Z世代の就職戦線:AIと経済不安がもたらす“氷河期”

2025年10月02日

米国において、Z世代は困難な就職活動に直面している。特にエントリーレベルの求人が減少しており、その背景には複数の要因が存在する。企業の採用縮小、AIの急速な普及、学位の価値に対する疑問などが、若年層のキャリア形成に影響を与えている。

 採用減速による若年層の失業率上昇

ニューヨーク連邦準備銀行の報告(※1)によると、2025年3月時点における新卒者の失業率は5.8%に達し、パンデミック時以来の高水準となった。22〜27歳の労働者の失業率は7.1%であり、全体平均の4.0%を大きく上回っている。また、新卒者の不完全雇用率は41.2%に達しており、約4割が学位を必要としない職種やパートタイムの仕事に従事している。

2025年5月に公開されたLinkedInのエントリーレベル職に関する労働市場調査(※2)は、同社のネットワークデータに基づいて分析されている。同調査によると、2025年1月以降、エントリーレベルの採用は四半期ベースで3%減少しており、2020年3月比では23%の減少となっている。これは全体の採用減少率(18%)を上回るものである。企業は経済不安、政策の影響、業務効率化を目的としたAI導入の加速などを背景に、採用を控える傾向を強めている。

 AIによるエントリーレベル職の代替

近年、企業の経営層は、AIによるホワイトカラー職の削減について積極的に言及している。フォード・モーターのCEOであるJim Farley氏は、AIがホワイトカラー職の半数を代替すると予測しており、JPモルガン・チェースのコンシューマー&コミュニティ・バンキング部門CEOのMarianne Lake氏も業務担当者の10%削減を見込んでいる(※3)。AI分野のスタートアップ企業AnthropicのCEOのDario Amodei氏は、今後1〜5年でエントリーレベル職の半数が失われ、失業率が20%に達する恐れがあると警告している(※4)。

2025年8月に公開されたRevelio Labsの分析(※5)によると、2023年1月以降、米国のエントリーレベル求人は約35%減少している。企業のウェブサイトから約1万件の求人データを収集し、AIによる代替可能性を基に職種を分類した結果、AI代替度が高いエントリーレベル職では求人が40%以上減少し、代替度が低い職種でも約33%の減少が見られた。

Revelio Labsの分析。AI代替度が高いエントリーレベル職の求人が40%以上減少していることを示す図出所:Revelio Labs,“Is AI responsible for the rise in entry-level unemployment?”(2025) https://www.reveliolabs.com/news/macro/is-ai-responsible-for-the-rise-in-entry-level-unemployment/

さらに、AIツールの使用を求める求人広告の割合は、エントリーレベル以外の職種で2023年1月から10.7%増加したのに対し、エントリーレベルではわずか3.0%の増加にとどまっている。これは、企業が若年層に対してAIスキルの活用をあまり期待していないことを示している。

テクノロジー業界の変化:新卒採用の縮小と要件の厳格化

◆  新卒採用の減少傾向
2025年5月に公開されたSignalFireの「Tech Talent Report 2025(※6)」は、6億5000万人以上の個人と8000万以上の組織のトラッキングデータを使用し、テクノロジー業界の採用動向を分析している。同レポートによると、2024年にはテクノロジー業界の中堅・シニア職の採用が回復した一方で新卒採用は減少を続けており、大手企業では2019年のパンデミック前と比較すると50%以上の減少となっている。

  • 大手テクノロジー企業では、採用における新卒者の割合が7%にすぎず、2023年比で25%減少。
  • スタートアップ企業では、新卒者の割合が6%未満で、2023年比で11%減少。
  • 「Magnificent Seven(※7)」では、2022年以降、新卒者の割合が半減。

◆ 経験の浅い若手に厳しい応募条件
2025年7月に公開されたIndeed Hiring Labの調査(※8)は、Indeedに掲載されたテクノロジーおよび数学関連職の求人動向を分析している。同調査によると、2025年2月時点における技術職の求人は、中堅・ジュニア職で2020年と比較して34%減少したのに対し、シニア・管理職では19%の減少にとどまっている。採用数の減少に加え、求人の応募条件も厳格化しており、特に経験年数の要件が上昇している。「5年以上の経験」を求める求人の割合は、2022年の37%から2025年には42%に増加している。

◆ 若年層の雇用減少とAIの影響
2025年5月に公開されたオックスフォード・エコノミクスの分析(※9)によると、AIとの親和性が高いとされるコンピューターサイエンスや数学関連の職種では、2022年以降、22〜27歳の雇用が8%減少している。一方で、27歳以上の雇用には大きな変化が見られていない。

これらの傾向は、AI導入が進むテクノロジー業界において、若年層の職務が先に自動化・代替されている可能性を示唆している。企業はAIを活用するにあたり、経験豊富な人材を求めており、結果として若手や未経験者にとっては参入障壁が高まっている。

 採用が回復傾向にある業界

前出のLinkedInの調査(※10)によると、採用が減速する業界が多いなか、金融サービス業や小売業が比較的安定した採用状況を維持している。さらに長期的に見ると、2019年以降、エントリーレベルの採用が最も活発に行われている業界は下記のとおりである。

  • 教育
  • 医療・ヘルスケア
  • 宿泊・飲食サービス

これらの業界は、AIによる代替が難しく、人間の対応力が求められる職種が多いため、若年層にとっては就職先として有望視されている。

 学位の価値に対する疑問と進学率の低下

このような状況下で、大学の学位の価値に疑問を持つZ世代が増加している。準学士号以上の学位を持ち、就業中の772名を対象にIndeedが2025年3月に実施した調査(※11)では、Z世代の51%が「学位取得はお金の無駄」と考えている。その意識の背景には以下の要因がある。

  1. 学費の高騰と学生ローンの負担
    U.S. Newsが2024年9月に公開した国立大学436校を対象とした調査(※12)によると、過去20年間で米国の大学の授業料と諸費用は、インフレ調整後でも32~45%上昇している。前出のIndeedの調査では、回答者の52%が学生ローンを抱えて卒業しており、38%はローンがキャリアアップの妨げになっていると回答している。
  2. 学位と職のミスマッチ
    Indeedの同調査では、Z世代の68%が「学位がなくても職務を遂行できる」と回答している。雇用主側も同様の傾向を示しており、Indeed Hiring Lab の調査(※13)によると、2024年1月時点のIndeedに掲載された米国の求人広告の52%には正式な教育要件が記載されていない。

2023年12月に公開されたピュー・リサーチ・センターの分析(※14)によると、米国の若者の大学進学者数は過去10年間で徐々に減少している。2022年の18~24歳までの大学進学者総数は、2011年のピーク時と比べて約120万人減少している。この傾向は、高校卒業生の総数減少によるものではなく、高校卒業生のうち大学に進学する若者の割合の低下によるものである。

AIの導入と経済の不安定さのなかで、従来のキャリアパスが揺らぎつつある。Z世代は大学進学に疑問を抱き、新たな道を模索している。次回は、彼らが選択している仕事について紹介する。

TEXT=関根真祐子 監修=村田弘美(グローバルセンター長)

(※1)Federal Reserve Bank of New York, “The Labor Market for Recent College Graduates”(2025) https://www.newyorkfed.org/research/college-labor-market#--:overview
(※2)LinkedIn, “Entry-level labor market strained amid intensifying competition”(2025) https://www.linkedin.com/pulse/entry-level-labor-market-strained-amid-intensifying-p9die/
(※3)The Wall Street Journal, “CEOs Start Saying the Quiet Part Out Loud: AI Will Wipe Out Jobs”(2025)https://www.wsj.com/tech/ai/ai-white-collar-job-loss-b9856259
(※4)CNN, “Takeaways from Anthropic CEO Dario Amodei’s CNN interview”(2025) https://edition.cnn.com/2025/05/29/business/anthropic-amodei-cnn-anderson-cooper-takeaways
(※5)Revelio Labs, “Is AI responsible for the rise in entry-level unemployment? ”(2025) https://www.reveliolabs.com/news/macro/is-ai-responsible-for-the-rise-in-entry-level-unemployment/
(※6)SignalFire, “The SignalFire State of Tech Talent Report – 2025”(2025) https://www.signalfire.com/blog/signalfire-state-of-talent-report-2025
(※7)「Magnificent Seven」とは、主要テクノロジー企業のことで、Google、Apple、Meta、Amazon、Microsoftの「GAFAM」と呼ばれる5社に、Tesla、NVIDIAを加えた7社を指す。
(※8)Indeed Hiring Lab, “Experience Requirements Have Tightened Amid the Tech Hiring Freeze”(2025) https://www.hiringlab.org/2025/07/30/experience-requirements-have-tightened-amid-the-tech-hiring
-freeze/
(※9)Oxford Economics, “ Educated but unemployed, a rising reality for college grads ” (2025) https://www.oxfordeconomics.com/wp-content/uploads/2025/05/US-Educated-but-unemployed-a-rising-reality-for-college-grads.pdf
(※10)前掲注2
(※11)Indeed, “Report: 51% of Gen Z Views Their College Degree as a Waste of Money”(2025) https://www.indeed.com/career-advice/news/college-degree-value-generational-divide
(※12)U.S. News, “A Look at 20 Years of Tuition Costs at National Universities”(2024) https://www.usnews.com/education/best-colleges/paying-for-college/articles/see-20-years-of-tuition-growth-at-national-universities
(※13)Indeed Hiring Lab, “Educational Requirements Are Gradually Disappearing From Job Postings”(2024) https://www.hiringlab.org/2024/02/27/educational-requirements-job-postings/
(※14)Pew Research Center, “Fewer young men are in college, especially at 4-year schools”(2023) https://www.pewresearch.org/short-reads/2023/12/18/fewer-young-men-are-in-college-especially-at-4-year-schools/

関連する記事