「叶え合う支援」が紡ぐ生成的なつながり

久留米AU-formal 実行委員会 中村 路子 氏・高橋 米彦 氏/久留米市役所 松石 克己 氏

2026年02月19日

地域のつながりが希薄化したと言われる今、私たちはどうしたら新たな関係性を作ることができるのでしょうか。久留米市は、福祉サービスを活かして課題解決を行う行政の支援と、住民同士の支え合いの力を重ね合わせて、「久留米らしい地域共生社会」を目指しています。この取り組みに市民側として参画する久留米AU-formal(アウフォーマル)実行委員会の代表である中村路子氏、実行委員の高橋米彦氏、久留米市役所地域福祉課の松石克己氏の3人に、取り組みが生み出す人と人の新たなつながりについて聞きました。

久留米市が長年取り組む協働のまちづくり

高橋米彦氏、中村路子氏、松石克己氏
(左から)高橋米彦氏、中村路子氏、松石克己氏

――久留米市で「地域共生社会」づくりに取り組み始めたきっかけや、現在のAU-formalとの協働に至るまでの流れについて教えていただけますか。

松石:久留米市は以前から、市民と協働してまちづくりを行おうという「協働のまちづくり」を掲げており、福祉分野においても地域住民や関係団体と協働しながら地域福祉を進めてきています。2020年の社会福祉法改正では、地域共生社会の実現に向けた取り組みについて自治体の努力義務が盛り込まれましたが、その動きに少し先んじて2017年度より社会福祉法人・市民団体等がコンソーシアムを形成し、国の事業を活用して、意見交換を進める等の取り組みを始めてきたといえます。

このような動きと連動するように久留米市では、2020年度から、市民団体の方々を中心に「どういう形が地域福祉なのか」について検討されてきました。2022年にその中心となっているメンバーであった方々が所属する多様な市民活動団体で活動する個人が集まり、結成された団体がAU-formal実行委員会です。

こうしたなか2021年より、複雑化・複合化した支援ニーズに対応するための包括的な支援体制を市町村が整備できるよう、国が「重層的支援体制整備事業※1」を創設しました。これを受けて久留米市でも初年度より事業を開始して今に至ります。この事業の一角として、地域の社会資源を活用して既存の支援では対応できない個人や世帯と社会のつながりを作ったり、地域の支え合いや住民同士の関わりなどインフォーマルな力を支援に活かせる体制を作る事業を2024年度からはAU-formal実行委員会に委託し、地域福祉の実装に取り組んでいただいています。

※1)本人・世帯が有する複合的な課題を包括的に受け止め、継続的な伴走支援を行いつつ、適切に支援していくため、市町村による包括的な支援体制において、Ⅰ断らない相談支援、Ⅱ参加支援、Ⅲ地域づくりに向けた支援を一体的に実施していくこと(厚生労働省『包括的な支援体制の整備、重層的支援体制 整備事業の課題と今後の方向性について』P.3を編集)


――AU-formalは、久留米市における地域共生社会創造の一角を担われているのですね。そのなかで、AU-formalが特に大事にしていることを教えてください。

中村:AU-formal実行委員会が最初に行ったのは、「地域福祉とは何か」を考えることです。そのなかで、「地域福祉の新たな導線を作る」ことを大きな軸の1つに置きました。暮らしのなかで何か困難があったときに、市役所に相談するだけでなくお隣さんに相談しに行ってもいい、市役所に行くのは困ったときだけでなくてもいい、といった形で新たな導線を切り開いていきたいと皆で話し合いました。

また、福祉というと、弱い人を助けるとか、困窮者といった特定のカテゴリーのイメージが強いかもしれませんが、久留米市では地域福祉を「すべての人々の暮らし」であると捉えています。何かしら生きづらさを持っている人たちだけではなく、全ての人に地域福祉は必要とされていることを前提にしています。

AU-formalが非常に大事にしているのが、「叶え合う支援」という基本理念です。人はしばしば問題や課題に着目しがちです。でも「問題や課題」を裏返せば「願い」になります。AU-formalでは「問題や課題を解決する」という立場ではなく、「個人の願いや個人の可能性を実現する」というポジティブな立場を取ることで、皆がそれを叶えることに協力したくなるようにしています。この「叶え合う支援」という言葉をもとに、民間の市民団体や企業や市民が、参加のハードルが低い場や機会、居場所、つながりをいろいろ作り上げていくのが、AU-formalの活動です。

松石:久留米市は、5年に一度「地域福祉計画」を策定しており、そのなかでも、誰ひとり取りこぼさない社会を目指しています。これまで社会福祉協議会が中心となってやってきた地縁による地域づくりもありますが、AU-formal実行委員会は、注目が高まるテーマ型の福祉(子育て支援やSNSを活用した福祉など)に取り組んでいます。

ポジティブな願いが導く地域と働くことの可能性

――「叶え合う支援」についての印象的なエピソードを教えていただけますか。

高橋:長年自宅から出ることができなかった20代前半の男性がいました。このままではいけないと思ったものの、そのきっかけとなる地元の知人もいません。しかし彼は、AU-formalと連携した市民団体が提供する、誰でもフラッと立ち寄れる居場所に来てくれました。そこでコーヒーの袋詰めをするなか、たまたまその場にいたランニングが趣味の人と意気投合し、自分もマラソンに挑戦したいという希望を持つようになりました。

しかし、彼は長距離を走った経験も体力もありません。すると彼の話を聞いたAU-formalのメンバーが「みんなで応援しよう」と周囲の人たちに声をかけて、週に1回夜に、陸上競技場で練習を一緒にするようになりました。だいぶ走れるようになったときに、インフラ企業の協力も得て、街にマラソン会場を作ったんです。彼のために給水場やゴールテープを用意し、企業の社員の方も一緒に走り、ゴールには多くの人が出迎えて、声援を送りました。その経験は彼を勇気づけ、その後の福岡マラソンの完走にもつながっています。地域はこんな風につながりを通じて、人の願いを叶える力があると感じました。その彼は、今では「働きたい」という意欲を持つようになり、私の事業を手伝ってくれています。

――気軽に入っていける場や居場所をAU-formalが用意する。そこからは本人の意思に、周囲が次々に協力していき、やがて大きな成果を生む。素敵なお話ですね。今回関わってくれたインフラ企業の社員の皆さん側も、AU-formalの活動を通じて何かを得られていることがあるのでしょうか。

中村:その企業とは、2024年数回一緒にプロジェクトをしました。それらのプロジェクトを振り返る会があったのですが、若い女性社員の方が言われた言葉がすごく印象的でした。入社面接で「この企業に入って社会貢献をしていきたい」と話して採用されたそうです。彼女は会社を通じての地域貢献活動としてゴミ拾いなどに参加してきました。しかし、AU-formalのプロジェクトに携わって初めて、「面接でやりたいと宣言した社会貢献ができているのが、自分がした約束が果たせたようでとても嬉しい。この会社に入って本当に良かった」と話してくれました。社会貢献というと、例に出た会社主導のゴミ拾いなどが真っ先に思い浮かびますが、「一人ひとりの願いを企業として叶える」という導線ができたことに、大きな可能性を感じました。

また、別の若い男性社員が、AU-formalと会社との連携を担当している上司に、プライベートな相談をしたこともありました。これまで社内には、プライベートな相談をするような雰囲気はそこまでなかったようです。しかし人の願いを叶える活動を応援する雰囲気が会社全体にあることや、実際に多くの社員が取り組んでいることが、個人的な悩みを上司に相談しようと思うきっかけになったようです。

「叶え合う支援」が生むつながりの意味

――皆さんが作ってらっしゃるつながりの形というのは、かつては地域で持っていたものなのでしょうか。それとも新しいものなのでしょうか。

中村:地域のつながりについては、現在、3つの方向性があると思います。1つは、希薄化された地域のつながりを回復するために、かつてあったような地域の人たちが互いに助け合える関係性を取り戻そうとする方向性です。これは新しいものを生み出しているというよりも、失われてきたものの再生を目指すといえます。

2つ目は「叶え合う支援」を通じた、新たなつながりの創造という方向性です。「幸せになるためには課題や問題の解決が必要だ」という従来型の考えを、「互いの『願い』を実現しあうことでつながり、幸せになる」と捉え直したことで、活動の拠り所となる軸を持てました。地域共生社会を実現していく上で、一人ひとりの願いを叶えていこう、そこにみんなが関わりたくなるようにしよう、つながりを作る導線を増やそうという取り組みの方向性は、「叶え合う支援」という言葉があったから生まれたと思います。

そして3つ目は、時代の変化への対応に関わる方向性です。街の設計や組織のあり方は、長い時間をかけて今の形に落ち着いています。しかしともすると、「うちの地域のやり方はこうだから」という考えで固まり、新たに加わろうとする人が入っていきづらくなってしまいます。だから、AU-formalでは、誰でも入っていきやすい入口をさまざまに用意しています。つながり方やつながるきっかけのバリエーションを増やしたり、柔軟性を持って運営したりすることで、新しいつながりを築いているといえる部分です。

概念と活動の継続に向けて

――ここまで、AU-formalが作るインフォーマルな支え合いを中心に話を伺ってきましたが、自治体と民間が組んで行う良さはどこにあるのでしょうか。

松石:自治体は制度や仕組みを作ることが得意です。制度や仕組みにするから市民の皆さんに届けられることがたくさんあります。一方で、制度や仕組みにないことはなかなか実施することができません。だから民間の皆さんの行動力や一緒にやりたいという気持ちからくる自発的な動きと協働することが大事だと思っています。

私は民間の福祉施設から久留米市役所に転職しました。福祉の専門職として民間で働いていたとき、家族と疎遠になった人たちが地域で生活するにはどうしたらいいかを考えても、制度だけではどうにもならないと感じていました。

孤立を減らしていくための一つの理想像として「納豆のような地域」を描いています。一つひとつの粒はあるけれど、それぞれは細い糸でつながっている。混ぜたら固まりにもなるし、ふわっとしたつながりもできる。AU-formalとの協働は「納豆のような地域」を作る取り組みだと思います。

――AU-formalが作り上げた「叶え合う支援」の概念や活動を、今後どのように継続し、発展させていきたいとお考えでしょうか。

高橋:市から委託された事業は2026年度でいったん終わる予定です。どうやってこれを地域で継続できるのかを考えています。委託事業の終了までに、「新しい導線づくり」の形を作り上げたいです。まずは、これからも新しい導線の事例を作っていくことが大事でしょう。そして、AU-formalのような活動ができる拠点を作り、民間も行政も専門職も、みんなが交われるような場を作りたいと考えています。たくさんの小さな導線の積み重ねや、偶然や想いを大切にして、それをつなぎながら形にしていくのがAU-formalです。こうしたものはただ制度化しただけではやがて形骸化するでしょう。AU-formalの大事にしていることを守りつつ、それをいつも考えられるような場を残したいですね。

中村:私が市民団体として運営している子供食堂では、当初から「血縁のない大家族をつくる」ということを活動の軸にしています。家族に特段の問題があろうとなかろうと、今の世の中は、家族だけで子供たちの成長や働くことの継続を実現していくのが難しいと思っているからです。お母さんが30人いるとか、お兄ちゃんが25人いるとか、そういったことを常にできるような地域づくりを目指しています。

松石:久留米市としては、委託期間が残り1年しかありませんが、たくさんの導線や、AU-formal実行委員会の取り組みが、久留米市全体に広がっていけばいいなと思っています。そのためにも、私は、自分の強みを活かして地域づくりをやっていきたいです。協働しやすい仕組みや仕掛けを作り、AU-formal実行委員会のような取り組みを、実は自分が支えていたんだよと心のなかで言えるように尽力していきます。

■お話を伺った人

中村 路子(なかむら・みちこ) 氏
一般社団法人umau. 代表/合同会社visionAreal 共同代表
久留米市重層的支援体制整備参加支援事業AU-formal実行委員会 代表
22歳で結婚、出産を経て26歳でシングルマザーに。30歳でコワーキングスペース「Mellicore」を設立し、コミュニティカフェ運営やイベント企画を通じて地域づくりに携わる。2020年、母子家庭当事者団体の活動を背景に、「血縁のない大家族」を目指す拠点「実家よりも実家―じじっか―」を始動。現在は親子食堂や若者教育などへも活動を広げつつ、共生社会の実現に向けた「叶え合う支援」の地域スキーム構築に取り組んでいる。

髙橋 米彦(たかはし・よねひこ) 氏
合同会社Bottled Local 代表
福岡県久留米市出身。ボストン大学卒業後、松下電器産業(現パナソニック)にて海外向け液晶テレビの商品企画に従事。株式会社バルス(現Francfranc)での海外事業立ち上げ等を経て、2009年に髙橋株式会社へ入社。グループ各社の子会社代表や、人事、総務、財務等の責任者を歴任する。2023年、「持続可能な地域社会の実現」をテーマに独立。2025年にBottled Localを設立し、現在に至る。J.S.A.ソムリエ。

松石 克己(まついし・かつみ) 氏
久留米市役所 地域福祉課 地域福祉チーム 担当チームリーダー
日本福祉大学卒業後、福岡県内の障害者支援施設や救護施設にて約11年間勤務。救護施設在職中に東北福祉大学大学院へ進学し、「アルコール依存症者への福祉的援助実践」を研究する。福祉系大学の実習助手を経て、2011年に久留米市役所初の社会福祉士として入職。児童相談、子育て世代包括支援センターの設置、査察指導員等を歴任し、2024年4月より現職(地域福祉課地域福祉チーム担当チームリーダー)。社会福祉士、精神保健福祉士、介護支援専門員。

聞き手:武藤久美子石川ルチア
執筆:武藤久美子

武藤 久美子

株式会社リクルートマネジメントソリューションズ エグゼクティブコンサルタント(現職)。2005年同社に入社し、組織・人事のコンサルタントとしてこれまで150社以上を担当。「個と組織を生かす」風土・しくみづくりを手掛ける。専門領域は、働き方改革、ダイバーシティ&インクルージョン、評価・報酬制度、組織開発、小売・サービス業の人材の活躍など。働き方改革やリモートワークなどのコンサルティングにおいて、クライアントの業界の先進事例をつくりだしている。2022年よりリクルートワークス研究所に参画。早稲田大学大学院修了(経営学)。社会保険労務士。

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