Global View From USA
第14回 関税や株価暴落で広まる不安 Z世代の「リセッション・プレップ」
トランプ大統領は「アメリカに雇用を戻す」として各国への高い関税を打ち出したが、世界経済の悪化が危惧されている。
Photo=Blend Images/amanaimages
トランプ大統領の再登板により、米国経済は全世界に対する関税の導入や不安定な政治に伴う株価の暴落とともに焦燥感を増している。物価の高騰と雇用の硬直化が同時に進行するなか、Z世代はSNSを中心に、「リセッション・プレップ(不況への備え)」という言葉を合言葉に、半ば諦めや絶望とともに、不安定な時代をなんとか生き抜くための行動を起こし始めている。
Z世代の不安は決して過剰反応ではない。パンデミック直撃時に大学を卒業し就職難を経験したZ世代も多い。就職難を乗り越えた直後、今度は「低採用・低解雇」となった労働市場に直面している。既に安定した職に就いている中高年層にとっては問題ではないが、これから就職先を見つけてキャリアを積もうと考えている若年層には、まさに「隠れ不況」としてのしかかってしまう。
さらにZ世代の心理に追い打ちをかけているのが、生成AIによるホワイトカラー職の淘汰リスクである。Bloombergが報じているように、ブルッキングス研究所のMolly Kinder氏は、法律、コンサル、メディア、マーケティング、テックなど、Z世代が憧れを抱く業界の「入り口の仕事」こそ、生成AIによって代替されやすいと指摘する。
こうした不安のなか、Z世代はSNSやTikTokで「サバイバルの知恵」を共有し始めている。LinkedInの活用法、カバーレターの書き方、オンライン面接の攻略法、履歴書で映えるオンライン資格の取得、フリーランスや副業の始め方など、キャリアの「分散投資」が彼らにとっての「不況への備え」、つまり「リセッション・プレップ」だ。
2008年のリーマンショックが記憶にあるZ世代は少ない。「不況」が具体的にどのようなものかイメージがしづらいなかで、物価の高騰や就職難で「生活のしづらさ」は既に確実に実感している。従来の「大学→大企業→安定」というルートが崩れた今、生活を支えるオルタナティブな道を切り開くためにも、あらゆる手段を使いながらもがく風潮がSNS上で広まっている。
一方未来への希望が少ないなか、「不況に備える」行動に興味関心を持ちつつ、クレジットカードローンを抱えてでも「今を楽しみたい」風潮も絶えない。一見矛盾する行動パターンだが、そもそも多くのZ世代にとって、経済は常に不安定なものであり、最初から「景気が良くなる前提」で人生の選択を行っているわけではないことを考えると、理解が深まるかもしれない。
Text=竹田ダニエル
プロフィール
竹田ダニエル氏
カリフォルニア大学バークレー校在学中。AI倫理教育研究員。1997年生まれ。カリフォルニア州出身、在住。著書に『世界と私のA to Z』『# Z世代的価値観』。
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