TikTokで広がるキャリアアドバイス

2025年08月07日

Z世代にとって、ソーシャルメディアはキャリア形成において不可欠な情報源となっている。従来のビジネス特化型SNSであるLinkedInよりも、InstagramやTikTokを活用する傾向が強い。TikTokが注目されている理由は、高速かつ無料で情報を得られる点、そして短い動画が情報取得に適している点にある。Z世代はTikTokを検索エンジンのように活用し、「仕事に就く方法」「レジュメの修正方法」などを検索し、数十秒から1分程度の人気動画を視聴している。

「CareerTok」は、TikTok上でキャリアや就職に関するアドバイスや情報を共有するトレンドであり、「#careertok」「#careertips」などのハッシュタグを通じて動画が投稿されている。特に米国で投稿された「#careeradvice」のハッシュタグが付いた動画数は過去3年間で3倍以上に増加しており、関心を集めている(※1)。これらの動画では、給与交渉の方法、理想の仕事の見つけ方、転職体験談、レジュメの書き方、面接での回答方法など、実践的なノウハウが紹介されている。

誰がキャリアアドバイスを提供しているのか?

TikTokからキャリアアドバイスする女性

キャリアアドバイスを提供しているのは、キャリアコーチ、企業の人事部門や採用担当者、過去に関連する経歴を持つ人物、そして専門的なキャリアカウンセリングの資格は持たないものの、自身の経験を基に情報を発信するインフルエンサーやクリエイターである。人気のクリエイターは、複数のプラットフォームで数百万人以上のフォロワーを抱えており広く影響力を持っている。下記に代表的なアカウントの例を挙げる。

@careervidz

面接の専門家であるRichard McMunn氏が運営するアカウントである。ジョブインタビューにおける模範回答や誤った回答例をわかりやすく実演する(※2)。一般的な質問から「このペンを売ってください」「自分を動物に例えると?」といったユニークな質問まで幅広く網羅している。McMunn氏は20年以上にわたり、面接コーチングやキャリア開発支援サービスを提供しており、CV(Curriculum Vitae:履歴書)作成サービスやキャリア情報サイト、人材開発専門サイトの運営も行っている。

@loewhaley

Laura Whaley氏は、2020年のリモートワーク移行期に社会人生活に関する経験を共有し始めた。現在はコンテンツ制作と自身のビジネスに専念している。人気シリーズ「プロフェッショナルにどう言うか?」では、職場での言い換え表現を紹介しており、たとえば「この件のために残業する気はない」という内容を、「私の勤務時間は 17時までですので、明日にこの件を優先対応させていただければ幸いです」と表現するよう提案している(※3)。

@advicewitherin

Erin McGoff氏は、自らを「インターネットのお姉さん」と称する映像作家兼コンテンツクリエイターである。パンデミックによる映画業界の停滞をきっかけに、自身が若い頃に必要としていたキャリアアドバイスを動画で共有し始めた。インタビューでの回答方法や、職種別(アパレル販売員、飲食店のサーバー、ファストフード店員、バーテンダーなど)のレジュメの書き方など、具体的かつ実用的な情報を提供している。特に「自己紹介をしてください」「なぜあなたを雇うべきか」といった質問への回答例が人気を集めている(※4)。

多くのキャリア系クリエイターは、自身のウェブサイトを通じて個別のキャリアコーチング、レジュメやカバーレターのテンプレート、インタビューガイドブックなどのツールを有料で提供している。

キャリアアドバイスを受けて意思決定を行う

TikTokによるキャリアアドバイスは、Z世代に広く浸透し、受け入れられている。Resume Builderが職歴のあるZ世代1000人を対象に2024年に実施した調査によると、下記の傾向が明らかとなった(※5)。

TikTokからキャリアアドバイスを得る頻度

TikTokからキャリアアドバイスを得る頻度は、「毎日」が32%、「毎週」38%、「毎月」11%、「視聴経験なし」は8%であった。

キャリアアドバイスに対する信頼度

TikTokによるキャリアアドバイスに対する信頼度は、「ある程度信頼している」が55%、「とても信頼している」「非常に信頼している」とあわせると79%となる。「あまり信頼していない」が18%、「まったく信頼していない」3%であった。

全体の41% がTikTok で得たアドバイスに基づいて意思決定を行った経験があると回答しており、その内容には以下のような項目が含まれている。

意思決定した内容 意思決定の詳細(複数回答)
副業を始める(35%)
  • フリーランスとして活動する(34%)
  • ソーシャルメディアのインフルエンサーになる(28%)
  • ドロップシッピングを開始する(25%)
  • ギグワークを始める(24%)
  • アフィリエイトマーケティングを行う(24%)
  • Etsyショップを開設する(20%)
  • ペットシッター・ベビーシッターとして働く(20%)
  • 家庭教師を始める(12%)
  • 別のフルタイムの仕事に就く(11%)
職場で自己主張する(22%)
  • 昇給や手当の増額を要求する(47%)
  • 上司と距離を置くことを求める(40%)
  • 人事部に懸念を訴える(35%)
  • リモートワークの実施を要求する(32%)
  • 昇進を求める(29%)
  • 休暇の増加を要求する(26%)
仕事を減らす(13%)
  • 給与に見合った分だけ働く(63%)
  • 勤務時間外の労働を拒否する(44%)
  • 仕事の質を意図的に下げる(38%)
  • 労働時間を削減する(34%)
  • プロジェクトへの参加を断る(28%)
  • 会議への参加を断る(24%)
仕事を辞める(10%)
  • 副業をフルタイムの仕事に転換できるとわかった(52%)
  • キャリアの夢や情熱を追うべきとわかった(51%)
  • 自分はもっとよい報酬を受ける価値があるとわかった(48%)
  • 世界を旅する、バンライフなど別のライフスタイルがよいとわかった(43%)
  • 労働時間を減らし、負担を軽くするほうがよいとわかった(40%)

出所:Resume Builder, “4 in 10 Gen Z TikTok Users Have Made Career-Related Decisions Based on Advice on the App”(2024)

これらの意思決定について、多くの人が結果的に人生によい影響を与えたと評価している。

キャリアアドバイスに基づく意思決定の影響

  • 人生に非常によい影響を与えた:38%
  • ややよい影響を与えた:48%
  • 影響はなかった:13%
  • 悪影響があった:1%

危険なキャリアアドバイスの存在

一方で、有害なアドバイスも存在する。たとえば、「White Fonting」と呼ばれる手法は、求人情報に記載された職務要件のうち、自身が保有していない資格や経験などをコピーし、レジュメの余白に縮小した白い文字を貼り付けるというものである。この文字は肉眼では判別しにくいが、ATS(応募者追跡システム)によって検出される可能性があり、書類選考を通過するための裏技としてソーシャルメディア上で紹介されている。しかしながら、発覚すれば企業からの信用を大きく損なう行為である。そのほかにも、同一のレジュメを使って複数の求人サイトに対して大量にスパム応募を行う、あるいは経歴を誇張するなど、倫理的に問題のあるアドバイスも散見される。

キャリアアドバイスの流行が映し出すZ世代の現実

こうしたキャリアアドバイスのブームは、不安定な労働環境の中で就職活動や職場での葛藤を抱えるZ世代の実情を反映している。特に競争が激化する就職活動において、アドバイスや面接対策などを手軽に得られる点が、彼らにとって大きな魅力となっている。情報の信頼性や、個別の状況に対する安易な適用といった課題はあるものの、多くのZ世代にとって、クリエイターによるキャリアアドバイスは身近で親しみやすく、実用的なものとして受け入れられている。

TEXT=関根真祐子 監修=村田弘美(グローバルセンター長)

(※1)TikTok: Creative Center
https://ads.tiktok.com/business/creativecenter/hashtag/careeradvice/pc/en?rid=xa40bg57mn&period=1095&countryCode=

(※2)Richard McMunn氏の「自己紹介をしてください」という質問への回答例
https://www.tiktok.com/@careervidz/video/7200823334790057222

(※3)Laura Whaley氏の人気シリーズ「プロフェッショナルにどう言うか?」
https://www.tiktok.com/@loewhaley/video/7076434782573300998

(※4)Erin McGoff氏の「なぜあなたを雇うべきか」という質問への回答例
https://www.tiktok.com/@erinmcgoff/video/6914329284328901894

(※5)Resume Builder(レジュメ作成サービス)
“4 in 10 Gen Z TikTok Users Have Made Career-Related Decisions Based on Advice on the App”(2024)

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