「家族」と「仕事」を巡る3つの問題を克服するために何が必要か

3つの問題に関わる要因
日本では、「家族」と「仕事」を巡って「二重の足かせ社会」「ずるいずるい社会」「関係縮小化社会」という3つの問題が生じている。一方、「全国就業実態パネル調査」やその追加調査等の解析から見えてきたのは、男性には稼ぐ役割が、女性には育児・家事の役割が求められる構造が、今なお結婚や出産、柔軟なキャリア選択、仕事のレベルアップや昇進・昇格といったキャリア形成上の重要な機会を左右しているという実態であった。このことは、性別役割規範やそれに基づく人々の意識、社会的制度といった構造的要因が、変わろうとする個人の選択を制約し続ける社会の姿を映し出している。個人が希望に沿って家族や仕事を選択できる社会をつくる上で、この構造を見直すことは、依然として最優先課題である。
同時に分析からは、今生じている問題の克服に資する要因もさまざまに存在することが明らかになった。職場における能力開発の機会や、自ら創意工夫できる裁量、対象を限定しない柔軟な働き方、対面での学びの機会などは、問題の克服に向けた足がかりとなりうる。
働き方を起点に、「二重の足かせ」を克服する
3つの問題のうち、「二重の足かせ」は、社会の「変われない構造」が幾重にも重なることで生じている。例えば、根強い性別役割規範、ケアや生活を家族内で完結させようとする傾向、そして個人の生活の柱であり続けながら、仕事以外の人生との両立が難しく、すべての人が目指せるわけではない「正社員のジレンマ」である。その結果、家族形成や仕事・キャリアに関する希望の実現には高いハードルが残り、未婚化や少子化、労働力の未活用、労働市場の硬直化などの問題が生じている。
個人が本来の希望に応じた働き方を選択できる環境を整えていくことは、こうした「構造」を変える現実的な動きとなるだろう。そのために、正社員の働き方の見直しを一層推進し、誰もが目指せる働き方へと変えていくこと、正社員以外の労働者の賃金や能力開発機会のさらなる充実を図ること、女性のキャリアの阻害要因となる制度や情報面での課題を解消すること、家事・育児の効率化や自動化の推進などにより、負担の軽減を急ぐ必要がある。
このように働くことを起点に問題の解決に取り組むからこそ、「働くこと」について、困難を抱える人を見落とさない視点も欠かせない。健康上の課題を抱える人や、一人で子育てをする人のように育児と仕事の責任が重複する状況の実態を詳細に把握し、支援のあり方を見直していく必要がある。
図表1 「二重の足かせ」の克服に向けて必要な取り組み
- 「正社員のジレンマ」の解消
残業のない正社員制度の導入・普及や、理由を問わない柔軟な働き方の推進、労働時間による不利益取扱い禁止の検討などにより、正社員を誰もが目指せる働き方にする。併せて、正社員以外の労働者の賃金上昇と能力開発機会の充実に一層注力する。 - 仕事・キャリアを阻害する要因の解消
女性の就業を阻害しない税・社会保障制度へのさらなる移行、社会保険加入のメリットに関わる広報の強化、女性がキャリアに自己効力感を持てる就業機会についての知見蓄積を進める。 - 家事・育児負担の軽減
自動家電や家事支援サービスの利用支援、家事・育児の効率化に関する啓発を進める。男女の家事・育児時間や時間帯の把握・公表を通じ、均等化に向けた取り組みを進める。 - 課題が集中しやすい状況の解消
片働き世帯の実態把握、特に就業困難やダブルケア、心身不調等の事情の把握と、状況に応じた就労・経済的支援の検討を行う。一人親世帯への経済・時間・健康・学びなど多面的な実態把握と、複合的な課題に対応した支援を充実する。
分断に向かわず、「家族」と「仕事」を超えた豊かな関係を築ける社会へ
「家族」と「仕事」のかたちが多様になるなかで、それぞれの立場や課題への理解や共感を持ちにくい状況が生じている。どの選択に何の課題が集中しやすいのかを定量的に可視化し、横断的に議論できる基盤を整えることが重要である。「家族」と「仕事」の類型ごとの状況把握は一つの試みとなるが、多様な暮らしを把握できるデータを充実させ、就労支援や経済的支援の基礎としていくことが求められる。
また、社会全体での関係の希薄化に対抗するための取り組みも重要である。集合型の学びへの参加はつながりの形成と関連しており、教育訓練給付制度などの個人向け能力開発支援策において、学び合いを含む訓練を重視することや、地域の学習コミュニティを立ち上げやすくする施策も検討に値する。さらに、コレクティブハウジングやシェア型居住など、多様なつながりの選択肢や価値を広く伝えていくことも重要である。
企業に求められる転換
企業の人材活用の前提も見直す必要がある。働く人の生活背景は多様化しており、配偶者を持たない正社員が増えているほか、有配偶者においても、夫婦の働き方や役割分担は多様になっている。さらに育児や介護に限らず、看護、治療、学び直し、副業、地域活動など、社員の多くが仕事以外にも重要な役割を担うようになっている。
それにもかかわらず、多くの企業の人事制度や業務設計では、依然として「仕事を中心に生きること」が暗黙の標準となっている。労働力不足がより強まるこれからの時代において、社員の多様な生活背景を踏まえない状況は、優秀な人材の離職、意欲低下、成長停滞を招きかねない。
こうしたなか、社員の人生の充実を制約とみなすのではなく、成長の源泉として取り入れる経営への転換が求められている。実際、育児・介護中の社員とその周囲の社員に焦点をあてた調査からは、特定の事情を持つ社員に限定した配慮は、職場の不公平感や、当事者のキャリア展望の低下を招きやすいことが分かっている。
一方、以下の4つを組み合わせて取り組む企業では、そうした副作用が生じにくいことが確認されている。第一に、業務プロセスの変革により、時間制約の有無にかかわらず成果を出せる体制を整えること、第二に、組織的な人材開発により、あらゆる社員の 可能性を最大化すること、第三に、理由を限定しない柔軟な働き方により、全ての社員が仕事外の人生を充実させながら組織貢献できる環境を作ること、第四に、仕事以外の役割や活動を尊重する組織風土を形成し、社員の社外での成長を自社の成長に取り込むことである。
これらの取り組みは、社員の福利厚生のための取り組みではない。労働供給制約が一層深刻になる時代に、人が集まり、定着し、力を発揮し続ける企業の基盤となる取り組みである。同時に、生産性向上や人材の質の底上げを通じて、企業の持続的成長を支える経営戦略そのものでもある。
個人は古い構造をどう抜け出すべきか
個人に求められるのは、自分の前提を問い直すことである。自分のこれまでの選択は本当に自分の希望に基づくものか、あるいは社会的な環境や慣習に強く影響された結果なのかを、冷静に見直すことが重要だ。例えば、自分や配偶者の働き方を、家族内の固定的な役割を前提に決めてはいないか。家族を養うためには長時間労働でも仕方がないと思っていないだろうか。家庭に支障のない範囲で働く以外の選択肢はないと考えてはいないか。それらの判断は現実的な制約に基づく面もあるが、変えていく余地がないわけではない。
これまでの「家族」と「仕事」のあり方を超える選択に対しては、多くの人が抵抗感を持ったり、選択肢から外してしまったりする傾向がある。しかし、家族・親族以外と暮らす選択は本当にありえないのか、自動家電は節約される時間やその価値を考えても高いのか、家事や育児を効率化することの抵抗感はどこからくるのか、つながりは特定の人との強い関係でないと価値がないと思っていないか。改めて考えることで、選択肢が広がることもあるはずだ。
これまでの前提を問い直し、選択肢を広げることは、時に難しく感じるかもしれない。しかしそれは、過去の構造から自らの力で抜け出し、自分の希望に沿った人生を選ぶことであり、変化の時代に適応していくための主体的な備えでもある。
この記事は、研究報告書「家族×仕事 10年の追跡調査が示す、変わる個人・変われない構造」の内容をもとに、再構成したものです。詳細は報告書をご覧ください。
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