレクティブハウジング」は、住まい方の定義・概念を表すときに、「コレクティブハウス」は実際の住まい・建物を表すときに用います。

住まいのルールは居住者が皆で決める

宮前眞理子氏・狩野三枝氏
宮前眞理子氏(左)と狩野三枝氏(右)

――共同生活を行う上で、居住者の方々には必ず役割や義務が求められるのでしょうか。

狩野:居住者組合の会則には「参加と協働の義務」があり、コモンミール※2のクッキング当番や掃除当番、定例会の司会といったことは、お互いに協力してみんなで進めることになっています。ほかにも、自分たちでどのような役割が必要なのかを話し合ったり、自分は何をするかを決めたりしています。ここで言う「協働の義務」とは、強制されて従ったり、受け身で行ったりするものではなく、日常の暮らしを共同で作るというコレクティブハウスならではの関係性を維持していくためのものだといえます。

宮前:役割やルールは話し合いで決めますが、柔軟に運用します。例えば掃除当番も、忙しければ「今週は難しいので、翌週と交替してもらえませんか」と次の当番の人にお願いしてやってもらったりします。このように自分たちで柔軟に決めているところが窮屈さのない最大の理由です。ルールも、合わなければ話し合ってどんどん変えていきます。今いる人が最適で快適であるように、という考え方なんです。

狩野:もっと言えば、役割があるからこそ自分の居場所を見出しやすくなります。居住者同士で調整したり、日々のなかで挑戦したりすることで、それぞれの居場所を作っていくのです。

※2)コモンミール…居住者が持ち回りで食事を作り、運営する仕組み。居住者の役割の一つとして、月に1回程度のコモンミールづくりがある。

共通の目的を持つ人同士の暮らしがもたらす、ほどよい距離感

――コレクティブハウスでの暮らしは、単身者、特に30代から50代の働き盛りの方々にとって、どのような価値や安心感をもたらしているのでしょうか。

宮前:生活のなかで何気ないやり取りが減ると、自分の世界に閉じやすくなります。コレクティブハウスでは誰かから「ちゃんとできてるよ」と承認されたり、「ありがとう」と感謝されたりすることが多く、それが自信や気持ちを支える大きな部分を担っていると思います。

狩野:単身の入居者は圧倒的に女性が多いのですが、背景にはコロナ禍で孤立し不安を感じた方が増えたことがあります。入居者の方々は、仕事の関係性だけで家に寝に帰るだけの暮らしではない、身近なつながりを作ることに関心を持って入居される方が多いです。特に、コレクティブハウジングが持つ「自分の意見が全体に影響を与え、何かを変えられるという場」という信頼感は、単身者にとって大きな価値なのだと思います。

――家族や地域コミュニティでは難しい、コレクティブハウスならではの距離感や、お互いを思いやる関係性について、具体的な例を挙げていただけますか。

宮本:例えば、東日本大震災の際に、子育て中の人の帰りが遅くなるだろうという予測のもとに、普段からたまに保育園のお迎えを代わっていた居住者が進んで保育園に子供を迎えに行ったことがありました。誰かがインフルエンザなどにかかった際には、必要なものを代わりに買ってきて玄関先に置いておくといったサポートをお互い自然にやっています。

狩野:コレクティブハウスでは、お互いのことを気にかけることが当たり前に行われています。居住者の友達が泊まりに来ることもできますが、居住者同士は全員知り合いなので、知らない人がいると驚いてしまいます。そのため、誰かが来る場合には、お互い事前に知らせていたりします。

宮前:しばらく留守にするときも、なるべく事前に伝え合っています。お互いを知り気に掛けているからこそ、しばらくいなければ心配も生じます。そうしたことがないように、普段は必要以上に踏み込まないけれど、お互いの気持ちを考えて知らせるというやり方が浸透しているのです。

宮本:この暮らしは、居住者が仲良しだからできているのではなく、居住者がコレクティブハウスの運営をともにしている仲間であり、共通の目的を持っているからうまくいくのだと思っています。お互いが会う場所は共有スペースのみで、お互いの居住スペースに立ち入らないという自然な線引きがしっかりできていることも、モヤモヤするような人間関係が起こらない理由です。

共有スペースが単身世帯や核家族の機能を補う

――ご家族の機能の一部を、コレクティブハウスが担ったり補完したりしていると感じる瞬間はありますか。

宮本:あると思います。私は18年間コレクティブハウスに住んでいますが、うちの子供の誕生日会はみんなでやってもらい、一人暮らしの人もケーキを食べに来てくれます。コモンミールがあるので、私が突然仕事の都合で晩御飯を食べられなくなっても、子供や妻は誰かと楽しく食べている。出張しているときも、安否を確認するために夜連絡したりしなくても大丈夫という安心感があります。家族の機能をフラットに仲間として担ってくれている感じです。

狩野:コレクティブハウスに住んでいると、子供が家のピンポンを押して折り紙をプレゼントしてくれるといったやり取りが生まれます。子供は知っている人がいることで安心できるし、単身の居住者にとっても何げないつながりが生まれる関係ができます。

宮前:踏み込みすぎないけれど、助け合うコレクティブハウスの人間関係は、自立した人として認め合うことによって成立しているといえます。何年もかけて関係性を築き、お互い育っていく場として、コレクティブハウスは役割を果たしているのだと思います。

誰かに頼られることが居心地の良さをつくる

――コレクティブハウスでの生活やそこで育まれる多様な関係性が、「働くこと」や「家族形成」の選択に対して、どのような影響を与えていると感じますか。

宮本:コレクティブハウスでの暮らし方をそのまま、自分の会社に応用されている方もいらっしゃいます。フラットな関係性のチームを作り、みんなが主体的に動けるようにする、といったことです。また、さまざまな職業の人がいることや、転職していく様子などを見ることで世の中の動きも垣間見えます。

宮前:コレクティブハウスに住んでいると、たとえ自分が遅くまで残業することになっても、家族はコモンミールで他の人たちと楽しく食事をしていると思えるので、心理的負担が減ります。もし単身赴任になったとしても、コミュニティのなかに家族を残すのと、家族だけを残して転勤するのでは、行く方も残される方も安心感が違います。

狩野:居住者が高齢になり、他の居住者に負担があるのではないかといった不安が出てきたときには、ヘルパーさんに来てもらうこともできます。そうすることで、コレクティブハウスの良さであるフラットな関係を維持しつつ、年齢を重ねても住み続けることができるんです。ご高齢の方の存在は、若い人たちにとっても、困ったときにすぐそばで相談できる相手、話し相手というありがたい存在です。さまざまな年齢層の方がいるので、若い人にとっては、将来を想像したり、そこに向けての準備を考えたりすることができます。こうした面は、ある種家族に近い部分も有しているところだと思います。

緩やかなつながりのなかで主体的な生き方を見つける

――これから、人々の「つながり」や「関係性」はどのように変わっていくと思われますか。また、コレクティブハウスが果たすべき役割はどのような点にあるでしょうか。

狩野:コレクティブハウスではさまざまなことを関係性のなかで解決してきていますので、暗黙のうちに「家族でなければできないことだ」と思われていることが、意外とそうではないことが分かります。例えば、居住者が病院から、「家族の身元保証がなければ入院させられない」と言われて、困ったことがありました。でも居住者が知識を持ち寄り調べることで、解決策を見つけたこともありました。

宮本:お互いにいつでも助け合えるのは、同じ建物のなかで暮らし、毎月定例会に出るなど顔を合わせる機会があるからです。お互いのことが想像できる程度に知っていることが重要なんです。そして、この「お互いを想像できる関係性」があることで、居住者は、認知症や突然死を、明日は我が身と考えることができるし、関係性のなかで何とかやっていけそうという感覚を持てるのではないかと思います。

宮前:私たちは、医療従事者ではないので、薬を飲ませることはできませんが、薬飲んだ?と尋ねることはできます。そうしたつながりや思いやりが、このコミュニティの力です。みんなが主体的に動くことが前提のあり方、緩やかな共通の目的を持って自分も貢献するという考え方がもっと広がることで、働くことへの考え方も、家族とは何かについての考え方も変わっていくのではないかと思います。

■お話を伺った人

宮前 眞理子(みやまえ・まりこ) 氏
コレクティブハウジング社理事/一級建築士
1951年生まれ。建築・都市計画に25年携わり、2000年NPO法人コレクティブハウジング社(CHC)設立に参画。日本初の「かんかん森」などのプロジェクトマネジャーを歴任。住民と事業主の連携による主体的・創造的な暮らしの仕組みづくりを提唱し、東京造形大学、CHCの講座等での講義を通じて教育・啓発にも長年尽力している。共著:『コレクティブハウジングで暮らそう―成熟社会のライフスタイルと住まいの選択』ほか

狩野 三枝(かりの・みえ) 氏
コレクティブハウジング社理事/東京造形大学非常勤講師
ユーザー参加型の建築設計やまちづくりの現場を経て、2000年CHC設立に参画。新規事業開発や既存ハウスの運営支援を通じ、住まい手主体のコミュニティ運営を追求している。また、大学でコミュニティデザインの授業運営、西荻窪にてまちづくり事業の住民協同運営を行う他、2025年パーマカルチャーデザインコースを修了し、活動の幅を広げている。共著:『参加のデザイン道具箱』『参加するまちづくり』ほか

宮本 諭(みやもと・さとし) 氏
コレクティブハウジング社理事
2006年参画。自らコレクティブハウスに暮らし、地域活動にも深く関わる中で「重層的な人間関係がもたらす豊かさ」を実感。居住者組合の運営と市民活動支援の知見を活かし、全国の自治体やNPOの自律的な運営を支援。個人の主体的な意思を起点とした「自治の形づくり」に取り組む。立教大学大学院社会デザイン研究科修了。
共著:『社会デザインをひらく』ほか

聞き手:武藤久美子石川ルチア
執筆:武藤久美子

武藤 久美子

株式会社リクルートマネジメントソリューションズ エグゼクティブコンサルタント(現職)。2005年同社に入社し、組織・人事のコンサルタントとしてこれまで150社以上を担当。「個と組織を生かす」風土・しくみづくりを手掛ける。専門領域は、働き方改革、ダイバーシティ&インクルージョン、評価・報酬制度、組織開発、小売・サービス業の人材の活躍など。働き方改革やリモートワークなどのコンサルティングにおいて、クライアントの業界の先進事例をつくりだしている。2022年よりリクルートワークス研究所に参画。早稲田大学大学院修了(経営学)。社会保険労務士。

関連する記事