家庭と職場に集中しやすい日本人の「つながり」
新しいつながりの特徴と広げ方とは

2026年04月15日

人々があるいている様子

関係縮小化社会という課題

人はつながりを通じて有形無形の支えを得ており、それらは心身の健康や生活の安定、幸福感に深く関わる。同時に、つながりはキャリアを支える資源でもあり、助言や支援による成長、新たな機会につながる情報の獲得、挑戦を後押しする役割を果たすことも指摘されている。良質なつながりを持つことは、個人の人生にとって重要な意味を持つ。

一方、国際比較で見ると、日本には人間関係が家族や職場に集中する傾向がある。そこに職場の人間関係の希薄化や単身化の進行が重なり、社会全体でつながりが希薄化する「関係縮小化社会」という問題が生じている。
単身者のデータの分析からは、共通の目的のもとで学び、切磋琢磨できる場に参加することが、個人が新たなつながりを築くきっかけになりうることも示された。しかし、より根本的には、家族や仕事の状況に関わらず、良質な関係を築ける社会へと転換していくことが重要である。

新たなつながりの模索

その具体策を考えるにあたっては、従来の発想をいったん脇に置き、新たなつながりの可能性を考えていく必要がある。そのため、コレクティブハウジング(個々の専用住戸を持ちながら、居住者同士が緩やかにつながれる共同施設を併せ持つ住宅形態)、シェアハウス、途上国の子ども支援、地域共生の取り組み、生成AI、弱いロボット、サイバネティック・アバター(身体的・時間的制約を超えて役割参加を可能にする分身技術)など、家族や職場の枠を超え、場合によっては「人と人」という枠すら超えたつながり形成の可能性に取り組む実践者・研究者への聞き取り調査を行い、その概要を図表1に示した(その詳細は「―探究者にきく― 新しい“わたしたち”|研究プロジェクト|リクルートワークス研究所」に示している)。

図表1 新しいつながりを巡る聞き取り調査のポイント

話を聞いた人 ポイント
弱いロボット 筑紫女学園大学 副学長・現代社会学部 教授/豊橋技術科学大学名誉教授
岡田美智男氏
研究対象としている、どこか頼りなく不完全さを持つロボットには、周囲の人の手助けや優しさを引き出す「不完全さの持つ力」がある。不完全なロボットと強いところも弱いところもある人がほどよい距離感で緩くつながり、お互いの世界を尊重しながら、自立共生的な関係を作ることを大切にしている。
サイバネティック・アバター(CA) 慶應義塾大学 総合政策学部 教授
和田龍磨氏
孤独には、助けを求めることができない孤独だけでなく、「感謝されない」という孤独もある。CAは、人と人が物理的距離を超えて共同作業を行い、「誰かの役に立ちたい」という人としての根源的な欲求を満たしながら、より深く豊かな「つながり」を形成することに貢献しうる。
生成 AI
(AIを活用した心の支援)
信州大学准教授 一般社団法人 AIメンタルヘルス協会理事
高橋史氏
生成 AIが人間関係の機能の一部を担うことは可能だろう。また生成AIは人間関係を失った人に、人とのつながり方を教え、最終的に人との橋渡し役となれる可能性がある。AIの活用を広げるためにも、AIとの適度な距離感を保てるような枠組みを社会で構築する必要がある。
シェアハウス フリーライター・『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』著者
藤谷千明氏
女性4人での共同生活を8年実践する目的は「生活コストを下げ、快適に暮らすこと」。いつでも解散可能だからこそ、全員が快適に暮らすために話し合いを重ね、改善のための仕組みを作っている。家族以外と暮らすことで、人生にはさまざまなやり方があることに気づき、不安が軽減された。
地域共生の取り組み
(願いを叶え合う地域づくり)
久留米AU-formal実行委員会、久留米市役所 行政の制度と住民同士の自発的な支え合いを重ね合わせる「久留米らしい地域共生社会」を目指す協働組織を運営している。問題や課題の解決ではなく、「誰かの願いを叶え合う」ことを活動の軸としたことで、人々が関わりたいと思える導線を創出。活動への参加を通じて住民同士がつながる機会を生み出している。
コレクティブハウジング 特定非営利活動法人コレクティブハウジング社 コレクティブハウスでの暮らしは、居住者が仲良しだからではなく、ともに組合を運営する仲間であり、「自分たちの暮らし」を成り立たせるという共通の目的を持つからうまくいっている。お互いの線引きがしっかりあるが、同時に「お互いの状況を想像できる程度の関係性」があることで、居住者はこの先に困ったことが生じても、やっていけそうという感覚を持てている。
途上国の子ども支援 特定非営利活動法人ワールド・ビジョン・ジャパン 支援者が途上国の子どもの成長を長期的に見守るチャイルド・スポンサーシップを通じて、地域開発を行い、特定の子どもとの手紙や対面での交流機会を提供している。交流は支援者と子どもの間の温かなつながりを生むだけでなく、支援者が「自分も誰かの力になれている」という確かな意味づけを得る機会にもなっている。

つながりを捉える2つの軸

図表1に示した「新たなつながり」を「誰とつながるのか」「そのつながりは何を担うのか」という2つの軸に基づき、図表2のように整理した。
横軸が示すのは、「つながり先の特定性」である。相手が特定されている関係か、不特定多数との関係かで分ける。縦軸は、「つながりの主たる役割」である。愛着や安心感など情緒的支援を提供する関係か、課題解決やタスク遂行を支える道具的・機能的支援を提供する関係かを示す。この二軸により、既存のつながりと新たなつながりを同じ枠組みで把握できる。

この整理において、いわゆる家族は、「特定×情緒的」「特定×道具的・機能的」の二象限にまたがる。家族の範囲は人により異なるが、その相手は結婚や出産など、家族形成に関わる大きなイベントがある場合を除き、容易には変わらない。また、家族は愛着や安心感などの情緒的な支え、経済や家族のケアといった生活上の課題を共同で担う機能を持つ。

四象限に広がる「新たなつながり」

一方、今回調査を行った「新たなつながり」は、四象限の多様な場所に位置づけられる。シェアハウスの事例では、「生活コストを下げて快適に暮らす」という共通目的の下、「特定×道具的・機能的」な機能が強調されていた。一方、コレクティブハウジングの事例では、「特定×道具的・機能的」であるのは同様だが、生活の一部を特定の人と共同化しつつ、イベントや食事を不特定の他者にも開く点で、「不特定×道具的・機能的」側面も持っていた。

これに対し、途上国の子ども支援では、不特定の他者への寄付と、継続的交流による特定の相手との情緒的関係が併存していた。また地域共生への取り組みの事例では、つながりや一歩を踏み出す機会を生む点で 「道具的・機能的」側面を持ちながら、最終的に提供されるのは助け合える安心感という「不特定×情緒的」な関係であった。
AIやロボット、サイバネティック・アバターは設計や使い方により四象限のいずれにも位置づけられる。そのなかで豊橋技術科学大学の岡田美智男教授が研究する「弱いロボット」は、特定の人に寄り添い安心感を与える「特定×情緒的」な役割を担っていた。


図表2 従来の「家族」と今回取材した「新たなつながり」を生む取り組みの位置づけ
図表2 従来の「家族」と今回取材した「新たなつながり」を生む取り組みの位置づけ

(注)各つながりは、社会において該当する全てのつながりの位置を示すものではなく、本研究で取材したつながりの位置づけを示すものである。

「新たなつながり」の強み

さらに詳細に見ると、「新たなつながり」には家族にはない共通の強みもあることが分かってきた。以下では、その内容を紹介する。

  1. 密接すぎないことの強み
    その1つ目は、密接すぎない関係という「強み」である。例えばコレクティブハウジングの事例では、食事やハウスの運営を通じて居住者が関係を構築し、互いに見守り合う一方、相互の占有スペースには踏み込まないルールなどによって距離感が保たれている。これによって心理的な負担が軽減され、自律性が維持される。サイバネティック・アバターには「擬人化されているが人間ではない」という適度な距離感があり、家族には相談しにくいことも打ち明けやすい。さらに遠隔での関わりが可能なため、物理的な距離や身体的な制約を超えて、「誰かの役に立ちたい」という希望を実現することが可能になる。

  2. 頼られることが、人の力を引き出す
    2つ目は、頼るだけでなく、頼られる場面があることだ。頼られる経験は自己効力感を高め、居場所感や社会との接点を生む。前出の岡田美智男教授は、人と不完全なロボットが緩やかに支え合うことで、人の力や新たな発想が引き出されると指摘する。地域共生の取り組みの事例では、個人が「願い」を発信し、それを住民同士が「叶え合う」関係が目指されている。他者の願いを叶える側に回ることで、自らの力が引き出され、困ったときには頼れる関係の中に身を置けるという。

  3. 永続的でないからこそ、努力する
    3つ目は、関係が永続的でない点である。関係は更新や解消も想定され、その可変性が維持への努力を促す。女性4人でルームシェアを実践する藤谷千明氏は、共同生活を「生活コストを下げて、快適に暮らす」という明確な目的を持つプロジェクトと捉える。いつでも解散できる関係だからこそ、快適さを保つために改善を重ねることが成功の鍵だと指摘する。

関係縮小化社会を克服する

関係縮小化社会に対抗していくためには、家族形成のハードルを下げるだけでなく、家族と職場を超えて、個人が新しい関係を模索しやすくすること、その機会を社会に広げることが重要だ。
そのためにできることは多い。第一に、家族や職場以外のつながりの価値を可視化することである。コレクティブハウジング、シェアハウス、地域共生、生成AI、自宅用ロボット、サイバネティック・アバターを始め、新たなつながりの可能性や価値、そして注意点を、量的・質的に明らかにしていく必要がある。それぞれがどのような役割を果たしうるのか、そこから人が何を得られるのかが共有されれば、個人が新しいつながりを持ちたいと思ったときに、現実的な選択肢として想起しやすい。

第二に、新しいつながりを「試す」ための経済的ハードルを下げることである。日本ではまだ「家族・親族以外と暮らす」ことへの抵抗感は大きい。シェアハウス等の提供や利用を支援する制度の充実やノウハウの提供を行うこと、コレクティブハウジングなどへの試験的居住に補助を設けることなどは、心理的抵抗感を払拭した後、実際に一歩を踏み出すための後押しとなり得る。

第三に、つながりを生みうる社外の活動への参加や、そのなかで役割を果たすことと両立しやすい働き方を整備することである。リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2025追加調査」により、30~59歳の人に「週3~5時間自由な時間が増えたら何に使いたいか」を1つだけ尋ねたところ、「睡眠・休息」を挙げる人が約4割と最多で、「知人・友人との交流」は5.0%にとどまった。このように多くの人がまず休息を求めている現実は、仕事や家族の役割に忙殺される日本人の状況を表していると言える。家族や職場を超えた新たなつながりを模索できるようにするためには、仕事以外の人生を大切にできる余白を持てる働き方が必要である。

この記事は、研究報告書「家族×仕事 10年の追跡調査が示す、変わる個人・変われない構造」の内容をもとに、再構成したものです。詳細は報告書をご覧ください。