ルームシェアにみる「心地よい関係性」のヒント

フリーライター 藤谷 千明 氏

2026年02月05日

自身のルームシェア生活を描いた『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』(幻冬舎)が人気のフリーライターの藤谷千明氏。3人の同居人の皆さんとのルームシェア生活も8年目となっています。ルームシェアという暮らし方から見えてくる「つながり」や「心地よい関係性」についてお話を伺いました。

ルームシェアが長く続く鍵は、目的の一致

ChiakiFujitani
藤谷千明氏

――当初、ルームシェアを始めるに当たって、最も重視したことは何でしたか。

第1に優先したかったのは、純粋に生活コストを下げることでした。都心は家賃が高いですが、都心から離れると、私のような都内での取材の多いフリーランスのライターにとっては仕事をする上で移動コストが高くなってしまいます。ルームシェアによって都心からアクセスの良い場所に、相場より低い家賃で住むことができます。光熱費やインターネット回線などの通信費も4人で分割できるので、1人当たりのコストが下がります。生活コストが下がるということは、自分の収入が多少下がっても現在の生活を続けることができるという安心感にもつながっていると感じます。

私たち4人は、在宅の個人事業主が2人、会社員が2人という構成です。会社員の2人の通勤しやすさは、物件選びで考慮した部分です。この物件に住み替えたことで通勤時間がぐっと減り、働きやすくなっているといいます。仕事や生活スタイルはバラバラの4人ですが、ルームシェアが続いているのは「生活コストを下げて、快適に暮らす」という目的が一致していたことが、最も大きな理由だと感じています。

――生活を快適に回すという目的を共有しているとはいえ、4人という人数での共同生活で、価値観や生活習慣の不一致による問題は生じないのでしょうか。快適な生活を維持するためにどのようなすり合わせをしているのでしょうか。

著書のなかでも書いたのですが、同居人とは一緒に暮らす前までは、SNSを通してオンラインでは交流していたものの、対面するのは年に1~2回程度の関係だった人もいます。同居人の条件をはっきり決めていたわけではなかったのですが、どんなに親しい友人でも、意見が食い違ったときに話し合いができない人は難しい。なんといいますか、純粋な仲の良さよりは「話せば分かる人」と暮らしたいと思っていました。私たちの共通点は「オタクであること」ですが、オタク的な言語化能力の高さは、人にきちんと伝える力でもあり、ひいては「話せば分かる人」につながっているのかもしれません。

共同生活はプロジェクト。「幸せ」を軸にしない

――生活を円滑に回すための具体的な「ルール」「ツール」はありますか。特に工夫されている点などがあればお伺いしたいです。

ルームシェアを始めたばかりの頃は、いわゆる「報・連・相」がうまくいっていない時期がありました。例えば、「冷蔵庫にこの食材がないな」と思ったら、それぞれが「気を利かせて」買ってきて、結果的にダブってしまうだとか。そこで、冷蔵庫に「冷蔵庫にあるもの」「冷凍庫にあるもの」「今ないもの」「買うもの」などといった項目に分けて、食材名を書いたマグネットを貼るようにしたところ、解決しました。

また、家事についても同様で、同居人が昨日掃除をしてくれていたことに気づかずに今日また同じところを掃除した、といったことが発生しました。このときも、ToDoアプリを使用することで、掃除などの家事タスクを可視化しました。

こうした事例からも分かるように、「生活コストを下げて、快適に暮らす」ためにどうしたらいいかを、4人で話し合いを重ねた結果として、現在までルームシェア生活が続いているのだと思います。

――生活をプロジェクト化しているのですね。それは面白いです。

確かに、「プロジェクトとして円滑」であることが、長続きしている要因かもしれないですね。仕組みづくりがうまくいっているといいますか。ルームシェアを始めた頃は、「女性同士だと細かいことでトラブルになったりするから長続きしないのでは」みたいなことを言われることがあったのですが、最近では「女性同士だと察しが良いでしょうし、お互いにケアできるからからうまくいくのですね」と反対のことを言われたりします。

同じように過ごしているのに、8年も経過すると周囲からの見られ方が変わるというのは興味深いです。「女性だから」「仲が良いから」というよりは、目的に照らしてその都度一つずつ快適に暮らすための取り組みをしてきたからこそ今があるのだと思っています。そのための環境づくりに必要なツール、例えば、SNSアプリでのメッセージのやり取りやToDoアプリがなければ、この生活は成立しないでしょう。ただ、会社員にせよ個人事業主にせよ、男性に比べて女性の方が平均的な収入が低い傾向があるため、「生活コストを下げる」という目的だからこそ女性が集まりやすかったのかもしれません。

課題が発生すると、その都度話し合いをすることで解決してきました。家事も、スムーズに進める、快適に暮らすという目的に照らせば、一つのプロジェクトといえるのかもしれません。家と生活というプロジェクトを円滑に回すことをそれぞれが意識してタスクを進めていることが、うまくいっているポイントかもしれません。

――ルームシェアを続けるなかで感じた良さやご自身の新たな一面はありますか

人と暮らすことは、お互いの生活が否が応でも可視化される部分はありますよね。得意なことや気づきやすい点が人によって異なることの面白さもあります。

私はかなりだらしない方なので、「ちゃんとしよう」と思えることは、いいことの一つですね。例えば、これは少し恥ずかしい話なのですが、私はこの年齢になるまで、「カーテンは定期的に洗濯するものである」「床のワックスは定期的に剥がして塗り直すものである」ということを知りませんでした。暮らしのなかの「きちんとする部分」を学んでいるところもありますね。また、そういう部分をストレスに感じるよりも、「やってみたら気分がいいな」と思えることも多いので、それは「自身の新たな一面」かもしれません。

――ルームシェアのような血縁関係のない人との共同生活の利点はどこにあるのでしょうか。特に家族だと「ドライな距離感」を保つことが難しい、あるいはルームシェアは「いつでも解散できる関係性」だからこそ、共同生活がうまくいくという側面があるのでしょうか。

私たちは家族ではないからこそ、ドライな距離感でいられる、という利点はあると思います。法的に保証されていない関係というデメリットはありますが、反対に法的手続きを踏まなくても解散できることをメリットとして捉えることもできます。だからこそ、全員の快適な生活のために改善点を模索しているともいえます。もっとも、婚姻関係にある夫婦でも私たちと似たような価値観で暮らしている人たちはいらっしゃるようで、ネット上にある私の本の感想を見ていると、「ウチは結婚してる夫婦だけど、似たような距離感で楽しくやっている」というものもありました。ただ、夫婦間で目的が一致しているケースは少なくないと思いますが、これが親や子供を含めた家族になると難しいというか、漠然とした「家族の幸せ」を目的にすると、それぞれにズレが生じてしまう。それが良さにつながる場合もありますけどね。私たちの生活は、人間関係構築の上に漠然とした「幸せ」を乗せていないからこそ、プロジェクトとしてうまく回っているのだと感じています。

今の問題を解決できているという実感が、将来の漠然とした不安を減らす

――ニュースでも孤独死が取り上げられたり、「孤独死が怖い」という不安を抱いたりする人も少なくないようです。
ルームシェア生活や、介護の資格を取得した経験は、将来への不安に対してどのような選択肢を与えてくれましたか。また、今後、人々のつながりや関係性はどのようになっていくと思いますか。

「孤独死」が社会問題としてメディアで語られるとき、その背景にある不安の正体は一人ひとり異なるはずです。しかし、どうしてもセンセーショナルな事例ばかりが目に付きます。そして今とは地続きに感じられない何十年後かの遠い将来のことだからこそ、漠然とした不安を膨らませ、「孤独で惨めな老後」を想像して悲観的になってしまう。私自身、そういった経験があります。もちろん、現在も将来への不安がゼロになったわけではありませんが。家族以外の他者と暮らすルームシェアという選択肢を実際に選んでみたことで、「人生にはさまざまなやり方がある」という実感を得たことは不安を軽減させてくれたと思います。

また、ルームシェアの経験を本にして出版したことで、取材などで「単身女性の将来」について尋ねられたことをきっかけに、5年前に介護の資格を取得しました。現在は文筆業と並行して訪問介護ヘルパーの仕事もしています。ルームシェア生活もそうですが、他者の生活に関わることには、多くの学びがあります。

人々のつながりや関係性……。当然ですが、ルームシェアのように、家族や血縁でない人間との生活をしていたとしても、家族や血縁者が消えてなくなるわけではありません。単身世帯の割合が増えていくなかで、人々のつながりや関係性もおのずと変化してくるのではないでしょうか。そのときどきに合った選択肢を自分たちなりに作っていきたいと考えています。

■お話を伺った人

藤谷 千明(ふじたに・ちあき) 氏
フリーライター

1981年、山口県生まれ。工業高校を卒業後、自衛隊に入隊。その後職を転々とし、フリーランスのライターに。著書に『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』(幻冬舎)、『推し問答!』(東京ニュース通信社)、共著に『すべての道はV系へ通ず。』(シンコーミュージック)、『バンギャルちゃんの老後』(ホーム社) など。

聞き手:武藤久美子大嶋寧子石川ルチア
執筆:武藤久美子

武藤 久美子

株式会社リクルートマネジメントソリューションズ エグゼクティブコンサルタント(現職)。2005年同社に入社し、組織・人事のコンサルタントとしてこれまで150社以上を担当。「個と組織を生かす」風土・しくみづくりを手掛ける。専門領域は、働き方改革、ダイバーシティ&インクルージョン、評価・報酬制度、組織開発、小売・サービス業の人材の活躍など。働き方改革やリモートワークなどのコンサルティングにおいて、クライアントの業界の先進事例をつくりだしている。2022年よりリクルートワークス研究所に参画。早稲田大学大学院修了(経営学)。社会保険労務士。

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