米国企業の採用トレンド2022Oracle クリス・ハバリラ氏(タレント製品戦略担当副社長)

人材不足対策の鍵は、業務に必要なスキルの明確化と、幅広い労働力の活用

クリス・ハバリラ氏は、ADPのグローバルHRテクノロジー担当副社長や、Deloitte ConsultingのHCテクノロジーリサーチ& アドバイザリー担当副社長などを歴任後、2022年2月にOracleのタレント製品戦略担当副社長に就任した。企業の人材戦略やテクノロジーの活用に精通している同氏に、有識者としての立場から、退職者の再雇用や従業員の大量離職、テクノロジーの活用など、近年の傾向について話を伺った。

【Oracle】1977年設立、本社所在地はテキサス州。企業向けソフトウエアの開発・販売会社。世界175カ国で約43万社の企業に業績・予算管理、財務管理、人材管理、サプライチェーン管理などのクラウドアプリケーションやクラウドインフラストラクチャサービスを提供する。従業員数は13万3000人。

――採用の潮流についてお伺いします。米国では人材獲得競争の激化により、退職者を再雇用する企業が増えているそうですが、実際にこのような傾向は見られますか。

退職者の再雇用は間違いなく起こっており、今後も続くと思います。その原因は、採用難にあります。地域や業界によって差はありますが、人材不足、スキル不足、人手不足は、パンデミック以前から起きていました。パンデミック以降は、さらに加速しています。
パンデミックをきっかけに人々のマインドセットが大きく変わり、自身のキャリアを見直す従業員が増えています。ほかにもさまざまな影響があり、企業と従業員の関係性は大きく変化しました。企業は、顧客との関係性と同じように、退職した従業員とも関係性を維持する必要性を認識しています。人材不足が起きている今、退職者も含め、業務に必要なスキルや能力を持つさまざまな人材にアプローチして、会社の最新情報を伝える必要があります。

従業員の大量離職

――採用難に加えて、従業員が大量離職する「Great Resignation」が起きていると言われていますが、今後もこの傾向は続きますか。 

大量離職は今後も続くと思います。前職のDeloitteでは、ヒューマンキャピタルに関するトレンド調査「グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド2021」を行いました。シナリオプランニングという手法を使い、企業と従業員の関係性にどのような創造的破壊が起きているのか、その根本的な原因は何か、今後の方向性を把握するためにどの兆候に着目する必要があるのかを探りました。
大量離職の背景には、働く場所や働き方を見直す従業員の増加があります。パンデミックでは、さまざまな原因により、価値観の変化が起きました。たとえば、一部の企業は最近、リモートワークからオフィスへの出社に戻そうとしていますが、従業員はそれを拒否しています。「個人の台頭」が起きて、働き方や仕事の仕方について従業員が自分の意見をより強く主張できるようになりました。

――企業と従業員の関係性の変化に、企業はどのように対応すればいいと思いますか。

従業員は、リモートワークの導入で働き方など、より多くのことを自らコントロールできるようになり、仕事の生産性が上がりました。一方、個人の生活面では休校中の子どもの勉強を見るなど、仕事と子育てなどを両立しなければならず、より成果に着目する新たな仕事の進め方をする必要がありました。
企業やリーダーは、今後起こりうる急速な変化に備えるため、エンパワーメントを推進し「どのようにすればよいか(How)」を従業員自らに考えさせ、アジリティ(敏捷性)を高めなければなりません。従業員に成果を求めるのであれば、従業員が自ら決断して行動を起こせるように必要なものを与えサポートすることが大切です。

スキルの有効期限は約2年

――学位不問の企業が増えています。特に技術系の人材では、大学に進学せず、実践で経験を積んでいく傾向があるようですが、この傾向は増えていますか。

確かにエンジニアなどの技術系では、学位を必要としない傾向が見られます。しかし、企業がジョブディスクリプションに学位を記載しているという点は変わりません。大卒資格の問題は、DEIB(多様性、公平性、包括性、ビロンギング)という面で重要な要素となっています。企業側は学位が必要かどうかではなく、多様性の向上といった他の観点からこの問題を捉えています。学位に価値がないわけではなく、学位、経験、実践上で経験を積むこと(ハンズオン)など、どれも大切です。
重要なのは、人は決して学ぶことをやめず、またやめるべきではないということです。スキルの有効期限が平均18カ月から24カ月だとすると、大卒資格の有無にかかわらず、どのように従業員の能力を開発できるかを、人事、リーダー、そして従業員自身が深く考えて、課題に取り組むことが重要です。今後は企業も従業員の学びについて、より多様な形で取り組む必要があると思います。

スキルテクノロジーが台頭

――テクノロジーに長年注目されていますが、多くの企業が採用に利用している、導入しようとしているテクノロジーツールを教えてください。

スキルや能力を持つ人材を社内で特定し、業務とマッチングするタレントマーケットプレイスや、オポチュニティマーケットプレイスと呼ばれるテクノロジーが台頭しています。Oracleも「Opportunity Marketplace」という製品を提供しています。採用や学習テクノロジー、コアHCMシステムなど、さまざまな領域のテクノロジーが、このようなスキルテクノロジーと統合したり、スキルや能力をキャプチャーできる機能を取り入れており、プラットフォームの一元化が起きています。

企業は、自社のテックスタック(複数のテクノロジーを組み合わせて活用すること)を見直して、テクノロジー製品のなかから何をどのように組み合わせて、業務推進に活用できるかを考えることが大切です。さらに、これらのテクノロジーを使って、いかに人材や業務に関するデータを集めることができるかが重要となります。
たとえば、面接では、求職者のどのようなスキルや能力に注目し、入社後の活躍の可能性をどう測ればよいのかを把握するには、業務に求められるスキルや能力、あるいは業務内容に関するデータを面接やアセスメントツールと組み合わせることが必要です。
テクノロジーの活用において大切なのは、異なるテクノロジー間の円滑なデータ交換をする「インターオペラビリティ(相互運用性)」です。そして、データを「民主化」し、特別な知識を持たない従業員でも、より良い意思決定や行動をするために、素早くデータにアクセスし、有効活用できるような環境を整えることが不可欠です。これによって、求める成果を得られるかどうかが決まります。

社内の業務や必要なスキルを明確化

――人材不足やスキル不足の課題に、企業はどのような対処をすればよいでしょうか。

人材不足やスキル不足の課題について、企業は長年、ジョブやロール(役割)という観点で、人材や事業に関する意思決定を行ってきました。しかし、「この人はこのロール、あの人はあのロール」というように、人に仕事を割り当てるのではなく、社内にどのような業務があるのか。その業務にはどのようなスキルや能力を持つ人材が必要なのか。従業員はどのようなスキルや能力を持っているのか。業務の推進に必要な人材をどのように社内外から確保できるのかといったことを、さらに考えなければならないと思います。
フリーランサーも増えています。ロボットや機械も企業の労働力の重要な一部を占めています。社内の業務をより深く把握することで、多様な労働力全体をどのように活用できるかが見えます。そうすることで、企業は競争優位性を高めることができます。

インタビュアー=ジェリー・クリスピン TEXT=杉田真樹

ポイント
  • 採用難に悩む米国企業が退職者を再雇用する傾向は実際に見られており、今後も続くだろう。人手不足やスキル不足を解消するには、退職者も含め、業務に必要なスキルや能力を持つさまざまな人材にアプローチする必要がある。
  • パンデミックの影響で価値観が変わり、働き方を見直す従業員が増えた。また、企業と従業員の関係性が変わり、従業員は自分の意見をより強く主張できるようになった。このような原因から、従業員の「Great Resignation(大量離職)」が起きている。大量離職は今後も続くだろう。
  • 企業は長年、人材不足やスキル不足の課題について、ジョブやロール(役割)という観点から取り組み、人に仕事を割り当ててきた。しかし、社内にどのような業務があり、その業務にはどのようなスキルを持つ人材が必要なのか。従業員がどのようなスキルを持っているのかを明確にし、多様な労働力をどのように活用していくのかを包括的に考える必要がある。