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第15回 AIで削られていく若者の雇用 「最初の仕事」が消えていく影響

2025年08月19日

卒業式の記念撮影の様子新卒社員の仕事がなくなる影響は、若年層の失業の拡大にとどまらない。
Photo=Caiaimage/amanaimages

大学を卒業し、エントリーレベルの(新入社員として)仕事に就くことはかつては安定した人生への第一歩だった。しかし今、その「第一歩」が根こそぎ崩れ去ろうとしている。生成AIの進化が急激に進むなか、卒業したばかりの若者たちの雇用が削られている。

ニューヨーク連邦準備銀行の最新の分析(※1)によれば、新卒大学生の失業率は5.8%に達し、「失業率全体との差」が2024年と比べてさらに開いていることがわかる。かつては「学歴は職の保証」とされていたが、今まさにその常識が変わりつつある。この変化の背景として最近特に指摘されているのが、生成AIの影響だ。AIが奪っているのは、単なる業務の一部ではない。それは、かつて若者たちが実務を通じてスキルを獲得し、キャリアを築いていった「最初の仕事」そのものである。

AI開発企業・AnthropicのCEOであるダリオ・アモデイは、「今後5年以内に、ホワイトカラーのエントリーレベル職の半数がAIによって消滅する可能性がある」と警鐘を鳴らし、その発言が話題になった。これまで、エントリーレベル職は「学びの場」であり、次のステージへの踏み台だった。しかしその踏み台が失われれば、若者たちはスキルを磨く機会すら持てなくなる。

NYUの教授リーフ・ウェザビーはニューヨーク・タイムズのオピニオン記事で、「AIは単にリテラシーを脅かすだけでなく、ニューメラシー(数理的思考能力)も破壊している」と警告する。実際、大学生のなかには「本来ならコードを書いて分析していたデータを、今はChatGPTに投げる、いわゆる“バイブコーディング”をしているだけ」という声もある。

Googleは2024年に「社内コードの25%以上をAIが書いた」と報告し、Microsoftも同様の傾向を示している。その一方で、AI企業のソフトウェアエンジニアの採用数は2024年中にほぼゼロに落ち込んだという報告(※2)もある。

LinkedInのチーフ経済機会責任者アニーシュ・ラマンは、「キャリアのはしごの下段が壊れつつある」と表現している。その影響で若者の労働参加率の低下、格差の拡大、そして政治や社会そのものの根幹を脅かす危険があるかもしれないと、SNS上で議論を呼んだ。

AIが新たな職業やイノベーションを生む可能性がある、と現状を楽観的に見る人も多いだろう。一方で現時点で明らかになっているのは、特に若者が「経験を積む場」を奪われているという現実である。

Text=竹田ダニエル

プロフィール

竹田ダニエル氏

Takeda Daniel
カリフォルニア大学バークレー校在学中。AI倫理教育研究員。1997年生まれ。カリフォルニア州出身、在住。著書に『世界と私のA to Z』『# Z世代的価値観』。

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