
AI時代に、Z世代が「現場の技能職」を選ぶのはなぜか?

Z世代は、従来の世代とは異なる価値観でキャリアに向き合っている。AIの急速な進化により職業選択の基準も変化し、AIに代替されにくい職業や人間的価値が求められる分野への関心が高まっている。こうした変化は、キャリアにおける「安全性」の再定義につながっている。
Z世代の価値観とキャリア志向
■ 価値観の特徴
Z世代は、仕事を人生の中心ではなく、生活を豊かにする手段と捉えている。職業選択において、以下の価値観を重視する傾向がある。
- ワーク・ライフ・バランス:肩書や給与よりも生活との調和を優先する。
- 安定性と学習機会:技術進化に対応するための継続的なスキル習得と雇用の安定を重視する。
- 目的意識:仕事に意義を見出せるかどうかがモチベーションや幸福度に直結する。
- 柔軟性と自律性:ハイブリッド勤務や自律的な働き方を好み、メンタルヘルスへの配慮も求める。
■ 安定性重視の背景
Z世代が雇用の安定性を重視する背景には、パンデミック期の不安定な雇用経験、AIや自動化に対する将来不安、学費や生活費といった大きな経済負担が存在する。その結果、「情熱よりも安定性」を優先する姿勢が強まり、就職活動の厳しさも長期安定雇用志向を後押ししている。
データで見るZ世代のキャリア選好
■ 米国Z世代の職業上位10職種と女性比率
図表1は、学士号以上の18〜27歳の米国Z世代が最も多く就いている10の職業(2023年)と、各職種における全年齢の女性比率(2024年)を示している。上位の職業は、正看護師、小中学校の教師、ソフトウエア開発であった。
図表1 米国のZ世代の職業 上位10職種(2023年)と全年齢における女性比率(2024年、参考)
順位 | 職種 | BLS対応職種 | 女性比率 |
1 | 正看護師 | Registered nurses | 86.8% |
2 | 小中学校の教師 | Elementary and middle school,teachers | 77.7% |
3 | ソフトウエア開発 | Software developers | 20.3% |
4 | 会計士および監査人 | Accountants and auditors | 57.2% |
5 | その他のマネジャー | Managers, all other | 38.7% |
6 | カスタマーサービス担当者 | Customer service representatives | 65.7% |
7 | 人事担当者 | Human resources workers | 75.5% |
8 | 中等学校の教師 | Secondary school teachers | 60.5% |
9 | 経営アナリスト | Management analysts | 40.9% |
10 | 小売店の販売員 | Retail salespersons | 47.5% |
出所:Z世代の職業上位10職種:BUSINESS INSIDER, “Millennials and Gen Zers in their first jobs out of college might actually tell the story of the economy”(2025) https://www.businessinsider.com/millennial-gen-z-entry-level-job-market-shift-economy-2025-8
※女性比率:米国労働統計局(BLS)のデータ(※1)に基づく各職種における構成比(全年齢、2024)。
■ 人気業界と職業分布から見える傾向
モーニング・コンサルトとサムスンが実施した調査(※2)によると、Z世代が魅力的、あるいは将来性があると考える業界は下記のとおりである(図表2)。これらの調査結果から、次の傾向が読み取れる。
- 価値観との一致:実際の職業分布では、安定性、社会的意義、専門性を備えた職業が上位を占めている。
- 参入のしやすさ:「教育」「医療・ヘルスケア」「小売業」など、エントリーレベルの採用が多い業界の職種が多数を占める。
- キャリア志向:職業分布の上位は、女性のヘルスケア志向、男性のテクノロジー志向と一致する。一方で、エンターテインメントやデザインは人気が高いにもかかわらず、実際の職業分布では上位に入っていない。
図表2 米国のZ世代が魅力的、将来性があると考える業界(男女別)
順位 | 男性 | 女性 |
1 | テクノロジー(43% ) | ヘルスケア(37% ) |
2 | エンターテインメント(35% ) |
エンターテインメント(30% ) デザイン(30% ) |
出所:Samsung,“Gen Z is Defining the Future of Work – on Their Own Terms, Reveals Morning Consult & Samsung Survey”(2023)
https://news.samsung.com/us/gen-z-defining-future-work-own-terms-reveals-morning-consult-samsung-survey/
「安全なキャリア」の再定義
2025年6月にZetyがZ世代の労働者を対象に実施した調査(※3)によると、回答者の43% がキャリアプランを見直していることが明らかになった。AIに代替されにくい職業への関心が高まっており、Z世代は下記の分野が「安全」であると認識している。
- 熟練技能職(建設、配管、電気など)53%
- 人と関わる職業(医療、教育、ソーシャルワークなど)47%
- クリエイティブ職(コンテンツ制作、グラフィックデザインなど)31%
- 技術職・AI関連職(サイバーセキュリティ、データサイエンス、ソフトウエア開発など)30%
- 自営業(起業、フリーランスなど)28%
- 運営・管理職(財務、人事、プロジェクトマネジメントなど)12%
Z世代は、現場での対応や専門的な手作業、対人コミュニケーションなど、人間的な関わりや肉体的スキルが不可欠な職業に魅力を感じており、これらはAIによる代替が困難であると捉えている。
注目される3分野の職業
BLSによると、2025年第2四半期時点で20〜24歳の平均年収の中央値は約4万664ドルである(※4)。これを基準にすると、以下の3分野の職業は収入面でもZ世代のキャリア選択に大きく影響を与えているといえる。
熟練技能職
● 人気の理由
- インフラ投資や高齢化による退職者増加で需要が拡大している。
- 職業学校や見習い制度で学べるため、学費ローンの負担が少ない。
- 将来的に独立・起業につなげやすい。
- 3Dプリンティング、モデリング、ドローン測量、スマート建設などのデジタル技術が、Z世代の興味と一致している。
- TikTokやInstagramで若手技能職が現場の様子を発信しており、イメージが向上している。
● 就業実態
Gustoの分析(※5)では、2024年に18〜25歳の若年層が技能職の新規採用者の約25% を占めている。過去5年間で、住宅・商業建設、電気工事、住宅リフォームといった分野で、Z世代の雇用が増加している。
● 年収
エントリーレベルでは約3万~7万ドル、経験者では10万ドルを超える職種もある(※6)。
● 課題
ハリス・ポールの調査(※7)によると、技能職は社会的評価が低いと見なされがちであり、キャリアや報酬に関する情報も不足している。Z世代が感じる障壁として以下の点が上位に挙げられている。
- 他の職業に比べて名誉や尊敬の念が低い
- 4年制大学への進学を促す社会的プレッシャー
- キャリア情報の不足
- 経済的に報われないという印象
医療・ヘルスケア分野
● 人気の理由
- パンデミックと人口高齢化の影響により安定した需要がある。BLS(※8)は2024年からの10年間で医療職に毎年平均約190万件の求人が発生すると予測している。
- 職種の幅が広く、短大・専門学校卒で就業可能な職も多い。たとえば、正看護師からナース・プラクティショナーや管理職へのキャリアアップの道筋が明確である。
- 連邦・州・大学・非営利団体による奨学金・補助制度が他業界より充実しており、多くの病院が授業料返還・補助を提供している。
- パンデミックにより、社会への高い貢献度と職の重要性が再認識された。
● 就業実態
正看護師は学士号以上のZ世代で最も多い職業であり、医療従事者の約8割が女性であることから、Z世代女性の参入が進んでいる。BLS(※9)によると、2022年には獣医技術者、薬局技術者、医療助手などでは、16〜24歳の若年層が20% 以上を占める。
● 年収
正看護師のエントリーレベル年収は約6万4000ドル、平均年収は約8万6000ドルである(※10)。
● 課題
Press Ganeyの年次調査では、Z世代の医療従事者は、ほかの世代に比べてエンゲージメントが低く、離職率が38% と高いことが指摘されている(※11)。これは、キャリア開発やワーク・ライフ・バランス、上司との関係に対する期待の変化が要因であると考えられている。
技術職(AI関連・データサイエンス)
● 人気の理由
- 急成長分野として人気が高く、「競争力のある給与」「柔軟性」「創造性」が評価されている。
- 雇用が増加傾向にあり、LinkedInは2025年大学新卒者向け急成長職種の1位にAIエンジニアを挙げている(※12)。BLSはデータサイエンティストの雇用が2034年までに34% 増加すると予測している(※13)。
● 就業実態
Z世代の従事率はまだ低い。DesignRush(※14)によると、Z世代の割合はAIソフトウエア開発者で6.3% 、システムアナリストで8.5% と上の世代が多数を占めている。
● 年収
AI人材紹介会社Burtch Worksのレポート(※15)によると、AI専門職やデータサイエンティストのエントリーレベル年収は10万ドル以上、平均年収は約13万~15万ドル(非管理職)である。
● 課題
高い専門性と学歴が求められるため、参入ハードルが高い。Burtch Worksの同レポートによると、AI専門職の91% が大学院学位(修士号または博士号)を保持しており、学士号保持者はわずか8% である。
AIの進化や経済不安により職業の安定性や将来性が揺らぐなか、Z世代は「代替されにくい仕事」や「自分らしさを活かせる働き方」に注目している。
女性は医療や教育など需要が高い分野を堅実に選択し、雇用の安定性と社会的意義を重視する一方で、男性は技能職やAI分野といった成長領域に挑戦し、専門性を活かしたキャリアを模索している。これらの傾向は、不確実な時代においてZ世代が理想と現実のバランスを取りながら、戦略的にキャリアを選択していることを示している。
TEXT=関根真祐子 監修=村田弘美(グローバルセンター長)
(※1)U.S. Bureau of Labor Statistics, Current Population Survey, Annual Averages, “Table 11: Employed persons by detailed occupation, sex, race, and Hispanic or Latino ethnicity” (2024)(Last Modified Date: January 29, 2025) https://www.bls.gov/cps/cpsaat11.htm
(※2)Samsung, “Gen Z is Defining the Future of Work – on Their Own Terms, Reveals Morning Consult & Samsung Survey”(2023) https://news.samsung.com/us/gen-z-defining-future-work-own-terms-reveals-morning-consult-samsung-survey/
(※3)Zety, “65% of Gen Z Say College Degrees Won’t Protect Them From AI” (2025) https://zety.com/blog/genz-reroute-report
(※4)週平均収入の中央値より年収を算出。U.S. Bureau of Labor Statistics, Economic News Release, “Table 3. Median usual weekly earnings of full-time wage and salary workers by age, race, Hispanic or Latino ethnicity, and sex, second quarter 2025 averages, not seasonally adjusted”(Last Modified Date: July 22, 2025) https://www.bls.gov/news.release/wkyeng.t03.htm
(※5)Gusto, “Slowed Hiring in White Collar Jobs is Driving GenZ Toward Skilled Trades”(2024) https://gusto.com/resources/gusto-insights/skilled-trade-workers-2024
(※6)Summit Service Solutions(技能労働者派遣会社), “2025 Salary Guide | Highest Paying Skilled Trade Jobs and Salaries”(2024) https://summitservicesolutions.com/blog/skilled-trades-salary-guide/
(※7)The Harris Poll, “How do Americans think about the skilled trades?(2025) https://theharrispoll.com/briefs/how-do-americans-think-about-the-skilled-trades/
(※8)U.S. Bureau of Labor Statistics, Occupational Outlook Handbook, “Healthcare Occupations” (2025) (Last Modified Date: Thursday, August 28, 2025) https://www.bls.gov/ooh/healthcare/
(※9)U.S. Bureau of Labor Statistics, “Healthcare Occupations: Characteristics of the Employed”(2023) https://www.bls.gov/spotlight/2023/healthcare-occupations-in-2022/home.htm#:~:text=43.8-,View%20Chart%20Data,among%20physicians%20(44%20percent).
(※10)エントリーレベルは10パーセンタイルの年収と推定。平均年収は50パーセンタイル(中央値)。U.S. Bureau of Labor Statistics, “Occupational Employment and Wages” (Last Modified Date: April 3, 2024) https://www.bls.gov/oes/2023/may/oes291141.htm
(※11)Press Ganey, “Are you ready to lead the next generation of healthcare workers?”(2025) https://info.pressganey.com/press-ganey-blog-healthcare-experience-insights/next-generation-healthcare-workers
(※12)LinkedIn, “LinkedIn Grad's Guide 2025: The jobs, industries and cities on the rise for new grads”(2025)https://www.linkedin.com/pulse/linkedin-grads-guide-2025-jobs-industries-cities-rise-new-ggnje/
(※13)U.S. Bureau of Labor Statistics, Occupational Outlook Handbook, “Data Scientists” (visited August 28, 2025 ) https://www.bls.gov/ooh/math/data-scientists.htm
(※14)DesignRush(B2Bマーケットプレイス), “DesignRush Lists the Top 5 AI Jobs in the U.S.(2025)” (2025)https://news.designrush.com/designrush-lists-the-top-5-ai-jobs-in-the-us-2025
(※15)Burtch Works , “Salary & Market Intelligence to Win the AI & Data Science Talent Race” (2025) https://www.burtchworks.com/market-researchers-salary-report-2025/ai-and-data-science-2025compensationreport-introduction