アメリカ各州における現場職政策
現場職政策について諸外国の打ち手を整理するなかで、現場職が極めて地域性の高い(地域によって求められるものが大きく異なり、地域住民の生活とも密接に関係するため)領域であることから、地域ごとに特色のある政策を実施している例として、本稿ではアメリカの州単位の現場職政策を取り上げる。連邦政府の職業訓練制度や予算の状況も重要だが、公立高等教育等への支出、州の最低賃金、訓練機関などを組み合わせ、具体的な人材供給を動かしている州政府の役割は注目することができる。本稿では、州レベルで特徴的な政策を展開するカリフォルニア州、ワシントン州、フロリダ州、テキサス州、テネシー州を取り上げ、日本の現場職政策への示唆を得ることを目的とする。
本稿の整理には、ここまでの現場職政策の整理で用いた、①労働市場の予測や情報共有、②現場職のデジタル化による効率化と賃金・処遇改善、③能力供給システムの見直しと人の移行支援、④業務分解と参入障壁の引き下げ、専門職の負荷軽減という4分類を用いる(※1)。先に整理したとおり、日本では個々の施策は相当数存在するが(※2)、需要を予測し、その予測を踏まえ育て、報い、そして地域で活躍してもらうまでの一貫した政策となっていない。とりわけ、需要予測から育成への接続、育成と賃金の連動、補助職から専門職への接続が乏しいことは、本海外政策研究において繰り返し指摘してきた“空白”である。
州別、現場職政策の整理
本稿で取り上げる現場職政策について先駆的な取り組みを実施する州に関して、カリフォルニア州は「仕事の質」と待遇改善、ワシントン州は学校と企業を結ぶ有給学習とタスクシフト、フロリダ州は需要情報と教育財源の接続、テキサス州は教育機関の供給制約の解消、テネシー州は職業教育機関の物理的な収容力拡大に、それぞれ特徴がある。
1.労働市場の予測や情報共有
まずは、労働市場の情報を用いた施策について整理する。
この点で注目すべき取組を実施するのがフロリダ州である。フロリダ州商務省は、州全体と21の地域について、高成長・高賃金の需要職種リスト(CareerSource)を毎年作成する(図表1)。その地域における各職種の年間賃金上昇率と、平均時給、エントリー時給、さらには年に何人募集が出たのか、入職にあたりどの程度の教育水準が必要か、などが明記される(※3)。どの職種が有望であるか、自分が現実的にその職種に就業できるのかが一目瞭然の情報である。各地域の労働力開発委員会は、これを基にLocal Targeted Occupations Listを定める。さらにMaster Credentials Listは、労働需要、修了後の賃金、キャリア上の発展可能性を基準に、州が価値を認定する学位・資格を掲載する。このリストへの掲載は、連邦・州の職業教育財源や高校の資格取得向け財源からの支援を受けることが前提となる(※4)。つまり、職業別の需給情報が、公的教育訓練のプログラムの選定に、公費負担の有無を経て直接つながっている。
図表1 フロリダ州における地域別需要職種リスト(「CareerSource」Capital Region地域のもの)
テネシー州の2026年版Academic Supply for Occupational Demand Reportも興味深い。州の主要産業をNAICS、職業をSOC、教育プログラムをCIPという共通コードで接続し、「どの産業の、どの職業を、どの教育課程が育成するのか」を可視化している(※5)。従来のように既存の教育分野から職業を探すのではなく、成長産業から職業、職業から教育プログラムへと逆算する社会ニーズ起点の地域教育設計といえる。州内就業率が高く、州中央値を上回る賃金につながる教育プログラムも特定しており、単なる求人件数ではなく、修了後の「地域人材の地域活躍」、つまり地域定着と所得を評価している。
テキサス州では、Texas Workforce Commissionが2032年までの高賃金・高需要職種を示し、その情報を、後述するJobs and Education for Texansの設備助成などに用いる。高需要職種の認定には州全体の予測だけでなく、28の地域労働力開発委員会がつくる地域別重点職種リストも使われる。
2.現場職のデジタル化と賃金・処遇改善
現場職の待遇面に最も直接的に介入しているのはカリフォルニア州である。2026年7月以降、対象となる医療施設で働く労働者には、施設の規模、類型、地域等に応じて時給19.28ドルから25ドルの医療従事者最低賃金が適用される(※6)(※7)。2026年の州一般最低賃金は時給16.90ドル(※8)であり、医療・ケアという社会的重要性の高い分野に、一般最低賃金より高い産業別賃金下限を設定している(2024年10月16日から一般最低賃金とは別の水準を設定)。職種別最低賃金の議論は日本でもあるものの、一般賃金に対してどの程度高くするか(カリフォルニア州では14%高い水準で設定している)等の観点でひとつの基準となる例である。
また、同州のHigh Road Training Partnershipsは、訓練人数の増加だけでなく、労働者が質の高い仕事に就き、既存労働者がキャリアを上昇できることを目的とする。High Roadの仕事は、地域での生活を支えられる賃金、医療・退職給付、安全な労働条件、予見可能な勤務、労働者の発言権、透明な昇進機会を備えるものとされる(※9)(なお、High Roadプログラムのホームページのトップには「建設業界のキャリア」という項目が大きく掲載されており、重点支援領域を設定していることが分かる(※10)〈図表2右下参照〉)。訓練の成果・KPIを「何人修了したか」ではなく、「どのような仕事に移行したか」で評価しようとする政策といえる。
図表2 カリフォルニア州High Road プログラムのホームページ
ワシントン州のCareer Launchでは、職場実習を原則として有給とする。学生は無償インターンとして企業に協力するのではなく、賃金を受け取りながら実務経験と大学レベルの学習を積む(※11)。アプレンティスシップと呼称される教育訓練施策に類似した仕組みである。テキサス州のSNAPPIは、病院の現役看護師が実習指導者になる際、看護学校が通常1シフトに相当する12時間分を買い取り、看護師が従来と同じ賃金・勤務時間の範囲内で学生を指導できるようにする(※12)。これは「指導者になると賃金が下がる、または仕事が増える」という看護教員不足の原因そのものを除こうとする政策と評価できよう。育てる側へのインセンティブ付与策であり興味深い。
デジタル化については、テキサス州のJET(Jobs and Education for Texans)が高需要職種の職業教育に必要な機器の購入・設置を支援(※13)し、フロリダ州のLINE Fundが職業シミュレーション設備を(※14)、テネシー州のGIVEやTCAT投資が自動化等の教育設備を支援(※15)している。ただし、これらは主として学校側のデジタル対応促進策であり、現場事業所等の省力化投資と労働者の賃金上昇を一体化して進めていく制度ではない。デジタル化・生産性向上・賃金上昇の三者を明示的に結びつける制度は州政府単位でもなお限定的であった。
3.能力供給システムの見直しと人の移行支援
人材育成・移行支援については外部労働市場が強いアメリカの特性からさまざまな取り組みが実施されているが、共通しているのは、教育供給を阻む具体的なボトルネックに重点投資をする発想であろう。
カリフォルニア州のStrong Workforce Programは、州内116のコミュニティカレッジを対象とする年間約2億9000万ドルの恒常財源である。その力強い政策名が示唆するように、「より多く、よりよい職業教育」を掲げ、高需要・高賃金職種につながる課程の学生数を増やすと同時に、修了、就職、所得上昇を成果指標とする。2025~26年度には2億9040万ドルが確保され、そのうち6000万ドルが看護教育基盤の再構築に充てられた。資格試験料、学生の定着・就職支援、職場学習など広範に使用できる(※16)。学校単独ではなく、地域の産業界や労働力開発委員会との調整を前提としている点が重要である。
先述したワシントン州のCareer Launchも示唆に富む。高校、コミュニティ・テクニカルカレッジ、4年制大学等をひとつの認定体系に載せ、有給の職場経験と学校での学習を統合する。州は2030年に卒業する以降の若者の60%が参加することを目標に設定している。企業には有給の実習機会、教育機関には単位・授業、州には認定と設備財源という明確な役割分担を設定している(※17)。ただし、2025~27年度の州助成資金は80%削減され、産業主導で成果が明確な事業への重点化を迫られたようで(※18)、先進制度であっても持続性が焦点となっていることには留意が必要だ。
フロリダ州のLINE Fundは、看護教育機関と病院等の医療事業者が共同で人材供給を増やす制度である。対象となる教育課程には、看護助手課程の修了率70%以上、准看護師・正看護師等の課程では資格試験初回合格率75%以上といった質の基準が置かれ、2026~27年度には、州立大学分だけで600万ドルが看護人材の輩出に応じて提供された。同州のPIPELINE Fundはさらに人材供給との連動性が強い。公立の看護教育課程への配分額を、修了者数、看護師資格試験の初回合格率等によって決める。2025~26年度には、学校区の准看護師課程に2000万ドル、Florida College Systemの准看護師・正看護師課程に4000万ドルが配分された(※19)。
テネシー州では、テネシー州立職業技術大学(TCAT)の既存16校の改善、老朽化した7施設の建て替え、戦略的地点への6校新設に約10億ドルを投入する計画を実施している。50年以上経過した施設は当時の産業ニーズに基づく建物であり、現在の労働力ニーズに合わせて整備することを目的に挙げる(※20)。学生への補助ではなく、校舎、実習室、設備という教育機関の能力を増やす政策であると評価できる。
4.業務分解と参入障壁の引き下げ、専門職の負荷軽減
ワシントン州のNurse Delegation(看護師業務委任)は注目すべき施策である。訓練を受け資格を持つ看護助手やホームケアエイドが、登録看護師の判断、教育、監督のもとで、服薬支援、血糖測定、一定条件下のインスリン注射等を行える。登録看護師は利用者の状態が安定して予測可能かを評価し、担当者の能力を確認し、原則90日ごとに監督・再評価する(※21)。専門職(この場合は看護師)しかできなかった仕事の一部を、訓練を受けた補助職へ委任することができる仕組みである。日本においては特定行為看護師、診療看護師といった資格があるが、専門職の独占業務を分解する「職務範囲の再設計および制度化」には、さまざまな工夫の余地があるだろう。
建設領域において、カリフォルニア州では、公共工事の請負事業者に対して、原則として熟練技能者の労働5時間につき登録見習い者(registered apprentices)の労働1時間という比率を求めている(※22)。公共調達を、人材育成の場としても用いるような仕組みといえる。
テキサス州の「スタッカブル資格」への重点的投資(※23)も示唆に富む。看護分野において「スタッカブル資格」は、医療現場の人材不足解消と看護師の効率的なキャリアアップを両立する仕組みとして、認定看護助手資格から4年制大学学士レベルの看護学士号まで積み上げられる体系となっている。認定看護助手資格は数か月程度の短期講習で取得できるが、それはより上位の資格取得の際の有効な要件となり通常より短い期間で上位の資格を取得できる。
日本の政策上の「空白」への示唆
本研究プロジェクトレポートにおいて、日本の政策上の空白として、①エッセンシャルワーク・現場職の地域別需給の把握、②現場職の技能・賃金連動制度、③補助職からのキャリアラダー、④自治体現場職の確保・育成制度、⑤需要削減・サービス水準見直し、の5つを挙げている。このなかでアメリカ各州の事例から特に示唆のあった、①②③について整理する。
(1)地域別需給の把握――予測を制度に組み込む
日本にもJILPTの労働力需給推計、job tag、求人統計等の今後の地域別需要を示唆する発表物がある。ただ、それらが労働供給に連動する仕組みがなく、地域の学校・学科、教育訓練内容等の改善に十分活用されていない構図がある。労働需給が特に逼迫している介護、医療、物流、建設、保育、上下水道、自治体土木等を横断して優先順位と育成規模を決める仕組みの空白をどう解消していくべきか。
フロリダ州のように「地域で需要がある重点職種と指定されると訓練や資格取得に支援が出る」、テネシー州のように「職業・教育課程を共通の“地域活躍KPI”で評価する」、カリフォルニア州のように「求人件数等を学校設備投資の配分に反映させる」という制度は参考となるだろう。地域ごとに今後の現場職需給を把握し、高校、高専、大学、職業訓練校の体制等に反映させるのだ。
(2)技能・賃金の連動――「育成数」ではなく「よい仕事」を政策成果に
日本ではいわゆるメンバーシップ型雇用体系の影響もあり、資格・技能評価と賃金上昇の関係が弱い。これが、たとえば新設備導入後に職務がどう高度化し、賃金がどう上がるかを把握しづらいことの背景となっている。
ここでは、フロリダ州の需要・賃金・キャリア発展に基づく資格認定と、カリフォルニア州のHigh Roadを組み合わせた発想が参考になる。日本においても、省力化等補助金、公共調達等の対象を選ぶ際に、賃金上昇、福利厚生、勤務継続の予見可能性、身体負荷軽減、昇進経路の確保など、「その仕事でのキャリアの発展」を評価指標に入れることで求職者がその仕事を選ぶインセンティブを高めることができる。
また、業職種別最低賃金の議論もある。導入する場合には、医療・介護等の事業者に費用だけを負わせず、公的報酬水準や財政措置と一体で設計することが不可欠であろう。
(3)新卒中核職ルートに依存しないキャリアラダー――ステップをつくる
ワシントン州の有給職場学習、テキサス州のスタッカブル資格、フロリダ州の看護教育支援を見ていくと、短時間の入門課程から、現場経験、本格的な学習、そして資格へとつながる経路の重要性が浮上する。有資格者の数を増やすことだけではない。各段階で担当できる業務・責任、賃金水準を明確にし、他職種で働いていた人が補助職から新たなキャリアを開始することもできる、実務経験などが専門職養成課程の単位や実習に算入される制度にすることである。日本でも学校教員において「特別免許状」として、教員免許を持たないが優れた知識・経験等を有する社会人を都道府県教育委員会の認定で教員にできる制度がある(しかし、全国で特別免許状授与は小中高特別支援学校合わせて500件とごくわずかである〈2022年度〉)(※24)。
以上、アメリカ各州の施策から日本の現場職政策への示唆を整理した。
深い示唆があったのは、それぞれのプレイヤーに具体的な役割を設定していることである。企業に有給実習の受け入れ、教育指導する者の提供、そして採用機会を求め、行政がその実績に対して継続的に財源を負担する。州立大学やコミュニティスクール、地域の高校なども地域のニーズに応える学習の基盤を担うべく設備や学科を柔軟に見直していく。
現場職政策を縦割り施策の集合体ではなく、社会を維持し豊かな地域をつくっていくための打ち手にするためには、行政が頑張るだけでは不十分なのだ。
(※1)大嶋寧子,2026,海外の現場職政策から、日本は何を学ぶべきか,エッセンシャルワーク・現場職 労働市場の研究,リクルートワークス研究所
(※2)古屋星斗,2026,4つの論点から見た日本の現場職政策,エッセンシャルワーク・現場職 労働市場の研究,リクルートワークス研究所
(※3)https://www.floridajobs.org/workforce-resources/workforce-programs/local-targeted-occupations-list
(※4)Career Source Florida, Florida's Master Credentials List https://careersourceflorida.com/master-credentials-list/
(※5)Tennessee Higher Education Commission, ACADEMIC SUPPLY FOR OCCUPATIONAL DEMAND REPORT 2026 https://www.tn.gov/content/dam/tn/thec/bureau/research/other-research/supply-demand/2026/Supply%20and%20Demand%202026.pdf
(※6)Health Care Worker Supplemental Minimum Wage https://info.calchamber.com/healthcareworker-minimumwage
(※7)カリフォルニア州産業関連部局。なお、医療従事者に加え、ファストフード店舗従業員にも高い水準の最低賃金が設定されている。https://www.dir.ca.gov/dlse/minimum_wage.htm
(※8)California Minimum Wage 2026 https://dir.ca.gov/IWC/MW-2026.pdf
(※9)https://cwdb.ca.gov/cwdb-home/our-programs/high-road-programs
(※10)上記リンク、2026年9月9日閲覧
(※11)https://careerconnectwa.org/career-launch
(※12)https://www.highered.texas.gov/thecb-grant-helps-address-critical-nursing-shortage-in-texas/
(※13)https://www.twc.texas.gov/programs/jet
(※14)https://www.leg.state.fl.us/Statutes/index.cfm?App_mode=Display_Statute&URL=1000-1099%2F1009%2FSections%2F1009.8962.html
(※15)https://www.tn.gov/governor/news/2024/8/28/-gov--lee-awards-give-grants-to-further-strengthen-rural-workforce-development-.html
(※16)https://www.cccco.edu/About-Us/Chancellors-Office/Divisions/Workforce-and-Economic-Development/Strong-Workforce-Program
(※17)https://careerconnectwa.org/career-launch
(※18)https://careerconnectwa.org/announcing-ccw-2025-2027-state-grant-awards
(※19)https://www.fldoe.org/file/7671/2526PIPELINEMemo.pdf
(※20)https://www.tbr.edu/news/governor%E2%80%99s-budget-proposals-represent-generational-investment-career-technical-education-2023
(※21)https://www.dshs.wa.gov/altsa/residential-care-services/nurse-delegation-program
(※22)California Apprenticeship Council, Subchapter 1. Apprenticeship, Article 10. Required Apprentices on Public Works Contract https://www.dir.ca.gov/t8/230_1.html
(※23)https://www.highered.texas.gov/grants/nursing-innovation-grant-program-nigp-rider-64/
(※24)文部科学省, 各自治体における社会人の教師への入職促進策について https://www.mext.go.jp/content/20241206-kyoikujinzai-000039084_7.pdf?yclid=YSS.1000383525.EAIaIQobChMI9vPTjuav_AIVRXRgCh2RaAGUEAAYASAAEgI0cfD_BwE%252525252525252523course2
古屋 星斗
2011年一橋大学大学院 社会学研究科総合社会科学専攻修了。同年、経済産業省に入省。産業人材政策、福島の復興・避難者の生活支援、政府成長戦略策定に携わる。2017年より現職。労働市場分析、現場職、若年人材研究を専門とする、ひととしごとの研究者。著書に「ゆるい職場-若者の不安の知られざる理由」(中央公論新社)、「なぜ『若手を育てる』のは今、こんなに難しいのか」(日本経済新聞出版)、「『働き手不足1100万人』の衝撃」(プレジデント社)など。
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