オランダにおける現場職の確保・育成・キャリア支援
オランダの労働政策の背景には、「ポルダーモデル」と呼ばれる合意形成の伝統がある。政府、使用者団体、労働組合などが協議し、労働市場や社会保障の政策を形成する仕組みで、社会経済審議会(SER)がその一端を担っている。
労働移動支援も、単に人手不足職種への転職を促すのではなく、労働市場情報、職業教育、企業実習、学び直し、地域相談を複数の機関が分担して支える。主に、社会雇用省(SZW)と雇用保険機構(UWV)が労働市場・雇用・所得保障を、教育・文化・科学省(OCW)と職業教育・ビジネス協力機構(SBB)(※1)が職業教育と企業実習を、自治体が就労困難者への支援や地域の相談を担っている。
このような社会において、現場職政策はどのように展開されているのか。以下では、職種ごとの有望度をデータで示し、移動候補を提示、リスキリングを標準化、企業の育成を支援して地域一体で労働者の労働移動を支えるオランダの取り組みを参考に、日本の現場職政策を考える。
「有望職種」:情報の提供と職業への接続
現場職の確保・育成・キャリア支援に関する政策における、オランダの特徴は、「有望職種を知らせる」、すなわち移動先職業情報の提供、職業教育や実習先とのマッチング、そして地域ごとのワンストップキャリア支援窓口が相互に接続しながら提供されている点にある。SZW(Ministerie van Sociale Zaken en Werkgelegenheid)の管轄下にあり、公共職業サービス機関であるUWV(Uitvoeringsinstituut Werknemersverzekeringen)と、OCWから法定業務を委託され、中等職業教育(MBO)と企業をつなぐSBBがそれぞれの役割からこの体制を担っている。
図表1 主要な制度・取り組み ※クリックすると大きく表示されます
UWVは、毎年「有望職種」、つまり就職可能性の高い職種のリストを公表している(※2)。2026~2027年版の最新動向では、中等職業教育水準(MBOレベル)の有望職種には、太陽光パネルや充電スタンドの設置を担う電気工事作業員、データ通信・光ファイバー網の通信工事技術者、空調・冷熱技術者などの現場施工・技術者が数多く挙げられている。また、より高度な専門職や高等教育水準(HBO/WOレベル)では、設備技術のプロジェクトリーダーやエンジニア、プロセス・商品テクノロジスト、電気設備検査官などが挙げられている。また、長期的に有望なセクターとして、建設、エネルギー・設備技術、輸送・物流、医療・介護、飲食・ホスピタリティが示されている。あわせてUWVは、求職者が自分の地域で有望職種を探したり、現在の職種に近い有望職種、本人の資質・スキルに合う職種を探したりできるように、求職者が自分に合い、かつ就職可能性の高い職業を探すためのオンライン職業選択支援ツール(Beroepskeuze)(※3)や適職診断のデジタルツール(Beroepskeuzetest)を提供している。
重要なのは、「不足している職種リストを提示する」だけではないことだ。UWVのBeroepskeuzeでは、労働需給データ(有望度)と連動し、職種を教育水準やセクターで絞り込め、学位や資格だけでなくスキル・資質、興味に合った職種を探せる設計になっている(※4)。現在の類似職種からの労働移動の提案もできるのが特徴である。
さらにUWVは、労働市場の逼迫度を示す「緊張度指標(Spanningsindicator)」を四半期ごとに更新している(※5)。これは、推計された未充足求人件数を、短期失業給付受給者(失業給付受給開始後6か月未満)数と比較して、地域×職種別の労働市場の「逼迫度合い」を見る仕組みである(※6)。各地域(35地域)や93の職業グループごとに、現在の市場の緊張度(非常に逼迫、逼迫、平均、余裕など)を動的に検索・抽出できる。その地域の短期的求職者(失業給付受給開始後6か月未満の求職者)1人に対して求人がどのくらい存在するのかを検討し、地域の労働市場の逼迫度を示すダッシュボードである。
指標はひとつの数字で表され、図表2では4.13となっており、これは短期失業給付受給者1人に対して推計未充足求人が4.13件あることを示し、市場状況は「極めて逼迫(zeer krap)」となっている。下記はDrenthe地域、ICT職種の結果であるが、これをダッシュボード上で全地域別×全職種別で表示させることが可能である。
図表2 労働市場緊張度指標ダッシュボード Spanningsindicator
当該情報を見れば、求職者は自身が求職する地域でどのような仕事が“有望”であるのか、一目瞭然となっている。また、「この職業では、(短期)失業者1人に対して求人が何件あるのか」「それは全国平均より高いのか」「どの地域で特に逼迫しているのか」「時系列で改善しているのか、悪化しているのか」といった情報が可視化されており、求職者はもちろんのこと、企業の採用戦略、学校の教育内容・進路選択の重要情報ともなる。
日本でいえば、職業別有効求人倍率に近いが、地域・職業レベル別に四半期ごとに一覧化・可視化され、職業選択や職業訓練に接続しやすい指標となっていることが重要であろう。
「転職候補職種」の提示:就労が難しい職種から、求められる職種へ
また、UWVは「転職候補職種(Overstapberoepen)」という概念を構築している。これは、現在の職種で就職機会が限られる求職者に対して、過去の職業移動実績や労働市場での需要逼迫を踏まえ、より就職可能性の高い別職種を提示するものである。単に不足職種を示しているだけでなく、求職者の既存の経験やスキルを生かして、どの職種へ移動できるかを可視化する仕組みである。
つまり、オランダでは労働市場政策の一環として、以下の3点が具体的に提示され、労働者の選択を支えている。
① 仕事を探しにくい職種
② その人が持つ経験・スキル
③ 労働市場でより需要がある職種
このうち、①はオランダの労働市場で需要が低下している職種といえるが、労働市場の需給状況などを鑑み、かなり具体的な職種が提示されていることが分かる。2026年時点では、以下18職種が「職種転換の提案がある18の職業」として示されている。
1. 事務スタッフ(データ入力)
2. 秘書スタッフ
3. 郵便室スタッフと郵便仕分け係
4. 事務局長
5. 会議やイベントの主催者
6. マーケティング担当者
7. 営業およびマーケティングマネジャー
8. コピーライター、編集者、翻訳者
9. テレビ、映画、演劇の制作アシスタント/プロデューサー
10. インテリアデザイナーとスタイリスト
11. グラフィックデザイナー、マルチメディアデザイナー、ウェブデザイナー
12. コミュニケーションスキルトレーナー
13. 清掃員
14. 生産労働者と梱包作業員
15. 動物飼育員
16. ライフコーチ
17. ビジネスリーダー/ファッション起業家
18. 家庭用品およびギフト用品の販売員
ただし、あわせて③を提示していることが重要である。それぞれに対して経験を生かせる移動先として有力な職種も具体的に示している。たとえば、事務スタッフ(データ入力)については、AIの影響もあり急速に需要が縮小していると考えられるが、UWVはそうした職種の人たちに対して、これまで実際に転職してきた、または転職しやすい職種の例を8つ示している。参考までに図表3・4に整理しておく。
こうした情報は、UWVが実際に斡旋してきた職業移行に関する情報をはじめとした労働市場データに裏打ちされており、有効性が高いと考えられる。つまり、データ入力事務職の人は、“事務処理の正確さ、情報整理、手順遵守、表計算ソフト等のデジタル操作経験を生かして、現場職を含む今後需要が高まるこれらの職種に移れる可能性がある”と示しているのだ。
日本でも「成長分野への労働移動」というフレーズが聞かれて久しいが、誰が、どのように、どういった職種に“移動”すればよいのかという具体的な政策的視座が提供されていない。オランダUWVの施策は、労働移動を求職者個人任せにせず、政府が需給情報提供、移動先の有力候補、そしてそのために有望な訓練プログラムをSBBやLeeroverzichtなどの教育訓練情報と組み合わせて探せるようにすることで、移動に必要な学習機会をより探しやすく提示しているという点で、労働移動が求められる日本にとっても深い示唆があると指摘できる。
なお、こうした移行先職種の提示についてUWVは効果検証を行っている。自動化等によって求人が乏しくなった就職可能性の低い職業グループを希望する求職者への支援の効果測定である。多くの求職者は求人が乏しくなっても自分が経験してきた職種を中心に職を探し続ける。典型的な例として、事務補助職は検索数が多い一方で、就職可能性がかなり低い職種であった。そこでUWVは個人の希望職種に対応した「Eメールキャンペーン」を実施した。そこでは、その希望職種の就業可能性が低いこと、そしてより就業可能性の高い職種を具体的に明示した。職種間の共通性や、別職種へ移動した人たちの体験動画なども見られるようにした。対照群を設定し、効果測定を行った結果として、Eメールキャンペーン実施層では求職者が当初の希望職種とは別の職種で就職する割合が高まり、就業後の収入水準も4.2%高くなった(※7)。
図表3 移行先職種のパンフレット(事務スタッフ〈データ入力〉)(2026年版)(※8)
図表4 事務職(データ入力)からの有力な移行職種
UWVが行っている「有望職種」政策は、次の3点に整理できる。
1つ目は、職業別需要の見える化。どの職種に仕事があるかを、国全体・地域別、職種別で示している。2つ目は、移動先の見える化。UWVは、仕事を見つけにくい職種から、より可能性の高い職種へ移るための「転職候補職種(Overstapberoepen)」を提示している。これは、似たスキルを持つ別職種への移動を支援する考え方である。3つ目は、訓練ルートの見える化。SBBの職業教育データや職業学校のプログラムと接続することで、「この職種が有望だ」で終わらず、「どの学び先・実習先がよいか」まで提示している。
バーンカンズ:「学ぶことはどう生きるか」を可視化する
オランダの現場職で中核になっているのは、MBOの卒業者である。MBOには、学校中心の職業教育課程(Beroepsopleidende leerweg:BOL)と、就業・就学並行型職業教育課程(Beroepsbegeleidende leerweg:BBL)がある。BBLでは、学生は認定学習企業で週4日ほど働き、残りの日に学校で学ぶ形が典型で、実践で学ぶ若者、資格なしで働いている若者、社会人の転換者にも向くルートとされる(※9)。
この仕組みの質を支えているのがSBBである。SBBは、MBOと企業をつなぐ法定・公的な機関で、学習企業の認定・指導、資格構造の整備、インターンシップや労働市場情報の提供などを担う(※10)。
SBBは、職業教育と労働市場をつなぐ情報も持っており、それが「修了後の就職見通し(Baankans:以下、バーンカンズ)」である。バーンカンズはMBO修了者がその教育レベル・専攻に沿って仕事を得られる可能性を示す指標であり、具体的には卒業後1年以内に、その学んだ分野・水準に合った仕事を見つけやすいかを示す(※11)。特定の教育を修了した新規卒業者に対する労働需要と、その教育を修了して労働市場に参入する卒業者の供給を比較し、その結果を10段階で示す。10点満点の尺度に勘案して示されるため、利用者にとって非常に分かりやすい特徴がある。もちろん、学生の進路選択、学校の教育プログラム設計、企業・業界の人材供給見通しに用いることが可能である。
先述したUWVの「有望職種」公表の取り組みが、労働需給とその見通しの提示、および移動先の候補を示すものであるとすれば、SBBの「バーンカンズ」はその移動や就業に際して前提となる職業訓練の投資対効果を就職の容易さという観点から可視化するものである。職業教育のパフォーマンスを労働市場の需要という出口側から定義するものといえる(※12)。
企業への支援:企業に「育てる負担」を背負わせすぎない
実践学習補助金:質の高い実習先を確保する
代表的な企業支援が、オランダ企業庁(※13)の「実践学習補助金(Subsidieregeling Praktijkleren)」である。これは、企業がMBOのBBLなどの実習生・学習者を受け入れて実践学習の場を提供する際、指導にかかる費用を補償するもので、2026年の計画では企業における学習・実習1件当たり最大2800ユーロとされる。目的は、よりよく訓練された人材を増やすこと、特に資格人材が不足するセクターや労働市場で脆弱なグループを支えることにある(※14) 。職業訓練を座学や模擬実習に終わらせることなく、実際の現場で学習を完了させるために、実習の場を提供した企業を経済的に支えることで、先述のUWVの有望職種施策やSBBの認定制度とあわせて、MBOのプログラムを受講したい社会人・学生が、より質の高い実習先を得られるよう受け入れ先を拡充するための制度といえる。
「第三学習経路」:短期間リスキリング
成人向けには、MBOの「第三学習経路(Derde leerweg)」による実践学習がある。これは、BOL、BBLに加えて設けられた第三の教育ルートであり、すでに働いている人や求職者が、短期・柔軟な職業訓練を受けるためのプログラムである(法改正により今後、「キャリアベース学習経路」に名称変更される予定)。BOLやBBLよりも柔軟に設計でき、政府資料では、第三学習経路は授業時間数や修業年限に関する規定がなく、労働市場で意味のあるMBO教育の一部を提供し証明書を発行できる(※15)。
また、第三学習経路については、企業による実践学習の指導費を支える補助制度も実施されてきた。ただし、従来の補助制度は2026年4月1日にいったん終了し、SZWは2026年後半の再開を予定している。第三学習経路では、完全なMBO修了証明だけでなく段階的な証明書の取得が可能である。日本における求職者支援訓練と対象は近似しているが、訓練コンテンツが明確に異なり、企業現場に埋め込まれた、現場接続型・資格体系接続型のリスキリング制度といえよう。
メンバーシップ型といわれる日本の就労において、必要な国家資格等の存在により相対的にジョブ型に近い職種が多い現場職においては、こうした高い現場接続性・資格接続性は参考となる部分が大であろう。
「セクター別発展経路」と「訓練補助金」:セクター別の「職業の階段」をつくる
「セクター別発展経路(Sectorale Ontwikkelpaden)」は、業界別キャリア・訓練ルートともいえるもので、あるセクターにどんな仕事があり、その仕事にどの教育・訓練が対応しているかを示す(※16)。これにより、個人は「その業界でどの仕事に就けるのか」「業界内でどう成長できるのか」「他業界へどう移れるのか」を把握することが可能である。対象セクターは、農業、産業、エネルギー、廃棄物・リサイクル・飲料水、建設・インフラ、小売、輸送・物流、ICT、清掃・観光、教育、医療・福祉など、労働需要が逼迫する現場職を中心とした職種である(※17)。
また、オランダ政府は、人手不足が大きいセクターで働く人を増やすため、「セクター別発展経路」で定めたルート上の訓練を実施する企業を補助する制度を持っている(SLIM-scholingssubsidie)(※18)。日本にも介護キャリア段位制度や建設キャリアアップシステムといった職種別キャリアアップ基準が構築されているが、これらとオランダの「セクター別発展経路」で決定的に異なるのは、個人の実務能力を評価して段位認定する制度ではなく、職種・専門性と提供される教育訓練の対応関係を示すことが目的である点である。また、職種ごとに定められたキャリア発展ルートと国の補助金がダイレクトにつながっていることも興味深い。人手不足分野の入職から育成までを支えるインフラと考えることができ、人手不足に直面する現場の企業の育成コストを低減する取り組みであると評価できる。
個人・成人への支援:情報、資金、地域相談を束ねる
個人向けの支援においては、一体的に提供する統合的な窓口・プラットフォームが構築されている点は特筆すべきだろう。
たとえば、Leeroverzichtは中央政府、労働組合、使用者団体、教育・訓練提供者団体による共同イニシアティブとして運営される独立の全国的学習情報ポータルであり、訓練、講座、実践学習、資金調達手段を1か所で探せるようにするものである(※19)。移動したい職種で必要な訓練がどこで学べるか、どう学べるか、そして学び直しの資金情報まで一元的に提供されているのは興味深い。
また、資金面の支援としては、「生涯学習ローン(Levenlanglerenkrediet)」がある。これは、社会人が認定を受けた教育課程で学び直すための融資で、57歳未満が対象である(※20)。
また、個人への支援で特に重要なのが、「ワークセンター(Werkcentrum)」である。全国35の地域全てに整備され、求職者、在職者、そして求人企業の担当者が、仕事、訓練、キャリア、採用、人材確保、補助金について相談できる場となっている(※21)。 政府も、全国で「ワークセンター」を通じて仕事や訓練へ早くつなげ、求人充足と就業・学習参加を進めるとしている(※22)。これは日本でいえば、ハローワーク、自治体、民間職業訓練、教育機関、産業界、労使団体の窓口を、地域単位で束ねるようなものである。
社会的包摂:障害・制約のある人も現場職に入る支援
人材確保策は、若者・成人転換者だけでなく、障害や労働制約のある人にも向けられている。オランダでは、働くことができる人の就労を促し、支援なしでは労働市場への参加が難しい人を支えることを目的に、2015年1月に社会参加法(Participatiewet)が施行された。雇用主が同法の対象者を採用し、その人が労働制約により通常の労働者より低い生産性になる場合、自治体がその労働価値と最低賃金との差額を雇用主に支給する「賃金コスト補助金(loonkostensubsidie)」がある。支給の上限は、最大で最低賃金の70%までである。
さらに、対象者の制度上の位置づけに応じて、UWVや自治体が提供する職場改修や支援技術、試用就労などの支援もある。このほか、一定の要件を満たす労働者が採用後に病気になった場合には、UWVが傷病給付を支給する「ノーリスク保険(no-riskpolis)」制度なども用意されている(※23)。これらは「人が足りない現場に未経験・制約のある人をただ送り込む」制度ではなく、本人の能力や必要な支援に応じて、仕事の切り出し、職場調整、賃金補助、試行機会等を組み合わせ、就労と雇用継続を支えるものとして見るべきだろう。
日本の現場職政策へ向けた示唆
最後に、日本の「現場職を確保し育てる仕組み」に対するオランダの取り組みからの示唆を整理する。
第一に、UWV「有望職種」による情報提供である。
地域別職種別需給という職業選択における入り口の情報提供を行っている点が挙げられる。ただし、もちろん需給情報だけでは人は移動しない。オランダでは、スキルダッシュボード、バーンカンズ、「セクター別発展経路」を組み合わせ、仕事がたくさんある職種や自分が移動しやすいおすすめ職種、その必要スキル、必要な教育・訓練・実習先、その訓練を受けた際のコストパフォーマンスなどを一体的に求職者に提供し、社会人が職業移動することのハードルを下げるための手を複層的に打っている点が重要である。
第二に、企業を「育成主体」として制度化している点である。
SBB認定学習企業やMBOのBBL、第三学習経路によって、企業を単なる採用者ではなく、“学習の場”として位置づけている。企業は実習生や社会人を受け入れ、指導し、その指導コストに対して政府から補助を受ける。つまり、採用の支援だけではなく、現場職を「育てる現場」を公的に認定・支援する仕組みを設けており、職業訓練をより実務と密接なものとするための取り組みと位置づけることができる。
第三に、「フル資格」だけでなく、モジュール化された訓練とその証明である。
MBO修了だけでなく、短期リスキリング修了資格のような段階的証明を使い、働きながら短期・実践型で学ぶ設計を行っている。この点について、日本では企業側が採用において職業訓練修了を評価していないという問題が指摘されているが、現場職は国家資格とひも付き、職務範囲が明確な職種が多く、タスク単位・職務単位の証明が相対的に行いやすいと考えられる。この際に、オランダでは「セクター別発展経路」の設定が重要な役割を果たしているが、日本でも職種別のキャリア段位やキャリアアップシステムが整備されつつあり、こうした実務に即した職務ステップと訓練修了証明をリンクさせることが有効だろう。
第四に、「仕事と学び」の一体窓口である。
「ワークセンター」は、仕事、訓練、採用、補助金、キャリア相談を地域で束ねる仕組みで、自治体、UWV、企業団体、労働組合、SBB、教育機関が参画する共同窓口・連携体制であり、地域ごとに設置されている。日本でいえば、ハローワーク、地域の職業高校・専門学校・大学、業界団体、社会人インターンシップを募集している民間企業の窓口が一体となったものと形容できる。
「職種を超えた労働移動」という、これまで多くの人が経験したことがない大きなリスクを負うことになる労働者へ、仕事の斡旋と実践的な学び先を一体的に提示していく機関は論ずる必要性が高い。
もちろん、日本で同様のインフラを構築するうえでは、一律のプログラム展開ではなく、地域ごとに大きな差異がある産業特性に特化したローカライズと、産学官をつなぐ専門コーディネーターの国費による配置が不可欠となるだろう。
図表5 オランダの主要施策と概要 ※クリックすると大きく表示されます
(※1)SBBの理事会は「学校代表」だけでなく「労働組合(FNV等)」と「経営者団体(VNO-NCW等)」の三者構成となっており、運営に強くコミットする背景にある。
(※2)Kansrijke beroepen: beroepen met goede kansen op werk
https://www.uwv.nl/nl/arbeidsmarktinformatie/kansen-beroep/kansrijke-beroepen
(※3)UWVのBeroepskeuze(職業選択)は、UWVが運営する求職サイト「werk.nl」上で提供されている。https://www.werk.nl/nl/beroepskeuze/
(※4) https://www.werk.nl/nl
(※5)Dashboard Spanningsindicator https://www.uwv.nl/nl/arbeidsmarktinformatie/dashboards/dashboard-spanningsindicator
(※6)労働市場の逼迫度を「推計された未充足求人件数」を「同時点で短期失業給付を受け始めて6か月未満の人の数」で割って算出するとしている。https://www.uwv.nl/nl/arbeidsmarktinformatie/trends-ontwikkelingen/spanningsindicator-arbeidsmarkt-koelt-verder-af
(※7)UWV Knowledge Report 2024-4, Widening the job hunt - The effect of personalised labour market recommendations
https://www.uwv.nl/assets-kai/files/56a80953-0d92-48ed-905b-637888350658/ukv-2024-4-widening-the-job-hunt.pdf
平均労働収入1052ユーロに対して42ユーロ高くなったと報告されている。
(※8)https://www.uwv.nl/assets-kai/files/b48e2121-a5cd-4b71-a565-731fe463241b/overstapberoepen-2026.pdf
(※9)https://www.nieuwsbrievenminocw.nl/actueel/nieuws/2025/02/13/interessant-voor-examenleerlingen-de-beroepsbegeleidende-leerweg
(※10)https://www.s-bb.nl/
(※11)https://www.s-bb.nl/activiteiten/onderzoek-en-informatie/arbeidsmarkt/baankans/
(※12)なお、バーンカンズは、BOLに限らずBBLにも設定されており、社会人の職業訓練の投資対効果を測る際にも有効であろう。
(※13)RVO:Rijksdienst voor Ondernemend Nederland
(※14)https://www.rvo.nl/subsidies-financiering/praktijkleren
(※15)https://www.rijksoverheid.nl/documenten/2020/09/30/ruimte-in-regels-een-flexibel-mbo-aanbod-voor-leven-lang-ontwikkelen
(※16)(※17)https://www.rijksoverheid.nl/themas/werk/hervormingen-arbeidsmarkt/meer-geschikt-personeel-en-blijven-ontwikkelen-tijdens-werk
(※18)訓練補助金。https://www.uitvoeringvanbeleidszw.nl/subsidies-en-regelingen/algemene-informatie/slim-scholingssubsidie
(※19)https://www.rijksoverheid.nl/themas/onderwijs/leven-lang-ontwikkelen/overzicht-opleidingen-voor-werkenden-en-werkzoekenden
(※20)https://www.rijksoverheid.nl/themas/onderwijs/leven-lang-ontwikkelen/leven-lang-ontwikkelen-financiele-regelingen/levenlanglerenkrediet
(※21)https://www.uwv.nl/nl/magazines-nieuwsbrieven/nieuwsbrief-werkgevers/werkcentra-in-alle-35-arbeidsmarktregio
(※22)https://www.rijksoverheid.nl/actueel/nieuws/2026/03/23/werkzoekenden-sneller-naar-werk-of-opleiding-via-werkcentra
(※23)https://ondernemersplein.overheid.nl/personeel/personeelskosten-en-loon/verlaag-uw-loonkosten-met-subsidies-en-tegemoetkomingen/
古屋 星斗
2011年一橋大学大学院 社会学研究科総合社会科学専攻修了。同年、経済産業省に入省。産業人材政策、福島の復興・避難者の生活支援、政府成長戦略策定に携わる。2017年より現職。労働市場分析、現場職、若年人材研究を専門とする、ひととしごとの研究者。著書に「ゆるい職場-若者の不安の知られざる理由」(中央公論新社)、「なぜ『若手を育てる』のは今、こんなに難しいのか」(日本経済新聞出版)、「『働き手不足1100万人』の衝撃」(プレジデント社)など。
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