Z世代の新たな働き方「ポートフォリオワーク」とは何か?

2025年11月06日

Z世代は、従来の9~17時のフルタイム勤務といった画一的な労働観に疑問を呈し、柔軟な働き方を強く志向する傾向にある。そのキャリア観を象徴するのが、複数の仕事や収益源を組み合わせる「ポートフォリオワーク」である。これは、本業、副業、フリーランス、起業といった多様な就業形態を組み合わせ、自律的にキャリアを構築するスタイルを指す。デジタルツールやAIの進展が、この潮流をさらに後押ししている。

ポートフォリオワークを志向する背景

Z世代がポートフォリオワークという働き方を選択する背景には、経済的要因、社会的制度への不信感、個人的価値観といった複数要素が絡みあっている。

  1. 経済的要因
    インフレーションや住宅価格の高騰、学生ローンの負担といった経済的圧力が生活への不安を増大させている。単一の収入源への依存はリスクと見なされ、追加収入の確保が喫緊の課題となっている。
  2. 社会制度への不信感
    既存の社会保障制度や伝統的なキャリアパスに対する信頼が揺らいでいることも、要因の1つである。ハリス・ポールの調査(※1)によると、Z世代は32歳までの経済的自立(FIRE)(※2)を理想とし、94% が55歳までの達成を望んでいる。しかし、従来のキャリアパスではこの目標達成は困難であると彼らは認識している。
  3. 自己実現と価値観の変化
    副業は単なる収入補填の手段ではなく、自己実現や新たなスキル獲得の機会として捉えられている。柔軟性や自律性を重んじるZ世代にとって、副業やフリーランスという働き方は自身の価値観と高い親和性を持つ。
  4. ソーシャルメディアの影響
    インフルエンサーやクリエイターの台頭は、情報発信やコンテンツ制作を現実的な副業、あるいは起業の選択肢としてZ世代に認識させた。

多様化する副業の形態とプラットフォーム

ポートフォリオワークを実践するうえで、副業は主要な手段と位置づけられる。その種類は多岐にわたり、各種プラットフォームの進化と密接に関連している。下記は、主な副業タイプごとにプラットフォームや特徴を整理したものである(図表1)。

図表1主要な副業タイプと特徴

副業のタイプ 主な仕事内容 代表的なプラットフォーム 特徴
ソーシャルメディア発信型 動画/コンテンツ制作
ライブ配信

YouTube
TikTok
Instagram

  • 個人のブランド構築が可能
  • 収益化には継続的な努力が必要
Eコマース型 ハンドメイド品
デジタル商品
古着などの販売

Etsy, eBay
Amazon
Shopify
Depop

  • 自分のブランドで世界観を表現できる
  • 在庫管理や集客コストが発生
専門スキル型 ライティング
デザイン
ウェブ/アプリ開発
翻訳
Fiverr
Upwork
Freelancer
  • 専門性を活かし高単価と自由な働き方が可能
  • 収入が不安定で営業や交渉などのコストを要する
単発タスク型 ライドシェア
配達
雑用代行
ペットシッター
Uber
Lyft
DoorDash
Instacart
TaskRabbit
  • 自由な時間に稼働でき収益化が速い
  • 報酬は労働集約的で低単価になりやすい

Z世代はこれらのプラットフォームを複数活用し、自身のポートフォリオを構築している。

データと事例から見るZ世代の副業実態

副業の普及率・時間・収入

MarketWatch Guidesが米国で2000人を対象にした副業調査(※3)によると、過去1年間に副業を経験した割合は全体で51% であるのに対し、Z世代では72% に達する。副業に費やす時間は週5~20時間(中央値10時間)、月収は100~500ドル(中央値250ドル)である。Z世代の上位25% は平均月825ドルを得ているが、残りの75% の収入は他世代と同額か、それ以下に留まる。

Z世代が副業をする同期

Z世代が副業を行う動機は、他世代と比較して、「貯蓄の増加」と「情熱の追求」が際立っている。

ケーススタディ:Z世代のポートフォリオワーク

Z世代がポートフォリオワークを実践する動機や背景は、多岐にわたる。以下に、Z世代の副業事例を5つ紹介する(年齢は記事掲載当時)。

電気技師×YouTuber(男性・23歳)(※4)

大学には進学せず、21歳で電気工事会社を設立。自身の仕事風景をYouTubeで配信した。広告収入は当初の月額450ドルから月額1300ドルに増加し、コンテンツ制作へのさらなる注力を検討している。

病院看護師×学校看護師(女性・25歳)(※5)
経済的余裕、多様な臨床経験、夜勤の合間の充実感を求め副業を開始。本業と異なる環境での業務にやりがいを見出している。

ローン審査員→チラシ配布へ転換(男性・27歳)(※6)
気分転換と副収入を目的にチラシ配布を開始。需要拡大に伴い事業化し、本業に転換した。柔軟な働き方による、生活の質の向上に満足している。

会社経営×インフルエンサー(女性・27歳)(※7)
ヘアケア製品の通販会社を経営する傍ら、TikTokで6万人超のフォロワーを持つインフルエンサーとしても活動。ファッションブランドと提携している。カイロプラクティックの医師資格も有し、複数の収益源を確立している。

営業×ソーシャルメディア活用支援×ギグワーク(女性・22歳)(※8)
医療機器メーカーに勤務しつつ、企業のソーシャルメディア活用支援やベビーシッターで報酬を得ている。週60時間以上働くこともあるが、副業はキャリアに不可欠な要素であると認識している。

AIは副業をどう変えるか

AIの普及は、副業や起業における参入障壁を著しく低下させ、生産性の向上に大きく寄与している。

Liquid Web が約1000人の副業従事者と起業家を対象に実施した調査(※9)では、66% がChatGPTを、32% がCanva AIを利用している。AIの主な利用方法は以下のとおりである。

Z世代のAIツールの主な利用方法

同調査では、回答者の約4割がAIを用いて1週間以内に事業を立ち上げ、約2割が1週間以内に収益化を達成している。Z世代は全回答者の21% だが、この迅速な起業を達成した層の40% を占める。この成功体験から、Z世代の45% が高度な AI ツールへ再投資する意向を示している。

ポートフォリオワークに伴う課題とリスク

ポートフォリオワークは多くの機会を提供する一方で、無視できない課題やリスクも内在する。

収入の不安定性
収入は個人のスキル、プラットフォームの特性、営業力などに大きく左右され、必ずしも安定しているわけではない。

時間管理・健康リスクと本業への影響
Express Employment Professionalsが求職者1002人と採用担当者1003人を対象とした調査(※10)によると、副業経験者の35% が「自由な時間の減少」、33% が「時間管理の困難さ」、27% が「燃え尽き症候群」を訴えている。また、採用担当者の55% が「従業員の副業を発見した経験がある」と回答し、そのうち50% が「生産性低下」、47% が「集中力の低下」を指摘している。

AIによる競争激化
AIの普及は、定型的・反復的なタスクの価値を低下させ、案件数や単価の減少につながる。また、AIによって誰もが一定品質の成果物を短時間で作成可能になるため、価格競争が激化する可能性も否定できない。

Z世代にとってポートフォリオワークは、単なる収入源の多様化に留まらず、リスク分散と自己実現を両立させるための戦略的なキャリア構築手段である。その背景には経済的要請のみならず、彼ら固有の価値観が色濃く反映されている。AIはこの潮流を加速させる触媒として機能する一方で、競争の激化といった新たな課題も提示している。Z世代が実践するポートフォリオワークは、テクノロジーの進化を前提とした、より自律的で多角的なキャリアの未来像を示唆しているといえる。

TEXT=関根真祐子 監修=村田弘美(グローバルセンター長)

  • (※1)dub, “The Great Wealth Reset”(2025) https://www.dubapp.com/dubreport
  • (※2)Financial Independence, Retire Early の略。倹約と投資を組み合わせ、早期に経済的自立を達成し、従来よりも早く退職することを目指すライフスタイルや運動。
  • (※3)MarketWatch Guides, “‘The Bills Don’t Stop’: Half of Americans Work Side Hustles to Make Ends Meet”(2025) https://www.marketwatch.com/financial-guides/banking/side-hustles/
  • (※4)Yahoo!news, “Meet a 23-year-old electrician who was a ‘good student’ but skipped college to join Gen Z’s blue-collar revolution. He makes 6 figures” (2025) https://www.yahoo.com/news/articles/meet-23-old-electrician-good-130000597.html
  • (※5)Bankrate, “Roughly one in four American adults have a side hustle. Here’s why that number might change soon. ” (2025) https://www.bankrate.com/loans/small-business/side-hustles-survey/
  • (※6)前掲注5
  • (※7)Yahoo!finance, “Meet the Gen Zers who launched their side hustles before even starting high school—now they’re making a fortune as their own bosses” (2025) https://finance.yahoo.com/news/gen-zers-want-own-boss-111500139.html
  • (※8)The Washington Post, “Gen Z embraces side hustles because ‘loyalty is dead’ ”(2024) https://www.washingtonpost.com/technology/2024/03/25/gen-z-side-hustles/
  • (※9)Liquid Web, “The   Liquid Web AI side hustle boom study dives deep into the real-world impact of AI on entrepreneurs and side hustlers just like you. ” (2025) https://www.liquidweb.com/white-papers/ai-side-hustle-boom-study/
  • (※10)Express Employment Professionals, “41%  of US Job Seekers Juggle Side Hustles on Company Time, While Half of Employers Lack Policies to Prevent It” (2024) https://www.expresspros.com/newsroom/news-releases/news-releases/2024/10/41-percent-of-us-job-seekers-juggle-side-hustles-on-company-time-while-half-of-employers-lack-policies-to-prevent-it

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