外国人労働者受け入れを紐解く――地域が選ぶ仕組みづくりへ 青山学院大学 友原章典氏

2026年09月28日

外国人労働者は日本社会に不可欠の存在となる一方、労働市場の観点で見れば、雇用が奪われる、賃金水準を押し下げるといった帰結も考えられる。経済学の視点から移民受け入れの影響を研究する青山学院大学国際政治経済学部の友原章典教授に、外国人労働者の増加が社会にどのような変化をもたらすのか、各種の研究やデータなどに基づいて紐解いてもらった。

マクロ経済への影響は限定的 国内労働者の行動には変化も

――外国人労働者受け入れが社会に与える影響について、私たちはどのように考えればいいでしょうか。

マクロとミクロ、両方の観点から考えるべきです。まず外国人労働者の増加が国内労働者の雇用に悪影響を与えるのかを、マクロの経済指標で見てみましょう。失業率は政権安定にも関わる重要な経済指標のひとつですが、長期的には雇用に与える影響は大きくはない、という研究がいくつもあります。日本の研究でも、2009~2018年の間に外国人労働者の数は3倍近く増加しましたが、失業率の悪化は見られませんでした。

一方、ミクロで見ると労働者の内訳や働き方は、変化する可能性があることが分かってきました。たとえばアメリカの看護師に関する研究では、外国人労働者が増加したところ、既存の看護師が他業種に転職することが増え、看護職に就く市民も減るため、市民の看護師が減るという結果が出ました。職場に外国人が増えたことで、意思疎通の難しさや文化の違いによる摩擦が起きやすくなり、職場環境が悪化したためではないか、と推測されています。

この研究では外国人の看護師が増えても既存の労働者の賃金は下がらず、失業も増加しませんでした。一方、ノルウェーの研究では建設業に外国人労働者が増えたことで、国内労働者の賃金が低下するという結果が出ています。このことは看護師のように資格や免許、検定で守られている職種は、外国人の増加による賃金への影響が小さいことを示唆しています。労働市場の制度的枠組みによって、状況は大きく変わることが分かります。

――外国人労働者を受け入れるに当たり、国内労働市場への影響を抑えるために、国として留意すべき点はどんなことでしょうか。

たとえばドイツでは、外国人労働者を受け入れる政策を導入した結果、1年半で雇用者に占めるチェコスロバキア国籍の人の割合が、0%から3%へと急激に増加しました。ただこの政策では、外国人労働者はドイツ国内での居住を許されず、国境を越えて通勤する形となりました。この事例の研究結果を見ると、チェコスロバキア国境付近で外国人労働者流入の影響を受けた一部ドイツ地域では、失業こそ増えなかったものの、ドイツの別の地域からその地域に来ていた出稼ぎ労働者の雇用が奪われ、高齢層も労働市場から退出する傾向が見られました。これは外国人労働者が増加したために競争が激化し、雇用条件が悪化するなどして、高齢層が無理に働かなくなったためだと推測されます。この後ドイツは、外国人労働者を受け入れるペースを抑制する方向へと、政策を軌道修正しました。

日本もバブル期に多数の日系人労働者を受け入れましたが、リーマンショック後に労働需要が急速に落ち込み、帰国支援事業が行われました。受け入れのペース配分を考えることは、国内労働市場への悪影響を避けるためにも、また外国人労働者の雇用に責任を持つという意味でも重要です。

地域・職種別の需要を把握 在留資格の発給をコントロール

――ペースを調整するやり方として、どのような方法が望ましいと考えられますか。

特定技能については、分野別で5年ごとの受け入れ⾒込み数に上限を設けることでペース配分をしているといえます。しかし5年間という期間ですら適正な需給予測をするのは難しく、現に外食業では、人手不足にもかかわらず人数が上限に達する見込みになったとして新規の受け入れを停止する事態が起きました。それ以外にも、受け入れ上限を決めるだけでは特定地域に労働者が集中し、地域間格差が生じる可能性もあります。個人的には出入国在留管理庁と厚生労働省が連携して、有効求人倍率などのデータを用いて各地域の短期的な労働需給を把握し、在留資格の発給ペースを調整する仕組みが有効ではないかと考えています。もちろん、労働市場は地域で閉じているわけではありません。地方で受け入れた労働者が、語学を身につけスキルを高めた後に都市部に移ってしまうケースもありますが、未対応のままよりは、地域間格差の是正につながるでしょう。

このことは、地方が外国人労働者に、日本の文化や言語を学ぶ場を提供する機能を担ってきたことも示しています。労働移動を無理に止めることが難しいことを考えると、そうした育成機能を支える方向に向かえばと期待しています。

――外国人の受け入れは、労働力の確保というメリットをもたらす反面、育成などさまざまなコストも生じます。こうしたコストは誰が、どのように負担することが望ましいでしょうか。

原則として受益者が負担すべきですし、大企業のなかにはすでに現地で労働者を採用・育成し日本に呼び寄せるというコストを負担しているところもあります。

一方で厚労省のデータによると、外国人労働者の半数超が従業員数100人未満の中小企業で働いているため、企業側で全てのコストを負担しきれないケースもあります。こうした場合や受益者が明確でないコストについては、住民が税金という形で一定程度、負担せざるをえないでしょう。

ただ、外国人への税金投入には同意を得づらい面もあるでしょう。外国人労働者を受け入れれば、国や地域住民に何らかのメリットはありますし、同時に何らかの形でコストを負担するデメリットも生じます。国民・住民がこうしたことを理解し、どうしたいかを考えることが重要です。

機能維持か集約化か、選択肢を示す 地域で違いがあっていい

――人口減少に伴って多くの地域で若者が減っています。こうしたなか外国人労働者を活用していこうという動きがみられますが、これについてはどのような意見をお持ちでしょうか。

本来、人手不足の業種であっても、賃金を上げれば国内労働者を集められる、という考え方があります。しかし実際には、地域のエッセンシャルの業種については経営上の問題から賃上げが難しく、国内労働者が集まりません。先ほどお話ししたとおり、外国人労働者の多くが中小企業で働いており、彼ら・彼女らの存在が中小企業の「人手不足倒産」を防いでいる側面すらあります。外国人労働者の政策を考えるに当たっては、労働政策だけではなく企業利益を高め価格転嫁を進めて賃上げにつなげる、という産業政策の視点も不可欠です。

――産業政策という視点に立つと、地域の機能を維持するには、外国人労働者に人手を補ってもらうだけでなく、機能を集約することで必要な人員そのものを減らす、という方策も考えられます。

機能集約もひとつの方法ですし、住民が極端に減った地域では、集落ごと都市部に移転するといった道もあるかもしれません。移転後も住民の「つながり」を維持できることは、金銭的な支援に匹敵するインセンティブになりうると思います。

個人的には、住む場所を自由に選べる社会が好ましいですし、地域の衰退に対応するためとはいえ、中央主導で効率性を過度に重視した安直な機能集約政策を画一的に推し進めることには疑問も感じます。機能維持か集約化かといった複数の選択肢を提示し、住民自身が決めることが大事だと考えています。その結果、外国人を積極的に受け入れ共存を目指す地域もあれば、住民の生き方や価値観に合わせて、受け入れを絞り込む地域もあるなど、異なる政策を取ってもいいのではないか。重要なのは、地域としてどのように外国人労働者と向き合うのかというビジョンを描き、住民のコンセンサスを得ることではないでしょうか。

――国としては外国人労働者の受け入れに、どのようなスタンスで臨むべきだとお考えでしょうか。

外国人労働者の受け入れに当たっては、急激に人数を増やすのではなく、国内労働者が受容できる緩やかなペースで進め、受け入れた人たちのサポートも同時に進めていくのが望ましいと思います。

2年ほど前のデータでは、外国人労働者の受け入れは労働力人口の減少分を補うペースであり、許容範囲だと思います。ただ今後は、外国人労働者の増加と人口減少が同時に進みそうなため、外国人労働者の割合が上昇するスピードは加速する見通しです。今や日本の社会生活の維持に外国人労働者の存在は不可欠となっており、外国人の受け入れを極端に絞り不便な生活を甘受する、という考えはあまり現実的ではないように思います。そうである以上、外国人の増加によって働くことの価値観や職場の文化が変化することも、自ずと受容されていくのではないでしょうか。仮に、外国人労働者が突如として急減する事態が起きればなおさら、日常生活が外国人労働者に支えられていることを再認識し、変化も加速するかもしれません。

◆友原章典氏
青山学院大学国際政治経済学部 教授
ジョンズ・ホプキンス大学大学院経済学博士号(Ph.D.)取得、ニューヨーク市立大学助教授、カリフォルニア大学ロサンゼルス校経営大学院エコノミストなどを経て、現在、青山学院大学教授。『移民の経済学』(中公新書)の著者。

聞き手:坂本貴志
執筆:有馬知子

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