Z世代はなぜ辞めるのか? 早期離職の要因と定着の鍵となる「成長機会」とは 

2025年11月20日

なぜZ世代は早期に離職するのか?今、多くの企業でZ世代が就業人口の多くを占めるようになり、同時に「若手社員の早期離職」や「エンゲージメント(働きがい)の低下」が深刻な経営課題、人事課題となっている。この背景にあるのは、彼らの価値観の変化である。Z世代は、上の世代が重視してきた「安定した雇用」や「報酬」だけでなく、「この仕事を通して何が得られるか(自己実現)」や「社会にとってどんな意味があるか(働く意義)」をキャリア選択において強く求める傾向がある。Z世代の価値観や行動様式は、従来の雇用観とは異なっている。企業がこれからの時代も持続的に成長し、優秀な人材を惹きつけ続けるためには、既存の制度や組織風土そのものを見直し、再設計することが急務である。

Z世代の早期離職を促す複合的要因

Z世代の離職背景には、待遇や制度といった条件面のみならず、職場文化やマネジメントスタイルとの価値観の不一致が根強く存在する。特に、マイクロマネジメントや、創造性を制約する画一的な職務設計は、離職を誘発する主要因となっている。その結果、柔軟性や創造性を尊重する職場環境を求めて転職を決断するケースが増加している。一方、企業側にもZ世代に対する固定観念や懸念が根強い。2025年10月にResumeTemplates.comが採用マネジャー1000人を対象にした調査(※1)では、回答者の8人に1人が「Z世代は雇用に適さない」と回答している。その理由として、「労働倫理の欠如」「自己中心的」「プロ意識の欠如」といった評価が挙げられており、世代間の価値観のギャップが採用・定着の障壁となっている実態がうかがえる。

 Z世代の転職行動の実態

ランスタッドが同年9月に公開した15カ国の労働者11250人を対象に実施した調査(※2)によると、Z世代のキャリア最初の5年間における平均在籍期間は1.1年と、ほかの世代と比較して著しく短い(図表1)。これは、従来の長期的定着という概念が、もはやZ世代には通用しにくいことを示唆している。

図表1 転職に関する世代別統計
転職に関する世代別統計出所:Randstad, understanding talent scarcity: the Gen Z workplace blueprint.(2025)を基に作成 https://www.randstad.com/genz/

転職の動機とキャリア探索の傾向
Z世代は、仕事が自身の夢と一致していると感じる割合が56% と多世代よりも低く、37% が業界選択を後悔している。これは、経済的なプレッシャーや就職活動時の選択肢の制約から、不本意な形でキャリアをスタートさせた層が一定数存在することを示唆する。Z世代の6割は「給与や福利厚生が充実していれば価値観に合わない仕事でも受け入れる」と回答しており、54% が常に転職の機会を模索している。さらに、昇進機会の欠如や長期的なキャリアパスの不透明性も離職を後押しする重要な要因である。Z世代は短期的な処遇だけでなく、「長期的なキャリア目標」の実現可能性を重視する傾向が強い。

流動的なキャリア初期と専門職の定着性
2025年4月にRevelio Labsが公開した職歴データ分析(※3)によると、Z世代はキャリアの最初の3年間で平均2.1業種、2.2職務を経験しており、キャリア初期段階で幅広く業界や職務を模索する傾向が見られる。

2022年から2024年にかけて数千万人の米国Indeedユーザープロフィールを分析したIndeed Hiring Labの調査(※4)によると、転職者の約3分の2(64% )が異職種へ移行しており、職業流動性の高さが確認された。しかし、この傾向は職種によって大きく異なる。Z世代に多い看護職やソフトウエア開発職では、同職種内での転職が主流である。看護職から転職する人の大半(72% )は看護職に就いており、ソフトウエア開発(63% )も同様である(※5)。特に、学士号以上のZ世代で最も多い正看護師は、実に91% が同じ看護職に転職しており、高度な専門性を要する職種ではキャリアの継続性が高いことがわかる(※6)。

転職市場の変化とキャリア形成の障壁

Z世代が理想の職場を求めて転職を目指す一方で、その道のりは必ずしも平坦ではない。

アトランタ連邦準備銀行のデータ(※7)によると、転職による賃金上昇の優位性は、2023年初頭から大幅に縮小し、2025年2月時点での賃金上昇率の差はわずか0.2% に留まった。

さらに、AI技術の進化がエントリーレベルの職務を代替し始めており、特にテクノロジー分野で若手向け求人が減少傾向にある。前述のResumeTemplates.com の調査では、既に29% の企業が新入社員の担っていた業務をAIに置き換えており、さらに34% がAI導入を検討している。この変化は、Z世代が実務経験を積む機会を奪い、キャリア形成を一層困難にする可能性がある。

若年層の離職、世代を超えた共通傾向という視点

NIRS(National Institute on Retirement Security)による米労働統計局(BLS)のデータ分析(※8)では、若年層の転職率の高さがZ世代固有の特性ではなく、世代を問わない共通傾向であると指摘している。2024年時点で25〜34歳(Z世代後期+ミレニアル世代前期)の勤続期間の中央値は2.7年であり、1983年にベビーブーマー世代が同年齢だった頃の勤続期間の中央値とほぼ同水準である。

また、後期ベビーブーマー世代は18〜56歳までに平均12.7の職を経験し、そのほぼ半数は24歳以前に集中していた。これらのデータは、個人の離職率や定着率が世代特性以上に、その時々の経済状況や職場環境といった外的要因に大きく左右されることを示唆している。

Z世代の定着を促す鍵は成長機会と教育支援

ヤングスタウン州立大学が2025年9月に発表したフルタイム労働者1000人を対象とした調査(※9)によると、Z世代の43% が学位プログラムや資格認定コースといった継続的な学習に積極的に参加している。これは、彼らが単なるキャリアアップだけでなく、自己成長や目的意識の確立を強く志向していることの表れである。成長機会が乏しい職場環境はエンゲージメントの低下を招き、Z世代の離職意向を高める要因となり得るため、企業による教育支援の充実は定着率向上に直結する重要な戦略となる。「雇用主が教育開発を積極的に奨励・支援している」と回答した割合は全体の32% 、業界別では教育関係が36% 、ハイテクが35% 、ヘルスケアが31% であった。

雇用主が教育開発を積極的に推奨している割合をしめすグラフ

Teach For Americaのような教育関連の非営利団体や、2UのようなEdTech企業では、Z世代の在籍期間が長い傾向が見られる(※10)。また、大手コンサルティングファームのEY(Ernst & Young)では、全従業員の約3分の1をZ世代が占め、その数は過去3年間で3倍に増加した(※11)。これらの組織に共通するのは、社会貢献性の高いパーパス(企業の存在意義)を掲げ、早期のキャリア開発機会と充実した教育制度を提供している点である。

Z世代との持続的関係を築くための組織設計

Z世代の早期離職は、世代特性という単一の要因に帰結するものではなく、キャリア選択段階での妥協、キャリアパスの不透明性、成長機会の不足といった複数の構造的要因が複合的に絡み合った結果であると考察される。加えて、経済的プレッシャーやAIによる労働市場の変化も、彼らのキャリア形成に大きな影響を及ぼしている。若年期の転職はキャリア探索の一環と捉えることも可能であり、企業は短期的な定着率のみで評価するべきではない。重要なのは、彼らの成長意欲と価値観を深く理解し、長期的な関係性を築くための組織設計を行うことである。Z世代が求めているのは「この会社で自分は成長できるか?」という点にほかならない。企業には、下記の視点に基づいた制度と文化の再構築が求められる。

  1. 柔軟な働き方とウェルビーイングの確保
    ハイブリッド勤務やフレックスタイム制度の導入、メンタルヘルス支援の拡充。
  2. キャリア設計とスキルアップ機会の提供
    スキルベースの評価・昇進制度、継続的な学習機会(リスキリング・アップスキリング)、メンター制度の整備。
  3. 多様な経験機会の創出
    社内公募制度(内部モビリティ)や部署横断プロジェクト(インサイドギグ)の活用。
  4. 創造性と自己表現の尊重
    若手のアイデアを積極的に登用する文化の醸成、フラットなコミュニケーションの促進。

これらの環境を整備することこそが、Z世代が「長く働きたい」と感じる組織への第一歩となるだろう。

TEXT=関根真祐子 監修=村田弘美(グローバルセンター長)

(※1)ResumeTemplates.com,“1 in 8 Managers Say Gen Z Is Unemployable; Companies Turn To AI Instead”(2025) https://www.resumetemplates.com/1-in-8-managers-say-gen-z-is-unemployable-turn-to-ai-instead/
(※2)Randstad, “understanding talent scarcity: the Gen Z workplace blueprint.” (2025) https://www.randstad.com/genz/
(※3)Revelio Labs, “Job Hopping Is a Feature Not a Bug For Gen Zers”(2025)https://www.reveliolabs.com/news/macro/job-hopping-is-a-feature-not-a-bug-for-gen-zers/
(※4)Indeed Hiring Lab, “From One Job to Another: Mapping Career Transitions Using Indeed Data”(2025) https://www.hiringlab.org/2025/06/10/job-mobility-career-transitions-patterns/
(※5)Indeed Hiring Lab, “Coming and Going: Where Workers Come From and Go When They Switch Jobs”(2025) https://www.hiringlab.org/2025/06/10/where-workers-come-from-and-go-when-they-switch-occupations/
(※6)前掲注4
(※7)Federal Reserve Bank of Atlanta, “Wage Growth Tracker” https://www.atlantafed.org/chcs/wage-growth-tracker(Updated on September 11, 2025)
(※8)NIRS(National Institute on Retirement Security), “DEBUNKING THE JOB-HOPPING MYTH: A Data-Driven Look at Tenure and Turnover Among Younger Workers”(2025) https://www.nirsonline.org/wp-content/uploads/2025/09/25-Debunking-Job-Hopping-Myth_FINAL.pdf
(※9)Youngstown State University , “The Learning Balancing Act”(2025) https://online.ysu.edu/degrees/business/mba/employee-retention-education-strategies/
(※10)前掲注3
(※11)World Economic Forum, “Tomorrow’s workforce changed yesterday – now what for businesses that want to be future-ready? ” (2025) https://www.weforum.org/stories/2025/01/workforce-change-future-ready-businesses/

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