開発途上国の子どもとの1対1の交流がつむぐもの
開発途上国の子ども(チャイルド)を支援する国際NGOワールド・ビジョン・ジャパン。マーケティング部で、チャイルドと支援者(チャイルド・スポンサー)の手紙の交流を支援する今村郁子氏と、広報を担当する德永美能里氏に、チャイルドとの交流を通じてチャイルド・スポンサーが何を感じ、得ているのかを聞きました。
地域全体の底上げを通じて子どもたちを支援

今村郁子氏(左)と德永美能里氏(右)
――ワールド・ビジョンが行っているチャイルド・スポンサーシップについて教えてください。
德永:ワールド・ビジョンは、世界約100カ国で活動している国際NGOで、子ども支援の団体です。チャイルド・スポンサーシップは、支援者からの寄付金によって行います。寄付は子どもに直接お金として渡されるのではなく、支援地域の全体を底上げするために使われます。具体的には、子どもたちが健やかに成長できるように、「教育」「保健・栄養」「水衛生」など5つのセクターで包括的に支えます。特徴的なのは「子どもの保護」で、子どもが守られて愛されていると実感できるように、暴力や虐待の予防と子どもの保護、家族関係の回復や、子どもが自分の考えや意見を表明できるような支援も含まれています。
――どのようなきっかけでチャイルド・スポンサーシップに参加する人が多いのでしょうか。
今村:ワールド・ビジョンの設立者は、「“何もかも”はできなくとも“何か”はきっとできる」という言葉を残しており、この言葉に惹かれて支援者になった方が多いです。もともと寄付したいという思いを持っていても、紛争や貧困など問題が大きすぎると無力感を感じてしまいます。そのときにこの言葉を知って「そのとおりだ」と思われるようです。
また、ご支援者自身の状況や想いと、ワールド・ビジョンの活動に接点を見出し、支援を開始された方も多いです。例えば、お子さんが大病を患い入院した経験をして、「日本に生まれたから治療を受けさせられたが、そうでない子どもたちもいるのではないか」と思うに至り、ワールド・ビジョンにたどり着いたという方がいます。独身の方で、自分は子どもを持つ予定はないが、次の世代のために何かしたいという思いで参加された方もいます。また、お子さんと話し合い、世界に視野を広げてほしいという思いから、寄付は親御さんが行い、チャイルドとの交流はお子さんが主体的に関わっているケースもあります。
1対1の交流が心をつなぐ「恩送り」
――寄付金は支援地域やプロジェクトに使われますが、1対1でのチャイルドと支援者の交流もできるそうですね。1対1の交流を可能とすることは団体として大変なことも多いと思います。それでもチャイルドとの交流を大切にしているのはなぜでしょうか。
今村:まず、仕組みについて紹介すると、チャイルドは、支援地域の子どものなかで、現地ワールド・ビジョンのスタッフがコミュニティとも相談しながら支援の優先順位などを踏まえて決定し、登録されます。支援者であるチャイルド・スポンサーに希望があれば、伺います。スタッフに任せてくださるチャイルド・スポンサーの方が大半ですが、これまで、国や性別などのご希望の他に、手紙を書ける年齢のチャイルド、自身のお子さんと年齢の近いチャイルドなどのご希望をいただいたケースはあります。ご紹介するチャイルドが決定し、チャイルド・スポンサーの方の「旅」がスタートします。チャイルド1人に対して、チャイルド・スポンサーも1人(1名義。団体・グループの場合もある)です。
チャイルド・スポンサーには、チャイルドからのビデオレターとあいさつの手紙などが届きます。また、私たちや現地スタッフが翻訳や手紙のお届けを支援することで、チャイルドとの手紙交流を継続している支援者も多くいます。加えて、現地に行って直接チャイルドと会う機会を持つことも可能です。年次報告書のような支援活動の全体報告はもちろん行っていますが、1対1の交流も、ワールド・ビジョンの設立当初から重視していました。これを継続するのはマンパワーなどの面で大変ですが、心と心のつながりが、チャイルド・スポンサーシップの醍醐味であり、とても大切なものと捉えています。
――チャイルド・スポンサーからの手紙を受け取ったチャイルドの反応や変化はいかがですか。
德永:チャイルドやその家族にとって、「遠くの誰かが私のことを思ってくれている」ということはとても嬉しいことです。チャイルドは、初めは「本当にチャイルド・スポンサーは存在するの?」と半信半疑のこともあります。しかし、手紙や写真を受け取ったり、時には訪問ツアーなどで来訪したチャイルド・スポンサーと対面したりして、「本当にいるんだ」と分かると、チャイルドもその家族もとても喜びます。誰かが大切に思い、支えてくれるというのは喜びであり、誇りになります。支援地に行くと、よく「私たちを忘れないでほしい」「覚えていてほしい」という声を耳にします。心の交流には意味があり、想いには力があると思っています。
今村:チャイルドが、手紙のなかで、「支援のおかげで学校に行けるようになった」と教えてくれたり、地域がどのように変わったかを書いてくれたりします。将来の夢を書くチャイルドも多いです。例えば、教師になって地域の子どもたちを教えたい、エンジニアになってコミュニティの井戸の修理をしたいといった夢です。チャイルド・スポンサーから受け取った温かい気持ちや実際の支援を、自分の生まれた地域や誰かの役に立つという形で、次の誰かに「恩送り」したいと思うようになるのです。
チャイルドはチャイルド・スポンサーの想いや、つながりといったものをしっかりと受け取っています。「私のことを愛してくれてありがとう」「あなたが私たちのためにしてくれたことを一生忘れません」といった言葉を、チャイルドは実際に手紙に書いています。
チャイルド・スポンサーもチャイルドからかけがえのないものを受け取る
――チャイルド・スポンサーは、チャイルドとの交流を通じてどのようなことを感じていらっしゃるのでしょうか。
今村:ある程度長い期間にわたり交流しているチャイルド・スポンサーは、チャイルドの成長する過程を見ています。チャイルドに宛てた手紙には、「写真を通してあなたの成長を知ることができて、あなたのことはまるで私の娘のように思っていました」「この15年間にあなたが送ってくれた写真や手紙は全て保管しています。ありがとう。全て私の宝物です」といったメッセージが書かれています。
また、あるご高齢の女性の方がチャイルドに宛てた手紙には、「学校を卒業しても勉強することを忘れないでください。勉強することで自分も周りも世界も幸せになれると信じています。自分のやりたいことを見つけていってください。遠いエチオピアの地のあなたに出会えて幸せでした」といった言葉がありました。この方は、戦時中に勉強できなかったご自身の経験から、支援を始めたそうです。チャイルド・スポンサーにとって、チャイルドは遠くの国にいるのだけれども、大切な家族の一員だと思っていることが、手紙を通して伝わってきます。支援者が集まるイベントを開催すると、集まった皆さんが自然と、自分のチャイルドの近況や嬉しかった出来事などを紹介し合って、温かい場になります。
個人的なことになりますが、私と夫はそれぞれチャイルド・スポンサーでもあります。先日、ベトナムに出張した際に夫のチャイルドに会いました。最終日は、みんなでハグして涙しながら別れを惜しみました。チャイルド・スポンサーの方々が現地に行くと、皆さん口をそろえて「自分が支援している側だと思っていたけれど、むしろ自分が元気をもらっている」と言いますし、私もそれを実感します。チャイルドとのつながりが、チャイルド・スポンサーにとっても大切なものになっているのが分かります。
――チャイルドとの交流は、支援者の仕事やご家族との関係性にも良い影響を与えていると思われますか。また、具体的なエピソードがあれば教えてください。
今村:定量的に調査をしたわけではないのですが、チャイルドとの交流は、チャイルド・スポンサーの方々の仕事やご家族との関係にも良い影響はあると思います。自分の働きで得た収入を、誰かの未来のために差し出すという行為は、日々の生活のなかに「自分も誰かの力になれている」という確かな意味づけを生み出しているように思います。
德永:企業・法人の皆さまにも、企業として、また、支社や部署、職場の有志でチャイルド・スポンサーとして支援に参加してくださっています。オフィスにチャイルドの写真や手紙を貼ったり、朝礼で話題にしてくださったりと、職場での共通の取り組みとして工夫して参加してくださっているケースもあります。また、ある会社を創業した方から、「事業を拡大していけば、支援できるチャイルドを増やせる。それが自分の仕事の目的だ」と伺ったことがあります。別の方から、チャイルドからの「あなたのことを思っています」「あなたのことをお祈りしています」と書いてある手紙を家に貼って、疲れて帰宅したときにその手紙を見て「頑張ろう」と思ったというお話も伺いました。また、チャイルド・スポンサーを通した国への関心が職業選択にもつながり、東南アジアで活躍できる仕事を選んだという若い方のお話も耳にしました。皆さまのお話を伺い、職業人としてのあり方にチャイルド・スポンサーシップを通した想いや出会いがつながっているという側面もあると実感しています。
チャイルドからの手紙や写真は家族で目に通しています、というお話も伺います。手紙をお子さんとご一緒に、また、お子さんが主体になって書かれ、お子さんが世界に関心を持つきっかけとしてくださっているケースもあります。チャイルドの存在を通して、それまで接点のなかった国や地域がぐっと身近な存在となり、家族のなかでの共通の話題になっているというお話を伺うと、チャイルド・スポンサーシップが、温かい思いやりやつながりが世代を超えて広がっていくきっかけになっていると感じ、とても嬉しいですね。
――今後、チャイルド・スポンサーシップを通じて、どのようなつながりや関係性を大切にしていきたいとお考えか、お聞かせください。
今村:チャイルド・スポンサーもチャイルドも、心の交流を通じて、互いに幸せを感じていると思います。今後もこの温かいつながりを大切に育みながら、その輪をもっと広げていけたらと思います。
■お話を伺った人
今村 郁子(いまむら・いくこ) 氏
マーケティング第2部サービス開発課 手紙・ボランティア連携チームリーダー
大学卒業後、民間企業勤務を経て2005年ワールド・ビジョン・ジャパン入団。新規支援者募集、企業担当、支援者サポート等を経て、現在は手紙・ボランティア連携チームのリーダーとして、支援地域の子どもたちと日本のチャイルド・スポンサーの手紙交流に寄り添い、その想いが自然に届く関係づくりを約130名のボランティアとともに支えている。
德永 美能里(とくなが・みのり) 氏
マーケティング第1部 コミュニケーション課 課長
大学卒業後、民間財団法人を経て、2002年ワールド・ビジョン・ジャパンに入団、新規支援者募集、アドボカシー(政策提言)を担当。海外在住を経て2014年に再入団、企業担当を経て、2021年5月より現職。「まずは知っていただく」ことから世界の子どもたちへの関心・支援の輪が広がることを願い、広報・グローバル教育活動を牽引している。
武藤 久美子
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ エグゼクティブコンサルタント(現職)。2005年同社に入社し、組織・人事のコンサルタントとしてこれまで150社以上を担当。「個と組織を生かす」風土・しくみづくりを手掛ける。専門領域は、働き方改革、ダイバーシティ&インクルージョン、評価・報酬制度、組織開発、小売・サービス業の人材の活躍など。働き方改革やリモートワークなどのコンサルティングにおいて、クライアントの業界の先進事例をつくりだしている。2022年よりリクルートワークス研究所に参画。早稲田大学大学院修了(経営学)。社会保険労務士。
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