米国企業の採用トレンド2022Thoughtworks マーカス・ソープ氏(人材獲得グローバル統括責任者)

人間関係を基盤に、他社で経験を積んだ退職者を再雇用

マーカス・ソープ氏は、TwitterやAmazon、Two Sigmaなどの人材獲得責任者や人材担当シニア副社長を歴任後、2018年にThoughtworksの人材獲得グローバル統括責任者に就任した。グローバル採用を統括する同氏に、米国での採用状況、リモート採用の影響、テクノロジーの活用などについて話を伺った。

【Thoughtworks】1993年設立、本社所在地はイリノイ州シカゴ。アジャイルソフトウエア開発の草分け的存在であるグローバルIT企業。テクノロジー主導の変革を支援するコンサルティングサービスや、オープンソースソフトウエア製品などを提供する。2021月9月にニューヨーク証券取引所に上場し、世界17カ国、48カ所に拠点を持つ。従業員数は約9000人。

――米国での採用人数を教えてください。

2021年の米国の採用人数は、1000人未満でした。2022年は前年より11~20%増える予定です。リモートワークを導入したことで、地域を問わず多くの人材を採用できるようになりました。

アルムナイとの関係性を維持

――米国では人材獲得競争の激化により、退職者を再雇用する企業が増えているそうですが、実際にこのような傾向は見られますか。 

はい、再雇用の傾向はあります。Thoughtworksでは、2021年の採用人数に占める元社員の割合は、2~5%でした。
当社では、人間関係を基盤に、アルムナイと非公式に関係を保っています。たとえば、新卒でディベロッパーとして入社し、その後Amazonに転職した後、AWS(Amazon Web Services)のスキルを身につけ、リードディベロッパーとして再入社した従業員もいます。一度退職しても、他社でより多くの知識を身につけてから再び当社で働く機会は常に開かれています。
しかし、正式な再雇用制度はありません。これまで何度か検討したことがありますが、アルムナイを対象にした採用マーケティングにはしていません。制度化すれば、誰を再雇用の候補者リストに含めるかといった点でデューデリジェンス(リスクや価値などの査定)が必要となるからです。

――米国では従業員の大量離職「Great Resignation」が起きていると言われていますが、離職は増えていますか。 

2019年の離職率は約16~20%でしたが、過去半年間で低下しています。これはIPOと、一定期間が経過するまで、ストックオプションの権利を行使できないベスティング条項が関係しているからだと思います。現在6カ月が経過し、今後の行方を見ているところです。当社では、今のところ大量離職の影響は見られません。

――リモートワークを継続するか、オフィス出社を再開するか、ハイブリッドワークか、さまざまな議論がありますが、Thoughtworksは今どのような状況にありますか。 

国によって異なりますが、米国ではどこからでも仕事をすることができます。専門職や顧客接点のある職種では、リモートワークを永続的に継続することになりました。以前は、顧客先で仕事をしない場合は、顧客が多いアトランタやダラス、シカゴなどにあるオフィスを拠点とする必要がありましたが、今は場所に縛られることがなくなりました。これは、従業員の定着にもつながっています。
当社は、分散型チームを持つアジャイルムーブメントのアーリーアダプター(初期採用層)であり、従業員は世界中に点在しています。顧客を直接訪問することはできなくなりましたが、仕事の質はまったく落ちていません。当社側と顧客側の開発者がペアプログラミングをする機会が多いのですが、現地にいなくても時差を利用して、ブラジルなどにいる従業員が顧客の対応をすることができます。これにより、時間帯を問わず、より少ないコストでサポートできるようになりました。パンデミック以前から、世界中にいる顧客にどこからでも対応が可能であると説いてきましたが、それを実証することができました。これは、コンサルタント会社にとって理想的な形だと思います。

世界各国の採用プロセスを標準化

――企業の多くが対面からリモートによる採用にシフトしました。今後もこの傾向は続くと思いますか。 

はい、リモート採用は続くと思います。2022年は、新卒、中途採用ともにフルリモートで行う予定です。北米ではオフィス離れが進んでおり、一部のオフィスを閉鎖しました。また、これまで国によってばらつきがあったオンライン面接のプロセスを標準化したことで、採用の質を向上できました。さらに、オンライン面接により、以前よりも候補者とのラポール(信頼関係)の形成がうまく行えるようになりました。リモート採用での候補者体験の測定にも力を入れており、フルリモートでもネガティブなフィードバックはありません。米国でリモート採用された人材の1年後の定着率は90%以上で、リモートと対面での採用に、定着率の差は見られません。

――オンライン面接には、どのツールを使っていますか。 

Zoomとクラウド型ホワイトボードツールのMURAL(※1)を使用しています。技術職の採用では、ペアプログラミングも行いますが、ツールの選択については、ある程度の柔軟性を持たせています。

――技術職の比重が多いThoughtworksでは、技術職の採用はどのように行っていますか。

LinkedInやリファラルを活用しています。新卒採用の場合は、HackerRank(※2)を利用していますが、候補者のコーディングテストのスコアが低くても、次の選考ステージに進めるかどうかの判断はリクルーターに委ねています。その際に、なぜ結果が良くなかったのかということを候補者と話をする機会を設けるなど、柔軟に対応しています。

――近年、従業員の離職防止や生産性を向上させる取り組みとして、EX(従業員体験)が重視されています。従業員の満足度を測る従業員サーベイは、どのようなツールを使っていますか。

Survey Monkey(※3)、Workday Peakon Employee Voice(※4)、Google Formsを使用しています。

面接の質を科学的に解析するMetaviewに注目

――最近何か新しいツールを導入しましたか。 

1年以内に導入した採用テクノロジーは、ソーシングツールのSourceWhale(※5)です。LinkedInやStack Overflow(※6)などに掲載されている候補者のプロフィールや連絡先情報を1カ所で検索できます。

――2021年のインタビューでは、面接の質を測定するツールに注目しているとのことでしたが、最近注目している具体的なツールはありますか。 

Metaview(※7)に興味があります。Metaviewは、面接の録音や文字起こしのデータ分析を行うプラットフォームです。面接官と候補者それぞれの質問回数や回答時間などを記録し、応募者が話をする機会を十分に与えていたかなど、面接官の能力を分析します。そして、面接の記録をもとに、より効果的な質問の仕方などのフィードバックも得ることができます。また、採用チームのメンバー同士で、データや技術面接で使ったホワイトボードのスクリーンショットなどを共有できるので、面接官1人の主観に頼らずに、客観的な評価を行うことができます。面接での会話記録には、GDPR(EU一般データ保護規則)の順守などが必要ですが、データの使い道を明確にして、候補者から事前に同意を得れば問題はないと思います。面接の質を測るアナリティクスの技術がさらに進化することを期待しています。

インタビュアー=ジェリー・クリスピン(CareerXroads) TEXT=杉田真樹

ポイント
  • 退職者の正式な再雇用制度はないが、アルムナイとの関係を維持している。他社で高いスキルを身に付けた元従業員が戻ってこれるように、常に門戸を開いている。
  • これまで、国によってばらつきがあったオンライン面接のプロセスを標準化したことで、採用の質が向上した。リモート採用での候補者体験の解析に注力しており、これまでネガティブなフィードバックはない。2022年は、新卒、中途採用ともにフルリモートで行う予定である。
  • 面接の録音や文字起こしをデータ分析し、面接の質を科学的に解析するMetaviewに注目している。Metaviewは、より効果的な質問の仕方など、フィードバックも得ることができる。

(※1)MURALは、ダウンロード不要のクラウド型ホワイトボードツール。付箋や図形、画像、アイコンの貼り付けや自由描画などの機能を備え、300種類以上のテンプレートを提供する。ブレインストーミング、ワークショップ、顧客との打ち合わせに活用できる。
(※2)HackerRankは、オンラインテストやハッカソンでプログラマーのスキルを測る採用プラットフォーム。35種類以上のプログラミング言語に対応する。
(※3)Survey Monkeyは、無料のオンラインアンケートツール。顧客満足度や従業員の仕事満足度の調査、市場調査、イベントアンケートなどに利用されている。
(※4)Workday Peakon Employee Voiceは、インテリジェンスリスニングプラットフォーム。機械学習技術により、従業員からのフィードバックをリアルタイムで収集、分析する。会社のDEI(多様性、公平性、包括性)についての評価や離職予測などに活用できる。
(※5)SourceWhaleは、ソーシングツール。LinkedIn、Stack Overflow, GitHub、ジョブボード、ZoomInfoなどに掲載されている候補者のプロフィールや連絡先情報をまとめて検索できる。GmailやMicrosoft Outlookとのデータ連携機能により、簡単にメッセージを作成できる。
(※6)Stack Overflowは、プログラミングに関する質問や回答を投稿するプログラマーのためのコミュニティサイト。求人広告の掲載や登録者プロフィールの検索、企業ページの開設などの企業向けサービスもある。
(※7)Metaviewは、面接インテリジェンスプラットフォーム。面接での会話の自動文字起こしをもとに、経験豊富なコーチからフィードバックをもらえる。面接の質をスコアで表すメトリクスや、社内のほかの担当者をシャドーイングしたり、リバースシャドーイングしたりする面接担当者側のトレーニング機能も備える。