Z世代と企業の新しい協働:マネジメントの再定義

2025年12月02日

Z世代は「理解しづらい若者」と見られがちである。しかし、彼らの選択や行動は、単なる気まぐれではなく、急速に変化する社会・経済環境に対する合理的な適応であると捉えることができる。Z世代の多様なキャリア観や行動様式を踏まえ、企業がどのように彼らと関係を築き、支援し、ともに成長していけるのかを考察する。

Z世代を振り返る:特徴と価値観

Z世代の行動様式や価値観は、彼らを取り巻く環境に起因している。

テクノロジーの利用と適応
デジタルネイティブとして育ち、スマートフォンを駆使する。ギグワークやEコマースなどのデジタルプラットフォームを活用して収入を得ており、AIの利用に懸念を抱きつつも、既に仕事、副業、就職活動などに活用している。

ソーシャルメディアの影響
ソーシャルメディアは娯楽にとどまらず、キャリアアドバイスを得る場でもある。「副業を始める」「仕事を辞める」「新しい仕事に就く」といった意思決定にはインフルエンサーも影響を及ぼし、また情報発信自体が起業の手段ともみなされている。

価値観重視の意思決定
「多様性の受容」「自己表現」「ウェルビーイング」を価値観の基盤に持つ。キャリア選択においても、報酬だけでなく、柔軟な働き方やワーク・ライフ・バランス、仕事の意義、キャリア開発といった要素を重視する。

現実的な職業選択
AIの普及や企業の採用縮小を受け、就職活動は厳しさを増している。そのため、医療や教育、技能職など、経済的安定性やAIによる代替リスクの低さを重視した現実的なキャリアパスが選択されている。

「ポートフォリオワーク」の加速と早期離職
経済的負担の軽減と自己実現のため、複数の収益源を組み合わせるポートフォリオワークを既に実践している。同時に、社内での成長機会の不足が、転職や副業など社外でのキャリア形成を促す要因となっている。

Z世代を3つのグループで理解する

Z世代(1997~2012年生まれ)は、パンデミックやAIの普及など、社会の大きな変化の中で成長している。同じZ世代であっても、育った環境要因により、キャリア観や価値観に違いが生じている。特にAIは急速に普及しており、年齢層による価値観の違いを生む大きな要因となっている。次の図表では、Z世代を年齢層別に3つに分類し、それぞれの育った環境とキャリア観の違いを整理する。

図表 Z世代の3つのグループ※クリックで拡大します

Z世代をさらに3つのグループに分けて育った環境やパンデミックの影響などから理解する図
※年齢は2025年現在。
出所:Edelman, “The Great Gen Z Divide”(2025), https://www.edelman.com/future-consumer/gen-z-divide; The Up and Up, “More on the two gen zs”(2025), https://www.theupandup.us/p/the-two-gen-zs-ai-tech-american-dream; Kyla’s Newsletter, “Gen Z and the End of Predictable Progress”(2025), https://kyla.substack.com/p/gen-z-and-the-end-of-predictableを参考に作成。

Z世代2.0が再定義する収入とキャリア

特にZ世代2.0(13~18歳)は、1.0・1.5とは異なる価値観と行動様式を持つ新しい層を形成している。彼らはAI時代に育ち、AIの台頭による教育やキャリアの転換など、急速な変化に直面している。

AIへの不安と楽観の混在
2025年8月にJunior Achievementが米国の13~18歳の若者1000人を対象に実施した調査(※1)によると、94% がキャリアに楽観的である一方、57% がAIによるキャリアへの悪影響を懸念している。彼らはAIによる職の代替やスキルの再定義について敏感であり、未来への期待と不安が共存している。

教育への懐疑と現実的な選択
4年制大学を「費用に見合う価値がある」と考えているのは40% である。88% が教育・キャリア選択に強いプレッシャーを感じている。情熱か収入かという二択では、63% が高収入を優先するという。一方で、36% が「将来の仕事で⼗分な収⼊が得られないのではないか」と懸念しており、87% が将来的に副業、ギグワーク、ソーシャルメディアのコンテンツ制作などで収入を得たいという。

デジタル収入の一般化
2024年7月にWhopが12~18歳の若者1655人を対象に実施した調査(※2)によると、18歳未満の42% がデジタルプラットフォームを通じて収入を得ている。12〜15歳でも年間平均561ドル、16~18歳では年間909ドルを稼いでいる。主な収入源はオンライン販売、ソーシャルメディア、ゲーム・ライブストリーミングなどである。

こうした行動は、経済不安への対応ではなく、彼らにとっては物心ついたときから存在している手段であり、プラットフォームを活用するのも一般的である。
Z世代2.0が社会に出る頃には、従来の雇用モデルはさらに揺らいでいる可能性が高い。企業は「収入の多様化」「働き方の柔軟性」を前提に、彼らとの関係性を構築する必要がある。

Z世代が求めるマネジメント:管理から支援・育成・協働へ

Z世代の行動は急速に変化する社会・経済環境への合理的な適応であり、従来のマネジメント手法は見直しが必要である。Z世代は、管理職に対して「支援・育成・協働」を期待しているため、彼らを協働パートナーとして捉え直し、双方向の関係性を築くことが求められる。そのために必要なアプローチとして、支援型リーダーシップ、そしてZ世代の主体的な参加を促す早期のエンパワーメント(権限委譲)が挙げられる。

支援型リーダーシップ
・対話による動機づけ
 指示命令型ではなく、対話を通じて個人の内発的動機を引き出す。
・心理的安全性の確保
 オープンな対話の場や、上司への匿名フィードバック制度を設け、安心して意見を表明できる環境を整える。
・意義の共有
 組織のミッションと個人の価値観を結び付け、仕事への納得感を高める。
・リモート環境への対応
 オンライン環境でも信頼関係を築き、成果を引き出すマネジメントスキルを強化する。

早期のエンパワーメント(権限委譲)
・意思決定への参加
 若手社員を部門横断のプロジェクト(タスクフォース)にアサインし、意思決定権と経営層との接点を持たせる。
・相互学習の促進
 Z世代のデジタルスキルを活かし、リバースメンタリングやピアコーチングのしくみを整える。
・キャリアパスの明示
 昇進基準やリーダーシップ要件を明示し、早期からの準備と自己認識を促す。

企業とZ世代の新たな協働関係

ほかの世代と同じようにキャリアは一社で完結するものではないが、Z世代には、複数の仕事を組み合わせる働き方(ポートフォリオワーク)が一般的になりつつある。企業はこうした変化を「新たな協働のチャンス」と捉え、柔軟な関係を築く必要がある。

流動性を前提とした協働

  • Z世代の早期離職や流動性を前提とする。
  • 退職後も関係性を維持できるアルムナイ(退職者)ネットワークを構築する。
  • 再入社制度(ブーメラン採用)を導入する。
  • 将来の協業パートナーとなる可能性を視野に入れ、起業支援制度を整備する。

ポートフォリオの尊重

  • 副業を許容し、そのためのポリシーやガイドラインを整備する。
  • 副業などで得た社外スキルを認定し、評価へ組み込む。
  • 社内外の経験を掛け合わせたキャリア形成を支援する。
  • 副業・兼業人材として勤務可能な制度を整備する。

エントリーレベルの仕事が減少し、AIがスキル要件を再形成するなかで、Z世代は高いデジタルスキルと適応能力を発揮しながら、かつてない不確実性を乗り越えようとしている。

Z世代の行動は、時代の変化に対する合理的な適応であり、企業にとっては新たな関係性の構築を促進する契機でもある。Z世代の価値観や行動様式を理解し、それに応じた柔軟なマネジメントと協働のしくみを整えることが、これからの組織にとって不可欠である。

(※1)Junior Achievement USA, “Gen Z’s Career Confidence vs. Future Challenges: What Today’s Teens Really Think About Work, AI, and Education”(2025) https://jausa.ja.org/news/blog/gen-z-s-career-confidence-vs-future-challenges-what-today-s-teens-really-think-about-work-ai-and-education

(※2)Whop, “The US teen digital earnings report”(2024)https://whop.com/blog/teen-digital-earnings-report-2024/

関連する記事