仕事の事情は、結婚にどのように影響しているのか

2026年03月31日

人々があるいている様子

3つのアプローチ

「家族」と「仕事」が互いに制約し合う「二重の足かせ社会」や、生活背景が多様化するなかで、それぞれが抱える負担や課題が見えにくくなり、相互の不満や不公平感が生じやすくなる「ずるいずるい社会」、社会全体でつながりが希薄化する「関係縮小化社会」を克服する上で、何が有効なのだろうか。

これを探るために、3つのアプローチで検討を行う。1つめのアプローチは、「全国就業実態パネル調査」および2025年追加調査を用いた分析である。同一人物を追跡調査するデータの特性も生かしながら、「家族」と「仕事」の相互制約の実態や制約軽減に資する要因、単身者がつながりを持つことに関わる要因を検討する。

2つめのアプローチは、職場の実態把握にフォーカスした独自調査の分析である。これにより、職場のレベルに着目し、「家族」の事情による「仕事」への制約や社員同士の不公平感の発生をどう防ぐのか、多様化する社員のニーズに応えながら、企業の成長を実現していくために何が必要かを検討する。

3つめのアプローチは、社会全体でつながりが希薄化する状況に対し、AIやロボット、アバター、シェアハウス、途上国の子ども支援など、新たなつながりを模索する取り組みへの聞き取り調査を通じ、「家族」と「仕事」の枠を超えた関係が果たしうる役割と可能性を検討する。

図表1 「家族」と「仕事」を巡る問題への3つのアプローチ

図表1 「家族」と「仕事」を巡る問題への3つのアプローチ

「仕事」が配偶者を持つことに与える影響

ここからは、「全国就業実態パネル調査」および2025年追加調査を用いた分析を取り上げる。なかでも今回取り上げる論点は、仕事の状況が配偶者を持つことにどう影響しているのか、そしてその影響をどう緩和しうるのか、である。

この点について「全国就業実態パネル調査」のパネルデータを用いて、雇用形態、年収、週あたり労働時間に関わる状況が、翌年の結婚に与える影響を分析した結果を示したものが図表2である。仕事の状況は結婚に影響するものの、その表れ方には男女差が見られた。

具体的には、生計の安定は男性の結婚にのみ影響しており、非正社員に比べ正社員である場合、翌年に結婚する確率は約4倍に高まっていた。また、男性の収入が100万円高くなると、結婚確率は約1.1倍となった。
一方、女性では、雇用形態や収入による結婚への有意な影響は確認されなかった。このように、男性でのみ生計の安定が結婚に影響する状況は、稼ぐ役割を男性に、家事や育児を女性に期待する性別役割分業の構造が、日本社会に今なお残っていることを示していると考えられる。

図表2 仕事に関わる状況が、翌年の結婚に与える影響

図表2 仕事に関わる状況が、翌年の結婚に与える影響(注)「全国就業実態パネル調査」の10年分のデータを用いて、配偶者・パートナーの有無を被説明変数とした離散時間ロジットモデル(クラスターロバスト標準誤差使用)による推定を行った。年齢は30~59歳。説明変数には、調査年、学歴、業種16分類、職種10分類、年齢、居住都道府県、企業規模、役職(いずれも、配偶者・パートナーの有無の1時点前の情報)を用いた。数字はオッズ比で、基準となる場合と比べて、結婚する確率が何倍かを示す。

労働時間と結婚の関係は、男女で反対

男女で正反対の状況は、労働時間でも確認された(前掲図表2)。男性では週45~59時間と長めに働く場合、翌年の結婚確率が約1.1倍に高まる。女性では、労働時間が短いほど結婚しやすく、週60時間以上では結婚確率が約0.7倍に低下し、週20時間未満では約1.5倍に上昇する。これらは就業形態や年収などを調整した結果であり、労働時間そのものが男女で逆方向に作用していることを示す。

長時間労働の男性は、生活や精神的な支えを求めて結婚に踏み切りやすくなっていると考察される。一方、女性では、結婚が仕事やキャリアにマイナスとなる懸念が、長時間働く場合に結婚に向かいにくくなる傾向を生じている可能性もある。後者の影響の克服には、子どもが生まれた女性の賃金や労働時間、昇進・昇格などの確率が低下する「母親ペナルティ」の克服が必要である。

片方の取り組みだけでは効果は期待しづらい

未婚化に歯止めをかけるために、男性の雇用安定や賃金引上げは、男性側の結婚への障壁を下げる可能性がある。しかしそれだけでは、男性の結婚に対する経済的プレッシャーは克服されず、さらに自由やキャリアの選択肢が損なわれるという、女性側が結婚に対して持つ心理的ハードルも解消されない。男女が家事・育児を担う前提の働き方や家事の自動化・外部化など、女性が仕事やキャリアを犠牲にせず結婚を選べる環境を作ることが重要である。両者を同時に進めてこそ、仕事から結婚への男女で異なる制約を解きほぐせる。

この記事は、研究報告書「家族×仕事 10年の追跡調査が示す、変わる個人・変われない構造」の内容をもとに、再構成したものです。詳細は報告書をご覧ください。