
Z世代の働き方に関するワークトレンド

Z世代は、TikTokやInstagramといったソーシャルメディアを、キャリアに関するトレンドの把握や情報取得の手段として活用している。TikTok上には、「#Worklife」「#Corporatetiktok」「#Worktok」などのハッシュタグが付けられた動画が多数投稿されており、職場のあるあるを描いたスキット形式の動画や、業界・企業・職種ごとの「#TheDayInLife(私の1日)」、キャリアに関するアドバイス、仕事や働き方に対する考えの共有などが人気を集めている。
人気のワークトレンド
これらの動画はバイラル化し、働き方に関する新たなトレンドを生み出している。2023年に注目された職場関連のトレンドの一部を紹介する(※1)。
トレンド |
意味 | 再生回数 |
Quiet Quitting (静かな退職) |
仕事の負担を減らし、最低限の業務のみにとどめる働き方 | 7億6230万回 |
Act Your Wage (給料に見合った働き方) |
報酬に応じた業務量にとどめる姿勢 | 4億5110万回 |
Rage Applying (怒りの大量応募) |
職場への不満から衝動的に複数の求人に応募する行動 | 600万回 |
たとえば、1600万回以上再生されたある動画では、人気クリエイターが「Act Your Wage」の概念をユーモラスに表現している(※2)。動画内では、従業員のベロニカが上司から自宅での業務継続を依頼されるが、「家族と過ごしたい」とこれを断る。彼女は、18時半からのZoom会議や休暇中の電話応答についても、勤務時間外であることを理由に笑いながら拒否する。さらに、業務量が2人分に相当するため1人では対応できないと説明し、17時になると「帰ります!」と大声で宣言し、ふざけた口調で「じゃあねー」と言い残して退社する。このように、多くのクリエイターが職場における理不尽な慣習や状況を笑いに変換し、視聴者の共感を呼んでいる。
解雇や退職を共有する「QuitTok」
TikTokは、単なる娯楽や笑いを提供する場にとどまらず、不満や個人的な経験を表明する手段としても活用されている。その一例が「QuitTok」と呼ばれる現象である。これは、「#Iquitmyjob」「#quitmyjob」「#quittingmyjob」といったハッシュタグを用いて、従業員が退職理由を語ったり、退職の瞬間を記録した動画を投稿したりする動きである。2024年1月には、あるZ世代の女性が、入社から数カ月でIT企業から解雇を通知される様子を撮影し、TikTokに投稿した。この動画は瞬く間に拡散され、複数のメディアに取り上げられ(※3)、数百万回以上再生された。米国では日本と異なり、企業による解雇が法的に可能であるが、この動画は解雇の手続きの妥当性や、当事者がその様子を公開することの是非が議論を呼んだ。
フィナンシャル・タイムズによると、特にZ世代の若者が解雇や退職を告げる様子をソーシャルメディアに投稿する傾向が強まっている(※4)。投稿の多くはテクノロジー業界や教育現場で働く人々などによるもので、その大半は女性であるとされている。米国ではテクノロジー業界において大規模なレイオフが続いており、Layoffs.fyiのデータによると2024年には15万人以上がテック企業から解雇された(※5)。この傾向は2025年に入っても継続している。
ネガティブな投稿とその影響
実際に、どの程度の従業員が職場に対する不満をソーシャルメディアに投稿しているのか。Owl labsが2000人を対象に実施した調査によると、全体の34% が仕事や雇用主について否定的な投稿を行った経験があると回答している(※6)。具体的な投稿場所や内容は以下のとおりである。
- Instagram、Xなど、自身のソーシャルメディアアカウントへの投稿:19%
- 自身のTikTokアカウントへ投稿する:15%
- 雇用主との会話や会議の録音:15%
- Glassdoorなどを利用した匿名での投稿:13%
この34%という割合は、Z世代に限定すると48%にまで上昇する。
ネガティブな投稿は共感を呼び、バイラル化する可能性がある一方で、リスクも伴う。EduBirdieによる別の調査では、Z世代の2000人のうち28%が、TikTokへの投稿を理由に職場で何らかの処分を受けたと回答している。その内訳は、13%が「解雇」、15%が「注意を受けた」という結果である(※7)。
次に起こるトレンドとは何か
近年、新たに注目されている働き方に関するトレンドとして、下記のような現象が挙げられる。
■ Task Masking(タスクマスキング)
実際よりも忙しく見せかけることで、上司や同僚に対して「働いている」印象を与える行動を指す。
【具体的な行動例】
・ノートパソコンを持って早足で歩き回る
・やたら大きな音でタイピングする
・ビジネス風のジェスチャーで友人に電話する
【主な動機】
・生産的であるように見せなければいけないプレッシャー
・オフィス勤務再開(RTO; Return to Office)への不満
・RTOはレイオフの前兆であるとの認識が引き起こす不安
【関連データ(※8、※9)】
・76%の企業が生産性向上のためRTOを義務化する予定
・79%のオフィス勤務者が生産性を証明する必要性を感じている
・42%のオフィス勤務者が「見られるためだけに出社している」と回答
・45%のRTOを経験した従業員が組織内で大規模な人材流出を経験した
Z世代によるタスクマスキングは、単なる出社拒否や怠慢ではなく、「出社=生産的」という従来の価値観への反発であり、同時に解雇リスクに対するサバイバル戦略とも解釈できる。
■ Revenge Quitting(リベンジ退職)
職場への不満を募らせた従業員が、意図的に混乱を引き起こしながら退職する行動を指す。
【具体的な行動例】
・繁忙期に突然退職する
・重要なデータを削除する
・引き継ぎを拒否する
【主な動機】
・キャリアの行き詰まり感
・蓄積された不満の爆発
・組織や上司への復讐心
【関連データ(※10、※11、※12)】
・65%が現在の職務に行き詰まりを感じている
・10人に1人のZ世代が過去に怒りによるデータ削除を行った
・28%が「2025年中に職場でリベンジ退職が起こる」と予想
・24%の新入社員がリベンジ退職を経験した
- 40%のZ世代が職場で「過小評価されている」と回答
Z世代は、自身の評価や待遇に対する不満を表現する手段として、リベンジ退職に至りやすい傾向が見られる。
ソーシャルメディア上で見られるこれらの働き方トレンドは、単にZ世代のSNS依存によるものではない。むしろ、社会情勢や職場環境の変化に対して敏感に反応し、自己防衛や価値観の表明として現れている現象であると考えられる。
TEXT=関根真祐子 監修=村田弘美(グローバルセンター長)
(※1)BUSINESS INSIDER, “Top 10 workplace trends on TikTok this year: quiet quitting, bare minimum Mondays, and more”(2023) https://www.businessinsider.com/top-work-trends-tiktok-quiet-quitting-hiring-act-your-wage-2023-5
(※2)330万人以上のフォロワーを持ち、会社生活や職場文化をユーモラスに描くことで人気のクリエイターSarai Marie氏の動画:https://www.tiktok.com/@saraisthreads/video/7136250998057913646
(※3)The Wall Street Journal, “The Tech Employee Who Went Viral for Filming Her Firing Has No Regrets”(2024) https://www.wsj.com/business/the-tech-employee-who-went-viral-for-filming-her-firing-has-no-regrets-54b61ffe
(※4)Financial Times, “Quit-Tok: why young workers are refusing to leave their job quietly”(2024) https://www.ft.com/content/fd270cb1-8d14-4639-a152-7f2dad453480
(※5)Layoffs.fyi https://layoffs.fyi/
(※6)Owl Labs(リモート会議用ツールプロバイダー)“State of Hybrid Work 2024” (2024) https://owllabs.com/state-of-hybrid-work/2024
(※7)Edu Birdie(学生向けライティングサービス)“TikTok generation: Shaping the education and career aspirations of Gen Z”(2023) https://edubirdie.com/blog/gen-z-the-tiktok-generation
(※8)Resume builder(レジュメ作成サービス) “8 in 10 Companies Will Track Office Attendance in 2024” (2023) https://www.resumebuilder.com/8-in-10-companies-will-track-office-attendance-in-2024/
(※9)BambooHR(HRプラットフォームサービス) “Visibility Beats Productivity for RTO & Remote”(2024) https://www.bamboohr.com/resources/data-at-work/data-stories/2024-return-to-office
(※10)Glassdoor, “Glassdoor Worklife Trends 2025”(2025) https://www.glassdoor.com/blog/worklife-trends-2025/
(※11)Crash Plan(データ保護・バックアップソリューション)“The Growing Trend of "Rage Deletion" & How You Can Stop It”(2025) https://www.crashplan.com/blog/why-is-rage-deletion-a-growing-trend-crashplan/
(※12)Software Finder(企業向けソフトウェア検索プラットフォーム) “Rise of Revenge Quitting”(2025) https://softwarefinder.com/resources/rise-of-revenge-quitting