職場で生じる、キャリアの展望の持ちにくさと不公平感を解消する企業施策とは

2026年04月15日

人々があるいている様子

職場に生じる新たな課題

「家族」と「仕事」のかたちが変化してきた結果、職場の社員は多様な生活背景とニーズを持つようになった。育児や介護に加え、看護、治療、地域活動、学び、副業など、仕事以外に重要な役割を持つ人も多い。こうしたなか、職場には新たな緊張が生まれている。

ライフイベント中の社員への支援が、他の社員の負担増や不公平感を招き、それが当事者の肩身の狭さにつながっているのである。このような状況は、生産性低下や社員の離職などの問題を招きかねない。誰もが意欲を持って働ける職場を作るため、企業は何をすべきだろうか。

ライフイベント後、本人に生じる変化

まず、職場で何が起きているのかを確認する。30~40代の正社員のうち、①育児・介護のため働き方を調整する社員(当事者の社員)、②育児・介護中の社員と日常的に一緒に働く社員(周囲の社員)を対象に、社員のライフイベント後の意識の変化を調査した。

その結果、①当事者の社員、②周囲の社員の双方に、望まぬ仕事の変化や、仕事意識のネガティブな変容が生じる傾向が見られた。図表は割愛するが、当事者の社員については、自身のライフイベント後に、「あらかじめ手順が決まっている業務が増えた(36%)」「他者の指示の下で行う業務が増えた(30%)」など、業務の幅や裁量が狭まる傾向が見られる。これらは働きやすさを支える一方で、キャリアの停滞感を生みやすい。

実際、図表1で示すように、当事者の社員のうち、ライフイベントの前より「キャリア展望」「昇進意欲」が低下した人は、それぞれ42%、43%を占めた。一方で、「定着意向」は38%が上昇したと回答した。就業継続の意思は高まりやすい半面、挑戦意欲や将来像を描きにくい状況が示された。

図表1 育児や介護開始前と比べた、仕事に対する意識の変化図表1 育児や介護開始前と比べた、仕事に対する意識の変化(注)N=1,737。育児や介護が始まる前と比べた、仕事に対する態度(意識や行動)の変化を15項目で聴取した結果のうち、重要なものを抜粋・整理したもの。四捨五入の関係で、合計が100にならない場合がある。
(出所)リクルートワークス研究所「育児・介護中の社員および周囲の社員の仕事と意識調査」2025年

不公平感を高める周囲の社員

周囲の社員の意識には、より深刻な状況が示された(図表2)。育児・介護中の同僚が働き方を調整することで、「会社満足」「職場の公平感」「働きやすさ」が低下したと感じる人はそれぞれ49%、48%、47%と約半数を占めた。「定着意向」が低下した人の割合(36%)も、高まった人(約17%)を大きく上回った。背景には、業務改善など、職場全体の働きやすさを高める取り組みが十分でないまま、社員のライフイベントへの対応を現場のやりくりに委ねてきた結果、周囲の業務量や責任が増していることがある。やはり図表は割愛するが、「仕事量が増えた」人は約70%、「残業・休日出勤が増えた」人は約36%に上っており、負担の大きい時間帯の業務が増える傾向も見られた。このように、データはライフイベントを契機に、当事者と周囲双方の仕事への意欲が低下しやすい職場の実態を示している。

図表2 同僚が育児・介護のために働き方を 調整したことによる、仕事に対する自身の意識の変化図表2 同僚が育児・介護のために働き方を 調整したことによる、仕事に対する自身の意識の変化(注)N=1,353。よく一緒に働く育児・介護中の同僚が働き方を調整していることによる、自分自身の仕事に対する態度(意識や行動)の変化を15項目で聴取した結果のうち、重要なものを抜粋・整理したもの。
(出所)リクルートワークス研究所「育児・介護中の社員および周囲の社員の仕事と意識調査」2025年

企業事例から抽出した4つの取り組み

では多様な生活背景を持つ社員が公平感を持って働き、企業の成長も確保できる職場をどう作るべきか。この問いへの答えを探るため、企業への事例調査を行ったところ、下記の4つの取り組みが行われていることが分かった。さらに、先ほど示した①当事者の社員と、②周囲の社員のデータを分析したところ、これら4つの取り組みが、双方の仕事の量や質の変化を防ぎ、仕事意識の悪化を抑制することも確認された(注1)。

多様な生活背景とニーズのある 社員の活躍を促す4つの取り組み

このうち①の業務プロセスの変革は、生活背景にかかわらず効率的に働き成果を出せる環境づくりである。多能工化や業務マニュアル整備、業務棚卸しと非効率削減、IT・デジタル活用、情報の一元化などを通じ、時間制約の有無に左右されない体制を整える。

②の組織的な人材開発は、育成機会と評価の透明化により、生活背景や仕事外の活動・役割に左右されない成長機会の創出を行うことである。ここには1on1によるキャリア支援、求めるスキルの明示、資格取得支援、評価基準の明確化とフィードバックなどが含まれる。

③の幅広い社員が利用できる柔軟な働き方は、理由を限定せず、誰もが仕事以外の役割を大切にしながら、仕事で成果を出せる働き方を整備することである。それにより、時間制約のある社員のキャリアダウンや同僚への過度な負担を防ぐ。

④の仕事以外の役割を尊重する風土形成は、社員の仕事以外の役割や活動を尊重する風土づくりを行い、一人ひとりが人生の多様な側面を充実させ、そこで得た経験や視野、成長を仕事に還流することを目指す取り組みである。社員が自ら会社に貢献する方法を考え、自律的に動ける環境を並行して作ることで、企業と社員のニーズをつなぐことも併せて行う。

富士水質管理(東京都)の取り組み

4つのアプローチを同時に実行する企業は多くない。しかし、いずれか一つ、あるいは複数から段階的に着手し、全ての社員が意欲を持って組織に貢献し続けられる環境づくりを進める企業が現れている。

例えば、給排水設備の保守管理を担う富士水質管理は、深刻化する人材不足への危機感を背景に、デジタル化による業務プロセスの効率化を推進。紙中心の管理や属人的な作業を見直し、現場と本社の情報共有を高度化することで無駄を徹底的に削減した。さらにリスクアセスメントを通じて業務負荷が高い工程を特定し、多様な人材が活躍できる余地を広げた。

その上で在宅勤務の導入や職務環境の整備を進め、技術者に占める女性比率を8%と、業界平均(2%)の4倍に引き上げた。評価基準の明確化や目標設定、1on1による対話の充実にも取り組んでいる。生産性向上と働きやすさを追求した結果、会社が個別事情に細かく対応しなくとも、社員が自ら仕事と生活を調整し、効率的に働ける環境を実現している。

KM ユナイテッド(大阪府)の取り組み

建設現場のBPOサービスなどを手がけるKMユナイテッドも、戦略的な人材育成と徹底した働きやすさの追求により、生活背景にかかわらず全社員が成長を実感し、高い水準で価値を創出し続けられる体制を整えている。各スキルの研修内容を検索可能なかたちで動画化し、時間や場所を問わず学べる環境を整備。さらに、顧客満足と相関の高い行動様式を抽出して評価基準に組み込み、成果につながる行動を意識的に身につけられるようにした。加えて、徹底的な業務分析を通じて事業に必要なスキルを明確化し、個々の社員の保有スキルと照合しながら、3カ月ごとに次に習得すべきスキルを提示している。

同社では「8時間のなかで成果を出す」ことを徹底し、時間制約の有無に左右されない評価を実践している。理由を問わず利用できる短時間勤務制度も整備されているが、そもそもの労働時間が短いため社員間の差が開きにくい。結果として、ライフイベントの有無にかかわらず、社員が成長しつつ、仕事以外の人生の充実を両立できる環境が実現している。

企業の成長基盤を強化する

企業と社員の関係は時代とともに変化してきた。戦後の日本では「夫が稼ぎ、妻が家庭を守る」モデルを前提に賃金制度や手当、社宅が整備され、正社員の雇用安定が図られた一方、残業前提の働き方や転勤も当然とされた。その後、男女の雇用機会の均等化や育児・介護との両立の観点から、柔軟な働き方も整えられてきた。しかし、そうした事情に該当しない社員にとっては、残業前提の働き方が残り、育児・介護中の社員は例外的存在とみなされやすい状況が続いてきた。

今日の職場では、異なる生活背景とニーズを持つ社員が協働するようになっており、多くが仕事以外にも重要な役割を担っている。こうした現実に向き合い、特定の事情に限定せず、社員の人生全体を尊重しながら企業の成長につなげる経営への転換が求められている。先に示した4つのアプローチは、単なる福利厚生ではない。社員の不公平感の発生やキャリアの展望の喪失を防ぐと同時に、社員の生活背景の多様化に適応しながら、企業の成長基盤を強化する戦略である。

(注1)ここでは、①ビジネスプロセスの変革、②組織的な人材開発、③幅広い社員が利用できる柔軟な働き方、④社員の仕事以外の人生を尊重する風土形成の4つの要因が、ライフイベント後の仕事に対する態度にどう影響するのかを、育児・介護中の社員およびその同僚の社員のそれぞれについて、構造方程式モデリングを用いて分析した。その結果、①~④は、希望しない仕事の量・質の変化を防ぐことを通じて間接的に、あるいは直接的に、社員の仕事に対する態度の悪化を防ぐ関係にあることが確認された。詳細はリクルートワークス研究所「社員の人生と企業の成長をつなぐ経営育児・介護中もその周囲も社員が輝ける職場づくり」(2025年)参照(https://www.works-i.com/research/report/work-life.html)。

この記事は、研究報告書「家族×仕事 10年の追跡調査が示す、変わる個人・変われない構造」の内容をもとに、再構成したものです。詳細は報告書をご覧ください。