リファラル(紹介)採用を中心に、定着に向け資格取得サポートや能力に見合う報酬で応える――株式会社境鉄工所

2026年03月30日

先代から経営のバトンを受けた兄弟が、人材の定着に向け「手探り」を重ねて工場経営の改革に着手。建築用鉄骨の設計・製造・運搬・現場施工を行う境鉄工所では、2019年に新工場を開設して生産能力を増強した。定着するようになった若手人材が積極的に資格取得にチャレンジし、国の性能評価基準で上から2番目のHグレードを獲得している。代表取締役社長の境 貴幸氏に、従業員の話をよく聞き、高い給与水準のもとに裁量を与える経営方針を聞いた。

株式会社境鉄工所 代表取締役社長 境 貴幸氏

株式会社境鉄工所
代表取締役社長 境 貴幸氏

リーダーを信じて現場を見守ることが基本。リファラル採用の人材のポテンシャルを伸ばす

――初めに、貴社の事業の概要から教えていただけますか。

建築用鉄骨を製作し、現地に搬入して建てるまでが当社の事業内容になります。部門としては設計部門をはじめ、生産ラインに柱や梁など部材別の製作部門と塗装部門があり、現地への鉄骨の運搬を担う部門があります。さらに、建設現場で鉄骨の建て付けを担う鳶さんなど外注工を管理する工務部門があります。勤務時間は8時から17時まで。12時から13時までは昼休憩、10時と15時に15分ずつ休憩があり、1日7.5時間の勤務となっています。

従業員数は約30名弱で、設計が4名、工場製作が16名、現場施工が3名、生産管理や品質管理については私を含めて5名で回しています。

建築現場で設置された建設用鉄骨

――近年の人材の充足感や採用の状況はいかがですか。

新工場を建てた2019年ごろ、従業員数は14~15名でした。工場の生産能力が4~5倍に増強されたのに伴い、従業員も2倍ほどに増えました。ただ、特に人材募集などの採用活動を実施した訳ではありません。ここは地域の行事が多く、消防団による防災行事などに近隣の人たちが大勢集まります。そこで仕事について会話するうちに、自然に人材が集まってくれた感じです。

地域の集まりでは、「今の職場は残業代が出ない」「給料が安くて……」「労働時間が長くて大変」など、さまざまな業種で不満を抱えている人や、仕事に悩んでいる若者の身内や知人と話をする機会があります。「それなら一度うちの面接を受けてみたら?」といった流れになり、採用に至っているケースが多いです。

工場内で建築用鉄骨の大型部材を組み立てる鉄骨製作作業の様子

――リファラル(紹介)だけで人材を確保されているのはすばらしいですね。育成にはどのように取り組まれているのでしょうか。

知人の紹介で入社する場合、すでにある程度互いを理解していますからミスマッチが少なく、未経験者であっても皆さん定着してくれています。部署によって求められるスキルは違いますが、製造ラインの仕事は基本的にそれほど高度なスキルを求めてはいません。きちんと出勤してくれさえすれば、無理なく覚えてもらえます。

工場長は40歳手前で、作業員はほぼ20代から30代の若手が中心の職場です。みんな機動力はあるし、現場のリーダー的なポジションの従業員は私たちの世代が教えました。ですので、今ではこと細かく指示を出すのではなく、彼らの仕事の進め方を尊重して見守るスタイルです。会社としては納期を守ることが大切なので、工程の打ち合わせだけはマメに実施して、仕事が円滑に流れるように調整しています。

我々のような建築鉄骨の製造業の場合、納期を遵守するための休日出勤などは当たり前に発生します。ですが当社では、最終納期に間に合わせることができれば、途中で何人かが柔軟に休みをとれるよう配慮しています。たとえば5~6人のグループで鉄骨の製作を進め、納期前でも地域のお祭りなどの行事やお子さんの学校行事などがあればそちらを優先し、仕事の進捗を見ながら1~2人ずつ休みをとってもらっています。

年間休日は110日くらいですので、特に多い訳ではありません。ただ、地元の行事を優先する働き方は私たちもずっとそうしてきており、習慣化しています。

一人ひとりの話をよく聞き、希望や不満をしっかり受け止める。作業の「見える化」と先の見える工程管理も重要

――なぜ貴社では、紹介を軸に人材を確保でき、また定着しているとお考えですか。

私たちが心がけているのは、とにかく従業員の話をよく聞くようにすることです。

仕事に対する本人の希望はもちろん、不満に感じていることなどもしっかり受け止めることが重要です。何か嫌なことがあって誰にも言えないでいると、イライラして仲間同士で衝突したり、コミュニケーションがうまくいかなくなったりします。職場で情報の共有が十分にできないと、作業にロスが生じて無駄なコストも発生しがちです。

そこで、いいことも悪いことも含めて、従業員の話を極力聞くようにしています。「自分はこういうふうに仕事がしたい」「あの人が苦手だ」などと率直に話してもらえると、対応策が立てられます。

正式な定期面談は年1回は実施していますが、半年に1回くらいは行いたいと思っています。また、面談時にはあまり希望を話さない従業員でも、飲み会など非公式の場でフランクに話せるときは「こういう免許を取得したい」などと胸の内を話してくれます。今の若手は飲み会になかなか参加しないという話も聞きますが、当社の場合はみんなよく来てくれるので、話を聞いて本人の希望に合わせた育成を配慮しています。

面談の様子

――従業員の定着に向けた取り組みには、そのほかにどのようなものがありますか。

新工場を開設した2019年前後から、会長である兄と私でさまざまな体制づくりを手探りで進めてきました。その一つが、仕事内容を「見える化」して従業員間で共有することです。

作業の進捗や現場の動きについては、LINEで情報を共有しています。従業員全員が見られるもの、設計や生産現場だけのグループ別に連絡事項を共有するもの、管理職だけ、役員だけのグループもあります。

また、工場にもオフィスにも資材置き場にも、もちろん社長室にも、社内のあらゆる場所にカメラを設置して、従業員の誰もがスマホで社内の状況を確認できる環境を構築しています。映像でのモニタリングに監視という意図はなく、みんながどのように動いているかを確認するためです。工場には危険な作業もありますから、作業に不慣れな新人が危ない作業をしていないか、それぞれの従業員の動きが見えれば万一の事故を未然に防ぐことができます。

従業員は「見られている」状態に慣れ、今ではそれが普通になっています。カメラを気にすることもなく、適度な緊張感を保って仕事を進めていると思います。

5S活動(整理・整頓・清掃・清潔・躾)

――そのほかにも、貴社らしい取り組みがありそうですね。

作業の予定をきめ細かく共有することも重要です。兄や私が仕事を覚えた時代は、父や叔父などの身内と一緒に働いていました。そこでは「言わなくてもわかるだろう」というやり方が通用しましたが、若手の従業員が多い今では、言葉にしなければわかってもらえません。

したがって朝礼での情報共有や、日々の「声がけ」が重要になります。今週はどこまで作業を進めるのか、今日は何時まで製作するのか、「水曜日は定時で上がれるけど、木・金は2時間残業になる」とか、そうした情報をきめ細かく共有するのがカギになります。

さまざまな要因で変動しがちな仕事の予定を、日々言葉で伝えることで従業員はプライベートな予定などにも無理なく対処できます。こうしたコミュニケーションの徹底は、離職率を下げることにつながっていると思います。

朝礼の様子

質の高い仕事には同業他社より高い給与や資格手当で応えたい

――従業員のプライベートライフを尊重し、地域の行事などに参加しやすいよう業務を調整しているところにも貴社らしさを感じます。

長崎市は地域の結びつきが強く、私たちを含めてみんな祭りなどの行事を大切にしています。港町ですので、海の安全と豊漁を願って、夏には「ペーロン」という木造舟を漕ぐ競技が開催され、会社として協賛しています。当社からも毎年20名ほどが参加しており、開催日の1~2カ月前から毎日退勤後に1時間くらい海で練習するようになります。

地域行事への参加は、従業員の一体感を高め、仕事を円滑に進める上でも有効です。年齢にかかわらずみんなで親睦を深めるという意味では、会社が道具一式を支給して希望者にゴルフを奨励しています。ゴルフ大会のほかにもボウリング大会を開いたり、ツーリング俱楽部を作ったり、船舶免許の取得をサポートしたりしています。

従業員がプライベートを楽しんでいる様子

――給与体系は地域の同業他社と比べてどのようになっていますか。

新工場ができて従業員が増え始めた頃から、地域の同業他社よりは高い給与で人材を迎えようと努力してきました。以前の家族経営の時代には、私たちも給料は二の次で仕事を覚えていましたが、今では設計も工場も、若手メンバーが専門性を磨きながら動かしてくれています。価値ある仕事には給与という対価を示さなければと考えています。

お話しした通り、従業員の多くはたまたま地域の行事で出会ったとか、知人からの紹介で当社を選んでくれた人材です。同業他社から来てくれた人材もいれば、パン屋さん、ホテルマン、ゴルフ場の受付など、異業種から未経験者も来てくれています。多様な人材に対して、「よそよりいいな」と感じてもらえる給与水準を堅持することは、モチベーション高くこの仕事を続けてもらう基本的な要件になると考えています。

昇給についても、勤続1年、3年、5年と段階的にベースアップできるよう努力しています。

――資格手当も充実しているとお聞きしています。

鉄工所には、性能評価基準という国土交通省の認定制度があります。技術者には、溶接技能や鉄骨の検査技術、製作管理技術などさまざまな資格が求められ、資格取得の状況が工場の品質保証の信頼性を担保します。性能評価基準にはJ・R・M・H・Sの5段階のグレードがあり、工場の品質管理体制や技術力の判断基準になります。当社はRグレードから段階的にステップアップし、2025年の12月にHグレードを取得することができました。

当社の工場規模でRからHグレードに昇級する企業はなかなかなく、これは多くの従業員が積極的に各種の資格取得にチャレンジしてくれたおかげです。彼らの努力に応える意味からも、資格取得者には業界の平均より高めに手当を付けています。資格の難易度に応じて5000円から5万円といった幅で、取得した資格の数だけ手当を出しています。

ほかの工場で続かなかった若者が、当社で資格取得に励んで溶接ロボットを使いこなすレベルまで成長してくれた例もあります。今後は設計部門や工務部門のメンバーに、今以上に建築士や建築施工管理技士などの資格取得者が増えればと思っています。

資格取得に励んでいる様子

――他社では力を発揮できなかった人材が、貴社で能力を開花させている。これは待遇改善や日々のコミュニケーションを含む取り組みの成果ですね。

一つずつ手探りしながら取り組んできたことが、ここにきてある程度うまく回っている感じです。やはり、20歳から30代後半の従業員が中心になり、みんなで切磋琢磨しながら仕事に取り組める会社であることは大きいと思います。ゲームや音楽など共通の話題があり、わいわい盛り上がっている社内の雰囲気も、仕事にプラスに働いているように思います。

各部門のリーダーのマネジメントも優れていると思います。毎朝、みんなをファーストネームで呼んで「おはよう」と声をかけていますし、何か作業を頼む際にも、仕事を確認して必ず「ありがとう」の一言をかけています。親しみを込めて名前を呼ばれることや、自分の仕事に対して感謝の言葉をもらうことで、若手の気持ちは全然違ってくると思います。

これからも従業員同士が親しく打ち解けて、温かい雰囲気で話し合いながら仕事を進めていく境鉄工所らしい風土を大切にしたいです。一つひとつの仕事を円滑に動かしながら、人材の可能性を広げていければと思っています。

聞き手:坂本貴志岩出朋子
執筆:松原寛明

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