米国企業の採用トレンド2022Raytheon Technologies Corporation イベット・ストルツ氏(グローバル人材獲得担当副社長)

従業員と社内のポジションをマッチングし、人材の定着と成長を促進

イベット・ストルツ氏は、Schneider Electric に14年間在籍し、グローバル人材獲得&モビリティ担当副社長や北ヨーロッパ人事担当副社長などを歴任後、2018年にUnited Technologiesのグローバル人材獲得担当副社長に就任。合併後は、Raytheon Technologiesでグローバル人材獲得担当副社長を務める。同氏に、米国における採用状況や、人材の定着対策、リモート採用、HRテクノロジーの活用などについて話を伺った。

【Raytheon Technologies Corporation】航空・機械大手のUnited Technologiesと航空宇宙・防衛大手のRaytheon Companyが2020年に合併し、新会社Raytheon Technologies Corporation(以下、Raytheon Technologies)を設立。コーポレート本部の所在地はマサチューセッツ州。防衛・航空宇宙関連機器メーカー。4つの事業会社(Collins Aerospace、Pratt & Whitney、Raytheon Intelligence & Space、Raytheon Missiles & Defense)によって構成され、エレベーター、エスカレーター、家庭・業務用冷暖房空調機器、民間・軍用機エンジン、軍用・民間ヘリコプターなどの製造や、保守サービスを行う。米国や英国、中東などに16の拠点を構える。従業員数は15万人超。

――年間の採用人数を教えてください。

年によって異なりますが、通常は2万人以上の人材を採用しています。2021年の採用人数は1万人前後と、前年より減らし、2022年は前年から2割以上増やす予定です。
商業用航空・宇宙関連の2つの事業部門は、パンデミックの影響をより強く受け、採用人数は大幅に減少しました。人々が旅行しなければ、飛行機を製造する必要はないからです。一方、防衛関連の2つの事業部門では、パンデミックの影響はそれほど受けず、通常通りに事業を運営しています。

――Raytheon Technologiesの従業員構成を教えてください。

業務の性質上、社内には技術職が多く、さまざまなエンジニアやサイバーセキュリティの専門家を多く採用しており、エンジニアだけでも約6万人います。定年を間近に控えたベテランの従業員もいますが、インターンや新卒者も毎年多く採用しているので、バランスの良い構成になっています。

――米国では人材獲得競争の激化により、退職者を再雇用する企業が増えているようですが、再雇用は行っていますか。

退職者の再雇用は多少行っていますが、正式な制度はなく、社内の再雇用の動きを把握する仕組みもありません。退職者へのアプローチの仕方について社内で議論が交わされていましたが、2年前に大きな合併を行ったため、再雇用については取り組む機会がありませんでした。2021年の採用数に占める元従業員の割合は、1%以下でした。

――採用難に加えて、従業員の大量離職「Great Resignation」が起きていると言われていますが、離職は増えていますか。

離職は増えています。2019年のおおよその離職率は、6~10%でしたが、この約半年間で上昇しています。従業員が離職する理由は、給料面のほか、研修など成長し続ける機会が欲しい、昇進のスピードが遅い、バーンアウトなどさまざまです。当社では、社内での人材の流動を活性化させることで、定着を図っています。

社内異動で人材の定着や成長を促進

――人材流動の活性化について詳しく教えてください。 

現在、学習・能力開発部門とワークフォースインテリジェンス部門の主導により、自社開発したタレントマッチングソリューションを試験運用し、全社規模へ利用を拡大しようとしています。このソリューションを利用することで、従業員はまったく異なる分野の仕事を社内で発見したり、それに応募したり、同僚からの推薦を受けたりして、希望する部署へ異動することができます。これは、当社にとって一大プロジェクトであり、さまざまな部門が結集してビジョンを共有し、アイデアを出し合っています。人材獲得部門は、応募受付後の実務を行う立場にあり、従業員体験を向上させて希望の業務に就けるように、全面的にサポートしたいと考えています。

合併以降、従業員は退職をしなくても、事業部門内外で異動できるようになりました。これにより、会社が従業員にオファーするものが増え、人材の定着や成長を促進し続けられる環境ができました。

――企業の多くが対面からリモートによる採用にシフトしました。どのように採用活動を行っていますか。 

新卒採用では、バーチャルキャリアフェアなど、オンラインでの取り組みを多く行ってきました。しかし、学生たちのバーチャル疲れの影響からか、パンデミックの初期と比べると、参加者が減っているようです。一部の大学がキャンパスを開放し始めているので、キャンパス訪問を少しずつ再開しています。先日リアルイベントに参加したのですが、実際に会って会話をするのはとても楽しく、ネットワーキングの場にもなっていました。今後は、リモートと対面のバランスをうまくとることが大切だと思います。2022年は、新卒、中途採用ともに、リモートと対面を組み合わせたハイブリッド形式で行う予定です。

リモートワーク時の社内交流が課題

――リモートワークによる影響は見られますか。 

影響はあります。当社には、次世代リーダーの育成を目的とする、新卒者(大卒や大学院卒)向けのジョブローテーション制度があります。事業開発、エンジニアリング、デジタル、サプライチェーン、国際貿易、人事など9つの分野を対象とし、ローテーションの回数は1年ごとに2回、8カ月ごとに3回などさまざまです。
パンデミックの発生と同時にローテーションを開始したグループは、ほぼフルリモートで参加していました。しかし、同僚に直接会うことも、現場に足を踏み入れる機会もほとんどないため、コミュニケーションや経験が激減しています。今年初めて、ジョブローテーションの途中で辞めた従業員がいました。途中での退職はこれまでになく、社会人になって間もない若者たちが、在宅で一人で仕事をし、刺激を受けたり、学びを得たりする仲間を作る機会もなく、孤独な状況にあります。今後は、リモートでのジョブローテーションにおいて、どうすれば対面と同じような経験を提供できるかを検討する必要があります。

紹介報酬を支給し、従業員以外からのリファラルも促進

――どのようにソーシングを行っていますか。 

Raytheon Company側には、長年続く従業員によるリファラル採用制度があり、高い成果を上げています。従業員やその家族以外からのリファラルも積極的に活用し、2000ドルの紹介ボーナスを支給しています。現在、合併によって社内に複数存在するリファラル採用制度の調整を組織全体で行っているところです。また、TBWAというオムニコムグループ傘下の大手広告代理店と契約し、EVP(Employee Value Proposition、会社が従業員に提供する独自の価値)の明確化や採用ブランディングに取り組んでいます。

――最近何か新しいツールを導入しましたか。 

1年以内に、一部の事業会社がAvature(※1)、Brazen(※2)、Workday Recruiting(※3)を導入しました。合併後は、Workday Recruitingを全社に導入するよう、働きかけています。また、これまでは事業会社によって利用しているテクノロジーが違っていたため、全体を見直しました。以前は一部の社員だけが使っていたCRM(候補者関係管理システム)を組織全体に導入し、そのほかにバーチャルリファレンスなどのツールも導入して、社内共通のテックスタック(複数のテクノロジーの組み合わせ)を構築しました。
そのうえで、コンサルティング会社のTalent Tech Labsの協力を得て、既存のテクノロジーをどのように最適化し、どのような新規ツールで補強するかを検討しています。8月末までには戦略をまとめたいと考えています。

――そのほかにどのようなツールを使っていますか。

オンライン面接には、Microsoft TeamsとZoomを使用しています。技術職のアセスメントは、各事業部門がそれぞれ独自に行っていますが、全社共通の唯一のツールとしてCodeVue(※4)を使っています。アセスメントとしてハッカソンも行っています。また、従業員サーベイには、Glint(※5)を利用しています。

――人材獲得部門のリーダーが成果を上げ続けるために、必要なことは何だと思いますか。

より創造的、かつ革新的であり続ける必要があると思います。そして、候補者が会社に必要とされていると感じられるように、一人ひとりに合わせた体験を提供することが大切です。当社では、採用が多い人材はどのような人物で、どのような動機づけが彼らを動かすのか、またどのような会社とのつながりを求めているのかなどを深く理解するため、ペルソナ分析に力を入れています。先日は、ペルソナ別の効果的なアプローチについて学ぶワークショップを行い、今後は、このような個別最適化といった課題解決に取り組んでいきたいと思います。

インタビュアー=ジェリー・クリスピン(CareerXroads) TEXT=杉田真樹

ポイント
  • 自社開発したタレントマッチングソリューションを全社規模で活用し、従業員が社内で新しい分野の仕事を見つけて応募したり、同僚からの推薦を受けたりすることができるしくみの構築に取り組んでいる。社内での人材の流動を活性化させ、定着や成長を図っている。
  • リモートワークで社内交流の機会が減るなどの影響から、ジョブローテーション参加者が途中で離職することがあった。リアル参加と同様の経験を、いかにして提供するかが今後の課題である。
  • Raytheon Company側には、長年続く従業員によるリファラル採用制度があり、高い成果を上げている。従業員やその家族以外からのリファラルも積極的に活用し、2000ドルの紹介ボーナスを支給している。

(※1)Avatureは、SaaS型のグローバル人材獲得および人材管理プラットフォーム。地域や部門など企業のニーズに合わせて柔軟に仕様を変更できる「Avature CRM」が代表的な製品。インターンやエグゼクティブなど対象者別のランディングページやマイクロサイトを簡単に制作したり、そのリンクを採用情報とともにSNSに投稿したりする機能を備える。
(※2)Brazenは、企業向けチャットソフトウエア。キャリアサイトや求人広告にチャット専用ランディングページのリンクを掲載し、求職者とチャットできる。バーチャルキャリアフェアなどのオンラインイベントで、候補者がリクルーターや従業員、採用部署のマネジャーとグループチャットで交流する機能もある。
(※3)Workday Recruitingは、HCMクラウドシステムプロバイダーのWorkdayが提供するATS(応募者追跡システム)。適任の候補者を社内外から探し、選定するまでの一連の業務をサポート。採用プロセス全体を可視化する。
(※4)CodeVueは、プログラミングテストでエンジニアのコーディングスキルを測る、HireVueの有料オプション機能。ライブまたは録画面接のなかでテストをリモートで実施する。13種類のプログラミング言語に対応。自動採点機能や、プログラミングの知識を持たないリクルーターでもテストの不正を特定できる機能などを備える。
(※5)Glintは、従業員のエンゲージメントを可視化するツール。回収した膨大なデータを機械学習や自然言語処理・予測分析などによって分析する。サーベイのスコアを単にまとめるだけでなく、ヒートマップやタグクラウドなど直感的にサーベイの結果を可視化する機能も持つ。LinkedIn傘下。