外国人労働の包括的な法律が必要 「移民政策」は労働の領域超えて議論を 労働政策研究・研修機構 濱口桂一郎氏

2026年09月17日

日本で働く外国人をめぐっては、1990年施行の入管法改正で日系人らの就労を認めたことを皮切りに、技能実習制度や特定技能制度の創設、そして2027年の育成就労制度開始に至る法整備が進められてきた。制度が変遷してきた背景や課題などについて、労働政策研究・研修機構(JILPT)の濱口桂一郎・労働政策研究所長に聞いた。

研修生という「サイドドア」 制度の歪みが長く影響

――外国人労働を取り巻く政策については、これまでどのような議論が行われてきたのでしょうか。

外国人労働政策は、「開国論対鎖国論」という表層的な対立図式が本筋であるように語られる傾向がありました。つまり、開国をして外国人を受け入れるべきかそれとも鎖国するかというイデオロギー的な論争です。一方で、現場の実態としては、1990年代以降、日本企業は景気変動による労働需給の変化はあるものの、一貫して現場の労働力として外国人を受け入れたいというニーズが経済界には存在しました。また政府もその要請に応える形で、人材や人数はある程度絞りつつ、一定数の外国人を受け入れようとしてきました。つまり経済界や政府は、初めから外国人を労働者として受け入れることの必要性を認識し、そのために必要な制度をつくろうとしていたのです。そこで、政府と経済界が外国人を低コストで使いたいがために、「研修生」など「労働者」ではない在留資格で、いわば「勝手口(サイドドア)」から入国させたのだと考える向きもありました。

――なぜ「労働者」という「表玄関(フロントドア)」ではなく、研修生というサイドドアでの受け入れとなったのでしょうか。

労働省(現・厚生労働省)は1980年代後半、外国人労働者を受け入れるための制度として「雇用許可制」を打ち出しました。ただこれは、労働省が個々の外国人就労の許可権限を握るという制度設計であり、いわば入管行政に踏み込む形になっていたため法務省が強く反発し、導入には至りませんでした。そしてこれ以降、法務省は労働省の関与を防ぐため、「労働者」としてではなく「日系人」「研修生」といった就労を目的としない在留資格で、外国人を受け入れる制度を設けるようになりました。

しかし実態としては、日系人も研修生も労働力として扱われ、特に研修生は労働者としての保護を受けられなかったために、人権侵害や搾取が横行しました。こうしたなか、規制改革会議や経済財政諮問会議の専門調査会が制度改正を強く求め、結果的には法務省が押し切られる形で、2010年に「研修」は座学だけになり、「労働者」である技能実習生に一本化されたわけです。しかし最初の段階で、研修生という「サイドドア」から外国人を受け入れたことによって、その後の政策にも長期にわたって歪みが生じました。外国人は「労働者」ではないと見なされたために、日本の労働市場のなかで、外国人労働者にどのような役割を果たしてもらうかというビジョンを描けなかったことも、そのひとつです。

30年ごしにあるべき姿へ 特定技能の創設

――2019年、人手不足の業種に外国人労働者を受け入れる「特定技能制度」が開始されました。この制度については、どのように評価しますか。

特定技能制度が創設されたことで、外国人労働者は技能実習3年経過後に特定技能1号に移行すれば、さらに5年間の就労が可能になりました。試験など一定の条件をクリアして、特定技能2号へと移行すれば、就労期間の制限がなく家族の帯同も認められます。つまり外国人労働者にキャリアラダーを設け、長期雇用も視野に入れて受け入れる制度が整った形で、30年前につくられるべきだった制度が、ようやく実現したと評価しています。

ただ官邸主導で制度がつくられたため、労使をはじめとしたステークホルダーの意見が十分に反映されていない側面があり、それによる弊害や課題も生じています。ただ、外国人を労働者として受け入れるという「表玄関」をつくるには、政労使3者構成の政策決定プロセスを超えた政治の「突破力」も必要だったと考えられ、官邸の強力なリーダーシップがあってこそ実現したという側面も否定はできません。

――特定技能制度の課題には、どのようなものがあるでしょうか。

たとえば法律上、特定技能の対象となる業種は、マクロ労働市場のエビデンスに基づいて決める建付けになっています。しかし実態としては各業界が所管官庁に陳情し、それを基に各省庁が官邸と交渉することで決まっている面があります。こうした結果、陳情を繰り返す業界が認定される傾向が見られますし、対象業種も増え続けています。

2026年4月には、外食産業の特定技能1号の労働者が、上限の5万人に達する見通しとなり、人手不足にもかかわらず受け入れを一時停止する事態も起きました。これもマクロ労働市場的な観点が抜け落ちたことの表れではないか、と感じています。

――諸外国では、外国人労働者の受け入れに必要なエビデンスを得るため「労働市場テスト」を実施するケースも見られます。労働市場テストの必要性についてはどのように考えますか。

業界団体が「人手不足で困っている」と訴え、特定技能に認定するよう所管官庁に陳情する――というプロセスそのものが、ある意味では不完全ながら、労働市場テストの役割を代替しているともいえます。もちろん、それは本来のあるべき姿とはいえないでしょう。特にブルーカラーの場合、地域や職種によって人手不足感には差があるため、本来は業種で一くくりにするのではなく、労働市場テストを実施して、地域や職種による違いを反映させるべきです。

ただ、すでに所管官庁が業界団体の声を受け、官邸につなぐ形が確立されてしまった以上、制度を抜本的に変えるのはなかなか難しいかもしれません。それよりももっと外国人労働者の送り出し機関といったミクロな需給調整システムのところに規制を入れるなど、まずは現行制度の運用を通じて、本来あるべき姿に近づけていくのが、リーズナブルな対応なのではないかと考えています。

臨時工から常用工へ 実態に合わせて企業・制度も変化

――たとえば建設会社には現業の人も事務職の人もいて、本来は「業種」ではなく「職種」によって外国人労働者の受け入れを判断すべきだと考えられます。にもかかわらず、業種単位で制度が運用されているのはなぜでしょうか。

外国人労働を取り巻く制度が「業種」単位で運用されているのは、日本社会がホワイトカラーを中心に動いており、「職種」という概念が極めて希薄なためだと考えられます。特定技能の「技能」は本来、職種にひも付くはずですが、法整備を主導した官邸だけでなく業界団体にも、「職種」別に受け入れを考えるという意識はほとんどなかったでしょう。この結果、業種とひも付く形で制度がつくられ、業界の声を基に動いているわけです。

ただ特定技能の対象であるブルーカラーは、ホワイトカラーに比べて職種の概念が強いため、人手不足に陥っているのは各業界の現業職である、という共通認識が社会全体に定着しています。特定技能制度も「業種」が自動的に「職種」に変換される形でつくられたため、「職種別」の建て付けでないことは、運用上もあまり問題視されていないのではないでしょうか。

――育成就労制度や特定技能制度が創設され、日本で長く働き続ける外国人が増えています。外国人が日本的なメンバーシップ型雇用の一部を担うことになることも考えられるのでしょうか。

入管法上、就労型在留資格は全て世界共通のジョブ型で設計されています。これは育成就労や特定技能のようなブルーカラー職種も、いわゆる「技人国」(技術・人文知識・国際業務)のようなホワイトカラー職種も同じです。もっとも、育成就労や特定技能1号は在留期間が限定されているので、日本の労働市場のなかではいわば「臨時工」という位置づけでしたが、特定技能2号になると「常用工」という扱いになり、仕事を続けて現場のベテランになるというキャリアを歩むことが想定されます。

これは、入管法が改正された30年前と比べると外国人労働者を取り巻く環境が大きく変化し、いまや日本社会にとって外国人は、職場に定着してもらわなければ困る存在となったためです。つまり、ブルーカラー外国人労働者は、”臨時工”から”常用工”への移行が進みつつあるのです。今後さらに多くの外国人が、常用工として働くようになれば当然、企業の外国人労働者の処遇も、長期雇用を前提としたものへシフトしていくでしょうし、政策もそれに合わせて変わっていくことが予想されます。

違法な送り出し機関は排除 規制の網をかけ労働者を守る

――外国人労働者、特にブルーカラーの受け入れについては、2027年4月に技能実習制度から育成就労制度へと移行することが決まっています。育成就労制度のポイントと課題についてお聞かせください。

育成就労は、3年間の就労期間を大過なく終えたら特定技能1号へ移行するという「試用期間」的な位置づけで、技能実習以上に長期雇用を強く意識した制度になっています。このため今後、外国人を常用工として迎え入れる企業の動きはますます加速すると考えられます。

また、これまで原則禁止だった労働者の意思による転籍も、一定期間経過後に一定の要件をクリアすれば可能になりました。ただ転籍支援はハローワークが行い、民間の職業紹介事業者は担うことができません。

さらに育成就労では、労働者が現地の送り出し機関に支払う手数料について、「賃金2カ月分」という上限が設けられました。労働者が手数料の支払いで多額の借金を背負う、といった事態に歯止めを掛けることが狙いです。ただこの規制は送り出し機関そのものではなく、国内企業が送り出し機関に支払う手数料の上限を2カ月分にする、という間接的な内容にとどまりました。これは違法な送り出し機関を排除するには、やや不十分ではないか、と感じています。

――送り出し機関はミクロの需給調整を担う立場として、適正に運営されることが不可欠です。どのような規制のあり方が考えられますか。

実は「手数料」という仕組みそのものが、最初につくられた研修・技能実習制度の歪みのひとつともいえます。職業安定法上、求職者から手数料を徴収することは違法なため、外国人を「労働者」と見なしていれば、日本の法律に準じて送り出し機関に規制を掛けられた可能性もありました。しかし留学生と同等の「研修生」を送り出す建て付けになったため、規制の根拠を得られなくなったのです。育成就労の制度設計の際も、20年以上前に確立された仕組みを、抜本的に変えるのは難しかったのでしょう。

国外の組織に日本の法律を適用するのが難しいことは承知しています。しかし入管行政と連携し、送り出し機関が必要な要件を満たしている場合にのみ労働者を入国させるなどして、規制の網を掛けることは不可能ではないと思います。送り出し機関の問題点は社会にあまり認識されていませんが、実態を発信していけば、規制導入にも一定の理解を得られるのではないでしょうか。

キャリアラダーをつくり人材を確保 各業界も努力を

――外国人に定着してもらい、現場の人手不足を解消するには、制度以外ではどのようなことが求められますか。

外国人に日本で長く働いてもらうための制度については、育成就労と特定技能によって、枠組みとしては整ったと考えています。その先は業界ごとに取り組むべき問題です。

たとえば介護をはじめとするエッセンシャルワーカーの業界は、外国人、日本人に関係なく、経験や勤続年数に応じて賃金が上がる、キャリアラダーをうまくつくれていないことが、人手不足の一因となっています。これらの業界は労働組合のない職場も多く、賃上げやキャリアアップの制度を構築するための枠組みが整っていない面もあります。個人的にはこうした業界は、地域別、職種別、勤続年数別の賃金基準表をつくるべきではないか、と考えています。実際に派遣業界に対しては、厚労省が通達で基準表を公表しています。業界全体として、経験を積みスキルを高めることで賃金や職位が上がるという状態をつくることが、ひいては外国人労働者の定着にもつながると思います。ただ業界としても、たとえば基準表の必要性をロジックとして打ち立て、政府へ働きかけるなどの努力が必要です。

――労働行政は原則として、政労使3者構成の仕組みで決まります。しかし外国人労働政策に関しては、この政策決定プロセスがあまり機能していないように感じます。

各地域の労働市場で、どの職種にどの程度人手不足が起きているかを把握しうるのは、その地域・職種の労使です。しかしこれまでお話ししてきたように、外国人の受け入れについては法律上、労働政策ではなく入管政策として扱われてきたため、政労使3者構成の仕組みが機能せず、労使が政策形成の場から排除されてきた経緯があります。

また労働組合は、外国人労働者の政策についてはそこまで強く関与を求めなかった面もあるかもしれません。国内労働者の利益を代弁する立場の労働組合にとって、潜在的に労働条件を引き下げる可能性のある外国人の受け入れを、声高に主張するのは難しいからです。だからと言って「鎖国論」に組することもできず、すでに日本で働いている外国人労働者の権利は守る必要があります。

国内労働者と外国人労働者、両方を守ることは論理的には両立しますし、両立させなければいけません。ただ日本だけでなく諸外国の労働組合も、こと外国人労働者の受け入れに関しては、微妙な立ち位置に置かれていると思います。

社会として外国人を受け入れる 幅広いステークホルダーで議論

――外国人労働者に関する包括的な法律をつくるべきではないか、というご指摘もされています。なぜ法律が必要なのでしょうか。

現在、外国人労働者に関するルールは、複数の法律や省令などに散在しています。たとえば入管法には、特定技能雇用契約のような本来なら労働法に含まれるべき規定が盛り込まれ、法務省の省令にも労働条件に関わる内容がかなり書き込まれています。一方で労働法のなかにも、外国人労働者にも関わりの深い内容が存在します。労働法と入管法から、外国人労働者の労働契約などに関わる規定と、現地の送り出し機関や監理支援機関など、ミクロの需給調整に関わる機関への規制を抽出し「外国人雇用対策法」のような法律にまとめてもいいのではないでしょうか。

労働関連の法制には、高年齢者雇用安定法や障害者雇用促進法、若者雇用促進法など対象者を絞った法律が多数存在します。雇用対策法の若者に関する規定が独立する形で、若者雇用促進法がつくられるなど、もともとあった法律の一部を独立させる形で、新たな法律を制定するパターンもしばしば見られます。外国人労働者に対しても同じようにして、包括的な法律をつくることは決して無理難題ではないと思います。ただ、先述したような、法務省と厚労省が権限をめぐって対立した「雇用許可制」の教訓もあります。関係省庁がお互いの役割を認め、連携することが不可欠ではあります。

――外国人労働者は労働者である前に市民であり、生活者でもあります。外国人労働政策の構築に当たっては、どのようなステークホルダーが参画すべきだと考えられますか。

日本は外国人労働者の受け入れに際し、当初から入管行政が主体となってきたために、「外国人労働政策」というグランドデザインが存在しませんでした。経団連と規制改革会議は2000年代初頭、日本の労働市場のなかで外国人労働政策をどう位置づけるかというビジョンを示すとともに、司令塔となる省庁もつくるべきだと訴えてきましたが、こうした提案も実現していません。政労使3者構成の枠組みに、必要なステークホルダーを加える形で、外国人労働政策のグランドデザインを描くことは、今後の重要な課題だと考えています。

その一方で、日本社会全体として外国人を受け入れるという「移民問題」として政策を考える場合、地方自治体などの行政や地域住民の団体などより多くのステークホルダーが参画し、さらに高次の視点で捉える必要があります。専門家からは、新たに「移民庁」や「外国人共生庁」といった組織を立ち上げるべきだ、といった意見も出されています。「労働」と「移民」、それぞれの領域を超え、社会全体として外国人をどのように受け入れていくかという議論も、あわせて必要になってくるでしょう。

◆濱口桂一郎氏
労働政策研究・研修機構(JILPT)労働政策研究所長
1983年労働省(現・厚生労働省)入省。欧州連合日本政府代表部一等書記官などを経て2008年からJILPT統括研究員へ転じる。2017年から現職。

聞き手:坂本貴志
執筆:有馬知子